夜の市街地。
黄金の戦士――アギトと、異形の怪物――UNKNOWNが向かい合っていた。
互いに一歩も動かない。
静寂。
そして――。
UNKNOWNが動いた。
「――来る!」
千束が叫ぶ。
UNKNOWNが地面を蹴る。
アギトも同時に踏み込んだ。
ドォンッ!!
二つの巨体が激突する。
拳と拳。
衝撃だけで、周囲の空気が震えた。
「……速い」
たきなが目を細める。
アギトはUNKNOWNの攻撃を真正面から受け止めるのではない。
最小限の動きでかわし、相手の懐へ入り込む。
無駄がない。
まるで長年、同じ敵と戦い続けてきたかのような、正確な動きだった。
「たきな、援護する?」
「……無理です」
たきなが答える。
「二人とも速すぎます。今撃てば、アギトに当たる可能性があります」
「だよね」
千束も銃を下ろす。
今の二人にできるのは――見守ることだけだった。
アギトがUNKNOWNの拳をかわす。
そのまま腕を掴み、身体を捻る。
ドォンッ!!
UNKNOWNの巨体が地面へ叩きつけられた。
「すご……」
千束が思わず呟く。
しかし、UNKNOWNはすぐに起き上がる。
その身体には、僅かに傷が刻まれていた。
それでも――まだ戦える。
「……しぶといですね」
たきなが呟く。
UNKNOWNがアギトを睨む。
「――グルァ……」
異形の声。
その瞬間。
アギトの中に、言葉の意味が流れ込んできた。
――力を持つ者。
――異端。
――排除する。
「……」
アギトは黙ってUNKNOWNを見つめる。
その意味を理解している。
UNKNOWNは、自分を狙っている。
そして――。
その視線が、アギトの後ろへ向いた。
千束とたきな。
「……!」
アギトの視線が鋭くなる。
UNKNOWNが突然、二人へ向かって走り出した。
「えっ!?」
千束が驚く。
「千束!」
たきなが構える。
しかし――。
UNKNOWNが二人へ到達するより早く。
アギトがその前へ滑り込んだ。
ドォンッ!!
UNKNOWNの拳を、アギトが片腕で受け止める。
「……!」
千束が目を見開く。
アギトは振り返らない。
ただ、二人の前に立っている。
「……助けてくれた?」
千束が呟く。
たきなも理解する。
「……やはり私たちを守ったんですね」
アギトは何も答えない。
UNKNOWNを押し返す。
そして――。
たきなが手元に残されたG3の武器を握り直した。
「……」
視線を戦場へ戻す。
アギトが攻撃。
UNKNOWNが後退。
だが、決定的な隙がない。
「……一発だけ」
たきなが呟く。
G3の武器は、本来ならG3システムの制御と装甲によって反動を抑えながら、連射することができる。
しかし今、たきなが持っているのは武器だけ。
生身で扱えば――反動は凄まじい。
一発撃つだけでも、腕が痺れるほどだった。
だからこそ。
撃つタイミングを選ぶ。
「……千束」
「なに?」
「少しだけ、隙を作れますか?」
「もちろん!」
千束が走り出す。
「任せて!」
千束がUNKNOWNの側面へ回り込む。
UNKNOWNが一瞬、千束へ視線を向けた。
その瞬間。
アギトが踏み込む。
ドォンッ!!
拳がUNKNOWNの腹部へ叩き込まれる。
UNKNOWNが後退。
身体が僅かに浮く。
「――今」
たきなが構える。
照準。
呼吸。
そして――。
「撃ちます」
ズドンッ!!
凄まじい反動。
たきなの腕が大きく跳ね上がる。
「――っ!」
腕に痺れが走る。
それでも、たきなは踏みとどまった。
弾丸は正確にUNKNOWNを捉える。
ドォンッ!!
