昼下がりの街。
ユイトの後を追っていた千束とたきなは、DAからの緊急通信を受け、進路を変えていた。
『――千束、たきな。UNKNOWNを確認。現在地から近い。直ちに現場へ向かえ』
「UNKNOWN……!」
千束の表情が変わる。
「たきな、行くよ!」
「はい!」
二人はユイトの追跡を一旦中断し、指示された現場へ急いだ。
そして――
数分後。
二人は人気の少ない路地へと駆け込んだ。
「……静かすぎる」
たきなが周囲を警戒する。
その時だった。
「助け……!」
路地の奥から、男の声が聞こえた。
「!」
千束が顔を上げる。
そこには、一人の成人男性がいた。
何かから逃げるように、こちらへ向かって走ってくる。
「こっち!」
千束が手を伸ばす。
だが――
男の背後から、巨大な影が現れた。
「――!」
千束の目が見開かれる。
UNKNOWN。
その異形の腕が、男の首へ伸びる。
「やめて!」
千束が駆け出す。
しかし。
間に合わない。
UNKNOWNが男の身体を掴む。
そして――
ゴキッ。
鈍い音が響いた。
「…………」
男の身体から力が抜ける。
そのまま地面へ崩れ落ちた。
千束の足が止まった。
「……え?」
目の前で、人が殺された。
あまりにも一瞬だった。
たきなも、倒れた男を見つめている。
「千束……」
「……今……」
千束の声が震える。
「……今、目の前で……」
言葉が続かなかった。
UNKNOWNが、ゆっくりと二人へ振り向く。
千束は拳を握りしめた。
「……たきな」
「はい」
「こいつ……絶対に止めるよ」
「……了解」
二人は同時に銃を構えた。
――パンッ!
たきなが先に撃つ。
弾丸がUNKNOWNの胸部へ命中する。
しかし――
UNKNOWNは微動だにしなかった。
「……効いていません」
たきなが冷静に告げる。
さらに撃つ。
――パンッ!
肩。
――パンッ!
頭部。
それでもUNKNOWNは動かない。
「うわぁ……」
千束が引きつった笑みを浮かべる。
「めちゃくちゃ頑丈じゃん」
UNKNOWNが、ゆっくりと右手を上げた。
そして、自らの手の甲を指先でなぞる。
「……何?」
千束が目を細める。
UNKNOWNはさらに文字をなぞった。
すると――
頭上に光の輪が現れる。
天使の輪のような、不可思議な光。
その輪の中心から――
一本のソードが現れた。
柄。
刀身。
そして、そのままUNKNOWNの手へ収まる。
「……武器を召喚した?」
たきなが構える。
UNKNOWNが地面を蹴った。
「来る!」
千束が叫ぶ。
ソードが振り下ろされる。
――ブンッ!
千束は紙一重で横へ飛んだ。
刀身が地面を叩き、コンクリートが砕け散る。
「うわっ!」
千束は転がりながら距離を取る。
すぐに立ち上がった。
UNKNOWNが追撃する。
横薙ぎ。
千束は身体を反らす。
刀身が鼻先数センチを通過した。
続く突き。
千束は首を横へ振る。
さらに斬撃。
身体を捻る。
回避。
回避。
回避。
「……やっぱり!」
千束が笑う。
「動きはちゃんと見える!」
UNKNOWNの肩。
肘。
手首。
ソードの軌道。
そのすべてを、千束の異常な動体視力が捉えていた。
どれほど速い攻撃でも、紙一重でかわしていく。
「たきな!」
「はい!」
千束が横へ飛ぶ。
その瞬間――
――パンッ!
たきなの弾丸がUNKNOWNの腕を撃つ。
さらに。
――パンッ! パンッ!
二発。
三発。
正確無比な射撃が、同じ場所へ次々と叩き込まれる。
だが――
UNKNOWNは止まらない。
「……やっぱり、効かないか」
千束が呟く。
「ですが、牽制にはなります」
たきなが再び構える。
UNKNOWNが千束へ斬りかかる。
千束は一歩後退。
刃をかわす。
さらに一歩。
横薙ぎ。
身体を沈める。
そのままUNKNOWNの懐へ潜り込む。
「はい、隙あり!」
――パンッ!
