「カリーナ!コロナ!」
「バンさん!」
俺は久しぶりに会うことが出来た家族を抱きしめた。
遡ること数日前、俺はいつも通り魔導士さんと魔法習得に励んでいた。
俺が元気魔法を教えて、魔導士さんが治癒魔法を教えてくれる。
そう!ついに念願の魔法を教えてもらえるようになったのだ!
なんでも俺が真面目にやっているのを若様が評価してくれて、魔導士さんに許可を出してくれたんだそうだ。
最初はめっちゃ怖かったけど、今では感謝しかないね!これで治癒魔法を覚えたら村での暮らしも楽になるかなー。
感覚としても何となく使えそうだし頑張ろう!
そんなことをしていたらテッシュさんに呼ばれて、何かなー?と思っていた俺は次の言葉に驚いた。
「バン様。今こちらにご家族が向かっておられます」
テッシュさんはそう言ったんだ。
俺は驚きすぎてポカーンとしてしまったが、次の瞬間に涙があふれた。やっと家族に会える!
それからは毎日、魔法の練習をして過ごした。
何でもちょっと大げさなくらい魔力を動かした方が覚えやすいそうで、俺は張り切って全力で元気魔法をかけまくった。
そして、ついに家族と再会した。
カリーナと抱き合って号泣していたら、コロナはぽかーんとしてたっけ。
それから、カリーナが妊娠していたことが判明した!これには俺もびっくりした。
何でも、出発前にはうすうす感づいていたそうだが、俺が心配するといけないので黙っていたのだとか。
それで村に騎士さんが来た時に、改めて調べてもらったらちゃんとわかったんだって。
一時はどん底の気分だったけど、最近は良いことがたくさんあって嬉しいな。
俺たち夫婦が大騒ぎしているとき、親父とお袋も大騒ぎしていた。
抱き合って泣き合って、なんか親子で似てる気がする。
親父とお袋はこれからしばらくはお袋の実家の宿屋に泊まって、それから村に帰るんだそうだ。
俺も帰りたいけど、いまは家族も一緒に居られるし、まぁ大丈夫。それに親父は会社を放っておくのも心配だしね。
それから、テッシュさんが言うには家族でこのままここで暮らしていていいみたい。
それになんと、カリーナに治癒魔法を使える人を付けてもらえるんだとか。
俺が使えれば一番良かったんだけど、まだ習得してないからすごく助かる。
やっぱり妊娠出産は大仕事だからね。村でも何人か亡くなる人を見たし、そもそもお袋も危なかったからこそ必死で魔法を覚えたんだ。
コロナの時は元気魔法で頑張ったけど、やっぱり本職の人がいると安心感が違う。
こんなに良くしてもらって、本当にありがたい。
明日からも魔法の習得を頑張ろう!
「移動は無事に終わったようだな」
俺はバンの家族の移動が完了したと報告を受けた。どうやら俺が提案した家族囲い込み作戦が実行されたようだ。
「はい、今はご家族で過ごしていらっしゃいます」
「それにしても随分と早かったな?」
話を聞く限り主祖の足でも三日、四日はかかる距離だ。あの話があってから一週間ちょいと考えると随分な強行軍をしたとみえる。
「騎士家の者よりカリーナ様懐妊の報せがございましたので、強化馬車を手配いたしました」
なるほど。
今度こそは子の出産を見逃すまいと気合を入れたといったところか。随分と念入りで結構なことだ。
「お前がいるということは会得できたのか?」
今日は報告に来たテッシュだけではなく、魔法習得に向かわせていた魔導士も一緒だ。
ということは魔法習得に関し、何かしら進展があったということだろう。
「はい、会得いたしました」
「どんな感じだ?」
魔導士が元気魔法の所感について述べてゆく。
それは、概ね最初の予想通り身体強化魔法の亜種であろう、といったところだった。
隷祖の使用人にかけてみたところ、魔封印をかけられた従祖のような状態になるらしい。
「風変わりな魔法のようだな、試しに俺にかけてみろ」
「恐らく若様の魔力量ですと変化は現れないと思われます」
お手を、そう言われて俺は魔導士に手を差し出す。魔導士は手を握ると魔力を揺らし始めた。
思ったよりも大きな魔力が動く、治癒魔法二、三発分くらいといったところか?
