「バン様、どうぞこちらに!」
「わかった!」
俺はナンボナンの屋敷の中を急いでいた。
普段はいそいじゃだめだよーって教育係のひとに言われるけど今はそんなこと言ってられない。
武官さんに小声で尋ねた。
「……ガルフィス公はどうか?」
「……未だ、戻らず」
クオルデンツェはシュピアゼイクと戦争をしており、ガルフィス様はその最前線に立っていた。
だから、この前はあんなに急いでいたわけだ。
そして、そのガルフィス様が魔力不全になってしまった。
俺は村の爺さんを思い出した。
昔話ではけっこうブイブイ言わせていたようだが、魔力がなくなったらあんなにしょぼくれてしまっている。
魔力の存在、改めてそのデカさを思い知った。
そして、それと同時に嫌な想像が頭に浮かぶ。
最前線で向かい合う主祖同士、どちらかの魔力がなくなってしまったら……。
それは開戦の合図だよねぇ……。
クオルデンツェ軍はライシュリーフ城から少し進んだところにいたらしいけど、今は押し戻されて城に籠っているそうだ。
そして、俺はそこに行く。
いやー……正直言えば行きたくない。
行きたくない、と言っても助けに行かないというのもそれはそれで嫌だ。
俺にだって人なりに情はある。
「バン様は我々の指示で魔法を発動していただければと思います」
「あぁ、以前にウィルク殿から聞いている」
前に魔法を習った時に若様から言われた。
お前の戦力はあてにしない。武官の言われた通りに動けば十分だ、と。
まさかそんな日が来るとは思わなかったけどね……。
「バン様」
キャバリエがとととっと走り寄ってきて鎧姿の俺に抱きついた。
「どうぞ、ご武運を」
「ありがとう、留守を任せるよ」
そう言うと、すすすっと離れていった。
今回は急ではあるが、通常の予定通りにガルフィス様の援軍に向かうということになっている。
自分で言っておいて無理があるとは思うが、詳しい事情については俺とその周りの限られた人しか知らされていないのでしょうがない。
ついこないだまで攻撃魔法を知らなかったやつが戦場に行くんだから、ただ事ではないと思っているようだけれど、キャバリエは静かに見送ってくれた。
そして、ちょっと離れたところからカリーナとコロナが見送ってくれる。
カリーナはうっすらと涙目だ。コロナはバタバタと動き回る鎧を着た人たちに驚いているみたい。
俺はこっそりと右手の親指を立てる。
子供の頃にカリーナに教えた、この世界では二人だけの合図だ。
(大丈夫)
カリーナも同じ合図を返してくれた。
「では、行ってくる」
俺はかっこつけてみた。
テンションを上げるために。
やっぱこわいよ!たすけて!
それでも俺は勢いよく飛び出した!
……。
勢いよく飛び出したもののカッコつかないところがある。
俺は馬には乗れない。
当たり前だ。前世でも乗れなかったし村には乗馬用の馬なんていなかった。
徒歩?
武官さんが馬に乗ってるのに大将ポジが徒歩では示しがつかない。
ではどうなるか。
お貴族様用の馬車に揺られています。ハイ。
観光気分かよ!って自分でも思います。
まさかこんなことになるとは思ってなかったけど、乗馬習っておけばよかったよ……。
馬車の周りは従祖の武官さんにガッチリ囲まれ、その周りは普通の兵隊さんに囲まれている。
そしてみんなピリピリしてる。
そんな時、俺の魔力探知に反応があった。
え?
