リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

10 / 13
「黄金の戦士、再び」

 

 

夕暮れの街。

 

喫茶リコリコを出たユイトは、人気のない路地へと入っていた。

 

背後から聞こえていた街の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。

 

「……」

 

足を止める。

 

静かだった。

 

静かすぎる。

 

そして――

 

ドクン。

 

胸の奥が、大きく脈打った。

 

「……まただ」

 

昨日と同じ感覚。

 

身体の奥から何かを知らせるような、奇妙な鼓動。

 

ユイトは周囲を見回した。

 

「あいつ……」

 

路地の先。

 

建物の影から、異形の存在が姿を現した。

 

人間とは明らかに違う。

 

その視線はユイトではなく――さらに奥へ向けられている。

 

「……あそこに誰かいる?」

 

見ると、一人の少女が立っていた。

 

UNKNOWNはゆっくりと少女へ近づいていく。

 

少女は異形の姿に気づき、顔を青ざめさせた。

 

「……え?」

 

UNKNOWNが腕を上げ振りかぶった。

 

その瞬間。

 

ユイトが少女の前へ飛び出した。

 

「逃げて!」

 

「で、でも……!」

 

「早く!」

 

少女が走り出す。

 

UNKNOWNは少女を追おうとする。

 

だが――

 

ユイトがその前に立ちはだかった。

 

「……お前の目的は、あの子なんだな」

 

UNKNOWNが異様な声を発する。

 

意味の分からない言葉。

 

ユイトには理解できない。

 

それでも、その殺意だけは分かった。

 

「……分からない」

 

拳を握る。

 

「でも――」

 

一歩、踏み出す。

 

「俺は、あの子を守る」

 

UNKNOWNが突進してきた。

 

「――っ!」

 

ユイトは横へ飛んだ。

 

巨大な腕が、すぐ横を通過する。

 

そのままUNKNOWNの拳がコンクリートの壁へ叩き込まれた。

 

ドゴォン!!

 

壁に亀裂が走る。

 

「なんだよ……あの力……!」

 

ユイトは息を呑む。

 

だが、UNKNOWNは止まらない。

 

再び襲いかかってくる。

 

ユイトは逃げる。

 

しかし、完全には避けきれない。

 

肩を掠められ、身体が大きく吹き飛ばされた。

 

「ぐっ……!」

 

地面を転がる。

 

立ち上がろうとするが、UNKNOWNが目の前まで迫っていた。

 

「……!」

 

拳が振り下ろされる。

 

ユイトは咄嗟に腕を交差させた。

 

ズドンッ!!

 

凄まじい衝撃。

 

腕が痺れる。

 

「ぐ……!」

 

このままでは勝てない。

 

昨日と同じだ。

 

身体の中にある何か。

 

それを使わなければ――。

 

ドクン。

 

また鼓動が鳴った。

 

ユイトは胸元を押さえる。

 

「……俺の中にある、この力……」

 

UNKNOWNが迫る。

 

「……怖い」

 

拳を握り直す。

 

「でも……」

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

「使わなきゃ、守れない」

 

ユイトはUNKNOWNを真っ直ぐ見据えた。

 

そして――

 

腰の前で両腕を構える。

 

一度、深く息を吸う。

 

右腕を引く。

 

左腕を前へ。

 

そして身体の中心へ、両腕を力強く引き寄せる。

 

「――変身」

 

その瞬間。

 

ドクンッ!!

 

ユイトの身体から黄金の光が溢れ出した。

 

光が全身を包み込む。

 

胸部に銀色の装甲が形成される。

 

腕。

 

脚。

 

肩。

 

そして顔を覆うマスク。

 

赤い複眼が、闇の中で鋭く輝く。

 

頭部のクラッシャーが展開する。

 

腰には――

 

オルタリング。

 

黄金の光が夜の路地を照らした。

 

先ほどまでの青年の姿は、そこにはない。

 

そこに立っていたのは――

 

仮面ライダーアギト。

 

アギトは無言で構える。

 

UNKNOWNが吠える。

 

そして突進。

 

アギトは一歩だけ踏み込んだ。

 

UNKNOWNの拳が迫る。

 

しかし――

 

紙一重。

 

身体を僅かに傾け、拳をかわす。

 

そのままUNKNOWNの懐へ入り込む。

 

ドンッ!