従祖でこの魔力消費は随分大変そうだ。
すると、ほんの極わずかだが魔嚢が膨らむ感じがする、これがさっき言ってたものか。
「若様、いかがでしょうか」
「あぁ、殆ど変化はないが魔法の効果は感じ取れた。従祖には少々きついのではないか?」
魔導士は4百メートルダッシュをしてきたくらいにはくたびれていた。
「はい、主祖の魔力でないと常用することは難しいでしょう」
これについても何となくではあるが予想はしていた。
魔法開発者には主祖が多いのだが、それは莫大な魔力を使って手当たり次第に試してみることが出来るためだ。
そうして生み出された魔法の多くは、主祖のバカ魔力を前提としているものが多い。
あとは従祖の魔導士たちにバトンタッチして、従祖でも使用できるような洗練された魔法に仕上げてゆくのだ。
「それにしても随分にぎやかな魔法だな」
「えぇ、若様が学ばれた洗練された物とは大きく異なります」
貴族や騎士家の者が使う魔法とは何百年もかけて磨き上げられ洗練されたものだ。
少ない魔力でより大きな効果を生むように構成され、例えば治癒魔法などは主祖が用いれば、ちぎれた腕がウニョウニョ生えてくるほどの効果がある。
魔力の流れも整えられており、それはオーケストラが奏でる優雅な旋律のようだ。
それに対してこの元気魔法は、太鼓をドンドンと打ち鳴らし、シンバルがジャンジャンと鳴り、ピーピーと笛が鳴っている感じだ。
とても洗練されているとは言い難い、おもちゃ屋のお猿の人形のようなものだ。
だが、それでも魔法開発とは難しい。
ただ太鼓を叩いたのではない。太鼓を作り、楽器を並べ、そして稚拙だが曲を作った。1と0の間には大きな壁があるのだ。
「引き続き頼んだぞ」
「承知いたしました」
そう言って魔導士は下がっていった。
「テッシュ、ニューネリーから連絡はあったか?」
バンについて父に報告を上げてからというもの、ほぼ毎日バンの様子についての報告がニューネリーに送られていた。
「いえ、以前の通り現状維持という方針で変わりありません」
「父様も随分と悩まれているようだな」
まぁ何となくその気持ちはわかる。
俺がその気持ちだというわけでなく、伯父を知る者たちが皆一様に複雑な表情を浮かべているからだ。
俺は伯父には会ったことがないが、テッシュ曰くバンにはその面影があるのだそうだ。
それから、髪色も祖母を思わせるもので、ニューネリーから様子を見に来た祖母と伯父を知る古老などは、バンの姿を見てしばらく固まっていたんだとか。
「まだ決定ではありませんが、ご当主様がこちらを訪れるかもしれません」
「父様がこちらに来るのか?」
俺はその報告を聞いて驚いた。てっきり俺が担当してうまくやっとけ、といわれるくらいだと思っていたのだ。
祝福の子を確認するために当主自ら会いに来るなんてやりすぎではないかと思うんだが。
逆にバンを向こうに送ってしまえばよいのでは?そんなことを考えていたらテッシュが口を開いた。
「素性の知れない主祖が移動しては不要な警戒を招くということです」
そうか、言われて見ればそうだな。今回の事態は騎士家の中でも幹部連中にしか伝えられていない。
ちょっと前にニューネリーフィールドでも祝福の子が事件を起こしたばかりであり、正体不明の主祖が領内を移動したとなれば、騎士たちの警戒度がマックスになってしまう。
「それでは父様が来る前に、俺が一度話をしてみるか」
「よろしいのですか?」
その言葉にテッシュも護衛の武官も警戒スイッチがオンになってしまった。
「いきなり父様の前に出すわけにもいかんだろう?それに俺に害をなせるほど強くはない」
その言葉にテッシュも護衛もすっかり黙ってしまった。
実際に俺の魔力は強大だ。不意の一撃さえ食らわなければ主祖、ましてや魔力強化も受けていない祝福の子の相手をするなど造作もないことだ。
「それにこれもある」
俺は腰につけていた革袋から虹色に輝く宝石を取り出した。
これは主祖の魔力を封じ込めたマナラル結晶だ。これがあれば従祖でも主祖級の魔法を放つことが出来る。
何も準備しないで主祖に立ち向かうなどバカなことはしない。
「……承知いたしました。そのように手配いたします」
