リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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G3 初陣

 昼下がり。

 

 DAからの緊急連絡を受け、千束とたきなは住宅街へ向かっていた。

 

「UNKNOWNの反応、ここで合ってる?」

 

「うん。ラジアータの情報では、この辺り」

 

 二人が路地へ入った、その時だった。

 

「――いた」

 

 たきなが足を止める。

 

 路地の奥。

 

 そこでは、すでに一体のUNKNOWNと――見慣れない存在が戦っていた。

 

「……誰?」

 

 千束が目を細める。

 

 そこに立っていたのは、全身を黒と銀の重厚な装甲で覆った人間だった。

 

 頭部にはセンサーを備えたヘルメット。

 

 胸部にはDAのエンブレム。

 

 そして、その両手には――見慣れない大型の拳銃。

 

「……新型の装備?」

 

「みたいだね」

 

 千束が耳元の通信機に触れる。

 

「店長、こんなの聞いてないよ?」

 

 しばらくして、通信機からミカの声が返ってくる。

 

『……こちらも今、確認した』

 

「え?」

 

『G3システムだ。詳しい説明は後だ。今はUNKNOWNを止めろ』

 

「了解!」

 

 千束が視線を戻す。

 

 G3を装着した少女が、UNKNOWNへ銃口を向けていた。

 

 胸元に刻まれた文字。

 

 SECOND――

 

「……セカンドリコリス」

 

 たきなが呟く。

 

 その直後。

 

 少女が引き金を引いた。

 

 ――ドンッ!!

 

 大型拳銃から放たれた弾丸が、UNKNOWNの身体へ直撃する。

 

 巨体が大きく揺れた。

 

「……効いてる!」

 

 千束が目を見開く。

 

 UNKNOWNが数歩後ろへ下がる。

 

 だが――倒れない。

 

 低く身を沈めると、すぐにG3へ向かって走り出した。

 

「来る!」

 

 少女はもう一度引き金を引く。

 

 ――ドンッ! ドンッ!

 

 弾丸がUNKNOWNを捉える。

 

 その身体が再び後退する。

 

 確かに効いている。

 

 だが、決定打にはならない。

 

「下がって!」

 

 たきなが叫ぶ。

 

 少女は後退しようとした。

 

 しかし――。

 

「……っ!」

 

 G3の重い装甲が、少女の動きを鈍らせる。

 

 一歩。

 

 たった一歩の遅れ。

 

 それだけで十分だった。

 

 UNKNOWNが一気に距離を詰める。

 

 腕が振り抜かれる。

 

 ――ガァンッ!!

 

「ぐっ……!」

 

 G3の身体が吹き飛んだ。

 

 地面を転がり、壁へ激突する。

 

「大丈夫!?」

 

 千束が叫ぶ。

 

 少女は立ち上がろうとする。

 

「まだ……やれる!」

 

 再び拳銃を構える。

 

 だが――。

 

 照準が定まらない。

 

 重い。

 

 思った通りに腕が動かない。

 

 引き金を引くタイミングも遅れる。

 

「……くっ!」

 

 UNKNOWNが迫る。

 

 少女は必死に銃口を向ける。

 

 ――ドンッ!!

 

 命中。

 

 UNKNOWNが一瞬だけ止まる。

 

「効いてる……!」

 

 だが、その一瞬で十分だった。

 

 UNKNOWNはさらに踏み込む。

 

 拳がG3の胸部を直撃した。

 

 ――ズドンッ!!

 

「きゃあっ!」

 

 少女の身体が再び吹き飛ぶ。

 

 今度は立ち上がれない。

 

 G3の装甲は衝撃に耐えていた。

 

 しかし――装着者自身が、その性能についていけていなかった。

 

「……装備そのものじゃない」

 

 たきなが冷静に状況を見る。

 

「操作に問題がある」

 

「うん……」

 

 千束も頷く。

 

「装甲が重すぎて、動きが追いついてない」

 

 UNKNOWNがゆっくりと二人へ振り向く。

 

「たきな」

 

「分かってる」

 

 二人が拳銃を構える。

 