ここまで来ても俺は何処か他人事だったのかもしれない。
戦争なんてどこか遠くの事なんだって。
俺はビビりそうになる気持ちをこらえて武官さんにこう言った。
「距離は遠いが主祖がいるぞ」
「主祖がいる」
山陰に身を隠した男はそう言った。
その言葉に護衛の一人は目に魔力を込める。
「クオルデンツェ軍です。指揮官は……わかりません。ですが馬車が見えます」
遠くに見える隊列、それは明らかにクオルデンツェ軍のものであったが、交差する槍に絡みつく蛇の旗は掲げられていない。
「クオルデンツェ・ウィルクではないようです。そしてニューネリーから来たにしては早すぎます」
『利鎌』と呼ばれる男たち。
シュピアゼイクの主祖兵を含む影の部隊であり、公にできない仕事を主な任務としている。
「だとすれば最近報告のあった影家の者か。何か知っていることはあるか?」
その質問に護衛は首を振った。
「詳細は未だ掴めず」
シュピアゼイク家はクオルデンツェに間諜を放っている。
その報告の中に、ナンボナン市に主祖兵が配置されているようだというものがあった。そして、それは最近になり二人となったとも。
これは麦と鎌作戦の奇襲を受け、肝を冷やしたクオルデンツェによるナンボナン市の防御力強化であると考えられていた。
そして、ライシュリーフの背後を固め、来る大決戦に向けての準備であろうと。
また、最近になりナンボナン市郊外でクオルデンツェ軍により大規模な演習が行われていた。
それは主祖兵も参加するもので、明らかに何らかの主張が含まれているように考えられる。
「……奴らの目的は恐らくは我らの足止めでしょう」
通常なら影家の主祖兵はその存在を隠すことで、敵の侵攻をためらわせる効果がある。
だが、今回のように明らかに主祖の存在を主張する場合はどうだろうか。それは暗に「お前たちは見えている」そう言ったメッセージに近いものだ。
シュピアゼイク家同様にクオルデンツェ家も各所に間諜を放っている。
自分たち「利鎌」についても、ある程度の情報は掴んでいると考えて間違いはないだろう。そうシュピアゼイク側も考えていた。
「おそらく、クオルデンツェ・ウィルクはこちらから来るのだろう」
麦と鎌作戦のカウンターである蛇の牙作戦において、ウィルクは従祖兵のみの超スピードをもってシュピアゼイク軍を奇襲した。
ならば同じ手段を用いることは十分に考えられる。
だが、少数の兵のみを率いた奇襲は待伏せに弱い。
クオルデンツェの内地を駆けるならまだしも、統治の甘い外地を少人数で移動するなど騎士たちが許可するわけがない。
実際にナンボナン奇襲時にシュピアゼイクは貴族家の残党をけしかけているのだ。
だからこそ、今回のような偵察および護衛の兵をあらかじめ配置することは理にかなっている。
「クオルデンツェが停止します。いや、二手に分かれました」
先頭の隊列はそのまま前進を続ける、そして主祖を含む隊列はその場で停止した。
「あちらもこちらも探知したようだ」
従祖兵はそのまま前進を続けライシュリーフへの援軍に向かう。
だとすれば。
「決まりだな。クオルデンツェ・ウィルクはここに来る。決して見逃すな」
主祖兵の言葉に護衛たちは無言で頷き、遠く見える隊列をじっと見つめる。
「ガルフィスが魔力不全を起こした以上、こちらに利がある。あの主祖を合流させなければ我らの勝ちは揺るがない」
敵の主祖がいる以上、そのまま放置してライシュリーフに向かうことなど出来ない。
主祖兵かクオルデンツェ・ウィルク、もしくはその両方で対処しなければ、常に後方を脅かされる危険性を孕んでいる。
ライシュリーフ城はマクニス、キンドロアの二人の主祖によって攻められており、ガルフィスの魔力が戻らない以上、奪還は目に見えていた。
たとえ一人の主祖が合流したところで、二対一では時間の問題だ。
時間を稼ぐ、それが彼らの新たな目標となった。
「当主様に伝えよ。影家の者を足止めしていると」
利鎌とクオルデンツェ軍のにらみ合いが始まった。
俺の乗った馬車は停止し、その周りをクオルデンツェ兵が囲む。
ここでにらみ合いを続けて、若様が到着するまで粘る算段らしい。
先頭の隊列はライシュリーフ城に援軍に向かってしまった。
大半の従祖兵はそっちにについて行ってしまったので、こっちに残った従祖兵は少ない。
ここにきて俺は魔力の大切さを思い知らされた。
魔力持ちが少ないことがこんなに心細いなんて……隷祖の兵はそれなりにいるけれど全然安心できないよ……。
「私はこれからどうすれば良い?」
「バン様は引き続き相手方の主祖兵の位置をお知らせください。ご安心ください、奴らも早々には動けませんので」
俺は馬車に残った副官さんに尋ねたら、大丈夫!という返事が返ってくる。
正直言って全く安心できない。
武官さんたちじゃなく、俺のせいで俺が安心できない。
パワーください!パワー!
一日
二日
三日
四日……
俺は若様を待った。
若様来ないじゃん!助けてー!
「若様は今どのあたりだろうか……」
「申し訳ありません、今だ連絡は入らず。ですがバン様のご活躍により必ずや戦況は良くなると思われます」
俺はついつい何度目かになる問いかけをしまったが、武官さんは嫌な顔一つせずに答えてくれた。
武官さんゴメンナサイー!でもめっちゃ怖いー!