俺が数々の保険をかけたことで断ることが出来なかったのだろう。
テッシュは渋々了承した。
「では、頼んだぞ」
ニューネリー城の執務室、そこは重苦しい空気が支配していた。
祝福の子、バンが現れてからというもの、連日にわたり討議が続いている。
素性が確かな祝福の子というイレギュラーな存在は、ここに集まるもの全てを悩ませ、そして、一つの結論を導いた。
ルークセが重い口を開く。
「オスローグ家を再興する」
それはニューネリーをクオルデンツェ家が支配する前に存在していた貴族家の名だ。
オスローグ家は、三百年以上前にニューネリーフィールドより生まれた脅威階級二位の成熟魔獣『カリエステーベ』に一族総出で立ち向かい、そして見事に打倒した。
しかし、その傷はあまりに大きく、主祖がことごとく死に、家は絶えた。
そして、ニューネリーフィールドより再び脅威階級二位の成熟魔獣『シベルクローガ』が現れる。
皆その存在に恐怖した。
幸いにもクオルデンツェ・ウィルクの活躍により短期間で討伐されたことにより、ニューネリーに被害はなかった。
だが、成熟魔獣の出現にクオルデンツェの関係者はかつてあった貴族家、オスローグ家の名を思い出した者も多かった。
しかし、それが何故オスローグ家の再興につながるのか、ルークセは静かに語りだす。
「私は此度の災厄を前にし、貴族の矜持とは何か、その想いを強く持った」
「同じく災厄に立ち向かい、そして果てたオスローグ家に対して強い貴族の矜持を感じた」
「ならば我々はその矜持に答えねばならん。そしてその矜持を受け継ぐのだ」
「初代ぺルゼアスが保護し、連綿と受け継がれてきたオスローグの名を今ここに」
そう言ってルークセは今までため込んでいたものを吐き出すように、ひとつため息を吐いた。
「それでは詳細について……」
幹部の言葉に頷くと、今日も討議が始まった。
「父様も随分と悩まれたようだな」
ニューネリーから当主の意向を伝えるために送られた文官の話を聞き、俺はそう答えた。
正直なところを言うと、随分と面白いことを考えたものだと思う、ウルトラCだ。
クオルデンツェ家初代当主のぺルゼアスがニューネリー入りした際に、オスローグ家の幼子を拾った。
オスローグ家の活躍に感動したぺルゼアスはその子供を保護し、クオルデンツェ家の庇護下の元、ひっそりとその血筋を守ってきた。
シベルクローガが現れたことで、脅威階級二位マジやべーわ、こんなのに立ち向かったオスローグ家マジリスペクト!となった。
それでは、貴族の矜持忘れないように、マジリスペクトなオスローグ家再興します。
クオルデンツェ家にはちょうどいいことにオスローグ家の生き残りがいるんで。
簡単に言うとこんな感じだ。
もちろんすべて嘘っぱちである。
このシナリオによると、オスローグ家の姫である『ミラ』と『クオルデンツェ・ガーダクル』の間に生まれたのが『オスローグ・バン』となっている。
ミラ姫はエルシニアの禍により不幸にも命を落とし、最後の生き残りがオスローグ・バンという設定だ。
正直、ガバガバ過ぎる設定ではあるが、貴族家の内情など他家は知る由もないので問題はないのだろう。
実際にバンは伯父上の息子であるし、主祖だ。
主祖であるならば、多少ガバ設定であろうと何とでもなるのだ。
詳細を聞くにあたり、俺の魔獣討伐ストーリーを盛り上げたり、外地支配にうまく利用しようとする魂胆が透けて見えるが、そんなガバガバ設定を捏造してまでバンを取り立てるあたり、父様の伯父への想いというのは強いのであろう。
一歩間違えればヤンデレである。
「俺から伝えても良いのか?」
俺はテッシュに聞いてみた、これから今話題のバンとの会談なのだ。
「ルークセ様がバン様を確認されてから最終的に決定されますが、お話しされて問題ございません」
父様としてはもう決めているけど、一応顔くらいは見とくかって感じなのだろうな。
「わかった、それではバンを呼べ」
朝起きていつもの服に着替えてから、今日もがんばるぞー!と思っていたら大量のメイドさんが部屋にやって来た。
そしたら着たばっかりの服を脱がされて、お貴族様のような服を着させられてしまった。
なに?何がおこるの?
