リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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G3の適合者

 

 

 夜の市街地。

 

 黄金の戦士――アギトと、異形の怪物――UNKNOWNが向かい合っていた。

 

 互いに一歩も動かない。

 

 静寂。

 

 そして――。

 

 UNKNOWNが動いた。

 

「――来る!」

 

 千束が叫ぶ。

 

 UNKNOWNが地面を蹴る。

 

 アギトも同時に踏み込んだ。

 

 ドォンッ!!

 

 二つの巨体が激突する。

 

 拳と拳。

 

 衝撃だけで、周囲の空気が震えた。

 

「……速い」

 

 たきなが目を細める。

 

 アギトはUNKNOWNの攻撃を真正面から受け止めるのではない。

 

 最小限の動きでかわし、相手の懐へ入り込む。

 

 無駄がない。

 

 まるで長年、同じ敵と戦い続けてきたかのような、正確な動きだった。

 

「たきな、援護する?」

 

「……無理です」

 

 たきなが答える。

 

「二人とも速すぎます。今撃てば、アギトに当たる可能性があります」

 

「だよね」

 

 千束も銃を下ろす。

 

 今の二人にできるのは――見守ることだけだった。

 

 アギトがUNKNOWNの拳をかわす。

 

 そのまま腕を掴み、身体を捻る。

 

 ドォンッ!!

 

 UNKNOWNの巨体が地面へ叩きつけられた。

 

「すご……」

 

 千束が思わず呟く。

 

 しかし、UNKNOWNはすぐに起き上がる。

 

 その身体には、僅かに傷が刻まれていた。

 

 それでも――まだ戦える。

 

「……しぶといですね」

 

 たきなが呟く。

 

 UNKNOWNがアギトを睨む。

 

「――グルァ……」

 

 異形の声。

 

 その瞬間。

 

 アギトの中に、言葉の意味が流れ込んできた。

 

 ――力を持つ者。

 

 ――異端。

 

 ――排除する。

 

「……」

 

 アギトは黙ってUNKNOWNを見つめる。

 

 その意味を理解している。

 

 UNKNOWNは、自分を狙っている。

 

 そして――。

 

 その視線が、アギトの後ろへ向いた。

 

 千束とたきな。

 

「……!」

 

 アギトの視線が鋭くなる。

 

 UNKNOWNが突然、二人へ向かって走り出した。

 

「えっ!?」

 

 千束が驚く。

 

「千束!」

 

 たきなが構える。

 

 しかし――。

 

 UNKNOWNが二人へ到達するより早く。

 

 アギトがその前へ滑り込んだ。

 

 ドォンッ!!

 

 UNKNOWNの拳を、アギトが片腕で受け止める。

 

「……!」

 

 千束が目を見開く。

 

 アギトは振り返らない。

 

 ただ、二人の前に立っている。

 

「……助けてくれた?」

 

 千束が呟く。

 

 たきなも理解する。

 

「……やはり私たちを守ったんですね」

 

 アギトは何も答えない。

 

 UNKNOWNを押し返す。

 

 そして――。

 

 たきなが手元に残されたG3の武器を握り直した。

 

「……」

 

 視線を戦場へ戻す。

 

 アギトが攻撃。

 

 UNKNOWNが後退。

 

 だが、決定的な隙がない。

 

「……一発だけ」

 

 たきなが呟く。

 

 G3の武器は、本来ならG3システムの制御と装甲によって反動を抑えながら、連射することができる。

 

 しかし今、たきなが持っているのは武器だけ。

 

 生身で扱えば――反動は凄まじい。

 

 一発撃つだけでも、腕が痺れるほどだった。

 

 だからこそ。

 

 撃つタイミングを選ぶ。

 

「……千束」

 

「なに?」

 

「少しだけ、隙を作れますか?」

 

「もちろん!」

 

 千束が走り出す。

 

「任せて!」

 

 千束がUNKNOWNの側面へ回り込む。

 

 UNKNOWNが一瞬、千束へ視線を向けた。

 

 その瞬間。

 

 アギトが踏み込む。

 

 ドォンッ!!

 

 拳がUNKNOWNの腹部へ叩き込まれる。

 

 UNKNOWNが後退。

 

 身体が僅かに浮く。

 

「――今」

 

 たきなが構える。

 

 照準。

 

 呼吸。

 

 そして――。

 

「撃ちます」

 

 ズドンッ!!

 

 凄まじい反動。

 

 たきなの腕が大きく跳ね上がる。

 

「――っ!」

 

 腕に痺れが走る。

 

 それでも、たきなは踏みとどまった。

 

 弾丸は正確にUNKNOWNを捉える。

 

 ドォンッ!!