至近距離から撃ち込む。
しかし。
UNKNOWNは微動だにしない。
「……やっぱダメかぁ」
千束が苦笑する。
次の瞬間。
UNKNOWNの拳が飛んできた。
「っと!」
千束は上体を反らす。
拳が目の前を通過。
続く肘打ち。
身体を捻る。
回避。
回し蹴り。
しゃがんでかわす。
そして後方へ跳んだ。
着地。
すぐに銃を構える。
だが――
UNKNOWNの視線が、千束から外れた。
次に狙いを定めたのは――
「……たきな」
UNKNOWNが一瞬で距離を詰める。
「!」
たきなが銃を構える。
UNKNOWNがソードを振る。
たきなは銃を囮にするように身体をずらし、斬撃をかわそうとした。
だが。
それすらもUNKNOWNの罠だった。
「――!」
次の瞬間。
UNKNOWNの腕が伸びる。
ガシッ!
「ぐっ……!」
たきなの首が掴まれた。
「たきな!」
千束が叫ぶ。
UNKNOWNはそのまま腕を持ち上げる。
たきなの身体が――
地面から浮いた。
「っ……!」
両足が宙に浮く。
たきなはUNKNOWNの腕を掴み、必死に引き剥がそうとする。
しかし――
びくともしない。
「離せ……!」
声が苦しげに漏れる。
千束が駆け出す。
「たきな!」
だがUNKNOWNは、たきなを盾にするように立つ。
そして――
もう片方の腕を伸ばした。
「――っ!」
千束が気づく。
遅かった。
ガシッ!
「ぐっ……!」
千束の首も掴まれた。
「千束!」
たきなの目が見開かれる。
そのまま千束の身体も持ち上げられる。
「……っ」
二人の足が、同時に宙へ浮いた。
UNKNOWNの左右の腕に、それぞれ千束とたきなが捕らえられる。
「……たき…な」
「……ちさ…と…」
千束の声が掠れる。
首を締め付けられ、空気がうまく入ってこない。
「……っ、は……」
たきなも苦しげに息を漏らす。
必死にUNKNOWNの腕を引き剥がそうとする。
だが、動かない。
銃を握ることすらできない。
――カラン。
たきなの銃が地面へ落ちた。
千束の視界も徐々に揺らいでいく。
どれほど優れた動体視力があっても。
どれほど正確な射撃能力があっても。
この状況では、何の意味もない。
完全に捕らえられていた。
「……こんなの……」
千束が苦しげに呟く。
「……どうしようも……ないじゃん……」
たきなの瞳からも、少しずつ力が失われていく。
「……っ……」
たきなが何かを言おうとする。
しかし、声が続かない。
二人の身体から、少しずつ力が抜けていく。
意識が遠のく。
――その時だった。
突然。
UNKNOWNが、二人の首から手を離した。
「……っ!」
「――ぁ……!」
二人の身体が落下する。
――ドサッ!
千束とたきなが地面へ投げ出された。
「……げほっ……!」
千束が激しく咳き込む。
「……はぁ……っ、はぁ……」
たきなも地面に手をつき、必死に呼吸する。
「……たきな……」
「……大丈夫、です……」
しかし。
UNKNOWNは二人を見ていなかった。
ゆっくりと身体の向きを変えている。
「……?」
千束が顔を上げる。
UNKNOWNが見つめる先。
そこには――
一人の人影が立っていた。
建物の影に隠れ、その顔は見えない。
ただ、腰の辺りだけが――
白く輝いていた。
一瞬の白い閃光。
そして。
静かな待機音が路地に響いた。
「……!」
千束の目が見開かれる。
「……あの音……」
人影の腰。
そこにあるものが、白く輝いていた。
――オルタリング。
UNKNOWNが、初めて明確な警戒を見せる。
人影が、一歩前へ出た。
酸欠のせいで視界がぼやけて顔は見えないが
小さな声が響く。
「……変身」
瞬間。
オルタリングが、眩い白い光を放った。
光が人影を包み込む。
銀色の装甲が形作られていく。
胸部。
肩。
腕。
脚。
そして――
赤い複眼が、暗がりの中で灯った。
白い光が収束する。
そこに立っていたのは――
黄金の戦士。
仮面ライダーアギト。
「……あの時の……」
千束が呆然と呟く。
たきなも息を整えながら、その姿を見つめる。
「……黄金の戦士……」
アギトは二人を一瞥した。
そして――
静かにUNKNOWNへ視線を向ける。
UNKNOWNもまた、アギトを見据える。
昼の路地。
人々の生活する街の片隅で――
異形の怪物と。
黄金の戦士が。
静かに対峙した。
アギトが、一歩踏み出す。
――ドン。
その足音が、戦いの始まりを告げる。