リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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早く戦いが書きたい。




護衛任務

 

 喫茶リコリコ。

 

 店内に緊張が走っていた。

 

 クルミのノートパソコンには、親子を追跡するドローンの映像が映っている。

 

 父親と少女。

 

 二人はまだ何も知らずに歩いていた。

 

「こちらミカだ。」

 

『どうした』

 

 楠木司令の声。

 

 短く、低い。

 

「先ほど、店に親子連れの客が来た」

 

『親子?』

 

「父親と、その娘だ」

 

 ミカは淡々と続ける。

 

「娘に、特殊な能力と思われる現象を確認した」

 

『……具体的に』

 

「人形を動かした」

 

 短い沈黙。

 

『人形を?』

 

「ああ」

 

 ミカは続ける。

 

「少女が命令すると、人形が自ら動いた」

 

『……』

 

「これまでのUNKNOWNの行動と照らし合わせると、ある仮説が考えられる」

 

 ミカの声が低くなる。

 

「UNKNOWNは、超能力を持つ人間を狙っている可能性がある」

 

 電話の向こうから、しばらく返事がなかった。

 

 やがて。

 

『……その仮説を裏付ける材料は?』

 

「これまでの犠牲者に確認された異常現象。」

 

『なるほど…いいだろう。仮説にしては見過ごせん内容だ。護衛任務を依頼する。」

 

 楠木は短く答えた。

 

『錦木千束と中原ミズキ以上2名は車で移動しろ』

 

「私とミズキ?」

 

『ああ。親子から少し距離を取って追跡する。接近しすぎるな』

 

「了解」

 

 千束が頷く。

 

 楠木は続ける。

 

『井ノ上たきな、お前は別行動だ』

 

「私が?」

 

『DAが用意した移動基地へ向かえ』

 

「移動基地……?」

 

『大型トレーラーに偽装している。中にG3を準備してある』

 

 たきなの表情が変わった。

 

「……G3を装備しろ、ということですね」

 

『そうだ』

 

 即答だった。

 

『UNKNOWNが出現した場合、状況に応じて投入する』

 

「了解しました」

 

『千束、たきな』

 

「「はい!」」

 

『今回の任務は、親子の護衛を最優先とする』

 

 一拍。

 

『UNKNOWNを確認した場合も、親子を巻き込まずいつも通り迅速に対応しろ』

 

「分かりました」

 

 千束が答える。

 

『以上だ』

 

 通話が切れた。

 

 ミカが携帯を下ろす。

 

「……聞いた通りだ」

 

「うん」

 

 千束が頷く。

 

「ミズキ、車お願い」

 

「任せなさい」

 

 ミズキが車のキーを取り出す。

 

「車持ってくるから支度しなさい」

 

「頼りになるぅ」

 

「そういうのいいからさっさとしなさい千束。」

 

「はーい」

 

 千束が立ち上がる。

 

 たきなも準備を始めた。

 

「私は先に移動します」

 

「たきな、気をつけて」

 

「千束も」

 

 二人は短く視線を交わす。

 

 そして、それぞれの任務へ向かった。

 

 ◆

 

 少し離れた駐車場。

 

 ミズキが車のエンジンをかける。

 

そしてリコリコの前まで移動したらすでに千束が待っていた。

 

「乗って」

 

「はいはーい」

 

 千束が助手席へ乗り込む。

 

「シートベルト」

 

「してるよ」

 

「よし」

 

 車が静かに走り出す。

 

 少し前方。

 

 歩道を歩く父親と少女が見える。

 

 さらに距離を取った場所を、車がゆっくりと追従する。

 

「……あの二人」

 

 千束が前方を見る。

 

 前方で、少女が父親に何かを話している。

 

 父親が笑っている。

 

 その光景は、とても平和だった。

 

「……守ってあげたいね」

 

「ええ」

 

 ミズキはハンドルを握る。

 

「せっかく、あんなに楽しそうにしてるんだもの」

 

 千束は前方を見つめる。

 

「うん」

 

 ◆

 

 同じ頃。

 

 街の一角。

 

 一台の大型トレーラーが停車していた。

 

 外から見れば、ただの運送会社の車両。

 

 だが――。

 

 後部ハッチが開く。

 

「入ってください」

 

 DAの隊員が、たきなを中へ案内する。

 

「……」

 

 たきなが中へ入る。

 

 広い車内。

 

 壁には複数のモニター。

 

 通信設備。

 

 武器ラック。

 

 そして――。

 

「G3……」

 

 中央に、装備一式が待機していた。

 

 装甲。

 

