早く戦いが書きたい。
喫茶リコリコ。
店内に緊張が走っていた。
クルミのノートパソコンには、親子を追跡するドローンの映像が映っている。
父親と少女。
二人はまだ何も知らずに歩いていた。
「こちらミカだ。」
『どうした』
楠木司令の声。
短く、低い。
「先ほど、店に親子連れの客が来た」
『親子?』
「父親と、その娘だ」
ミカは淡々と続ける。
「娘に、特殊な能力と思われる現象を確認した」
『……具体的に』
「人形を動かした」
短い沈黙。
『人形を?』
「ああ」
ミカは続ける。
「少女が命令すると、人形が自ら動いた」
『……』
「これまでのUNKNOWNの行動と照らし合わせると、ある仮説が考えられる」
ミカの声が低くなる。
「UNKNOWNは、超能力を持つ人間を狙っている可能性がある」
電話の向こうから、しばらく返事がなかった。
やがて。
『……その仮説を裏付ける材料は?』
「これまでの犠牲者に確認された異常現象。」
『なるほど…いいだろう。仮説にしては見過ごせん内容だ。護衛任務を依頼する。」
楠木は短く答えた。
『錦木千束と中原ミズキ以上2名は車で移動しろ』
「私とミズキ?」
『ああ。親子から少し距離を取って追跡する。接近しすぎるな』
「了解」
千束が頷く。
楠木は続ける。
『井ノ上たきな、お前は別行動だ』
「私が?」
『DAが用意した移動基地へ向かえ』
「移動基地……?」
『大型トレーラーに偽装している。中にG3を準備してある』
たきなの表情が変わった。
「……G3を装備しろ、ということですね」
『そうだ』
即答だった。
『UNKNOWNが出現した場合、状況に応じて投入する』
「了解しました」
『千束、たきな』
「「はい!」」
『今回の任務は、親子の護衛を最優先とする』
一拍。
『UNKNOWNを確認した場合も、親子を巻き込まずいつも通り迅速に対応しろ』
「分かりました」
千束が答える。
『以上だ』
通話が切れた。
ミカが携帯を下ろす。
「……聞いた通りだ」
「うん」
千束が頷く。
「ミズキ、車お願い」
「任せなさい」
ミズキが車のキーを取り出す。
「車持ってくるから支度しなさい」
「頼りになるぅ」
「そういうのいいからさっさとしなさい千束。」
「はーい」
千束が立ち上がる。
たきなも準備を始めた。
「私は先に移動します」
「たきな、気をつけて」
「千束も」
二人は短く視線を交わす。
そして、それぞれの任務へ向かった。
◆
少し離れた駐車場。
ミズキが車のエンジンをかける。
そしてリコリコの前まで移動したらすでに千束が待っていた。
「乗って」
「はいはーい」
千束が助手席へ乗り込む。
「シートベルト」
「してるよ」
「よし」
車が静かに走り出す。
少し前方。
歩道を歩く父親と少女が見える。
さらに距離を取った場所を、車がゆっくりと追従する。
「……あの二人」
千束が前方を見る。
前方で、少女が父親に何かを話している。
父親が笑っている。
その光景は、とても平和だった。
「……守ってあげたいね」
「ええ」
ミズキはハンドルを握る。
「せっかく、あんなに楽しそうにしてるんだもの」
千束は前方を見つめる。
「うん」
◆
同じ頃。
街の一角。
一台の大型トレーラーが停車していた。
外から見れば、ただの運送会社の車両。
だが――。
後部ハッチが開く。
「入ってください」
DAの隊員が、たきなを中へ案内する。
「……」
たきなが中へ入る。
広い車内。
壁には複数のモニター。
通信設備。
武器ラック。
そして――。
「G3……」
中央に、装備一式が待機していた。
装甲。
ヘルメット。
大型火器。
拳銃型の装備。
そして、G3システムを制御するための各種機器。
『たきな、聞こえるか』
通信機から楠木司令の声。
「はい。聞こえています」
『G3を装備しろ』
「了解」
たきなはG3の前に立つ。
まず、装甲を手に取る。
腕。
脚。
胸部。
一つずつ確実に装着していく。
金属同士が噛み合う音が、車内に響く。
――ガチャッ。
――カチッ。
胸部装甲を固定。
腕部装甲を装着。
脚部を固定。
最後にヘルメットを手に取る。
「……」
たきなは一度、目を閉じた。
そして。
ヘルメットを装着する。
視界が切り替わる。
HUDが起動。
各種情報が表示される。
『G3システム、起動』
機械音声。
たきなは銃を手に取る。
重量が腕へ伝わる。
「……問題ありません」
『戦闘待機』
「了解」
たきなが銃を腰に付けその場に立つ。
「G3、待機に入ります」
その姿は、もう先ほどまでの少女とは違っていた。
巨大な装甲を身にまとった戦士。
UNKNOWNと戦うための、DAの切り札の一つ。
◆
その頃。
ミズキの車。
「……」
千束が窓の外を見る。
親子はまだ無事だ。
UNKNOWNの姿は見えない。
だが――。
『千束』
イヤホンからクルミの声が入る。
「クルミ?」
『ドローンから見てる。今のところ、親子に接近するUNKNOWNは確認できない』
「そっか」
クルミはノートパソコンの画面を見つめていた。
彼女の画面には、街を移動する親子と、その周辺を追う複数の映像が映っている。
その情報を、DA側はクルミの正体を知らないまま受け取っていた。
『僕が引き続き見てる』
「お願い、クルミ」
『任せろ』
通信が切れる。
「……ミズキ」
「分かってる」
ミズキはアクセルをわずかに踏み込む。
それでも、親子との距離は保ったまま。
近づきすぎない。
気づかせない。
それが今回の任務だった。
◆
前方。
少女が突然、足を止めた。
「……お父さん」
「ん?」
「今……」
少女が後ろを見る。
「どうした?」
「……誰かに見られてる気がする」
父親が振り返る。
だが。そこには普通の街並みしかない。
「気のせいじゃないか?」
「……そうかな」
「大丈夫だよ」
父親が少女の頭を優しく撫でる。
「お父さんがいるから」
「……うん」
少女が笑う。
その様子を、少し離れた車内から千束とミズキが見ていた。
「……」
千束は胸の奥で、何かを感じていた。
まだ見えない。
けれど――。
確実に近づいている。
その瞬間。
クルミの声が響いた。
『千束』
「うん」
『反応、出た』
千束の表情が変わる。
『親子の進行方向。約三百メートル先』
「UNKNOWN?」
『……たぶん』
千束は銃を手に取った。
「ミズキ」
「分かってるわ」
車が、静かに速度を上げる。
同時刻。
移動基地の中でも、警報が鳴った。
――ピッ。
G3のモニターに反応が表示される。
『UNKNOWN反応を確認』
「……来ましたね」
たきなが立ち上がる。
G3の装甲が、わずかに軋む。
『たきな』
楠木司令の声。
『出るぞ』
「了解」
たきなは大型トレーラーの後部ハッチを見る。
その向こうには、街が広がっている。
そして。
その街のどこかで。
一人の少女が――。
自分の中に眠る力を知らないまま、UNKNOWNに狙われていた。
車で追う千束とミズキ。
移動基地でG3を装備したたきな。
そして。
少女へ迫るUNKNOWN。
それぞれの戦いが――
今、始まろうとしていた。