――キィィィィィン……!
黄金の光が、ゆっくりと収束していく。
そこに立っていたのは、仮面ライダーアギト。
銀色の装甲。
胸部を覆う青い装甲。
そして、暗闇の中で赤く輝く複眼。
アギトは一歩も動かず、二体のUNKNOWNを見据えていた。
対するUNKNOWNたちも、警戒を解いてはいない。
一体は槍を構え、もう一体は両腕を広げている。
異形の言葉が、夜の道路に響いた。
「――グルァ……アギト……!」
アギトは答えない。
ただ、静かに腰を落とした。
その姿に、無駄な力みはなかった。
まるで、相手の呼吸を読む剣士のように。
先に動いたのは、槍を持つUNKNOWNだった。
――ドッ!!
アスファルトを砕き、一気に距離を詰める。
槍の穂先が、アギトの胸部へ一直線に伸びた。
アギトは身体をわずかに傾ける。
穂先が装甲の脇を通り過ぎた。
そのまま一歩、踏み込む。
――ドッ!
拳がUNKNOWNの胴体へ叩き込まれた。
巨体が揺れる。
アギトは追撃を急がず、相手の反応を確かめるように半歩退いた。
UNKNOWNが咆哮する。
「――ギィィィッ!」
槍を引き戻し、今度は横薙ぎに振るう。
アギトは身を沈めて回避。
その動きに合わせて、もう一体のUNKNOWNが背後から迫った。
挟撃。
左右から同時に襲いかかる。
しかし――。
アギトは慌てなかった。
槍の軌道を見極め、身体を回転させる。
穂先を紙一重でかわすと、その回転の勢いを利用して後方のUNKNOWNへ肘を叩き込んだ。
――ゴッ!
続けて、低い位置への蹴り。
――ドゴッ!
UNKNOWNの膝が沈む。
アギトはすぐに距離を取った。
二体の間合いから離れ、再び構える。
その一連の動きに、焦りはなかった。
だが――。
敵も、ただ力任せに攻めているわけではなかった。
槍を持つUNKNOWNが後退する。
もう一体が前へ出て、アギトの動きを封じるように腕を振るった。
アギトがかわす。
その隙に、槍が横から襲いかかった。
――ガキィンッ!
槍の柄が、アギトの肩を打つ。
アギトの身体がわずかに傾いた。
初めて、明確な一撃を受けた。
UNKNOWNたちは、その隙を逃さない。
拳。
槍。
連続する攻撃が、アギトへ押し寄せる。
アギトは一つずつ回避する。
しかし、二体の連携は崩れない。
片方を攻めれば、もう片方が隙を突く。
通常の姿のままでは、決定打を与えられなかった。
――その時。
アギトの腰にあるオルタリングが、淡い光を放った。
アギトは一瞬だけ、ベルトへ視線を落とす。
次の瞬間。
腰の左右に備わったボタンへ、左手を伸ばした。
そして――。
カチッ。
左のボタンが押し込まれる。
――キィィィィィン……!
高音が、再び夜に響いた。
オルタリングから黄金の光が溢れ出す。
その光は、アギトの全身を包み込んだ。
UNKNOWNたちが後退する。
「――アギト……!」
異形の声が響く。
黄金の光が、身体の輪郭を塗り替えていく。
胸部の装甲が変化する。
肩の形状が変わり、全身を覆う色彩が青を基調としたものへと移り変わっていく。
そして――。
光が収束した。
そこに立っていたのは、先ほどまでのアギトとは異なる姿。
青い装甲。
風を思わせる、しなやかな佇まい。
両腕に宿る、研ぎ澄まされた力。
アギト・ストームフォーム。
アギトは静かに右腕を掲げた。
その手元に、青い光が集まる。
光が細長い輪郭を形作り、柄が生まれる。
続いて、長い刃が展開した。
風を切り裂くような、鋭い三日月形の刃。
柄の先端には、もう一つの刃。
長柄の武器が、アギトの手へ収まった。
ストームハルバード。
アギトはそれを片手で握り、軽く構えた。
その動作に、迷いはなかった。
槍を持つUNKNOWNが、異形の言葉を発する。
「――グラァァァッ!」
そして、突進。
アギトは動かない。
槍の穂先が迫る。
あと一歩。
その瞬間、アギトは柄を傾けた。
――キィンッ!
ストームハルバードの刃が、敵の槍を横から弾く。
軌道を逸らされた槍が、アギトの脇を通り過ぎた。
アギトはそのまま踏み込み、長柄を滑らせるように持ち替える。
柄の先端が、UNKNOWNの腹部を打った。
――ドゴォッ!
巨体が後退する。
間髪入れず、アギトが刃を返す。
青い軌跡が、夜の空気を切り裂いた。
――ザンッ!