着替え終えたところで、頭に?が浮かび上がっていたらテッシュさんが部屋にやって来た。
「バン様には朝食後にウィルク様との歓談がございます」
晴天の霹靂だ、頭が真っ白になった。
あのスーパーパワーのお貴族様と同じ席に着くとか無理でしょうよ……。
しかし、無理です、出来ませんなんてとても言えない。いろいろお世話になってるのだ。
俺は覚悟を決めた。
「わかりました。ですが私は貴族様の作法を知りません。大丈夫でしょうか」
今まで何となく周りに居る人の真似をしながら乗り切ってきたわけだが、さすがにお貴族様と一緒に歓談するなんて想定外だ。
なんか間違って「はい、ぶっ殺です」なんて言われても困るのだ。
「バン様は主祖でございます。普段の生活を拝見する限り、特に問題はないでしょう」
テッシュさんはそう言ってくれたが、やっぱり不安は不安だ。
ベースの価値観が違うのはどうしても変えられないので、何処に地雷があるかわからない。一歩目で踏んだら、はい、サヨウナラなのだ。
俺はドキドキしながら朝食を食べた。
いつもは家族で食べているが、今日は応接室みたいなところで食べたので余計落ち着かない。
サラダにスープ、魚料理にパンがついて、さらにデザートまでついてる超豪華なものだったが、緊張しすぎて味が分からなかった。
朝食を食べ終わると、ここで待っててくれ、若様の支度が整ったら来ます、みたいなことを言われた。
もう緊張しすぎて疲れてきた……。体は疲れないけど気分は疲れるんだよね……。
しばらく待っていると扉が開き、テッシュさんと若様が入ってきた。
このまま座っていたらマズいかな?思って立ち上がって頭を下げたら、メイドさんに座ってお待ちくださいと言われてしまった。
ヤバイ最初からやらかしてる。
若様はゆっくりと歩いてやってきて、ゆっくりと俺の前に座った。
歩いて座っただけなのにめちゃくちゃ優雅でビビった。お貴族様すごい。
『茶を二つだ』
若様がメイドさんに言うと、メイドさんがテキパキと準備を始めた。
テッシュさんは大丈夫って言ったけどめっちゃアウェーの気分だよ……。
『名は、バンと言ったか』
「はい、霧の森村の大工、バンでございます」
あたりまえだけどめっちゃ見られてる。
一般人にはこんなの耐えられないよ……。
『お前の家族もこちらにいるようだな』
「はい。家族共々皆様に大変よくしていただき感謝しております」
俺は思わず頭を下げてしまった。あっやば!つい癖が!
若様、ふむ、って言ってなんか考えてるし。
この微妙な沈黙タイムが俺の精神力をガリガリ削っていく気がする……。
どうしよう……。
『お前のこれからの処遇についてだが……』
うわ、いきなり?心臓が爆発しそう……。
『何か希望あるか?』
その言葉にさらにびっくりしてしまった。空っぽの頭がはじけた気分。
え?希望言ってもいいの?
いや、これは絶対に罠だろ、回答ミスで一発アウトのやつだろ。考えろ俺!
「恐れながら……」
「以前のように村で家族共々過ごすことが出来れば幸いでございます」
もう、これ以上言えない。対貴族の語彙なんてフラフラ生きてきた俺にはないよ……。
『そうか……』
そう言って若様こっち見てる。
テッシュさんもメイドさんも護衛さんもみんな棒立ちでピクリともしないのが恐ろしすぎる。
ダレカタスケテ。
『ならば、そうするか。村へ帰してやろう』
へ?いいの?
