「バン様、どうかお優しく……」
ぼんやりと照明魔法が灯る部屋。
そして、ベッドにはキャバリエ。
……カーテンの向こうにキャバリエの侍女さん。
落ち着かないよ!色んな意味で!俺は心の中で叫んだ。
カリーナのお腹もだいぶ大きくなってきた。
なんでか子供がお腹にいるときは仕事が休みな気がする。まぁ今は貴族が仕事ともいえるけど。
何もしてないような、しているような?
いや、今はお留守番が仕事か。あんまりのほほんと暮らしすぎて感覚鈍ってきちゃったよ……。
あぁ、そうだ。カリーナなんだけど、今はあんまりイチャイチャできないというか、メイドさんたちにブロックされてあんまり近寄れない。
普通に話したりは出来るんだけど、あんまりぴたっとくっついていたりするのはダメらしい。
なんで?って思ったけどそう言うものらしい。
なんか民間信仰みたいな感じだけど、カリーナもそう言ってたしそんなもん何だろう。
コロナの時はぴったりくっついていないと蛭が来ちゃうからで、あれは例外だったみたい。俺としてはちょっと寂しい。
そして、コロナは今ここにいない。なんか、豪邸に住んでる。
自分で言っておいてよくわかってないけど、豪邸に住んでるんだ。
そこには沢山の女性もいて、そこで一緒に暮らしている。なんでも人さらいにあった人たちだそうで若様が保護したんだって。
俺はそこに行っちゃダメだって言われたことで何となく察したね。多分綺麗な女性が多いんだろう。
じゃ何でコロナが?と思ったけど小学生くらいの子もいるんで一緒に遊んでるみたい。
ここには子供がいないし、それにあそこに居るのは田舎の農村から連れてこられた人が多くて話が合うらしい。
それは俺も思う。
スーパーど田舎マインドに貴族ムーブは疲れるよ。
それから、メイドさんが一人変わった。
ある日、日課の探知魔法をぶっ放したら部屋に反応があったんだ。ほんのうっすらとね。
何で?と思ってたんだけど、メイドさんに子供が出来てそれに反応したみたい。
たまたまカリーナのいる時にそれが分かったもんだから、俺の背筋に冷たいものがあったよ……。
まぁそれは杞憂で、メイドさん子供が出来たみたい……とおそるおそる伝えたら、部屋の中が感動の嵐に包まれた。
「よかったねー!」「おめでとうー!」
といって抱き合うカリーナとメイドさん。
後日、メイドさんの実家の本家の人。
簡単に言えば騎士家の当主の人から丁寧なお手紙迄いただきました。
俺馴染んでる?馴染んでるのかな?
この世界の貞操感?っていうのかな、それはまだまだ慣れません。
あと、キャバリエとは仲良くしてます。
お茶飲んだり、庭をお散歩したりね。
そして思った。彼女は根っからの貴族なんだなーってことに。
人の使い方とか話し方とかの洗練具合が全然違う。そんな彼女を見て日々貴族のお勉強をしてます。
そうそう、キャバリエの名前が変わったんです。
オスローグ・キャバリエになりました。
いやー名前が変わると結婚したんだなという感じがしていたんだけど、この世界じゃ普通は結婚しても名前は変わらないらしい。今回は特殊なんだそうだ。
そんな話の中で聞いたんだけど、その特殊な例がガルフィス様だそうで、カシア様と結婚するのに婿入りしたらしい。
そんな感じの日々を過ごしていたら、使用人さん、それも此処にいる一番偉い人が俺の仕事部屋迄やって来た。
何の話しかなーって軽く考えてたら、なんかやたらと話しづらそうにしてる。
え?もう重い話は勘弁だよ……って思っていたらやっと話し出した。
「キャバリエ様のことでございます」
「キャバリエに何かあったのか?」
話と話の間がいつもより二、三個多い気がする。
なんだろ、なんか深刻なことでもあるのかとちょっとドキッとする。
「バン様は……お手を触れたことはございますか?」
「あぁ。触れたことはあるが」
はい。お散歩のときにお手をどうぞってやったことがあります。
でも何でそんなこと聞くんだろ?メイドさんやら使用人さんにも見られてる気がするんだけど。
「何か……何か、感じられましたか?」
?
何かよくわからない質問だな?
「何か、とは何だ?」
流石にこれは質問を質問で返させていただきます。
ってところで気づいた。
あー、これはあっちの話だ。
キャバリエとちゃんとできますか?みたいなね。流石に俺も学習しました。はい。
「大変失礼いたしました。その、不安感などは感じませんでしたか?」
「無いな。キャバリエとは知らぬ仲でもないし、不安などは感じない」
俺がそう答えると使用人さんの顔はぱーっと明るくなった。
ごめんよいつも鈍くて……俺は頭の中で謝り倒した。
「バン様、どうかお優しく……」
そしてこうなったわけだ。
あのカーテンの向こうにはキャバリエの侍女がいる。見守り体制もばっちりだ!
いや、落ち着かないって……。
使用人さんに、見届け人付けてもいいですか?って言われて、断ったら変かな?と思って「かまわん」とかかっこつけた結果がこれだ。
やっぱりかまいます……経験はあるので大丈夫です……って今からでも言いたい。
ええーい、ままよ!
