リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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とりあえず書き溜めてるのを放出します




遭遇

 

夜。

 

 千束の家には、いつもの穏やかな時間が流れていた。

 

「ふぁ~……今日は疲れたぁ」

 

 ソファに身体を預け、千束が大きく伸びをする。

 

 その隣では、たきなが静かにスマートフォンを眺めていた。

 

「千束、寝るならちゃんとベッドで寝てください」

 

「まだ寝ないよ~」

 

「その台詞を言った三分後には寝ていることが多いです」

 

「たきな、私のことよく見てるねぇ」

 

「見ていないと危ないので」

 

「ひどっ」

 

 そんな、いつものやり取り。

 

 その瞬間だった。

 

 ――♪ ――♪ ――♪

 

 テーブルの上に置かれていた千束のスマートフォンが鳴った。

 

 着信画面に表示された名前を見た瞬間。

 

 千束の表情が変わる。

 

「……DA」

 

 たきなもすぐに顔を上げた。

 

 千束はスマートフォンを手に取り、通話を繋ぐ。

 

「はい、千束です」

 

『千束。今すぐ出動しろ』

 

 電話の向こうから聞こえたのは、楠木の低く、張り詰めた声だった。

 

「……何かあったんですか?」

 

『ラジアータがUNKNOWNの反応を確認した』

 

 千束の笑顔が、わずかに消える。

 

『場所は――』

 

 楠木が告げた地名を、千束は黙って聞いていた。

 

『現在、現場では戦闘反応が発生している』

 

「戦闘……?」

 

『そうだ』

 

 短い沈黙。

 

 そして楠木の声が、さらに低くなる。

 

『前回のサードリコリス全滅事件との類似性が極めて高い』

 

「……もしかして例の?」

 

『まだ同一個体とは断定できん』

 

 楠木は淡々と続ける。

 

『だが、ラジアータが検出した生体反応、熱反応、現場の異常値。どれも無視できるものではない』

 

 千束は無意識にスマートフォンを強く握った。

 

 脳裏に浮かんだのは、あの光景。

 

 誰もいない現場。

 

 残されていた制服。

 

 靴。

 

 装備。

 

 そして――そこにいるはずだった人間だけが、跡形もなく消えていた。

 

「…………」

 

 胸の奥が、わずかに締め付けられる。

 

『千束』

 

「……はい」

 

『現場に到着したら、まず状況を確認しろ。無謀な交戦はするな』

 

「了解」

 

『今回のUNKNOWNが何なのか、まだ何も分かっていない』

 

 楠木の声には、いつもの冷静さの奥に明確な警戒が滲んでいた。

 

『前回と同じだと思うな』

 

「……わかってます」

 

『ならいい。たきなにも伝えろ』

 

「はい」

 

『それから――』

 

 一瞬だけ、楠木が言葉を止める。

 

『絶対に油断するな』

 

 千束は黙った。

 

 普段なら軽口の一つでも返すところだった。

 

 けれど、今回はできなかった。

 

「……はい」

 

 通話が切れる。

 

 千束はしばらく、暗くなった画面を見つめていた。

 

「千束」

 

 たきなが声をかける。

 

「……うん」

 

 千束は顔を上げた。

 

 いつもの笑顔を作ろうとする。

 

 けれど――完全には作れなかった。

 

「行こう、たきな」

 

「はい」

 

 二人はすぐに立ち上がった。

 

 そして、その頃。

 

 同じ夜の街のどこかでは――。

 

 一人の青年が、未知なる怪物と対峙していた。

 

 

 

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