 その瞬間だった。

 

 ――ドクン。

 

 千束が振り返る。

 

「……え?」

 

 路地の向こう。

 

 眩い光が走った。

 

 白い光。

 

 その中心に、一人の男が立っていた。

 

 腰には――オルタリング。

 

「……まさか」

 

 光が弾ける。

 

 銀色の装甲。

 

 赤く輝く複眼。

 

 そして――黄金の戦士。

 

「……あの時の」

 

 たきなが呟く。

 

「黄金の戦士……」

 

 G3の少女も、動けない身体のまま顔を上げた。

 

 UNKNOWNが、アギトへ向き直る。

 

 アギトは何も言わない。

 

 ただ静かに構えた。

 

 拳を握る。

 

 一歩。

 

 踏み出す。

 

 UNKNOWNが襲いかかる。

 

 アギトは横へ身体を滑らせた。

 

 紙一重。

 

 振り下ろされた腕をかわし、そのまま懐へ入る。

 

 ――ドンッ!!

 

 拳がUNKNOWNの腹部へ突き刺さる。

 

 巨体が後退する。

 

 UNKNOWNが剣を召喚する。

 

 黒い文字が手の甲を走り、頭上に黒い輪が浮かぶ。

 

 そこから一本の剣が現れた。

 

 UNKNOWNが斬りかかる。

 

 アギトは身体を傾けてかわす。

 

 続く二撃目。

 

 三撃目。

 

 それすらも、最小限の動きで避けていく。

 

「……速い」

 

 G3の少女が呟く。

 

 千束も銃を構えたまま動かない。

 

「……私たち、援護できないね」

 

「うん」

 

 たきなも銃口を下げる。

 

「動きが速すぎる。撃てば、アギトに当たる」

 

 アギトはUNKNOWNの攻撃を受け流し、反撃する。

 

 拳。

 

 蹴り。

 

 そして、重い一撃。

 

 UNKNOWNが大きく吹き飛ぶ。

 

 だが、まだ立ち上がる。

 

 アギトは静かにUNKNOWNを見据えた。

 

 その身体が――光を帯びる。

 

 オルタリングが輝く。

 

 黄金の光が両脚へ集まっていく。

 

「……何をするの?」

 

 千束が息を呑む。

 

 アギトが跳んだ。

 

 空中で身体を翻す。

 

 右脚を前へ。

 

 クラッシャーが展開する。

 

 赤い複眼が強く輝いた。

 

 そして――。

 

 ――ズドォォォン!!

 

 アギトの蹴りがUNKNOWNを捉えた。

 

 その瞬間。

 

 UNKNOWNの頭上に、黄金の輪が浮かび上がる。

 

 黄金の光が一気に広がった。

 

 ――ドォンッ!!

 

 UNKNOWNの身体が、黄金の光の中へ消えていく。

 

 静寂。

 

 路地に、風だけが吹き抜けた。

 

 アギトはゆっくりと着地する。

 

 そして――。

 

 何も言わず、その場を去っていった。

 

「……また、助けられた」

 

 千束が小さく呟く。

 

 たきなは答えず、倒れているG3へ駆け寄った。

 

「大丈夫?」

 

「……はい」

 

 少女がゆっくりと身体を起こす。

 

 装甲には傷が残っている。

 

 だが、致命的な損傷はない。

 

 少女は自分の両手を見る。

 

「……私には」

 

 拳銃を握っていた手が、僅かに震えている。

 

「……扱い切れなかった」

 

 たきなは何も言わず、G3を見つめた。

 

 重厚な装甲。

 

 UNKNOWNを怯ませるだけの火力。

 

 そして――。

 

 まだ引き出しきれていない性能。

 

「……たきな?」

 

 千束が隣から声をかける。

 

「どうしたの?」

 

「……いえ」

 

 たきなはG3から目を離さない。

 

「なんでもありません」

 

 だが、その瞳には――。

 

 ほんの僅かな興味が宿っていた。

 

 この装甲なら。

 

 この武器なら。

 

 UNKNOWNと――戦える。

 

 そんな予感だけが、静かに残っていた。

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