「お早う、莠コ髢?くん」
目が覚めて最初に聞いた声は、一部が雑音のようになって聞き取れなかった。膝枕をされていたであろう体勢から体を起こすと、カラスのように黒く長い髪を持った女性が視界に入った。
「……う、わ」
「どうしたんだい?……ああ、キミには名前がないのか。そんなにも特徴的な見た目をしているというのに」
喋り方が妙に胡散臭い女性は、かつて死んだ母を思わせる容姿や声だった。その瞬間に、ここが普通の場所ではないことを理解する。思わず、母に似た女性にこの場所のことを訊いた。
「ここは……そうだね。『世界の空』、とでも言おうか」
「……は?」
「キミたち人類の住む地球。そこから見える星空に似た景色が見えるだろう?」
澱んだ目の女性に言われて当たりを見渡すと、眩い銀色の空に、無数の黒い星々が浮かんでいた。俺と女性は、その銀穹にぽつんと浮かぶ真っ黒な円盤の上に立っていた。
「それが、キミたちの言う『世界』……とどのつまり、ここは世界の外側と言うコトさ」
「……最初っからそう言ってくれよ」
「説明は大事だろう?」
「いや、そうだけどさ。てかあんたは誰だよ。神様か?」
「ああ、神だ」
「……は?」
仰々しくこの空間について説明する女性の正体に、俺はつい目を丸くした。いや、この空間を熟知している存在というなら、確かに神様だろう。ただ、神様が現実に存在するという事実が飲み込めずに居た。
「正確には、神々の意思や決定を世界に伝える荒人神さ。天使に近い存在というわけだ」
「……まぁなんでもいいよ。で、俺はなんでここにいるんだ?」
「キミは死んだ」
そう告げられても動揺はしなかった。なんせ、地球で最後に見た景色は眼前に迫る大型車だ。
「キミは見ず知らずの子供……それも5人だ。5人の子供を咄嗟に庇い、そして本来死ぬはずだった子供の代わりに死んだ。嗚呼、なんと素敵な終わり方だろう!」
女性は叫ぶ。こんなにも優しい人が、たかがトラック一台程度で死ぬなんて、と。
「だからこそ、私は憐憫を垂れた。キミという人間に、もう一度チャンスを与えようとね」
「……そりゃ、有難いな」
「それだけじゃあない。キミは漫画が好きだったろう?」
「……?」
「私も時折地球には降りていてね、日本国の創作を楽しんでいたんだよ。特別に、キミには好きなチカラで、好きなセカイへ連れて行ってあげる」
「……は」
今度漏れたのは、吐息。驚愕は声になる事はなく、只管に現実離れした音を脳に刻み込むだけ。
「BLEACHという作品が好きだったらしいね。私もよく読んでいた。……キミは、どのキャラが好き?」
そう言われた思い浮かんだのは、第六の豹王。空色の破壊獣、グリムジョー・ジャガージャックの姿。
「……彼に成りたいかい?」
その問いに、俺は反射的に首を横に振った。
グリムジョーという王の器に、俺は相応しくない。
いやそれより、俺はグリムジョーではない。
「ならば、
「……ああ、それでいい」
「フフ、それじゃあどの世界にする?よりどりみどりだけど……キミの性格じゃあ、BLEACHはダメそうだ」
「よくわかってるな……その通りだよ」
ずらりと並べられた世界の中に、偶然目に留まった世界があった。
現代よりもテクノロジーが発展していて。
敵や味方がハッキリしている。
且つ、自らの力を存分に振るえる。
英雄たちの産まれた、あの物語。
「……フフフ、やっぱりキミはおもしろいね。いいよ、そこにしようか」
薄い笑みで、女性……いや、神様は指を向けた。
「餞別だ、受け取るがいい」
「……?」
左手の薬指に嵌め込まれたのは、銀色に輝く指輪だった。
「将来添い遂げるパートナーに渡すといい。夢の中で、出そうと思えばいつでも出せる」
そんな少し過保護とも思える餞別を受け取って、左手を握りしめる。
「……ありがとう」
「……いってらっしゃい」
白んで遠くなっていく五感が最後に捉えたのは、幼い頃に遊んだ母の笑顔そのものだった。
新作です。
神様の口調は元ネタにかなり引っ張られました。わかる人ならわかると思います。ネタバレすると、この先神様ちょっとだけ出番あります。