俺は村外れの爺さんの家につくと入口の戸を叩いた。
「こんにちは」
声をかけたが返事はない。
でも何となくだけど人のいる気配がする?
そしてなんか近寄って来ている気がする?
そんな事を考えていたら戸が開いた。
「誰だ、お前は」
白髪でヨボヨボの爺さん、第一印象はそんな感じだった。
「こんにちは、僕は大工のアルトの息子、バンです。これは父から渡すように頼まれました」
俺はそう言って干し果物の入った袋を渡す。
「お前がアルトの言ってた魔力持ちか。こんな魔力不全を発症して、魔力残渣のせいでろくに動けない老いぼれに何のようだ」
爺さんは俺の手から干し果物の入った袋を奪いとった。
おーう……。
けっこう重要ワードでたな。
魔力不全ってのがオヤジの言ってた、魔力が出なくなるってやつかな。
魔力残渣は、これがたぶん戦争の後遺症なんだと思う。
「僕、魔法が使えるようになりたくて」
俺がそう言ったら爺さんはキョトンとした顔をして笑った。
「アルトのやつは何も教えてないんだな!良いだろう儂が教えてやる!」
何が爺さんツボにハマったのか知らないが、急に上機嫌になった。
まぁヤバそうなら全力ダッシュすることにして、俺は爺さんの家に入ることにした。
爺さんの見た目からは想像できないくらい、豪華な家のなかの一室に俺は通された。
コイツけっこー金持ちだな?身動き出来ないとか言ってた割にいい暮らししてそうだぞ?
そんなことを考えてたら爺さんが話し出した。
「始めに言っておこう。儂はもう魔法が使えん、だから教えることは出来ない」
けっこう出落ちだった。
「使えないと、魔法は覚えられない?」
たぶんこの辺は大事なとこなんだろうなーと思ってつついてみる。
当たって砕けろだ。
「あぁ、魔法は発動した時の魔力の揺らぎを覚えて使うものだからな」
それね。
何となくそんな気はしたんだ。
そもそもが、考えるな!感じろ!って俺も薄っすら思ってたしね。
「この手を見ろ」
爺さんは震える手を見せてくれた。
プルプル震えている。
「若い頃に従祖兵として戦争に行ってな、お貴族様の魔法がかすっただけでこのザマだ。魔力が切れた今では痛みでまともに動けんわ」
新ワード来ました。
「従祖って?」
なんだそんなことをも知らんのか?という表情で爺さんは説明をしてくれる。
ツンデレか。
「従祖は、お貴族様……主祖と隷祖の間に生まれた魔力持ち。俺やお前のような人間だ」
ちょっとわかった。
お貴族様は大魔法使いで、主祖。
隷祖ってのが魔力のない平民ってことか。
てか、親父もお袋も大事なことなーんも説明してねーじゃん。
「お爺さんは昔、戦争に行ったんだね」
従祖兵って言葉で何となくわかった。
クレーンやバックホーにもなれるんだ、戦場ではきっと戦車になるんだろうなー。
「あぁ、長引いた戦争があってな。儂は領主さまに知られていたからの、儂が行かなければ村民全員が徴兵されただろうな」
「お前も気をつけろよ」
爺さんはそう言って笑った。
人生に疲れた系の笑いはカッコいいけれど、話重くない?
みんな四歳歳児に容赦なくない?話の内容めっちゃヘビーなんですけれども。
あっ!親父の言ってた、目立つなってこのことか!ちゃんと教えておけよ!
「お父さんも、お母さんも詳しく教えてくれなくて……」
こうなったら子供丸出して、何でもかんでも聞いてみせるわ!
「……儂が知っていることなら教えてやろう。礼はいらん、持っていけ」
爺さん、案外優しい?
いや、これはたぶん俺に同情してるんだな。
まぁでも、ありがたく頂戴することにする。
爺さんの話を要約すると、だいたいこんな感じだった。
お貴族様は主祖と呼ばれる魔力持ちで、その力はめっちゃすごい。
爺さんや俺みたいな従祖が百人束になっても勝てないらしい。うわ、こわーい。
それでお貴族様に仕える従祖は騎士と呼ばれるらしい。らしいというのは爺さんもよくわからないんだと。ただ、騎士も従祖だけど、俺みたいな野良従祖より断然強いから絶対に逆らうなだと。また、怖いの出てきたな。
それで何で俺みたいな野良?従祖が生まれるのかと言うと、村を発展させるためとか、防衛戦に使うため、とかそんな理由らしい。
まぁ、そうだろうね。自分で言っていいのか分からんけど、絶対便利だもん。
それで、魔法。
ま!ほ!う!