俺は平静を装って心の中で叫び続けた。
その理由はいろいろある。まず目の前に敵の主祖がいる。
そして……。
魔力のプレッシャーが来る!
ほらっ!来た!ヤバイ!コワイ!イノチガアブナイ!
主祖による威嚇だ。
感情を魔力でぶつけるようなものなんだけど、まぁ敵同士だしね。
どんなのが来るのかと言うとー「殺意」。まぁーそうだよねー敵だもんねー。
タスケテ。
隷祖の兵隊さんたちもアワアワしてる。
従祖の武官さんたちもぐっと唇を噛みしめている。
「……バン様。お願いします」
「あぁ、わかった」
そして俺も威嚇する。
いろんな魔法と一緒に教わったけれど、ちょっと苦手。これがなかなか難しいんだよ……。
やり方っていうよりも、気の持ちよう?みたいな?
それというのが、もちろんコワイ!じゃ威嚇にならないから「殺意」を込めないといけないんだけど、平和ジャパンを生きてきた身にはこれがなかなか……。
というわけで「ヤッテヤンヨー!ゴラァ!」って感じで誤魔化してる。
気分的にはチワワが大型犬にめっちゃ吠えてる感じだ。
でも何でか好評。
兵隊さんたち元気になるし。
武官さんたちは「お見事です」って言ってくれるし。
でも若様早く来て……タスケテ……。
「ぐぅ……」
クオルデンツェ軍と対峙した利鎌はその場を動けずにいた。
それは予定通りだとは言え、主祖の威嚇合戦が始まり完全に足止めをされてしまっている。
「まさかクオルデンツェの影にこれ程の武闘派がいたとは……」
その威嚇は闘争心にあふれるものだった。
近年のクオルデンツェにおいて武に優れたものといえば歴戦のガルフィスに加え、先の戦いで名を上げたウィルクしか知られていない。
しかし、目の前には闘争心にあふれる主祖兵がいる。
それは即ち、間諜の情報に誤りがあったということだ。
影に生きる利鎌のような者たちにとっては、情報の誤りは自分たちの生死に直結する。
無暗に動くことは憚られた。
自分たちの命が惜しいのではない。
任務を果たすことが出来ないことを恐れたのだ。
それゆえに動きが遅れた。
「伝令ー!」
息を切らせた伝令の兵士が合流する。
「クオルデンツェ軍の本隊がヴォイストラ北部を抜けライシュリーフ城に迫っております!クオルデンツェ・ウィルクです!」
予想も出来ない報告に皆が顔を見合わせた。
「何故、ライシュリーフにクオルデンツェ・ウィルクがいるのだ!決して見逃すことはなかったはずだ!」
にらみ合いを続けてからと言うものクオルデンツェ軍の動きはおおよそ把握している。
だが、その中に主祖はいなかった。
そして、伝令の兵は言葉を続ける。
「旧アメリア街道を抜けての奇襲です!お戻りください!お早く!」
それは、決して抜けるはずがない侵攻ルートだった。
利鎌の主祖兵は膝をつく、そして、悔しさに拳を打ち付けた。
「バン様!こちらです!」
俺はライシュリーフ城の中を走っていた。
でも、援軍じゃない。
俺が待ちぼうけをくらっている間に、若様は別ルートでシュピアゼイク軍をぶち抜いたそうだ。
若様すげぇ。
でも今はそれどころじゃない。
さんざんにらみ合いを続けていた敵の主祖がいなくなったのを確認してから俺は走った。
身体強化は全開、武官さんたちにも全開で文字通り自分の足で走ってきた。
大人になって初めて全力で走ったけど時速百キロくらい出たんじゃないかな。ちょっと怖かった。
なぜこんなに急いでいるのかといえば。
「早急に癒しを!」
そこにはうめき声を押し込むガルフィス様がいた。
ライシュリーフ城を攻めていたシュピアゼイク軍を若様が打ち破った時に、ガルフィス様は敵の魔法を受けてしまったらしい。
その怪我は酷く、ちょうど近くにいた俺が呼ばれたというわけだ。
「ガルフィス様!」
俺は体に手を置いた。
何だこれ……魔力の動きがめちゃくちゃだ……これが魔力残滓……。
俺は全力の治癒魔法を発動した。
キラキラした光がガルフィス様を包む、すると。
「バン……か。世話をかける……」
か細い声。
かつての威厳にあふれた姿を思い出すと胸が締め付けられる思いだ。
「ガルフィス様。私はしばらくこちらにおります。何かありましたらお呼びください」
ガルフィス様は「頼んだ」と小さく呟いた。
正直いろいろと思うところはある。
だが、俺にはもっとヤバイ役目が待っている。
このライシュリーフ城を守らないといけない。
えー!無理だって!
