おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第20話 顔も知らない顔見知り

ちょっと小さめの少女には、人に言えない秘密があった。

裸になると、とんでもない怪力を発揮できるのだ。

ただし、人前で裸になんてなれないし、力加減も難しい。

 

いつもにこやかなボディビルのおじさんにも、人に言えない秘密があった。

裸になって笑顔で呼吸を止めている間は、空を飛ぶことができるのだ。

ただし、人前で裸になんてなれないし、飛んでいたらすぐに見つかってしまうだろう。

 

三つ揃えを好む老紳士には、人に言えない秘密があった。

裸になると、怪我を癒す力を発揮できるのだ。

ただし、人前で裸になんてなれないし、積み重ねた信用を失いたくもない。

 

 

秋晴れの休日。

今日も隠れて空を飛ぼうと、おじさんは山へ来ていた。

山道を走っていると、車越しでも分かるくらいに地面が揺れた。

「おっ…地震か?結構大きいな!?」

車を停めて様子をうかがっていると、背後から轟音が聞こえてきた。

振り返ってみると、隣の山が崩れている。

 

「今日はやめておくか…」

 

そのまま帰ることにした。

車で山道を引き返していくと、右手の山肌が大きく削れている。

そちらへ続く道路には、瓦礫が散乱しているのが見えた。カーナビを確認すると、その先には公園があるようだ。

そして、その公園側からは、未だに物音が聞こえてくる。

 

気になったおじさんは、安全そうな場所に車を停めると、車に服を残して、裸で空を飛んで公園に向かうことにした。

 

 

高度を上げて、空から見下ろすと、公園側にも土砂が流れ込んでいた。

物音の方に向かうと、裸の小柄な少女が大きな瓦礫をいくつも放り投げている。

筋肉に自信のあるおじさんでも、絶対に持ち上げられないような巨大な岩がポンポンと飛んでいく。

少女は涙を流しながらも、一心不乱に瓦礫をどかしている。

 

少女の他にも、老人が小さな瓦礫を片付けていた。

そして一際大きな瓦礫の下には、休憩所の屋根らしきものが埋もれていた。

 

おじさんに気づいた老人が一瞬だけ目を見開くが、そのまま切羽詰まった声で叫んだ。

「あの下に人がいます!手伝ってください!」

 

おじさんは軽く頷くと、すぐに地面に降り立つ。今こそ鍛え上げた肉体を活かす時だ。

三人で瓦礫をどかしていくと、最後に休憩所の屋根が残った。

 

「どうする?」

「彼女があの屋根を持ち上げたところで、私と一緒に怪我人を引っ張り出してください」

「分かった!」

 

「せーのっ!」

少女は潰された休憩小屋に向き合うと、屋根に指をめり込ませた。

 

ゴゴゴ……

 

土砂が押しのけられて、ひしゃげた屋根が持ち上がっていく。

おじさんは老人と協力して、その下にいた女性を引きずり出した。

 

「よし!救出した!もう大丈夫だ!」

 

おじさんは意識のない女性を抱き上げると、老人と共に岩から距離を取った。

三人が安全な距離まで離れたところで、少女は瓦礫から手を離した。

そして少女もまた、文字通り跳ねるように、その場から離れた。

 

ズシシィィン…

 

「はぁ…はぁ…」

そして、先程の俊敏さが嘘のように、ふらふらとした足取りで、彼らのもとに走り寄ってきた。息を切らしながら救助された女性の容態を聞いてくる。

「かなちゃんっ…大丈夫?」

 

おじさんは少し躊躇しながらも答えた。

「生きてはいる。だが、意識が戻らないな。それにちょっと出血が…」

「そんな…」

 

すると、それまで怪我人の様子を見ていた老人が、少し離れた汚れていないベンチを指さした。

「とりあえず、あちらへ寝かせましょう。」

おじさんが女性をベンチに横たえると、老人はスマートフォンを差し出してきた。

「すいません、お兄さん。これで救急車を呼んでもらえませんか?」

 

おじさんがスマホを受け取ると、老人は静かに息を吐いた。

「次は、私の出番のようです」

 

老人は自分が着ていた上着を脱いで、少女の肩へとかけた。

そしてそのまま、残った服も脱ぎ捨てて、彼もまた全裸になる。

 

裸になった老人は怪我をした女性の傷口に手を当てた。

みるみるうちにその傷が塞がっていく。

 

「ぷはぁ…。この辺りが私の限度らしいですね」

 

おじさんは目を見開いたまま硬直する。

少女も息を切らせたまま、呆然としている。

 

老人はしばらく怪我人の様子を確認してから少女に声をかけた。

「多分大丈夫でしょう。私にできるのはあくまで応急処置までです。後は救急に任せましょう」

 

その言葉を聞くと、少女は涙を流しながら、その場にへたりこんでしまった。

「ありがとう…ございます。よかったぁ…」

少女はそのまま怪我人に寄り添っていた。

 

おじさんもほっとしながら、奇跡を起こした老人に向かい合った。

…だが。

おじさんは老人の姿を見てそっと目をそらす。老人も同じように目をそらしているようだ。

 

「…どうも」

「…どうも」

 

お互いにお互いの姿をなるべく見ないようにしながら、会話を続けた。

 

「お兄さんは大丈夫ですか?」

「はい。あちらに服がありますので…」

「ああ…そうか」

「はい…」

 

老人はすっかり汚れてしまった服を着直すと、少女の方に優しく声をかける。

「私が彼女を看ていますから、まず服を着てきなさい」

少女がフラフラと去っていくのを横目に、おじさんは老人との会話を再開する。

 

「さて、あとは救急が到着するのを待つだけですね」

「あ、それがですね…。ここへ来るまでの道は土砂で塞がっていました」

「そういうことですか…。それならお兄さん、彼女たちだけ先に送ってもらえますか?」

「まかせてください!」

 

おじさんは快諾すると、鍛え上げられた胸をたたく。

とはいえ…彼が飛ぶのには全裸になるだけでなく、両手が必要だ。

蟹股ホールドしかないかぁ…。

気を失った女性と、戻ってきた少女を見て思った。

 

 

大丈夫か?本当に?

 

 

半年後。

おじさんがいつものように街を歩いていると、三つ揃えを着こなした老人がベンチに腰かけているのを見かけた。

「…こんにちは」

「ああ、こんにちは」

「お互い大変ですね」

「ハハハ…」

軽く頭を下げながら、そのまますれ違う。

 

更にしばらく歩いていると、小柄な少女が友人達とファミレスから出てくる。

「あっ…えーっと…。こんにちは、この前はありがとうございました!」

「ああ、こんにちは。どういたしまして」

「ゆかちゃん、知ってる人?」

「えーっと、その…」

 

「ハハハハ、ちょっとお手伝いさせてもらったことがあるだけですよ」

おじさんはそう言って軽く握りこぶしを作ると、手を振ってその場を後にした。

 

背後からは少女たちの声が聞こえてくる。

「またペットボトルの蓋あけてもらったの?」

「かなちゃん、違うってぇ…」

 

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