俺はキャバリエの肩に手を置いた。
そして、一瞬体がぞわってなった。
キャバリエもぞわってなってた。
その感覚を味わって、この前使用人さんに言われた言葉の意味が分かった。
「バン様は主たる者との交わりは初めてと思われます。肌が合わぬ場合はどうぞ、ご無理なさらず……」
なるほどこういう意味か……。
簡単に言えば魔力を感じる、それも自分と同じかそれより強い魔力を。
しかも裸で。身を守るものなんてなーんもない状態で。
これは怖いと思う人もいるかもしれない。なんとなくナイフを持って抱き合っている感覚だ。
これを一番的確な言葉で言うなら『玉ひゅん』って感じかな。
前世で屋根から落ちかけて以来、高いところに登るとひゅんひゅんしてたけどアレに似てる。
初めての人には教えてあげたい。……こっちの世界でもそんな感覚あるのかな?
なんか、いっぱいいっぱいなせいでで余計なことを考えている気がする。
それにしても、これ相性悪いと大変なことになるのでは……?
もし嫌悪感とか持ってて、それを魔力で感じてしまうってことになったら?
アレがアレしなくなってしまうかもしれない……。
こっちのことに使用人さんがビクビクしてるのもわかる気がする……お家の一大事になるよ……。
でも幸いなことにキャバリエからはそんな感じはしない。
どちらかと言えば柔らかい?温かい?そんな感じがする。ちょっと安心。よかった嫌われてはいないみたいだ……。
あ!
俺がビビっているということはキャバリエも?確かにちょっとプルプル震えてる。
何か自分の事ばっかり考えてデリカシーのない奴って感じになってしまった……。
彼女も怖いよね。ごめんね。
「キャバリエ、どうぞ楽に」
俺はそう言ってキャバリエの手を取ると、自分の胸にそっと当てた。
心臓がバクバクいっているのが自分でもわかる。
「お恥ずかしいですが、キャバリエを前に緊張してしまいまして……」
自分で言っておいてなんだが、少し恥ずかしい。
照れ隠しに笑ったら、キャバリエはきょとんとした顔をして、それからニコッと笑ってくれた。
チュン、チュン。
鳥が鳴いている。これは典型的な朝チュンというやつだ。
横にはキャバリエが寝てる。
……可愛いな。
俺って自分から見てもちょろい奴だな。
「バン様、おはようございます」
俺がそっと起き上がるとキャバリエの侍女さんがすすすっと近寄ってきた。
昨日の夜からご苦労様です。
魔力の気配からなんとなくわかるんだけど、昨日の夜から今までいろんな人が入れ代わり立ち代わりにこっちの様子を伺っているのが分かった。
なんというか、はい。頭の下がる思いです、はい。
そうするとキャバリエも起きたみたいだ。
毛布がむくむくと起き上がり、ちょっと寝ぐせのついた彼女が現れた。
「キャバリエ様、おはようございます」
「おはよう」
毛布にくるまっている。
キャバリエの反応は、なんとなくフツーって感じだ。この辺がなんちゃって貴族との違いなんだろうか……。
しかし、改めて思うとすごい光景だな。夜を女性と過ごして、その朝にそのまま挨拶されてるんだから。
やば、余計なことを考えていたら恥ずかしくなってきた。平常心、平常心。……平常ってなんですかね?
「……私、バン様から愛をいただきましたのよ」
「キャバリエ様、本懐を遂げられ私もうれしく思います」
キャバリエはうっすら涙が浮かんで、侍女さんも涙は浮かんでいないけどとても嬉しそう。
俺はにこっと笑いのが精いっぱい。頭の中身が飛んでいきそうな気分だよ……。
「お風呂の準備ができております。いかがいたしましょうか?」
頭空っぽにしてたら侍女さんにそう言われた。
昨日はそのまま眠ってしまったから、たしかにちょっとさっぱりしたい気分。
露天風呂に入って朝食だ!
「では、いただこうか。キャバリエ、一緒に行きましょう」
そう言って俺はキャバリエの手を取った。
俺は思ったね、やっちまったと。
キャバリエの魔力が一瞬揺れた、これは何となくだけどわかる。動揺だ。
侍女さんも顔には出してないけど動揺してるな。
いやーなんというか頭空っぽにしたせいで前世感覚につられたと言いますか、なんというか。
結婚はしなかったけど、彼女もいたしそんな関係もあったんだ。
それで昔いった温泉旅行で朝起きた時に俺は言ったんだ、「朝風呂行こうか!」ってね。
それが頭空っぽ効果でそのまま出てしまいました。はい、言い訳です。
あたりまえだよ!
肌が触れるだけでビビるこの世界で裸の付き合いなんてあるわけないでしょうよ!
……言ってしまったものは仕方ない!誤魔化そう!それが一番だ!
「おい。早く準備をしろ」
ごめんなさい!本心では言いたくないんです!でも偉そうな言葉遣いじゃないと文官さんにお説教されるんです!
俺は頭の中で侍女さんにジャンピング土下座を決めた。それはもうビシッとした完璧な土下座が決まった。
「しっ、失礼しました。すぐにお着換えをお持ちします!」
部屋の中が急にあわただしくなった。
使用人さんもあわてて中に入ってくる。
『油断大敵』
今の俺に一番似合う言葉だ。