バンのお留守番(ライシュリーフ城編)はじまるよ!
始まらないでー!
俺はまたまた心の中で叫んだ。
「お祖父様か、元気だと良いのだが……」
ナンボナンへ向かう馬車の中で、調印式の出席者リストを確認しながら俺はそう呟いた。
どうしても、ライシュリーフで傷つき倒れたあの姿を思い出してしまう。
俺の治癒魔法を受けた後にライシュリーフ城まで運ばれ、そこでもバンによる治癒を受けたそうだが、祖父から送られてくる手紙には手の震えがみられたのだ。
今回の戦いの発端は祖父の魔力不全からはじまったわけだが、それはクオルデンツェのトップシークレットだ。
だが、さすがに調印式に祖父が現れないというのは怪しすぎるということで、参加するということが決定した。
あれから魔力不全は発症していなかったが、またいつ発動するかはわからない。
状態によっては不参加という事も考えられたが、今回は何とか間に合ったようだ。
「バン様も気をもんでいたようですが、無事に到着されたようです」
「あぁ、何よりだな」
副官の話によると、祖父の移動にはバンが同行したのだそうだ。
治癒魔法役という事もあったのだが、もし魔力不全を起こした場合にはバンの「元気魔法」をつかう腹積もりだったとか。
確かにあの魔法は隷祖でもわずかな時間ながら魔力を持たせることが出来る。
それで魔力不全を誤魔化そうというのだ。
だが、さすがに探知魔法を使われれば魔力量がおかしなことはすぐにわかってしまうので本当に非常時の備えだったのだろう。
幸いなことに祖父の魔力が切れることはなかったので、バンの出番はなかったわけだが。
「思っていたよりも役に立ったな。お祖父様からも、あいつにつけた武官達からも評判も良いようだ」
俺としてはぽっと出の祝福の子にそれほど期待してはいなかったのだが、バンは武官達の指示通りに動き、見事にシュピアゼイクの主祖兵の足止めに成功したようだ。なんでも外地にまで入り込んでいたそうで、もし俺がナンボナンからライシュリーフに向かうルートを取っていれば奇襲の可能性があったそうだ。その報告を聞いてさすがに俺も肝を冷やした。
「えぇ。敵の威嚇に一歩も引かない見事なものだったそうです」
そう、主祖同士の戦闘は大体威嚇から始まるのだが、魔力が低い上に初めて使うにも関わらずなかなか上手くやったようだ。
この辺りは個人の感覚によるものなので何とも言えないのだが、それは闘争心にあふれたものだったと武官が言っていた。
あぁ、この辺りをお祖父さまが気に入ったのかもしれないな。
「そういえば、そろそろ出発したころか?」
「はい。こちらが到着する前に出発する手はずですので」
俺はそうか、と小さく返事をした。
馬車はゆっくりとナンボナンへ向けて進む。
「若様、よろしいでしょうか」
「あぁ、わかった」
俺にはこれから大仕事が待っているのだ。
ゆっくりと馬車のドアが開かれると一台の馬車が止まっていた。
「ロミリエ公、どうぞこちらに」
「バン様、そろそろ出発いたします」
「あぁ、わかった」
馬車のドアが閉じられると、そう間を置かず馬車が動き出した。
「オスローグ領、どのようなところか楽しみですね」
「そうですね。特に何かあるというわけではないそうですが、良いところと伺っています」
そしてキャバリエも一緒だ。
というか関係者御一行様というか、新制オスローグ家に参加する人たちがみんないる。
もちろんカリーナとコロナも別の馬車に乗っている。
予定よりちょっと早くなったが、ついに自分の領地に出発する日が来たのだ。
というか、うちの村のあたりなんで俺にとっては里帰りに近いんだけれども。
間違っても「いやーうちの村の名物はド田舎。なんもないところです」なんて口が裂けても言ってはいけない。
俺はニューネリー生まれのシティーボーイに経歴ロンダリングされているのだ。
「今日は何時にも増してすごい人ですね」
キャバリエは馬車から見えるナンボナン市の様子を少し驚いた様子で見つめている。
確かにすごい人だな。
比べるものが故郷の村しかないが、前世の記憶で言えばアメ横みたいな感じだ。
雑多な人がわいわい騒いでちょっとダーティーな雰囲気が似ていると思うんだよね。
それに今日は。
「ウィルク様が凱旋されますからね。ナンボナンの民も楽しみにしているのでしょう」
そう、若様が帰って来るのだ。
