眠い。
別に赤子の体だからというわけではない。転生した俺は、既に生まれて14年経っている。
そして、夜中というわけでもない。今は昼前だ。その上煩い。
ならば何故、この身を眠気が襲っているのか。
それは──
『入試要項通り!リスナーにはこの後、10分間の「模擬市街地演習」を行ってもらうぜ!持ち込みは自由!プレゼン後は各自、指定の演習会場へ向かってくれよな!!OK!?』
このクソデカボイスによるものだ。同じく雄英を受ける同級生によると、あれは「プレゼント・マイク」というヒーローらしい。毎週ラジオをやっていて、大好評らしい。が、流石に雄英を受ける受験生らは緊張や覚悟で反応どころじゃなさそうだ。
そも、配られたプリントで内容は把握している。大声で説明されてもという感じで、あの大声がかろうじて眠気覚ましになっている。
「質問よろしいでしょうか!?」
鋭く響いた声。こういう自分には関係なさそうなものほど聞いちゃうんだよな、あるある。……まあ質問だし聞くけど。
「プリントには
……成程、さっきプレゼント・マイクが言っていた仮装敵は三種類。プリントと照らし合わせると齟齬が起きる。
「ついでにそこの縮毛の君!先ほどからボソボソと……気が散る!物見遊山のつもりなら、即刻ここから立ち去りたまえ!」
……ちなみに、主人公の名前くらいなら知っている。緑谷出久、個性は……なんだったか。確か無個性で、オールマイトというヒーローから個性を貰う。その個性でヒーローになる。
(さわりだけしか知らなかったが……大方、あの緑のもじゃもじゃくんだろうな)
『オーケーオーケー、受験番号7111くんナイスなお便りサンキューな!』
プレゼントマイクの口から語られたのは、四種目の敵が「0ポイント」と呼ばれるお邪魔虫ということ。マリオでいうドッスン、カービィでいうゴルドーにあたるのだろう。試験官直々に「避けて通るべきギミック」と称されているなら、余程の実力者でない限り、そして向こう見ずの変人でない限りは倒すような奴がいないということ。
(……ワクワクしてきた)
説明の終わり際にはすっかり目も覚めて、丸まっていた背中は前を向いている。
『俺からは以上!最後にリスナーへ我が校"校訓"をプレゼントしよう!』
──かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と。
『それでは皆、良い受難を!』
「じゃあ、行ってくる。頑張れよ」
「おう、お前も頑張れよ、リオ」
「……広っ」
そう呟いた俺の周りに人は居なかった。
(まあ、原因は容姿だろうな)
ワックスで固められた銀の短髪。
気だるげに伏せられた赤い目。
下顎にある骨のようなもの*1。
そして、腰に下げられた白い刀……刀、無いな。あれ、どこ行った?
「……な、なあ!」
「ん?」
「ひっ……!」
「う……」
声をかけられたような気がしたので振り返ると、黄色い髪のチャラそうな男子と耳がジャックの女子がいた。……怖がらせるつもりはなかったんだけど。
「ああ、悪い。怖がらせるつもりはなかったんだ。……それで、どうした?」
「あ、えっと!この刀、アンタのだよな?」
そうして見せられたのは、白い日本刀。鍔の形からしても、気配も俺と一致している。荷物預けの時、受け取るのをすっかり忘れていた。たまたま遠くから俺を見ていた2人がこの刀を受け取って、わざわざ俺のところまで持ってきてくれたのだ。
「ありがとう。……お礼と言うのもなんだが、この試験中2人の手助けがしたい」
「え」
2人は驚いたが、了承してくれた。人数は多い方がいい。蹴落とすのはアンチヒーロー的行為だが、協力するなとは言われてない。
「改めて、
「俺、上鳴電気!よろしくな!」
「ウチは耳郎響香。2人ともよろしく」
『はいスタートー』
3人それぞれで握手をし終えた瞬間、気の抜けたアナウンスが響いた。
「……え?」
「個性について話し合いたいと思ってたけど……どうやら暇もなさそうだ」
『どうしたあ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!?』
「行くぞ上鳴、耳郎!」
「え、え?」
「ちょ、待ってどういう……」
「
「「!」」
その一言ですぐに理解したのか、走り出した俺のすぐ後をついてきた。
「っウチ、索敵できるから探すね!」
「助かる!俺の個性"帯電"だからさ、一応近寄んないで!あ、でもロボ特効!」
「りょーかい!……リオの個性はその刀だよね?」
「ああ。他にも色々できるが……まぁ話は後で。一旦それぞれで対処しよう」
「オーケー!」
何かあったらすぐに駆けつけられる範囲に散り、各自対処をしつつ、誰かがピンチになったら誰かが助ける。雄英の入試だからこそできた即席チームで、続々とポイントを増やしていく。
「充電切れそう!」
「わかった、じゃあ2人でやろう!」
上鳴の個性は電気を生み出せるわけでは無く、充電が必要。そのため、耳郎協力を仰ぎタッグを組んだ。
「リオは大丈……え」
「どした?耳郎。なんかあったか?」
「……っ、デカいのが来る!」
直後、大きく地響きが鳴り響く。この会場だけじゃなく、他の会場でも同時多発的に鳴っているようだ。
「おいおいおい」
「デカすぎるだろ!!」
「これが、0ポイント……!?」
それはビルほどの図体もある、巨大な金属塊。
市街地……演習場を荒らす0ポイントは、人が密集している方へと進んでいく。
「……なあ、こっち来てない?」
「ウチたちを挟んで、0ポイントの反対側。人がたくさん居るからだ……!」
「明らかに学生が対応できる範疇を超えてる。成程「ギミック」か、ものは言いようだな……!」
会話をしている間にも、0ポイントはこちらへ向かっている。上鳴の電気でショートさせられれば良かったのだが、いかんせん本人に充電がない。
「ごめん、充電残ってたら……!」
「過ぎたことは仕方ないでしょ。……ねえ、逃げる?」
逃げる。今から逃げるルートを考える?いや間に合わない。それに、既にかなりの被害が出てる。そんな中で「他のヒーローに任せて逃げる」なんて行動はナンセンスだろう。
「……なあ耳郎、0ポイントの方に逃げ遅れた人は何人いる?」
「え、えっと……2人!」
「じゃあ助けよう」
そう言い放った俺の顔を見て、2人は信じられないように目を丸くする。
「は!?何言って……!!」
「ここで逃げたら、俺たちは一生逃げたままだ」
「!」
ヒーローに、なりたくないのかと。
言外にそう問えば、2人の顔にもう動揺はなかった。
「作戦、考えてあるんだよね……!?」
「勿論!」
「わかった、じゃあついてきて!!」
「ああ!」
「了解!」