とりあえず書き溜めてるのを放出します
夜。
千束の家には、いつもの穏やかな時間が流れていた。
「ふぁ~……今日は疲れたぁ」
ソファに身体を預け、千束が大きく伸びをする。
その隣では、たきなが静かにスマートフォンを眺めていた。
「千束、寝るならちゃんとベッドで寝てください」
「まだ寝ないよ~」
「その台詞を言った三分後には寝ていることが多いです」
「たきな、私のことよく見てるねぇ」
「見ていないと危ないので」
「ひどっ」
そんな、いつものやり取り。
その瞬間だった。
――♪ ――♪ ――♪
テーブルの上に置かれていた千束のスマートフォンが鳴った。
着信画面に表示された名前を見た瞬間。
千束の表情が変わる。
「……DA」
たきなもすぐに顔を上げた。
千束はスマートフォンを手に取り、通話を繋ぐ。
「はい、千束です」
『千束。今すぐ出動しろ』
電話の向こうから聞こえたのは、楠木の低く、張り詰めた声だった。
「……何かあったんですか?」
『ラジアータがUNKNOWNの反応を確認した』
千束の笑顔が、わずかに消える。
『場所は――』
楠木が告げた地名を、千束は黙って聞いていた。
『現在、現場では戦闘反応が発生している』
「戦闘……?」
『そうだ』
短い沈黙。
そして楠木の声が、さらに低くなる。
『前回のサードリコリス全滅事件との類似性が極めて高い』
「……もしかして例の?」
『まだ同一個体とは断定できん』
楠木は淡々と続ける。
『だが、ラジアータが検出した生体反応、熱反応、現場の異常値。どれも無視できるものではない』
千束は無意識にスマートフォンを強く握った。
脳裏に浮かんだのは、あの光景。
誰もいない現場。
残されていた制服。
靴。
装備。
そして――そこにいるはずだった人間だけが、跡形もなく消えていた。
「…………」
胸の奥が、わずかに締め付けられる。
『千束』
「……はい」
『現場に到着したら、まず状況を確認しろ。無謀な交戦はするな』
「了解」
『今回のUNKNOWNが何なのか、まだ何も分かっていない』
楠木の声には、いつもの冷静さの奥に明確な警戒が滲んでいた。
『前回と同じだと思うな』
「……わかってます」
『ならいい。たきなにも伝えろ』
「はい」
『それから――』
一瞬だけ、楠木が言葉を止める。
『絶対に油断するな』
千束は黙った。
普段なら軽口の一つでも返すところだった。
けれど、今回はできなかった。
「……はい」
通話が切れる。
千束はしばらく、暗くなった画面を見つめていた。
「千束」
たきなが声をかける。
「……うん」
千束は顔を上げた。
いつもの笑顔を作ろうとする。
けれど――完全には作れなかった。
「行こう、たきな」
「はい」
二人はすぐに立ち上がった。
そして、その頃。
同じ夜の街のどこかでは――。
一人の青年が、未知なる怪物と対峙していた。