おまわりさん、能力者です   作:pemotaro

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第9話 それ私のです(透明人間3)

制限こそあるものの、現代社会においては圧倒的ともいえる透明化の力をもつ彼女。

そんな彼女は今、絶体絶命の危機に瀕していた。

 

狭い路地裏の自動販売機の影に、衣服とバッグを隠す。そこまでは完璧だった。

目的を果たした後、路地裏へと逃げ帰ってこれた。ここまでもまだ良かった。

 

しかし一つだけ誤算があった。

彼女のバッグの持ち手は隠しきれていなかったのだ。

裸の彼女が路地裏へと戻ってきたとき、そこには先客がいた。

 

白髪を綺麗に整えた、三つ揃えを着た老紳士。

彼は自販機の横で足を止めていた。そこには彼女が隠した衣服とバッグがあった。

 

こんなところに隠されているとは…何か事件でもあったのか?

おじいさんは不審そうにそれらを見つめていた。

 

衣服を今すぐ回収したい。しかしおじいさんがいる。

彼女は塀の影から見守るしかなかった。

(うそ…おじいさん、お願いだから早くどこか行って!)

 

「こういうのって、110番もした方がいいのでしょうか?」

おじいさんはポケットからスマホを取り出すと、しばらく悩んでいた。

 

「…まさか、ね」

やがて、おじいさんは首を振ると、バッグへと手を伸ばした。

(待って!それ持って行かれたら、私帰れなくなる!)

 

彼女は覚悟を決めた。

大きく息を吸い込み、呼吸を止める。

 

自分の身体が見えなくなったことを確認すると、彼女はおじいさんの元へと走った。

おじいさんがバッグを持ち上げようとしたタイミングで、透明な手がバッグの端をぐっと引っ張った。

 

「おや?」

 

おじいさんの手から、バッグがするりとすり抜けた。

おじいさんは不思議そうに首をかしげる。

 

「何かに引っかかりましたかね?」

 

彼女は内心で叫んだ。

(お願いだから、どこかへ行ってぇぇ!)

 

おじいさんは怪訝な顔でバッグに手を伸ばし、少し力を込めて引っぱる。

 

(手を離してぇぇ!)

 

彼女の限界は近い。必死にバッグを掴んで抵抗する。

(頼むから!もう諦めて!)

 

そのときだった。

遠くの通りから、叫び声が聞こえてきた。

 

「誰か来て!!」

 

おじいさんが声の方に振り向くと、少し離れた雑居ビルから、黒い煙がうっすらと立ち上っているのが見えた。

「先にあちらを確認したほうがよさそうですね」

 

おじいさんは持ち上がらないバッグをその場に残したまま、煙の方向へと走り出した。

 

「ぶはぁっ!!!!!」

 

おじいさんが路地の角を曲がった瞬間、彼女は激しく息を吐き出した。

それと同時に全裸の彼女が出現する。

 

「はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った!」

 

彼女は涙目になりながら、大急ぎで衣服を身に着け、バッグを持った。

そして周囲を不審者のように警戒しながら、こそこそとその場から逃げ去っていった。

 

それからしばらくして、おじいさんが先ほどの路地裏へと戻ってきた。

「怪我人がいなくて本当に助かりました」

 

おじいさんはそう言いながら先ほどの自販機の影に目をやる。

しかし、そこに何一つ残されていなかった。

 

「…無くなっていますね。あの落とし物は結局何だったのでしょうか?」

不思議そうに首をかしげながら、その場を後にした。

 

それからしばらくして。

最寄り駅の公衆トイレの洗面台では、少し乱れた服装と髪を整えている女性の姿があった。彼女はバッグを握りしめて誓っていた。

 

「…次は、もっと、絶対にバレない場所に隠す!!」

 

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