 

 UNKNOWNの巨体が大きく吹き飛んだ。

 

「今の一発……!」

 

 千束が驚く。

 

 たきなは痺れる腕を押さえながら、静かに息を吐いた。

 

「……やっぱり」

 

「何が?」

 

「この武器……私には使いやすいです」

 

 千束が目を丸くする。

 

「え?」

 

「反動は強いです」

 

 たきなが武器を見る。

 

「ですが、反動の癖が分かりやすい」

 

 たきなはもう一度、構える。

 

「G3として装備すれば、これを連射できるんですよね」

 

「そういうことだね」

 

 千束が答える。

 

 たきなは武器を見つめる。

 

 重い。

 

 反動も強烈。

 

 生身では、一発ずつ狙う必要がある。

 

 それでも――。

 

「……私には、合っている気がします」

 

 その感覚だけは、はっきりしていた。

 

「一発で十分です」

 

 UNKNOWNが再び立ち上がる。

 

「まだです!」

 

 たきなが叫ぶ。

 

 アギトがUNKNOWNへ向かって走る。

 

 黄金の光が両脚へ集まっていく。

 

 足元に巨大な紋章が浮かび上がった。

 

 光が収束する。

 

 クラッシャーが展開する。

 

 赤い複眼が輝く。

 

「……あれ」

 

 千束が息を呑む。

 

「来るよ」

 

 アギトが跳ぶ。

 

 身体が空中で翻る。

 

 右脚が前へ伸びる。

 

 黄金の光が、夜の街を照らした。

 

 そして――。

 

 ライダーキック。

 

 ――ドォンッ!!

 

 UNKNOWNへ直撃。

 

 頭上に黄金の輪が浮かび上がる。

 

 光が一気に広がった。

 

 UNKNOWNの身体が黄金の光に包まれる。

 

 次の瞬間――。

 

 ドォォォンッ!!

 

 黄金の爆発。

 

 UNKNOWNは完全に消滅した。

 

 静寂が戻る。

 

 アギトはゆっくりと着地する。

 

 そして、千束とたきなを見る。

 

「……」

 

 千束が小さく笑った。

 

「やっぱり、助けてくれたんだね」

 

 アギトは答えない。

 

 ただ二人を一度だけ見つめる。

 

 そして――。

 

 黄金の光を残しながら、夜の闇へ消えていった。

 

「……行っちゃいましたね」

 

「うん」

 

 たきなが手元のG3の武器を見る。

 

 そこへ、G3を装着していたセカンドリコリスが近づいてきた。

 

「その武器……」

 

 たきなが振り返る。

 

「すみません。勝手に使いました」

 

「いえ……」

 

 セカンドリコリスは首を横に振る。

 

 そして、不思議そうにたきなの手元を見る。

 

「……どうでした?」

 

「反動は強烈でした」

 

「ですよね……」

 

「ですが」

 

 たきなが武器を見つめる。

 

「扱いやすかったです」

 

「……え?」

 

 セカンドリコリスが目を丸くする。

 

「この武器は、G3の装備と組み合わせて使うことで、本来の性能を発揮するんですよね」

 

「はい」

 

「生身では連射できません」

 

 たきなは自分の腕を見る。

 

 まだ痺れが残っている。

 

「ですが、一発に集中するなら問題ありません」

 

 武器を返す。

 

「私には、その方が合っています」

 

 セカンドリコリスは何も言えなかった。

 

 千束が横から笑う。

 

「たきな、G3向いてるんじゃない?」

 

「……そうかもしれません」

 

 たきなは何気なく答えた。

 

 だが、その言葉を聞いた瞬間。

 

 セカンドリコリスは少しだけ驚いた顔をした。

 

「……ありがとうございました」

 

「こちらこそ」

 

 たきなは武器から手を離す。

 

 その時。

 

 耳元の通信機から声が入った。

 

『――たきな』

 

「……楠木司令?」

 

『今の武器の使用感について、詳しく報告しろ』

 

「了解しました」

 

『反動、重量、照準時の感覚。全てだ』

 

「はい」

 

 通信が切れる。

 

 たきなが武器を見る。

 

 千束が隣から覗き込む。

 

「なんか、気に入られちゃったね」

 

「そうでしょうか」

 

「うん。絶対そうだよ」

 

 たきなは少しだけ首を傾げた。

 

「……よく分かりません」

 

「たきならしいや」

 

 二人は笑う。

 

 しかし――。

 

 その頃。

 

 DA本部では。

 

 たきなの射撃データが、モニターに表示されていた。

 

「……反動の大きいG3用武器を、初使用でここまで扱うか」

 

 楠木司令が記録を見つめる。

 

 隣にいたオペレーターも驚いていた。

 

「通常のセカンドリコリスでは、あの反動に対応するのは難しいはずです」

 

 楠木司令は黙って画面を見る。

 

 そこには、たきなの射撃記録。

 

 命中率。

 

 姿勢。

 

 反動からの復帰時間。

 

 そして――。

 

 異常なまでに安定した一発目の精度。

 

「……」

 

 楠木司令が小さく呟く。

 

「G3の適合者が……」

 

 一拍。

 

「見つかったかもしれんな」

 

 モニターには、たきなの姿が映っていた。

 

 

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