いつもにこやかなボディビルのおじさんには、人に言えない秘密があった。
裸になって笑顔で呼吸を止めている間は、空を飛ぶことができるのだ。
ただし、人前で裸になんてなれないし、飛んでいたらすぐに見つかってしまうだろう。
ここ最近、SNSで妙な目撃情報が増えている。
いつものように自宅でトレーニング中のおじさんは突如ひらめいた!
これは偶然じゃない。きっと俺以外にも超能力者がいる!
おじさんは思案を続ける。
俺のような超能力者が何人もいるとして、みんな正体を隠している。
なぜ誰も名乗り出ない?答えは…
「そうかっ!…悪の秘密結社だ!」
ダンベルを持ち上げながら考えていると、完璧な推論が次々と思い浮かんでくる。
きっと裏で何かを企んでいるに違いない!
もし本当にそうならば、正義の超能力者のおじさんが、彼らの陰謀を止めなければいけないだろう。
ダンベルを一旦下ろすと、スクワットしながらスマホをのぞき込み、調査を始める。
まずはネットで事前調査だ!
直接SNSで投稿者に聞いてみるが、「いや、遠くから見ただけ」「顔は分からない」ばかり。防犯カメラも問い合わせてみるが、「情報セキュリティが…」「いや映っていなかったですよ」等。
なるほど、情報統制は完璧。映像を残さないとは徹底している。
おじさんは腹筋トレーニングをしながらスマホを見て考える。
『怪鳥・ハバタキ男』、まず、これは俺だな。除外しよう。
『新種のUMA・巨大トビウオ』、これも違うな、ただの魚だ。そういえばあの海水浴場、良かったな。また夏になったら遊びに行こう!
それにしてもスマホを見ているとちょっと体勢が崩れる。やはり「ながらトレーニング」は良くないな!
仕方がない、現地捜査するしかないようだ。
数日後。
おじさんはまず妖怪が現れたという学校に来てみた。
しかし、全く無関係の学校に入るのは無理だろう。仕方なく諦めた。
次におじさんは、奇跡の生還者が出たらしい通りにやってきた。
とりあえず、近所の人に話を聞いてみようとインターフォンを鳴らして尋ねてみた。
「こんにちは!事故現場に現れたという男性について何かご存じありませんか?」
「…セールスですか?おかえりください」
勘違いされたらしい。白髪の老人にはすげなく追い返された。
次に妖精が目撃されたらしい雑居ビル跡にやってきた。
通りすがりの少女を捕まえて話を聞いてみると…。
「お嬢さん、ここで出たっていう妖精について何か知らないか?」
少女は焦ったような、怯えた様子で証言を拒んだ。
「そっ…そんなの見たことありません!知りません!」
「そうか、ありがとう…。」
何かに脅されているのだろうか…。
更に次の休日、おじさんはかつて訪れた山に来ていた。
この山では天狗や仙人の噂が流れている。
複数の証言がある為、奴らのアジトが山中にある可能性を疑ったのだ。
だが、噂の発端になっていたのは、以前彼自身が助けたことのある老人であった。
「うわ、あのおじいさんだ!…ってことは、天狗って俺のことか」
バレないように運転席で身を縮めながら、おじさんは急いでアクセルを踏み込んだ。
更にその次の休日。
妖精の目撃情報と同じ頃に、変質者が現れたという山にも向かうことにした。
妖精は飛んでいたらしいので、秘密結社の構成員は飛行能力を持っている可能性がある。
深夜に空を飛んで確認してみよう。
翌日、SNSを確認していると、先日の山での新たな目撃情報が上がっていた。
「夜中に同じ高さをすい―っとゆっくりと飛んでいくUFOがいた!」
ついに尻尾を掴んだぞ!あんな山の中にいたのか…。俺のことを監視していたのかもしれない。
やはり相当な組織だ。このままでは世界が奴らの手に落ちてしまう!
「よし次は座敷わらしの山だ!」
おじさんは、「悪の秘密結社がある!」と思っている。