夕暮れの街。
喫茶リコリコを出たユイトは、人気のない路地へと入っていた。
背後から聞こえていた街の喧騒が、少しずつ遠ざかっていく。
「……」
足を止める。
静かだった。
静かすぎる。
そして――
ドクン。
胸の奥が、大きく脈打った。
「……まただ」
昨日と同じ感覚。
身体の奥から何かを知らせるような、奇妙な鼓動。
ユイトは周囲を見回した。
「あいつ……」
路地の先。
建物の影から、異形の存在が姿を現した。
人間とは明らかに違う。
その視線はユイトではなく――さらに奥へ向けられている。
「……あそこに誰かいる?」
見ると、一人の少女が立っていた。
UNKNOWNはゆっくりと少女へ近づいていく。
少女は異形の姿に気づき、顔を青ざめさせた。
「……え?」
UNKNOWNが腕を上げ振りかぶった。
その瞬間。
ユイトが少女の前へ飛び出した。
「逃げて!」
「で、でも……!」
「早く!」
少女が走り出す。
UNKNOWNは少女を追おうとする。
だが――
ユイトがその前に立ちはだかった。
「……お前の目的は、あの子なんだな」
UNKNOWNが異様な声を発する。
意味の分からない言葉。
ユイトには理解できない。
それでも、その殺意だけは分かった。
「……分からない」
拳を握る。
「でも――」
一歩、踏み出す。
「俺は、あの子を守る」
UNKNOWNが突進してきた。
「――っ!」
ユイトは横へ飛んだ。
巨大な腕が、すぐ横を通過する。
そのままUNKNOWNの拳がコンクリートの壁へ叩き込まれた。
ドゴォン!!
壁に亀裂が走る。
「なんだよ……あの力……!」
ユイトは息を呑む。
だが、UNKNOWNは止まらない。
再び襲いかかってくる。
ユイトは逃げる。
しかし、完全には避けきれない。
肩を掠められ、身体が大きく吹き飛ばされた。
「ぐっ……!」
地面を転がる。
立ち上がろうとするが、UNKNOWNが目の前まで迫っていた。
「……!」
拳が振り下ろされる。
ユイトは咄嗟に腕を交差させた。
ズドンッ!!
凄まじい衝撃。
腕が痺れる。
「ぐ……!」
このままでは勝てない。
昨日と同じだ。
身体の中にある何か。
それを使わなければ――。
ドクン。
また鼓動が鳴った。
ユイトは胸元を押さえる。
「……俺の中にある、この力……」
UNKNOWNが迫る。
「……怖い」
拳を握り直す。
「でも……」
ゆっくりと立ち上がる。
「使わなきゃ、守れない」
ユイトはUNKNOWNを真っ直ぐ見据えた。
そして――
腰の前で両腕を構える。
一度、深く息を吸う。
右腕を引く。
左腕を前へ。
そして身体の中心へ、両腕を力強く引き寄せる。
「――変身」
その瞬間。
ドクンッ!!
ユイトの身体から黄金の光が溢れ出した。
光が全身を包み込む。
胸部に銀色の装甲が形成される。
腕。
脚。
肩。
そして顔を覆うマスク。
赤い複眼が、闇の中で鋭く輝く。
頭部のクラッシャーが展開する。
腰には――
オルタリング。
黄金の光が夜の路地を照らした。
先ほどまでの青年の姿は、そこにはない。
そこに立っていたのは――
仮面ライダーアギト。
アギトは無言で構える。
UNKNOWNが吠える。
そして突進。
アギトは一歩だけ踏み込んだ。
UNKNOWNの拳が迫る。
しかし――
紙一重。
身体を僅かに傾け、拳をかわす。
そのままUNKNOWNの懐へ入り込む。
ドンッ!
拳が腹部へ突き刺さる。
UNKNOWNの身体が僅かに浮く。
続けて回し蹴り。
ズガンッ!!
UNKNOWNが吹き飛び、地面を滑っていく。
しかし、すぐに立ち上がった。
「……!」
UNKNOWNが両腕を振り上げる。
巨大な衝撃が放たれる。
アギトは正面から受けず、横へ跳んだ。
背後の壁が砕け散る。
アギトはそのまま走る。
UNKNOWNも迎え撃つ。
二つの影が一気に接近した。
拳と拳がぶつかる。
ドォン!!
衝撃波が周囲へ広がる。
アギトは押し負けない。
UNKNOWNの腕を掴む。
捻る。
そのまま背負うように投げ飛ばす。
UNKNOWNの身体が宙を舞い、地面へ叩きつけられた。
ズドォン!!
アギトは静かに立っている。
UNKNOWNが起き上がる。
その身体から異様な力が放たれる。
アギトの赤い複眼が、それを捉える。
そして――
UNKNOWNの攻撃を見切る。
一歩。
二歩。
最小限の動きでかわしていく。
そして最後の一撃。
アギトの拳が、UNKNOWNの胸部を真正面から打ち抜いた。
ドゴォォン!!
UNKNOWNが大きく吹き飛ぶ。
だが、まだ倒れない。
アギトは静かに構え直した。
そして――
オルタリングが黄金に輝き始める。
足元に、巨大なアギトの紋章が浮かび上がった。
黄金の光が紋章から立ち上がる。
その光がアギトの両脚へ吸い込まれていく。
クラッシャー展開。
頭部の角が開く。
赤い複眼が強く輝く。
全身が黄金の光に包まれる。
アギトは腰を落とした。
次の瞬間――
跳躍。
夜空へ舞い上がる。
身体を翻し、右脚を前へ。
黄金の光を纏った右脚が、UNKNOWNへ向かって一直線に伸びる。
ライダーキック。
――直撃。
その瞬間。
UNKNOWNの頭上に、天使の輪のような黄金のリングが浮かび上がった。
光がUNKNOWNの身体を包み込む。
亀裂のような光が全身へ走り――
ドォォォォン!!
UNKNOWNは黄金の爆発とともに消滅した。
静寂。
アギトが地面へ着地する。
黄金の光がゆっくりと収まっていく。
その戦いを――
少し離れた場所から、複数の人影が見ていた。
「……対象を確認」
サードリコリス。
銃口が、一斉にアギトへ向けられる。
「UNKNOWNを撃破した存在……」
「未知の武装生命体と判断」
アギトが振り返る。
サードリコリスと視線が交差する。
彼女たちは知らない。
この黄金の戦士が、少女を守るために戦ったことを。
そしてアギトの中にいるのが――
先ほどまで喫茶リコリコで笑っていた、25歳の青年だということも。
「警告する」
銃口がさらに上がる。
「その場から動くな」
アギトは答えない。
「……応答なし」
一人が引き金に指をかける。
「撃つぞ」
その瞬間。
アギトの赤い複眼が、鋭く輝いた。
そして――
一歩。
サードリコリスへ向かって踏み出した。
「――来る!」
パンッ! パンッ! パンッ!
銃声が夜の街を切り裂く。
黄金の戦士は、再び戦場へ身を投じた。