盗賊が心配だということをテッシュさんに相談したら、もう既にクオルデンツェの兵士を送ってあるらしい。
いやーなんかすごい。ここで暮らしてからよく思うけど、なんでも先回りで準備されている。
文官の人が毎日色んな書類を持ってあっち行ったりこっち来たりしてるけど、色々大変なんだろうな。
そういえば、そろそろ魔封印が切れるそうで、そのタイミングで俺の魔法を確認してくれるらしい。
正直なところ自己流の魔法を魔導士さんみたいなプロの前で見せるのはちょっと恥ずかしい。
最近全然使ってなかったし、いきなり使っても大丈夫かな?
そんなこんなで、大工仕事を手伝ったりしていたら、ついに俺の魔法を披露する日がやって来た。
いつもの部屋じゃなくて、なんか真っ黒な石で囲まれた牢屋みたいな部屋でやることになった。
なんか不気味だけど、まぁ火が出る魔法なんかもあるんだろうし仕方がないのか。
そして、久しぶりに金ぴかの兵士さんに囲まれた。
前はよくわからなかったけど、これって魔法に強い装備とかなのかな?
「バン様、体内の魔力を高めてください。恐らく魔封印が解けるはずです」
俺は魔導士さんに言われた通りにする。するんだが、高めるって言われてもいまいちピンとこない。
とりあえず全力の元気魔法を出すつもりで魔力を揺らしてみた。するとだんだん魔力がゆれる感じがしてくる。
そして、
「うわ!」
いきなり風船が破裂するような感覚が来てびっくりしてしまった。
いや、破裂というより満タンの風船の口を離してブブブーッって飛んでく感じ?とにかく何かが俺の中から噴き出した。
いやーびっくりしたー!って思ってたら兵士さんは膝をついてるし、魔導士さんは具合が悪そうにしてる。
やば!やっちまった!
「すみません!加減が分からなくて……!」
「……バン様は何も問題ございません。私共の不手際をお見せしてしまい申し訳ございません」
魔導士さんのプロ根性を見た気がした。
顔面蒼白なのにピシッと立って俺に頭を下げているのホントすごい。
そうこうしている間に金ぴか兵士さんの応援が現れて、今日の魔法披露は延期となってしまった。
ほんとうに申し訳ない。
そして次の日。
「それではバン様よろしくお願いします」
なんかすごいデジャブ感。まぁ実際に二回目なんだけどね。
俺は魔導士さんの手に触れて体の中の魔力を揺らす、そして元気魔法を発動した。
感覚的にはちゃんと発動できたと思う。どうだろ?魔導士さんの様子をうかがった。
魔導士さんは手を動かしながら考え込んでいた。
うわーやっぱり自己流魔法はしょぼいのかな?ちょっと恥ずかしい。
「なるほど……」
魔導士さんはそう言ってまた考え込んだ。
答えを言ったらいつまでも沈黙が続いた時みたいにめっちゃ気まずい。
「この魔法を他の者にかけていただいてもよろしいでしょうか?」
え?この魔法それなりなの?ちょっと嬉しい。
「今の強さでよければ何人でも大丈夫です」
ちょっと頑張ってみよう。そうしたら魔法を教えてもらえるかもしれないし、村に帰れるかも。
俺はあっさり了承した。
そうしたら、すぐに人が集まってきた。
今言ってすぐ来れるってことはあらかじめ準備していたのかな?もしかして昨日も?それだったら悪いことしたな……。
集められたのは魔導士さんだけじゃなくて、騎士さんとか、メイドさんとか色々だった。
まぁいろいろな人に話を聞いた方がいいんだろうな。
「それではよろしくお願いします」
俺は魔力を揺らし元気魔法をかけていった。
「昨日は大変だったようだな」
俺は魔導士を呼んだ。
昨日は何かと話題の祝福の子の自作魔法のお披露目日だったのだ。
正直言えば俺は驚いた。
先日の手紙の内容からすると、このまま経過観察という感じだと思っていたからだ。
それが、魔封印が切れそうなので重ね掛けしますねといった内容の連絡をニューネリーに送ったところ、ついでだから魔法の確認しとこうかと大慌てで返事が返ってきたのだ。
バンの生活状況や会話内容については毎日ニューネリーに送られているので、あの男の暢気さというか野心のなさについても伝わっていたのかもしれないが、それにしても異例な措置だ。
返事を持ってきた文官の口ぶりからすると、ニューネリー城内にはバンを拘束し続けることに対して何となくだが忌避感があるようだ。
俺としては顔も見たことがない伯父の子なのでそれほど思うところはないのだが、父様にはなにか琴線に触れるものがあるのだと思う。
「昨日は大変失礼いたしました」
魔導士はまず謝罪をする。
バンの魔封印を解くにあたり、あいつはさっそくやらかした。
解けかけの魔封印に魔力を込めていったそうだが、加減を間違えて暴発事故を起こしたのだ。
それによりクオルデンツェ軍の警戒度がマックスを越えて振り切ってしまい、対主祖装備の武官達がひしめき合うそれはもう物騒な状態となった。
俺に関しても対主祖装備を準備するハメになってしまい、ハメハメも出来ず夜を悶々と過ごすことになってしまった。
全く持って面倒ごとを持って来るやつである。
「まぁ気にするなとは言わんが、大したことではない。それで何かわかったか?」
少し堅苦しい雰囲気になってしまったので俺は話の続きをうながす。
俺は周りから魔法の才能があると思われているし、実際に既存の魔法を改良したりするのは得意だ。
