リコリスリコイル 不可能犯罪   作:鼻眼鏡26号

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アンノウンの天敵

 

夜の埠頭。

 

 海から吹き抜ける潮風が、コンテナの隙間を駆け抜けていく。

 

 遠くには街の明かり。

 

 しかし、この一帯だけは妙に暗かった。

 

「……静かだね」

 

 千束が周囲を見渡す。

 

「静かすぎます」

 

 隣を歩くたきなが、銃を構えたまま答えた。

 

 二人はDAからの電話を受け、この埠頭へやって来ていた。

 

 UNKNOWNの反応。

 

 それだけではない。

 

 ラジアータが検出した、もう一つの異常な戦闘反応。

 

 そして何より――

 

 その反応が、以前のサードリコリス全滅事件と高い類似性を示している。

 

「ラジアータの反応は?」

 

「まだ、この付近です」

 

「……そっか」

 

 千束の声が、少しだけ低くなる。

 

 その時だった。

 

 ――ドォンッ!!

 

「!?」

 

 数十メートル先。

 

 積み上げられたコンテナが突然、大きく揺れた。

 

 次の瞬間。

 

 金属を引き裂くような轟音とともに、巨大な影が飛び出してくる。

 

「来ます!」

 

 たきなが即座に銃を構える。

 

 街灯の下へ姿を現したのは――

 

 異形の怪物。

 

「UNKNOWN……」

 

 千束が息を呑む。

 

 UNKNOWNは低い唸り声を響かせる。

 

 そして何かを探すように、暗闇へ顔を向けた。

 

 ――その瞬間。

 

 ドンッ!!

 

 UNKNOWNの身体が横へ吹き飛んだ。

 

「え?」

 

 千束が目を見開く。

 

 瓦礫の向こうから、一つの影がゆっくりと立ち上がった。

 

 赤く輝く複眼。

 

 銀色の装甲。

 

 そして――

 

 夜の闇の中で、異様なほど鮮明に輝く黄金。

 

「……何、あれ」

 

 千束が呟く。

 

 それは人間ではなかった。

 

 しかし、UNKNOWNとも明らかに違う。

 

 一人の戦士。

 

 仮面ライダーアギト。

 

 アギトは何も言わない。

 

 ただ、UNKNOWNだけを見据えている。

 

 その身体には、黄金色の光が宿っていた。

 

 アギトの超越肉体。

 

 夜の暗闇の中では、その黄金があまりにも目立つ。

 

 さらに腰には――

 

 オルタリング。

 

 その中心からも、黄金の光が静かに放たれている。

 

 海面にまで光が反射し、波が揺れるたびに黄金が砕けていく。

 

「……ベルトまで光ってる」

 

 千束が目を細める。

 

「警戒してください」

 

 たきなが銃口を向ける。

 

「敵かどうか、まだ判断できません」

 

 その言葉を聞いたかのように――

 

 UNKNOWNが咆哮した。

 

 そして地面を蹴る。

 

 ――ドンッ!!

 

 アギトも動いた。

 

 一瞬で距離が消える。

 

 拳と拳が激突する。

 

 ――ドゴォン!!

 

 凄まじい衝撃が埠頭を揺らした。

 

 UNKNOWNが腕を振り下ろす。

 

 アギトは身体を僅かに逸らす。

 

 攻撃が空を切る。

 

 その瞬間。

 

 アギトの拳が、UNKNOWNの懐へ滑り込んだ。

 

 ――ドゴッ!

 

 続けて蹴り。

 

 回転。

 

 反撃。

 

 そして静かに距離を取る。

 

 無駄がない。

 

 荒々しくもない。

 

 まるで、長年戦い続けてきた武人のようだった。

 

「……すごい」

 

 千束が思わず呟く。

 

「動きに迷いがありません」

 

 たきなも目を離さない。

 

 UNKNOWNが再び襲いかかる。

 

 アギトはそれを受け流し、正確な一撃を叩き込む。

 

 ――ドォンッ!!

 

 UNKNOWNが吹き飛び、コンテナへ激突した。

 

 しかし、まだ倒れない。

 

 UNKNOWNはゆっくりと立ち上がる。

 

 アギトは静かに見つめる。

 

 そして――

 

 UNKNOWNの口から、異質な言葉が漏れた。

 

「……何、言ってるんだろ」

 

 千束には理解できない。

 

 たきなも眉をひそめる。

 

 だが――

 

 アギトには、その言葉の意味が理解できていた。

 

 なぜ理解できるのか。

 

 本人にも分からない。

 

 ただ、その言葉から一つの目的だけが伝わってくる。

 

 ――人ならざる力を持つ者を、抹殺する。

 

 アギトの複眼が、僅かに輝いた。

 

 そして――

 

 戦いを終わらせるため、一歩前へ出る。

 

 UNKNOWNが構える。

 

 アギトも構えた。

 

 だが、拳を振るうことはなかった。

 

 アギトは静かに腰を落とす。

 

「……?」

 

 千束が首を傾げる。

 

「何をするつもりでしょう」

 

 たきなが呟いた。

 

 その瞬間。

 

 ――キィィィン。

 

 オルタリングが黄金色に輝いた。

 

 そして――

 

 アギトの足元に光が走る。

 

 地面へ黄金の線が刻まれていく。

 

 円。

 

 幾何学的な紋様。

 

 そして、それはやがて一つの形へと変わった。

 

