昼下がり。
DAからの緊急連絡を受け、千束とたきなは住宅街へ向かっていた。
「UNKNOWNの反応、ここで合ってる?」
「うん。ラジアータの情報では、この辺り」
二人が路地へ入った、その時だった。
「――いた」
たきなが足を止める。
路地の奥。
そこでは、すでに一体のUNKNOWNと――見慣れない存在が戦っていた。
「……誰?」
千束が目を細める。
そこに立っていたのは、全身を黒と銀の重厚な装甲で覆った人間だった。
頭部にはセンサーを備えたヘルメット。
胸部にはDAのエンブレム。
そして、その両手には――見慣れない大型の拳銃。
「……新型の装備?」
「みたいだね」
千束が耳元の通信機に触れる。
「店長、こんなの聞いてないよ?」
しばらくして、通信機からミカの声が返ってくる。
『……こちらも今、確認した』
「え?」
『G3システムだ。詳しい説明は後だ。今はUNKNOWNを止めろ』
「了解!」
千束が視線を戻す。
G3を装着した少女が、UNKNOWNへ銃口を向けていた。
胸元に刻まれた文字。
SECOND――
「……セカンドリコリス」
たきなが呟く。
その直後。
少女が引き金を引いた。
――ドンッ!!
大型拳銃から放たれた弾丸が、UNKNOWNの身体へ直撃する。
巨体が大きく揺れた。
「……効いてる!」
千束が目を見開く。
UNKNOWNが数歩後ろへ下がる。
だが――倒れない。
低く身を沈めると、すぐにG3へ向かって走り出した。
「来る!」
少女はもう一度引き金を引く。
――ドンッ! ドンッ!
弾丸がUNKNOWNを捉える。
その身体が再び後退する。
確かに効いている。
だが、決定打にはならない。
「下がって!」
たきなが叫ぶ。
少女は後退しようとした。
しかし――。
「……っ!」
G3の重い装甲が、少女の動きを鈍らせる。
一歩。
たった一歩の遅れ。
それだけで十分だった。
UNKNOWNが一気に距離を詰める。
腕が振り抜かれる。
――ガァンッ!!
「ぐっ……!」
G3の身体が吹き飛んだ。
地面を転がり、壁へ激突する。
「大丈夫!?」
千束が叫ぶ。
少女は立ち上がろうとする。
「まだ……やれる!」
再び拳銃を構える。
だが――。
照準が定まらない。
重い。
思った通りに腕が動かない。
引き金を引くタイミングも遅れる。
「……くっ!」
UNKNOWNが迫る。
少女は必死に銃口を向ける。
――ドンッ!!
命中。
UNKNOWNが一瞬だけ止まる。
「効いてる……!」
だが、その一瞬で十分だった。
UNKNOWNはさらに踏み込む。
拳がG3の胸部を直撃した。
――ズドンッ!!
「きゃあっ!」
少女の身体が再び吹き飛ぶ。
今度は立ち上がれない。
G3の装甲は衝撃に耐えていた。
しかし――装着者自身が、その性能についていけていなかった。
「……装備そのものじゃない」
たきなが冷静に状況を見る。
「操作に問題がある」
「うん……」
千束も頷く。
「装甲が重すぎて、動きが追いついてない」
UNKNOWNがゆっくりと二人へ振り向く。
「たきな」
「分かってる」
二人が拳銃を構える。
その瞬間だった。
――ドクン。
千束が振り返る。
「……え?」
路地の向こう。
眩い光が走った。
白い光。
その中心に、一人の男が立っていた。
腰には――オルタリング。
「……まさか」
光が弾ける。
銀色の装甲。
赤く輝く複眼。
そして――黄金の戦士。
「……あの時の」
たきなが呟く。
「黄金の戦士……」
G3の少女も、動けない身体のまま顔を上げた。
UNKNOWNが、アギトへ向き直る。
アギトは何も言わない。
ただ静かに構えた。
拳を握る。
一歩。
踏み出す。
UNKNOWNが襲いかかる。
アギトは横へ身体を滑らせた。
紙一重。
振り下ろされた腕をかわし、そのまま懐へ入る。
――ドンッ!!
拳がUNKNOWNの腹部へ突き刺さる。
巨体が後退する。
UNKNOWNが剣を召喚する。
黒い文字が手の甲を走り、頭上に黒い輪が浮かぶ。
そこから一本の剣が現れた。
UNKNOWNが斬りかかる。
アギトは身体を傾けてかわす。
続く二撃目。
三撃目。
それすらも、最小限の動きで避けていく。
「……速い」
G3の少女が呟く。
千束も銃を構えたまま動かない。
「……私たち、援護できないね」
「うん」
たきなも銃口を下げる。
「動きが速すぎる。撃てば、アギトに当たる」
アギトはUNKNOWNの攻撃を受け流し、反撃する。
拳。
蹴り。
そして、重い一撃。
UNKNOWNが大きく吹き飛ぶ。
だが、まだ立ち上がる。
アギトは静かにUNKNOWNを見据えた。
その身体が――光を帯びる。
オルタリングが輝く。
黄金の光が両脚へ集まっていく。
「……何をするの?」
千束が息を呑む。
アギトが跳んだ。
空中で身体を翻す。
右脚を前へ。
クラッシャーが展開する。
赤い複眼が強く輝いた。
そして――。
――ズドォォォン!!
アギトの蹴りがUNKNOWNを捉えた。
その瞬間。
UNKNOWNの頭上に、黄金の輪が浮かび上がる。
黄金の光が一気に広がった。
――ドォンッ!!
UNKNOWNの身体が、黄金の光の中へ消えていく。
静寂。
路地に、風だけが吹き抜けた。
アギトはゆっくりと着地する。
そして――。
何も言わず、その場を去っていった。
「……また、助けられた」
千束が小さく呟く。
たきなは答えず、倒れているG3へ駆け寄った。
「大丈夫?」
「……はい」
少女がゆっくりと身体を起こす。
装甲には傷が残っている。
だが、致命的な損傷はない。
少女は自分の両手を見る。
「……私には」
拳銃を握っていた手が、僅かに震えている。
「……扱い切れなかった」
たきなは何も言わず、G3を見つめた。
重厚な装甲。
UNKNOWNを怯ませるだけの火力。
そして――。
まだ引き出しきれていない性能。
「……たきな?」
千束が隣から声をかける。
「どうしたの?」
「……いえ」
たきなはG3から目を離さない。
「なんでもありません」
だが、その瞳には――。
ほんの僅かな興味が宿っていた。
この装甲なら。
この武器なら。
UNKNOWNと――戦える。
そんな予感だけが、静かに残っていた。