今日の主題だ。
さっき聞いた通り、考えるな!感じろ!って言うのは教わる魔法らしい。
魔法が使える人の側に行って、その魔力の揺らぎを感じ取って体に覚えさせる感じだそうだ。
後は俺のパワーアップ魔法。
あれは身体強化魔法というもので、魔力持ちならだいたい使えるらしい。
おれ天才じゃなかった。
ちょっと落ち込んだけど、力を込めるなんて誰でも出来るだろう?魔力持ちにはそれに魔力が入るだけだ。そう言われて何となく納得した。
それから、教わらなくても使える魔法には個人差があるらしい。爺さんの場合は満遍なく強化されるタイプだったそうだが、耳が良くなったり目がよくなったりするタイプもあるんだとか。これは面白そうだな。
そして、爺さんの次の一言。
「身体強化は他の人間にかけることも出来る」
その言葉には衝撃を受けたね。
これ俺でもいけんじゃね?爺さんやり方教えて!って言おうとしたけど、爺さんもう使えないんだった。残念。
でも何となくは教えてくれた。
身体強化の魔力の揺れを水の波紋みたいに相手に伝えるのだそうだ。
魔力があるころは親父たちに身体強化をかけたりしていたそうだ。かけた側の感覚しかわからないが力が二倍くらいにはなるんだとか。
これは結構すごいな。
親父や弟子の職人さんに感想を聞いて、後で自主練してみよう。
とりあえず俺の身体強化魔法を発動してみて、爺さんに感想を聞いてみたんだが、魔力不全と魔力残渣のせいで殆ど感覚がないらしい。
残念。役に立たなくてすまんな、と言われてしまいちょっと後悔。
ちょっとしんみりしてしまったが、爺さんは話の続きをはじめた。
それから、波紋といえば探知魔法があるぞ。
爺さんはそう教えてくれた。
なんでも、魔力を波立たせて魔力持ちを見つけるレーダーみたいなことが出来るらしい。
え!それってけっこー便利アイテムじゃない?と思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
従祖には燃費が悪すぎて、そうそう使えない代物らしい。がっくり。
「あぁ、大事なことを忘れておった。お貴族様とその騎士にはなるべく近づくなよ」
へ?どういう事?
「お貴族様は魔力持ちが近寄ることを嫌うからな。爆撃魔法で消し飛ばされるぞ」
わーお。
魔力で攻撃を受けると今のじいさんみたいに、魔力残渣がたまって体の調子が悪くなるんだと。
従祖の魔法なんか主祖にはほとんど効かないそうだが、それでも怪我は怪我だ。
だから正体不明の魔力持ちがいたら、やられる前にやれってことになるらしい。
お貴族様は探知魔法なんて朝飯前らしく、ちょっと出かけるくらいでもすぐにぶっ放すらしい。
こそこそしてると、さらにやべーってことか。
親父さぁこれ一番大事なところじゃない?
お袋もドヤ顔している場合じゃないんだよ?
「今のお前さんに必要なことはこんなものか。何かあったらまた来るがいい。こんな老いぼれが役に立つか分からんがな」
爺さんはそう言って笑った。
俺はトボトボと家に帰る。
爺さんの話を聞いていて思ったのが「らしい」とかそんな表現が多かったことだ。
ちょこちょこ弁明していたが、魔法はどうしても感覚的な要素が強くて、他人の魔法はよくわからないんだとか。
あとは爺さんも田舎のこの村の生まれなので、詳しく魔法を学ぶ機会がなかったことも大きいみたいだ。
それから、爺さんやけに卑屈だなーと思ったけど、話を聞いていて何となく察した。
魔力とかこんな万能な力が使えなくなったら、そらー自信なくなるわ。
尊大な生き方してたら首狙われかねないし。
「俺は穏やかに生きたいんだ」
この世界での方針が決まった。
俺は地味に人の役に立って老後の面倒をみてもらおう。
そうと決まったらやることはひとつ。
「とりあえず親父のとこで働いて手に職をつけよう」
転生したのに目標が地味だって?ほっとけ!こちとら中身は四十代のおっさんだ!