 アギトの紋章。

 

「……紋章?」

 

 千束が息を呑む。

 

 黄金の紋章が、アギトの足元に浮かび上がる。

 

 アギトが、その中心へ踏み込む。

 

 ――ズン。

 

 次の瞬間。

 

 紋章が黄金の光へ変わった。

 

 その光が地面から両脚へと吸い込まれていく。

 

 足首。

 

 脛。

 

 膝。

 

 太腿。

 

 大地に刻まれたアギトの力が、両脚へと集約されていく。

 

 超越肉体が、さらに強く黄金に輝く。

 

「……っ」

 

 たきなが思わず目を細める。

 

 そして――

 

 アギトの頭部から、小さな機械音が響いた。

 

 ――カチッ。

 

 閉じていた頭部の角――クラッシャーが展開する。

 

 左右へ開かれた角が、黄金の光を受けて鋭く輝いた。

 

 赤い複眼が、さらに強く光る。

 

 千束は息を呑んだ。

 

「……綺麗」

 

 思わず漏れた言葉だった。

 

 けれど。

 

 その美しさの奥にある力を感じた瞬間――

 

 千束の胸に、言いようのない恐怖が生まれる。

 

 アギトは腰を落とす。

 

 両脚に黄金の力が集まっていく。

 

 右足を引く。

 

 左足で地面を踏みしめる。

 

 ――一瞬。

 

 世界が静止したように感じられた。

 

 そして。

 

 アギトが地面を蹴った。

 

 ――ドォンッ!!

 

 爆発的な踏み込み。

 

 黄金の閃光を残して、その身体が夜空へ飛び上がる。

 

「高っ……!」

 

 千束が見上げる。

 

 アギトは夜空の頂点へ達すると、身体を反転させた。

 

 頭が下。

 

 右足が前。

 

 全身を一直線に伸ばす。

 

 展開したクラッシャーが黄金に輝く。

 

 オルタリングもまた、強烈な光を放つ。

 

 そして――

 

 落下。

 

 いや。

 

 突撃。

 

 黄金の戦士が、夜空からアンノウンへ向かって一直線に降下する。

 

 UNKNOWNが腕を上げる。

 

 防御しようとする。

 

 だが――

 

 遅い。

 

 アギトの右脚が突き出される。

 

 黄金の超越肉体。

 

 アギトの紋章から吸収した力。

 

 オルタリングの輝き。

 

 すべてが、一つの蹴りへ集約される。

 

 ――ライダーキック。

 

 ズガァァァァンッ!!

 

 黄金の右脚が、UNKNOWNを真正面から捉えた。

 

 凄まじい衝撃。

 

 UNKNOWNの巨体が大きくのけ反る。

 

 そして――

 

 動きが止まった。

 

「……?」

 

 千束が目を凝らす。

 

 UNKNOWNの頭上。

 

 そこに――

 

 一つの光の輪が浮かび上がった。

 

 まるで天使の頭上に浮かぶ光輪のような、黄金色の輪。

 

 ゆっくりと回転しながら、次第に輝きを増していく。

 

「……何、あれ……」

 

 千束の声が小さくなる。

 

 UNKNOWNの身体からも、黄金色の光が漏れ始めた。

 

 胸部。

 

 腕。

 

 脚。

 

 そして全身へ。

 

 ――ビキッ。

 

 身体の表面に、光の亀裂が走る。

 

 UNKNOWNが最後の力を振り絞るように身体を動かす。

 

 だが――

 

 もう動けない。

 

 頭上の光輪が、ひときわ強く輝いた。

 

 そして――

 

 ドォォォォンッ!!

 

 UNKNOWNの身体が、黄金の光とともに爆発した。

 

 夜の埠頭が、一瞬だけ昼のように照らされる。

 

 爆風が駆け抜ける。

 

 コンテナが激しく揺れ、海面が大きく波打った。

 

 黄金の光が夜の闇を塗り替え――

 

 やがて、静かに消えていく。

 

 あとに残ったのは、静寂だった。

 

 アギトは爆発の中心から、ゆっくりと歩み出る。

 

 黄金に輝く超越肉体。

 

 赤く輝く複眼。

 

 展開されたクラッシャー。

 

 そして――

 

 静かに黄金の光を放つオルタリング。

 

 夜の闇の中。

 

 その姿だけが、異様なほど鮮明に浮かび上がっていた。

 

「…………」

 

 千束は、言葉を失っていた。

 

 目の前の戦士に見惚れてしまう。

 

「……綺麗」

 

 小さく呟く。

 

 しかし――

 

 その直後。

 

 アギトが振り向いた。

 

 赤い複眼が、千束とたきなを捉える。

 

「……!」

 

 千束の笑顔が消える。

 

 アギトは何も言わない。

 

 ただ、二人を見つめている。

 

 そして――

 

 ゆっくりと拳を握った。

 

 構えを取る。

 

「千束」

 

「……うん」

 

 たきなも銃を構える。

 

「こちらを敵と認識しています」

 

 千束は、アギトを見つめた。

 

 さっきまで美しいと思っていた黄金の戦士。

 

 その姿が今は――

 

 ひどく恐ろしく見えた。

 

 アギトが、一歩踏み出す。

 

 黄金の光が、再び夜の埠頭を照らした。

 

 ――そして。

 

 千束とたきな。

 

 アギト。

 

 三者の間に、張り詰めた空気が走った。

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