おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第3話 一撃離脱(怪力少女3)

階段にタンスを放置した少女は、帰ってきた家族に当然のように怒られた。

さらに翌日は筋肉痛で動けなくなった。

ベッドの上で全身の痛みと戦いながら、彼女は誓う。

 

「もう二度とこんな力使わない!」

 

 

しばらく経ったある日、彼女が近所のコンビニでアイスを買って帰る途中のことだった。

「火事だ!」

「おい、中に人がいるぞ!」

聞こえてきた叫び声に顔を上げると、少し離れた古い雑居ビルから黒い煙が噴き出していた。

ビルの正面はすでに防火シャッターが下りて出口を塞いでおり、住人の脱出を阻んでいるようだ。

中からは煙に巻かれた人々の声が聞こえてくる。

 

「せーのっ!!…だめだ!」

ビルの前では数人の男たちが、体当たりをしたりバールでこじ開けようとしているが、頑丈な鉄のシャッターは動かない。

 

(…私なら、助けられちゃうな)

 

(でも…)

あの力を呼び出すには、あまりにも条件が悪すぎた。

野次馬が多すぎる。誰かに見られたら、スマホで写真を撮られたら、警察が来たら…。

 

シャッターは開かない。煙は濃くなっていく。

彼女は唇を強く噛み締める。

 

(でも、あれ…。私なら、助けられちゃうんだよな)

 

一歩後ずさりしてから、踵を返した。

「…もう、知らない!」

 

そして、すぐ近くの薄暗い路地裏へと駆け込んだ。

涙目になりながら、急いで衣服を脱ぎ捨てる。

身に纏うものは何もない。

 

「…よし!」

 

彼女はもう一度、火災現場へと走った。

 

数人がかりでもびくともしなかった鉄のシャッターへ真っ直ぐに向かう。

「どいてください!」と叫ぶ間もなかった。

 

シャッターのくぼみに手をかけると、大きく息を吸い込む。そして息を止め、全力を込めた。

 

ギギギギギギギ……!

 

分厚い鉄製のシャッターがみるみるうちに歪んでいく。

周囲の野次馬たちが、あまりの光景に息を呑んだ。

 

バキンッ!!

凄まじい音と共にシャッターが壁から完全に引き剥がされた。

 

「なっ…!?」

周囲からどよめきが起こる中、開いた隙間から、煤にまみれながらも住人たちが次々と外へ飛び出してくる。

 

「よかった!」

住人たちの無事な姿を見て、彼女は大きく息を吐き出して、力を抜いた。

 

(…って、ああああああああっ!!)

 

自分がどんな格好をしているかを、今さらになって思い出す。

周囲には大勢の人がいる。呆然とこちらを見ている人もいる。スマホを構えている人も何人か視界に入った。

 

「無理無理無理!!」

 

急いで逃げないと!

 

彼女はふと思いつく。

(この力を使ったら、逃げられるかもしれない!)

 

半泣きになりながらもう一度大きく息を吸い込むと、彼女は地面を蹴って逃げ出した。

 

一歩目。

ドンッ!

衝撃と共に彼女の身体は前方へと弾かれる。

 

(え、嘘っ!?)

体勢を崩しながらも、慌ててもう片方の足を前に出す。

ドドンッ!

(は、速っ…!)

ドドドンッ!

(ちょ、待って!止まれない、止まれないーっ!!)

転びそうになりながらも、彼女は逃げ去っていった。

 

こうして彼女は数人の命を救った。

しかし、火災現場には奇妙すぎる目撃証言が残されることとなった。

 

「おい、あのシャッターを引きちぎったの、裸の女の子だったぞ」

「なんか、すごく小さくなかった?」

「写真は!? 誰か撮ってないのか!」

「撮ろうとしたんだけどさ、その前に一瞬で消えちゃったんだよ」

「あんな人間離れした速さで走れる奴がいるかよ?」

「なんか、走るっていうか、なんか浮いてたし飛んでるみたいだったぞ…」

「…妖精とか?」

「いや、妖精はいないだろ」

「でも、そうじゃなきゃ他に説明がつかなくないか?」

 

そんな会話が現場の野次馬たちの間で交わされていた頃。

「怖かったぁ…!」

帰宅した彼女は、袋の中から溶けたアイスを取り出した。

「……」

無言でゴミ箱に放り込む。

 

そのまましゃがみ込み、未だに震える自分の両手を見つめる。

「でも、間に合ってよかった…」

 

ふと顔を上げる。

「…写真、撮られなかったよね?」

 

しばらく考える。

「……大丈夫だよね?」

 

その日の夜。

ネットには、一つの奇妙な目撃情報が投稿されていた。

「火事の現場で、裸の女の子がシャッター引きちぎったらしい」

「急に現れて急に消えたらしいよ」

「写真を撮ろうとしたら間に合わなかった」

「妖精みたいだった」

 

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