『だが、クオルデンツェのために少し働いてもらう』
あ。やば。これは。
『これは父様とお前が会ってからの話にはなるが、お前には貴族になってもらう』
もう何も考えられなかった。
ただぼーっと若様の話を聞いていた。
『お前の村周辺が領地となる。領主となりしかと治めよ』
いきなり話のスケールが大きすぎてついて行けない。
貴族なんてムリムリムリカタツムリだよ。
「……恥ずかしながら、私に貴族様の持つ知識はございません」
そうなんです。無理なんです。次の村長やってくれというのですら断ってたんです。
『何もお前ににすべてやれとは言ってない。うちの者を貸してやろう』
外堀が埋められていく気がする。そもそも堀なんて掘ってもいないし。ドア全開のガバ防御だし。
『話は決まりだ』
決まってしまった。
『そう緊張するな。父様との会談で何事もなければお前は村へ帰れる』
安心しろ。
若様にはそう言われたけど全然安心できない。
もしなんかやらかしたら家に帰れないどころじゃなくなる気がする。
どうしよう……。
「バン様は応接室にてお待ちです」
「そうか」
俺が朝食を食べているとテッシュがそう伝えてきた。
前世日本の感覚だと待たせて悪いから早く食べなくてはと思ってしまうのだが、大貴族の俺が祝福の子のために飯を搔っ込んではお説教コースだ。
お俺はいつも通りゆったりと食事をしてから、きのう楽しませてもらったメイドと茶を飲みながら一言二言会話をしてからゆっくりと席を立った。
俺が応接室に入ると、バンはおもむろに立ち上がりこちらへ向かって頭を下げた。
そのあまりにもサラリーマンのような反応に、すみません!大変おまたせしました!と名刺交換を始めてしまいそうな勢いだったが、俺は大貴族の威厳を示すようにゆったりと歩きソファーに座った。
『茶を二つだ』
俺がメイドに茶を頼むと、バンはメイドのことをずっと目で追っていた。
やはりこいつも祝福の子らしく性欲が強いのか?それにしては隷祖の妻に随分と入れ込んでいるようだが。
少なくともこのメイドはやらん。この屋敷の中でもかなり可愛いお気に入りなのだ。俺は寝取るのは大好物だが寝取られるのは趣味じゃない。
『名は、バンと言ったか』
「はい、霧の森村の大工、バンでございます」
ド田舎の村出身というのに妙にこなれている奴だな。
テッシュや他の者が対応に戸惑ったというのも頷けるところだ。
『お前の家族もこちらにいるようだな』
「はい。家族共々皆様に大変よくしていただき感謝しております」
ふむ。
相変わらずぺこぺこと頭を下げるやつだな。
どうしても前世を思い出して俺もぺこぺこしてしまいそうになる。
それにいちいち言い回しが平民出身らしくない、かといって貴族らしくもない、変なやつだ。
『お前のこれからの処遇についてだが……』
さてここからが本題だ。
バンが貴族になることはほぼ決定しているが、一度腹の内を探っておかなければならない。
まぁ就職面接の一次面接のようなものだ。
万が一父様の最終面接に落ちてしまったら、あなたのご冥福をお祈りいたします、というお祈りメールを送らねばならない。
『何か希望あるか?』
「恐れながら……」
「以前のように村で家族共々過ごすことが出来れば幸いでございます」
とりあえず合格点の回答は引き出せたな。
あとは淡々と堀を埋めていくだけだ。
『そうか……』
『ならば、そうするか。村へ帰してやろう』
『だが、クオルデンツェのために少し働いてもらう』
村に帰りたいというのだから村へ帰してやるのだ。
少し重いお土産を持ってだがな。
『これは父様とお前が会ってからの話にはなるが、お前には貴族になってもらう』
『お前の村周辺が領地となる。領主となりしかと治めよ』
こいつが住んでいたのは元々は帝国東部貴族の領地だった。
領地だった。そう、祖父がことごとく滅ぼしてしまい、もうその貴族家は存在しない。
うちとしてはこれから西部方面へ兵を進めていくので東部に一つ重しが必要なのだ。
それは例え戦えない主祖であっても、十分に役に立つ。
「……恥ずかしながら、私に貴族様の持つ知識はございません」
『何もお前ににすべてやれとは言ってない。うちの者を貸してやろう』
知識は無いといいながら自分が何をやるかわかっていそうな口ぶりだな。
これならば教育もそれほど時間がかからないかもしれない。
これからはのんびりスローライフではなく、スパルタ貴族教育が始まるのでぜひとも頑張ってもらいたい。
『話は決まりだ』
『そう緊張するな。父様との会談で何事もなければお前は村へ帰れる』
本日はありがとうございました。追って最終面接についてのご連絡をお送りいたします。
俺からはお祈りメールを送らなくて済みそうだ。