「で、侵略者対策予算はいくら付けられたんだ」
「5兆円ですね」
ここは東西南北反転地球、日本。おっと、東西南北反転してたら逆に正地球と同じではないか、という意見は無視する。
人型ロボットに搭載しないと動かない不思議エンジン、通称『勇気炉』、そして人型ロボットを成形するときに限り強度が100万倍になる金属、通称『勇気鋼』が発見された結果、昔から悩まされている諸大陸からの侵略者、あるいは組織的テロリストに人型ロボットをぶつけよう、と決定された元年であった。
「昨年度国家予算のたった5%じゃん」
「これで上限ですよ。やはりわが『国』独自の保健医療、社会保障費が全体を圧迫してます」
この日本、正地球日本における各都道府県単位に分かれた『国』が行政を独立管理しており、中央政府のようなものはない。そして各「国」の上層部のかじ取り役は、理論上不死の異世界転生者、『プレイヤー』と呼ばれる5人程度が独占している。実務もやることがあり、国民の意見をきちんと吸い上げているので、国民はあまり文句は言わない。というか、文句があれば武装蜂起する。
「わが国の守りはもはや旧式戦車ではもたん時が来ているのだ!」
「けど陛下、我が国は『文句があれば武装蜂起する』精神をお持ちの国民たちによって動いているわけで。社会保障を削ってロボットに回せば、侵略者が来る前に政庁が包囲されます」
「ぐぬぬ」
「そもそも高度保険医療は国を建てるときの目玉だったじゃないですか」
「ぐぬぬ」
さすがの国王もぐぬぬというしかなかった。
「で、年5兆円で何体作れるんだ」
「1体ですね。30年単位で30体、何体か同盟国に売ることでペイします」
「1体かー」
「パイロットはプレイヤーだよね」
「ええ。一般市民、民間にロボを渡すと反乱の時の被害が大きいので」
「うちにネームドキャラがもっといればなあ」
NPCでも一般国民とネームドキャラは扱いが違う。一般国民はどちらかというと価値観を同じくする群体のように扱われるが、ネームドキャラはそこから独立した個があり、独自の価値観で動く。なんならネームドキャラと結婚したり、子供がいるプレイヤーもいる。
「あと、国民から装甲に兵器開発会社から『我が社の重装甲を採用してほしい』という嘆願が来ています」
「今回作りたいのは軽量機なのー! その装甲採用したらコンセプトが壊れるでしょうがー!」
「でも国民の会社がつぶれかねませんよ」
「ぐぬぬ……比叡ちゃんはどう思う?」
国王から意見を問われたのは、ネームドキャラである国王の嫁、宇宙戦艦の自立思考型ヒューマノイドインタフェース、比叡である。
「国民あっての国家です。重装甲ロボを建設しましょう」
「比叡ちゃんはそういうよなあ……」
がっくりうなだれる国王。本人の趣味で高速軽量機体を作りたいのに、実際に作らないといけないのは重量級のタンクロールの機体。フラストレーションがたまる。
「あと、開発元年ですよね。軽量化・小型化技術がまだ発展していません。実務的にも重量制限を考えずに機体を作成したほうが、現場に経験値が溜まるかと」
「完全に同意する。……はあ」
「嫁の正論には勝てないねー」
「というかプレイヤーより賢いの、何? 昔からそういうもんだと思ってあきらめてはいるけどさ」
「S村さん世界だから」
知り合いやプレイヤーからデータを採取して、DBに格納。DBのデータの重みづけで人格を構成、また新たなキャラクターを生成し、自身の世界に投下する。そうして世界を広げていく。
S村というクリエイターの真骨頂であった。
「メタ的に言うとDB内に答えがあるから世界の共通認知としてDBから答え引っ張ってこれるキャラがいるとそらつえーよね、という感じですね」
「ゆめがまったくないいいかたはやめたまえ」
「はい」
そういうわけで、プレイヤーの意思決定の際にネームドキャラの意見を聞く、というのは東西南北反転地球においては日常的に行われている。
「しょうがない、重装甲採用ロボで行こう。設計は僕がする」
「わーい。陛下設計だー」
東西南北反転地球の日常は、こうして回っている。