 

拳が腹部へ突き刺さる。

 

UNKNOWNの身体が僅かに浮く。

 

続けて回し蹴り。

 

ズガンッ!!

 

UNKNOWNが吹き飛び、地面を滑っていく。

 

しかし、すぐに立ち上がった。

 

「……!」

 

UNKNOWNが両腕を振り上げる。

 

巨大な衝撃が放たれる。

 

アギトは正面から受けず、横へ跳んだ。

 

背後の壁が砕け散る。

 

アギトはそのまま走る。

 

UNKNOWNも迎え撃つ。

 

二つの影が一気に接近した。

 

拳と拳がぶつかる。

 

ドォン!!

 

衝撃波が周囲へ広がる。

 

アギトは押し負けない。

 

UNKNOWNの腕を掴む。

 

捻る。

 

そのまま背負うように投げ飛ばす。

 

UNKNOWNの身体が宙を舞い、地面へ叩きつけられた。

 

ズドォン!!

 

アギトは静かに立っている。

 

UNKNOWNが起き上がる。

 

その身体から異様な力が放たれる。

 

アギトの赤い複眼が、それを捉える。

 

そして――

 

UNKNOWNの攻撃を見切る。

 

一歩。

 

二歩。

 

最小限の動きでかわしていく。

 

そして最後の一撃。

 

アギトの拳が、UNKNOWNの胸部を真正面から打ち抜いた。

 

ドゴォォン!!

 

UNKNOWNが大きく吹き飛ぶ。

 

だが、まだ倒れない。

 

アギトは静かに構え直した。

 

そして――

 

オルタリングが黄金に輝き始める。

 

足元に、巨大なアギトの紋章が浮かび上がった。

 

黄金の光が紋章から立ち上がる。

 

その光がアギトの両脚へ吸い込まれていく。

 

クラッシャー展開。

 

頭部の角が開く。

 

赤い複眼が強く輝く。

 

全身が黄金の光に包まれる。

 

アギトは腰を落とした。

 

次の瞬間――

 

跳躍。

 

夜空へ舞い上がる。

 

身体を翻し、右脚を前へ。

 

黄金の光を纏った右脚が、UNKNOWNへ向かって一直線に伸びる。

 

ライダーキック。

 

――直撃。

 

その瞬間。

 

UNKNOWNの頭上に、天使の輪のような黄金のリングが浮かび上がった。

 

光がUNKNOWNの身体を包み込む。

 

亀裂のような光が全身へ走り――

 

ドォォォォン!!

 

UNKNOWNは黄金の爆発とともに消滅した。

 

静寂。

 

アギトが地面へ着地する。

 

黄金の光がゆっくりと収まっていく。

 

その戦いを――

 

少し離れた場所から、複数の人影が見ていた。

 

「……対象を確認」

 

サードリコリス。

 

銃口が、一斉にアギトへ向けられる。

 

「UNKNOWNを撃破した存在……」

 

「未知の武装生命体と判断」

 

アギトが振り返る。

 

サードリコリスと視線が交差する。

 

彼女たちは知らない。

 

この黄金の戦士が、少女を守るために戦ったことを。

 

そしてアギトの中にいるのが――

 

先ほどまで喫茶リコリコで笑っていた、25歳の青年だということも。

 

「警告する」

 

銃口がさらに上がる。

 

「その場から動くな」

 

アギトは答えない。

 

「……応答なし」

 

一人が引き金に指をかける。

 

「撃つぞ」

 

その瞬間。

 

アギトの赤い複眼が、鋭く輝いた。

 

そして――

 

一歩。

 

サードリコリスへ向かって踏み出した。

 

「――来る!」

 

パンッ! パンッ! パンッ!

 

銃声が夜の街を切り裂く。

 

黄金の戦士は、再び戦場へ身を投じた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。