UNKNOWNの巨体が大きく吹き飛んだ。
「今の一発……!」
千束が驚く。
たきなは痺れる腕を押さえながら、静かに息を吐いた。
「……やっぱり」
「何が?」
「この武器……私には使いやすいです」
千束が目を丸くする。
「え?」
「反動は強いです」
たきなが武器を見る。
「ですが、反動の癖が分かりやすい」
たきなはもう一度、構える。
「G3として装備すれば、これを連射できるんですよね」
「そういうことだね」
千束が答える。
たきなは武器を見つめる。
重い。
反動も強烈。
生身では、一発ずつ狙う必要がある。
それでも――。
「……私には、合っている気がします」
その感覚だけは、はっきりしていた。
「一発で十分です」
UNKNOWNが再び立ち上がる。
「まだです!」
たきなが叫ぶ。
アギトがUNKNOWNへ向かって走る。
黄金の光が両脚へ集まっていく。
足元に巨大な紋章が浮かび上がった。
光が収束する。
クラッシャーが展開する。
赤い複眼が輝く。
「……あれ」
千束が息を呑む。
「来るよ」
アギトが跳ぶ。
身体が空中で翻る。
右脚が前へ伸びる。
黄金の光が、夜の街を照らした。
そして――。
ライダーキック。
――ドォンッ!!
UNKNOWNへ直撃。
頭上に黄金の輪が浮かび上がる。
光が一気に広がった。
UNKNOWNの身体が黄金の光に包まれる。
次の瞬間――。
ドォォォンッ!!
黄金の爆発。
UNKNOWNは完全に消滅した。
静寂が戻る。
アギトはゆっくりと着地する。
そして、千束とたきなを見る。
「……」
千束が小さく笑った。
「やっぱり、助けてくれたんだね」
アギトは答えない。
ただ二人を一度だけ見つめる。
そして――。
黄金の光を残しながら、夜の闇へ消えていった。
「……行っちゃいましたね」
「うん」
たきなが手元のG3の武器を見る。
そこへ、G3を装着していたセカンドリコリスが近づいてきた。
「その武器……」
たきなが振り返る。
「すみません。勝手に使いました」
「いえ……」
セカンドリコリスは首を横に振る。
そして、不思議そうにたきなの手元を見る。
「……どうでした?」
「反動は強烈でした」
「ですよね……」
「ですが」
たきなが武器を見つめる。
「扱いやすかったです」
「……え?」
セカンドリコリスが目を丸くする。
「この武器は、G3の装備と組み合わせて使うことで、本来の性能を発揮するんですよね」
「はい」
「生身では連射できません」
たきなは自分の腕を見る。
まだ痺れが残っている。
「ですが、一発に集中するなら問題ありません」
武器を返す。
「私には、その方が合っています」
セカンドリコリスは何も言えなかった。
千束が横から笑う。
「たきな、G3向いてるんじゃない?」
「……そうかもしれません」
たきなは何気なく答えた。
だが、その言葉を聞いた瞬間。
セカンドリコリスは少しだけ驚いた顔をした。
「……ありがとうございました」
「こちらこそ」
たきなは武器から手を離す。
その時。
耳元の通信機から声が入った。
『――たきな』
「……楠木司令?」
『今の武器の使用感について、詳しく報告しろ』
「了解しました」
『反動、重量、照準時の感覚。全てだ』
「はい」
通信が切れる。
たきなが武器を見る。
千束が隣から覗き込む。
「なんか、気に入られちゃったね」
「そうでしょうか」
「うん。絶対そうだよ」
たきなは少しだけ首を傾げた。
「……よく分かりません」
「たきならしいや」
二人は笑う。
しかし――。
その頃。
DA本部では。
たきなの射撃データが、モニターに表示されていた。
「……反動の大きいG3用武器を、初使用でここまで扱うか」
楠木司令が記録を見つめる。
隣にいたオペレーターも驚いていた。
「通常のセカンドリコリスでは、あの反動に対応するのは難しいはずです」
楠木司令は黙って画面を見る。
そこには、たきなの射撃記録。
命中率。
姿勢。
反動からの復帰時間。
そして――。
異常なまでに安定した一発目の精度。
「……」
楠木司令が小さく呟く。
「G3の適合者が……」
一拍。
「見つかったかもしれんな」
モニターには、たきなの姿が映っていた。