 ヘルメット。

 

 大型火器。

 

 拳銃型の装備。

 

 そして、G3システムを制御するための各種機器。

 

『たきな、聞こえるか』

 

 通信機から楠木司令の声。

 

「はい。聞こえています」

 

『G3を装備しろ』

 

「了解」

 

 たきなはG3の前に立つ。

 

 まず、装甲を手に取る。

 

 腕。

 

 脚。

 

 胸部。

 

 一つずつ確実に装着していく。

 

 金属同士が噛み合う音が、車内に響く。

 

 ――ガチャッ。

 

 ――カチッ。

 

 胸部装甲を固定。

 

 腕部装甲を装着。

 

 脚部を固定。

 

 最後にヘルメットを手に取る。

 

「……」

 

 たきなは一度、目を閉じた。

 

 そして。

 

 ヘルメットを装着する。

 

 視界が切り替わる。

 

 HUDが起動。

 

 各種情報が表示される。

 

『G3システム、起動』

 

 機械音声。

 

 たきなは銃を手に取る。

 

 重量が腕へ伝わる。

 

「……問題ありません」

 

『戦闘待機』

 

「了解」

 

 たきなが銃を腰に付けその場に立つ。

 

「G3、待機に入ります」

 

 その姿は、もう先ほどまでの少女とは違っていた。

 

 巨大な装甲を身にまとった戦士。

 

 UNKNOWNと戦うための、DAの切り札の一つ。

 

 ◆

 

 その頃。

 

 ミズキの車。

 

「……」

 

 千束が窓の外を見る。

 

 親子はまだ無事だ。

 

 UNKNOWNの姿は見えない。

 

 だが――。

 

『千束』

 

 イヤホンからクルミの声が入る。

 

「クルミ?」

 

『ドローンから見てる。今のところ、親子に接近するUNKNOWNは確認できない』

 

「そっか」

 

 クルミはノートパソコンの画面を見つめていた。

 

 彼女の画面には、街を移動する親子と、その周辺を追う複数の映像が映っている。

 

 その情報を、DA側はクルミの正体を知らないまま受け取っていた。

 

『僕が引き続き見てる』

 

「お願い、クルミ」

 

『任せろ』

 

 通信が切れる。

 

「……ミズキ」

 

「分かってる」

 

 ミズキはアクセルをわずかに踏み込む。

 

 それでも、親子との距離は保ったまま。

 

 近づきすぎない。

 

 気づかせない。

 

 それが今回の任務だった。

 

 ◆

 

 前方。

 

 少女が突然、足を止めた。

 

「……お父さん」

 

「ん?」

 

「今……」

 

 少女が後ろを見る。

 

「どうした?」

 

「……誰かに見られてる気がする」

 

 父親が振り返る。

 

 だが。そこには普通の街並みしかない。

 

「気のせいじゃないか?」

 

「……そうかな」

 

「大丈夫だよ」

 

 父親が少女の頭を優しく撫でる。

 

「お父さんがいるから」

 

「……うん」

 

 少女が笑う。

 

 その様子を、少し離れた車内から千束とミズキが見ていた。

 

「……」

 

 千束は胸の奥で、何かを感じていた。

 

 まだ見えない。

 

 けれど――。

 

 確実に近づいている。

 

 その瞬間。

 

 クルミの声が響いた。

 

『千束』

 

「うん」

 

『反応、出た』

 

 千束の表情が変わる。

 

『親子の進行方向。約三百メートル先』

 

「UNKNOWN?」

 

『……たぶん』

 

 千束は銃を手に取った。

 

「ミズキ」

 

「分かってるわ」

 

 車が、静かに速度を上げる。

 

 同時刻。

 

 移動基地の中でも、警報が鳴った。

 

 ――ピッ。

 

 G3のモニターに反応が表示される。

 

『UNKNOWN反応を確認』

 

「……来ましたね」

 

 たきなが立ち上がる。

 

 G3の装甲が、わずかに軋む。

 

『たきな』

 

 楠木司令の声。

 

『出るぞ』

 

「了解」

 

 たきなは大型トレーラーの後部ハッチを見る。

 

 その向こうには、街が広がっている。

 

 そして。

 

 その街のどこかで。

 

 一人の少女が――。

 

 自分の中に眠る力を知らないまま、UNKNOWNに狙われていた。

 

 車で追う千束とミズキ。

 

 移動基地でG3を装備したたきな。

 

 そして。

 

 少女へ迫るUNKNOWN。

 

 それぞれの戦いが――

 

 今、始まろうとしていた。

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