しかし、全く新しい魔法は生み出したことはない。何度か試してみてはいるがどれもイマイチうまくいかずお蔵入りだ。
それで気になっていたのだ、まったく魔法の知識のない者がどんな魔法を生み出したのかということに。
「一言で言えば隷祖に特化した身体強化魔法でしょうか」
「それは随分と使いにくそうな魔法だな」
「えぇ、私もそう思いました」
そう言って魔導士は元気魔法とやらの説明を始める。
素人が開発した魔法だけあって、その魔力の動きは洗練されておらず、まだ会得したものはいないとのことだ。
しかし、まったくとっかかりが無いわけでもなく、身体強化と治癒魔法、それに魔封印のような動きがあるのだという。
そして、ここからが面白い点なのだが、隷祖に使うと微量ながら一時的に体内に魔力を貯めることが出来るのだそうだ。
確かにこれは聞いたことがなかった。
逆に魔力を持つ者にとってはそれほど効果がないというのも頷けた。
少しばかり魔力が増えたところで大した影響はないだろう、主祖相手ならなおさらだ。
「開発の経緯も伺いましたが、母親の快気が目的だったそうです。治癒魔法が使えない以上、自分の手にある魔法で試行錯誤した結果があれなのでしょう」
なるほど。恐らくは『病気にならない魔力持ちの体』という方に力が向いたのだろうと思う。
なんとも素朴な田舎っぽい魔法である。
「そういうものか。何か気づきはあったか?」
「はい。まだ会得していないのでわかりませんが、身体強化魔法の改良に使えると考えております」
どうやら魔力を貯めるという効果が身体強化の持続力を増すのでは、という方向で検討しているらしい。
まぁ魔法の改良などチームが十年以上かけて取り組む課題なので、そうそうに成果は得られないだろう。
「バン様は魔法習得に興味をお持ちです。いかがいたしましょうか」
これについても驚いたのだが、バンの魔法習得についても許可が下りてきた。
流石に囚われの身とはいえ、相手は主祖だ。お土産をもらっておいて手ぶらで返すというのはあまりにケチ臭いと言ったところだろうか。
まぁ今までの話を聞く限り、バンには野心みたいなものはないだろうと思える。
この辺りは前世の感覚に引っ張られている気がするのだが、ニューネリーでもどうやら同じらしい。
「治癒魔法などありふれたものなら問題ないだろう。詳細は武官と相談しろ」
治癒魔法など程度の差はあれ魔力持ちは大体会得しているものだ。今のうちに教えてやって恩を売っておいても問題ないだろう。
それに治癒魔法が使える主祖は役に立つのだ。その効果は従祖のそれとは比べものにならない。
まぁとりあえず部下に丸投げをしておく。こうしておけば彼らが上手い事やってくれるだろう。
「承知いたしました。私たちは引き続き魔法の会得を目指します」
「あぁ任せた」
「テッシュを呼べ」
魔導士が部屋を出た後、側にいたメイドにテッシュを呼ぶように伝えた。
しばらくするとテッシュが部屋に入ってきた。
「首尾はどうだ?」
「霧の森村へ騎士家の者と兵を送りました。バン様の会話内容について概ね裏付けが取れております」
文官も武官も祝福の子の見逃しという最悪のチョンボを取り返すべくしゃにむに働いていた。
良く働いて大変結構なことである。
「バン様のご家族も確認が取れました。奥様のカリーナ様は隷祖、娘のコロナ様は従祖でした。お腹の子はまだはっきりしませんが、恐らく従祖であろうとのことです」
この辺りは予想通りだな。常識的に考えて父親が主祖なのだから子は従祖だ。
まぁ常識はずれがここにいるおかげで、わざわざ確認する必要が出たわけだが。流石に彼らに二度目の見逃しなどあってはならないだろう。
「村人の話を聞く限り、バン様は従祖と思い込んで生きてきたようです。木材採取のためにフィールドに籠っているということも事実のようで、内部の住居なども確認いたしました」
テッシュの言い方からすると村人全員に話を聞いたような口ぶりだ。実際にそうなのだろう。
ひとつたりとも取りこぼすまいという意思を感じた。
さて、今回の兵士の派遣は聞き取り調査ともう一つ理由がある。
それはバンの逃亡防止のために村人と家族を人質に取ったのだ。なんとも世知辛いものである。
バンに兵士を派遣したことを伝えたら喜んでいたそうなので、意味が分かっているのか甚だ疑問だが。
そこで俺は一つ考えた。
「家族はこちらで人質に取った方が良いのではないか?」
「……お考えをお聞かせ願えますか?」
俺は自分の考えを伝えていく。その内容は大体こんな感じだ。
今までの話を聞く限り、バンは家族愛が強いタイプだという印象を受けた。
それならば家族をこちらに呼んで、もてなしてやればよい。例えば従祖の娘に魔力の使い方を教えてやる、なんて感じにだ。
魔法の習得に独学で苦労したのならば、きっとこの誘いに乗るはずだ。
そして、その感謝の感情をだんだんとクオルデンツェへの忠誠という方向にもっていく。
やってみないと分からないが、多分うまくいきそうな気がするのだ。もし失敗しても最初のプランに戻してしまえばよい。
「こんな感じだ。どう思う?」
「なるほど……。詳細は私たちで検討してもよろしいでしょうか?」
「あぁ任せた」
俺の思い付きを簡単に述べただけだが、これで彼らたちが細かいところまで上手いことやってくれるだろう。