リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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すれ違う黄金

 

銃声が、夜の街を切り裂いた。

 

「撃て!」

 

サードリコリスが一斉に引き金を引く。

 

無数の弾丸が、黄金の戦士――アギトへと殺到した。

 

しかし。

 

アギトは動じなかった。

 

身体を僅かに傾ける。

 

一発。

 

二発。

 

三発。

 

紙一重で弾丸をかわしていく。

 

そして次の瞬間――

 

ダッ!

 

地面を蹴った。

 

一瞬で距離を詰める。

 

「――っ!」

 

サードリコリスの一人が銃を構え直す。

 

だが、遅い。

 

アギトの手が銃身を弾き飛ばし、そのまま腕を掴む。

 

「なっ――」

 

身体を引き寄せ、銃を取り上げ握り潰す。

 

「ぐっ……!」

 

別のサードリコリスが背後から狙う。

 

アギトは振り返ることすらしない。

 

身体を横へ滑らせる。

 

銃弾が、その場所を通り過ぎた。

 

そして――

 

「――!」

 

アギトが振り向きざまに蹴りを放つ。

 

ガンッ!

 

銃が弾き飛ばされた。

 

「こいつ……!」

 

サードリコリスたちは焦り始めていた。

 

強い。

 

あまりにも強い。

 

UNKNOWNを撃破した直後だというのに、疲労を感じさせる様子すらない。

 

しかし、それ以上に彼女たちを困惑させていることがあった。

 

「……殺す気がない?」

 

誰かが呟く。

 

アギトの攻撃は、圧倒的だった。

 

だが――

 

致命傷になるような攻撃だけは、明確に避けている。

 

まるで最初から、殺すつもりなどないかのように。

 

アギト自身にも、その理由は分からなかった。

 

ただ一つ。

 

目の前の少女たちを殺してはいけない。

 

そんな感覚だけが、確かに残っていた。

 

「……違う」

 

アギトの口から、低い声が漏れる。

 

「俺は……」

 

そのとき。

 

サードリコリスが一斉に距離を取った。

 

「撃て!」

 

再び銃声が響く。

 

アギトは正面から踏み込んだ。

 

弾丸をかわしながら、一人。

 

また一人。

 

銃を叩き落とし、武器を封じていく。

 

最後に残ったサードリコリスが銃口を向けた。

 

「止まれ!」

 

アギトは止まらない。

 

一歩。

 

また一歩。

 

ゆっくりと距離を詰める。

 

「来るな……!」

 

指が引き金にかかる。

 

その瞬間――

 

アギトの手が銃身を掴んだ。

 

ギリッ……!

 

銃が軋む。

 

「なっ……!」

 

赤い複眼が、サードリコリスを見つめる。

 

だが――

 

アギトは銃を奪わなかった。

 

静かに手を離す。

 

「……逃げろ」

 

「……!」

 

サードリコリスが息を呑む。

 

「こいつ……喋った?」

 

しかし、アギトはそれ以上何も言わない。

 

背を向ける。

 

そして――

 

ダッ!

 

走り出した。

 

「待て!」

 

サードリコリスが追う。

 

だが、アギトの速度は尋常ではなかった。

 

夜の街を駆け抜け、建物の角を曲がる。

 

路地を抜け、さらに距離を広げる。

 

追跡の気配が遠ざかっていく。

 

そして――

 

人気のない倉庫街。

 

アギトは足を止めた。

 

周囲を見回す。

 

誰もいない。

 

そこで初めて――

 

身体から黄金の光が溢れ出した。

 

銀色の装甲が光となって消えていく。

 

クラッシャーが閉じる。

 

赤い複眼の輝きが失われる。

 

オルタリングの光も静かに消えていく。

 

そして――

 

そこに立っていたのは、一人の青年だった。

 

「……はぁ……」

 

ユイトは膝に手をつき、荒い息を吐く。

 

「……危なかった」

 

サードリコリスには、正体を知られていない。

 

それだけは幸いだった。

 

ユイトは自分の手を見つめる。

 

「……俺は、何なんだよ……」

 

答えは返ってこない。

 

ただ、胸の奥にはまだ――

 

あの力の感覚が残っていた。

 

*

 

少し離れた場所。

 

千束とたきなは、UNKNOWNとアギトが戦った現場へ向かっていた。

 

「派手な戦闘だったねぇ」

 

千束が周囲を見回す。

 

「サードリコリスが交戦した相手です。油断はできません」

 

「分かってるって」

 

二人が歩いていると――

 

千束が、ふと足を止めた。

 

「……あれ?」

 

路地の向こう。

 

一人の青年が歩いている。

 

千束は目を細めた。

 

「……あの人」

 

千束は青年を見つめる。

 

「昨日、リコリコに来たお客さん」

 

「……ユイトさん、でしたか」

 

「そうそう」

 

千束は覚えていた。

 

昨日、どら焼きバーガーを食べていた客。

 

そして今日も店に来て、おはぎセットを食べていた青年。

 

「ユイトさんだ」

 

千束が小さく呟く。

 

ユイトはまだ千束たちに気づいていない。

 

千束は何気なく彼の姿を見る。

 

服には少し汚れがついている。

 

そして、僅かに息が乱れていた。

 

「……こんなところで何してるんだろ?」

 

たきなもユイトを見る。

 

「戦闘現場の近くにいた理由は気になりますね」

 

「うん」

 

千束はユイトの背中を見つめる。

 

その瞬間――

 

脳裏に、先ほどの黄金の戦士が浮かんだ。

 

黄金の身体。

 

赤い複眼。

 

圧倒的な戦闘能力。

 

そして――

 

どこか似た雰囲気。

 

「…………」

 

千束は首を傾げた。

 

「……まさかね」

 

まだ、確信には至らない。

 

ユイト=アギト。

 

その答えには、まだ辿り着かない。

 

ただ――

 

千束の中に、ユイトという青年の存在だけは確かに残った。

 

そしてユイトもまた、自分を見つめる少女がいることに気づかないまま。

 

夜の街へと消えていった。

 

黄金の戦士と、一人の青年。

 

その二つの姿が同じ人物だと知る者は――

 

まだ、誰もいなかった。

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