俺がライシュリーフ城でひーこら言っている間に、若様はシュピアゼイク家の先代当主と現当主をぶち抜いて、さらには首都まで乗り込んだそうだ。
若様やべぇ。
そして首都も落として、新しい当主になったシュピアゼイク家のお姫様を連れてこのナンボナン市までやってくるのだ。
それでここで平和条約の調印式が行われて、晴れて停戦という運びになるらしい。
調印式、か。
当たり前といえば当たり前なんだけど、これにはもちろんガルフィス様も出席する。
そこで俺には極秘任務が与えられていた。
ガルフィス様は魔力不全を発症してしまったわけだけれど、これは極秘中の極秘になっている。
妻であるキャバリエにすら秘密だ。
出来ればずっと隠し通しておきたいところだけど、さすがに調印式に出てこないのは怪しすぎるということで、俺に白羽の矢が立ったわけだ。
ついに俺の開発した『元気魔法』の出番がやって来た。
この魔法は、少しだけど体の中に魔力を貯め込むことが出来る、この性質を使って魔力不全を誤魔化そうという魂胆だったのだ。
まぁ幸いにしてガルフィス様の魔力不全は起こらなかったので杞憂ではあったのだけれど、俺としてもそんな大役が回ってこなくて安心したよ。
まぁそんなわけでルークセ様とガルフィス様と俺で、戦争大変だったねーなんて感じの家族トークをして過ごした。
ガルフィス様はライシュリーフ城でしばらく一緒に暮らしたのもあって、結構打ち解けてたんだけど、ルークセ様も話してみたらけっこう普通のおっちゃんって感じで楽しかった。
前世を含めておっちゃんたちの中で育ってきたからなんか落ち着くわー。
ただ、ルークセ様に「あっちの方もいい感じだね!」って話題を振られてちょっと焦った。エロオヤジか。
ガルフィス様もめっちゃ喜んでるし、久々にカルチャーショックを味わったね。
あとは、若様の子供を三人で見てきたりとけっこうホンワカムードを醸してた。
まんま久々にあった親戚って感じだな。まぁほんとに親戚か。
それと、ちょっとびっくりだったんだけど、若様の子供の髪色が俺とそっくりだった。
前世ではちょっと気まずい空気が流れそうなところではあるけれど、これはカシア様、つまり若様と俺のお婆様にあたる人の髪色らしい。
この世界だとこんな感じの隔世遺伝?みたいなことがよくあるらしく、家族で髪色ばらばらとか当たり前みたい。
俺の子供もそろそろ生まれるけどどんな髪色になるのかな?
……髪色によっては頭がパーン!ってなりそうだから出来れば青とかじゃないほうがいいな。
さて、そんなホンワカムードだけれども、いまはけっこーピリピリしてる。
それは調印式に合わせて他の家の主祖が集まってきているからだ。
流石に立会人もなく講和とはいかないらしくて帝国からも王国からも人が招かれるそうだ。
そこで邪魔になったのが、そう私でございます。
直接的には言われなかったけど、重要人物が集まる中に良くわからん主祖を置いておくのはまずいらしいね。
まぁ当たり前か、あぶねーもん。
まだお披露目の時期は早いという事で、俺はちょっと早かったけど領地に向かうことになったのだ。
そんなことを考えている間にナンボナン市はどんどん遠ざかっていく。
早く帰りたいなーと最初は思っていたけど今になってみればちょっと寂しくもあるね。
まぁそれはともかく。
「あー!温泉でも行ってゆっくりしたいなー!」
にわか貴族は疲れるのでちょっとは羽を伸ばしたいのである。
あ?
あれ?キャバリエがポカンとした顔でこっち見てる。
あれ?声でてた?
そして、みるみるうちに顔を赤くしていく。
「わ、私もご一緒させていただきます……」
キャバリエの声はどんどん小さくなっていく。
朝風呂ご一緒事件の再来である。
でも、もう大丈夫。
俺も慣れたものだ。
「えぇ、是非」
自信満々にそう答えた。
俺は学んだんだ、貴族とはごり押しで何とかなると。
「何処かいい場所があったら教えてくれ」
一緒に乗っている使用人さんにもそう伝えておく。
なるべく偉そうな感じでね。
…………。
やっぱり貴族様無理です!助けて!
俺の心の中の叫びを無視して馬車はどんどんと新たな領地へ向けて進んでいった。
これでエルオ大陸の転生者は完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
その後の話もアイデアはあるので、またいつか書ければいいなと思っています。
それでは、また。