刃がUNKNOWNの武器を捉える。
槍が中央から断ち切られ、地面へ落ちた。
「――ギィッ!?」
UNKNOWNが後ずさる。
アギトは追いすがらない。
ストームハルバードを静かに構え直し、相手の動きを待った。
その姿に、勝ち誇る様子はない。
ただ、次の一手を見極めている。
武器を失ったUNKNOWNが、怒りに任せて突進した。
両腕を振り上げ、アギトを叩き潰そうとする。
アギトは半歩、横へ移動した。
拳が空を切る。
その瞬間――。
ストームハルバードの柄が、敵の腕を打った。
――ガキッ!
体勢が崩れる。
アギトは柄を返し、刃の側面をUNKNOWNの胸部へ叩き込んだ。
――ドゴォォッ!!
UNKNOWNの巨体が吹き飛ぶ。
道路脇の壁へ激突し、土煙が舞い上がった。
アギトは、ゆっくりと武器を下ろした。
だが、戦いはまだ終わっていない。
もう一体のUNKNOWNが、背後から迫っていた。
その腕には、黒い文字が浮かび上がっている。
頭上に光の輪が現れ、そこから新たな武器が出現した。
剣。
UNKNOWNはそれを握り、アギトへ斬りかかった。
――ギィンッ!
ストームハルバードが剣を受け止める。
火花が散った。
押し合う二つの異形。
しかし、アギトは力比べを続けなかった。
柄をわずかに傾け、剣の刃を滑らせる。
UNKNOWNの腕が流れた。
その一瞬。
アギトが踏み込む。
ストームハルバードの柄が、敵の脇腹へ突き刺さった。
――ドッ!
UNKNOWNの身体が折れる。
続けて、アギトは武器を大きく振り回した。
青い風が巻き起こる。
刃が弧を描き、UNKNOWNの胴体を打ち据えた。
――バギィッ!!
異形の巨体が宙を舞う。
地面へ叩きつけられ、アスファルトが砕けた。
UNKNOWNは立ち上がろうとする。
だが、身体が思うように動かない。
アギトは数歩、静かに近づいた。
ストームハルバードを両手で握り直す。
そして、ストームハルバード振り回す。回るストームハルバードは速度が上がり風が起きる。さらに速度が増してそれこそストームが発生した。
アンノウンはその風に身動きが取れなくなった。
アギトは一瞬も目を逸らさず、敵を見据えていた。
――次の一撃で、終わらせる。
アギトが踏み込む。
青い閃光が走った。
――ザァンッ!!
ストームハルバードの一閃が、UNKNOWNを斬り裂く。
その瞬間。
UNKNOWNの身体から、黒い光が噴き出した。
異形の言葉が、途切れ途切れに響く。
「――ア……ギ……ト……!」
次の瞬間、巨体が爆発した。
――ドォォォンッ!!
黒い煙が夜空へ立ち上る。
アギトは、爆風の中でも動かなかった。
ただ、煙が晴れるのを待つ。
やがて――。
最初のUNKNOWNが、瓦礫の中から姿を現した。
まだ生きていた。
身体を引きずりながら、アギトへ向かってくる。
アギトはストームハルバードを構え直した。
その赤い複眼が、敵を捉える。
UNKNOWNが最後の力を振り絞り、飛びかかった。
アギトは、静かに身を沈めた。
攻撃をかわす。
すれ違いざま、ストームハルバードの柄を敵の胸部へ叩き込む。
――ドゴッ!
UNKNOWNの動きが止まった。
アギトは武器を引き、半歩退く。
そして、刃を水平に構えた。
一閃。
――ザンッ!!
青い軌跡が、夜を切り裂く。
UNKNOWNの身体が硬直した。
次の瞬間、黒い光が全身から噴き出す。
――ドォォォンッ!!
二度目の爆発。
煙が、道路を覆い尽くした。
静寂。
風が吹き、煙を少しずつ散らしていく。
そこにはもう、二体のUNKNOWNの姿はなかった。
アギトは、ストームハルバードを静かに下ろした。
赤い複眼が、周囲を見渡す。
敵の気配はない。
戦いは終わった。
◆
道路脇。
ミズキは、薄れゆく意識の中で、その一部始終を見ていた。
青い装甲。
長い武器。
風のように静かな動き。
そして――。
二体の怪物を倒した、黄金の戦士。
「……ユイト……」
かすかな声が漏れる。
あの青年が、どうしてあんな姿になったのか。
どうして、あんな力を持っているのか。
分からないことだらけだった。
けれど。
彼は、助けに来てくれた。
自分たちを守るために。
「……ほんと……」
ミズキは、かすかに笑った。
「……何者なのよ……」
その言葉を最後に、意識が遠のいていく。
◆
ストームフォームのアギトは、静かに立っていた。
その手には、ストームハルバード。
背後には、動かなくなった二体のUNKNOWN。
そして、少し離れた場所には、破損した車。
車内には千束とたきな。
道路脇にはミズキ。
守るべき人たちは、まだ無事なのか。
アギトはストームハルバードを消し、ゆっくりと振り返った。
そして――。
最初に、千束とたきなのもとへ歩き出した。