手に職をつける!そう決心して親父の下で働き始めて、早三年。
え?もう三年もたったの?
俺もびっくりだよ。
何でかなーと考えたけど、考えるまでもなく理由は分かった。
この世界は娯楽が少なすぎる。
イベント事といえば秋の収穫の祭りと、春の祭りくらいなものだ。
お貴族様の馬車行列を見物しに弁当持って出かける、なんてものもあったけど、俺は怖いから見に行かなかった。
それに加えて休みってものが基本的にない。
一年が何日かまだよくわかってないけれど、秋と春の祭り以外ずーっと働いている。
それも朝日が昇ったら働き始めて、夕方暗くなったら家に帰る。
晩飯を食べたら明かりが勿体ないからすぐ寝る。
そんなこと毎日繰り返してたらあっという間に時間が過ぎてたよ。
「おーい、バン。休憩だぞー」
「はーい」
俺はいくら働いても疲れるってことはないけど、みんなと一緒に休むようにしてる。
やっぱり協調性は大事だよね。
俺は自分のコップに水を注いで一口飲んだ。
「バン。お前魔力持ちとはいえ仕事覚えるの早いな」
兄弟子は素直に驚いていた。
修業時代を含めれば十年以上大工やってたからな!とは言えないので、
「皆さんに良くしていただいたおかげです」
そんな感じに水を飲みながらお茶を濁しておいた。
ただ、実際に仕事を覚えるのめっちゃ早いと思う。
身体強化の応用なのか知らないけど、集中するとものすごく手先が器用になるんだよね。おかげで彫り物とか細工物とかサクサクって作れたりする。
あとそれから記憶力も上がるみたいで、通りすがりの人の会話とかそんなものまでずっと覚えてるくらいなんだ。
あぁ、そうそう。身体強化なんだけど、毎日毎日仕事で使っているおかげか、だいぶ上達してきたと思う。
前までは体全体にかける感じだったんだけど、今では指先とか足だけとか部分がけが出来るようになってきた。
その他は?
はい。全く進展ありませんでした。
いやね、色々と自分なりには努力したんですよ?
しかし、いかんせんイメージがつかめない。自分の手に力を入れることはできるけど、他人の手に力を入れるイメージなんてどうすればいいのよ。
今でも爺さんのところに通って話を聞いたりしているけど、爺さん自体も別の魔力持ちから感覚を得たそうで、言葉で伝えることはそんなにないらしい。
まぁこの辺はいつか魔力持ちに出会ったら教えてもらおうと思ってる。
思っているんだが、三年たってもこの村に魔力持ちは現れていない。
まぁしょうがないか。近くに森しかないスーパーど田舎だし。
それから前はよくわからなかったけど、うちの家は大工専業というより、植林して木を育ててから始まるけっこーストロングスタイルな会社?だった。
そりゃー田舎じゃないと出来ない商売だな。
俺が山に行って木を伐ってきて、それを兄弟子と一緒に建物の部材に加工する。
それを兄弟子たちが街まで運んで行って建物を建てる、大体いつもそんな感じだ。
何度か街まで連れていってほしいと頼んだけれど全て断られてしまった。
大きな街なら魔力持ちもいると思ったんだけどなー残念。
まぁこれは俺のもう一つの仕事が関係しているから、仕方がないと言えばそうなんだけどね。
もう一つの仕事というのは、まぁ平たく言えば『用心棒』だ。
最初はこんな子供が用心棒?と驚いたけど今ではすっかり慣れた。
警察なんて存在しない世界なので、盗賊とか傭兵崩れみたいなのがまぁまぁ出る。
まぁまぁじゃないな、結構出る。ビビるくらい出る。治安世紀末すぎるだろ。
そんな奴らを子供の俺が木の棒一本でぶちのめしていくんだから、改めてすごい世界だと思ったよ。
大人たちの話を聞くと、他所の村だと領主様の兵隊がたまに見回りに来てくれるそうだけど、基本は放置だそうだ。
村がやられた?ふーん。こんど見つけたらぶっ殺しとくから頑張ってね。くらいのスタイルで、そんなことなら俺のことを外に出したくないのも頷けるね。
あともう一つ厄介者がいた、それが『魔獣』だ。
これは最初見たときびっくりした。かなりファンタジーな見た目だったからな。
俺が今まで見たことがあるのは、でっかいカタツムリみたいなやつと、ドロドロにとけた芋虫?みたいなやつだ。
見た目もさることながら、そいつらが通ったところは黒紫色みたいに染まって呪われた地みたいになっちまう。
実際に毒があるらしくて親父には絶対に近づくなと言われてしまった。
爺さんにも、魔力持ちがその黒紫色に近づくと気分が悪くなると言われた。試しにこっそり近寄ってみたけど俺はそんなに気分悪くならなかったから個人差があるのかも。
厄介者の魔獣だけど、倒すといいこともある。
腹の中に粘土みたいな塊があって、それがけっこーいい値段で売れるらしい。
モンスターモンスターした見た目のわりにキック一発で倒せるのでそんなに大変な仕事じゃない。
けど、こんなのでも平民じゃ十人がかりとか言ってて、改めて魔力持ちのすごさを知ったよ。
俺が倒した魔獣の粘土は街に行く兄弟子に頼んで売りさばいてもらっている。
ちょっとしたお小遣い稼ぎみたいなもんだけど、粘土が売れた日はけっこうな御馳走が出るので、まぁまぁいい値段で売れるんだろう。
そんな魔獣なんだが、なんでこんなものがいるのかと爺さんに聞いたことがあって、そうしたら爺さん曰く、『フィールド』から出てくるんだそうだ。
それを聞いて一つ疑問が解消した。
爺さんの家がある村はずれから、ずっと霧がかかっている場所があって気になっていたんだが、それがフィールドらしい。
フィールドの中は空間が歪んでいて、森があったり、砂漠があったり、ずっと雨が降っていたりと様々らしい。
魔力の感覚が狂うらしくて、迷子になりやすいから俺には黙っていた、ということみたい。
俺ももういい歳なんだからそんな子供みたいなことしねーよ、と思ったけど俺まだ子供だった。
フィールドには金銀財宝がざっくざく取れるところもある、そんな話を聞いて心ときめかせたけど、うちの村のフィールドはただ森が広がっているだけだそうだ。
残念。まぁ金銀財宝がとれるならビッグシティになってるよね。
それで、俺が十歳になったらフィールドに入ってもいいらしい。
爺さんも昔は入っていたそうで、時々中で魔獣を間引いてやらないと、今みたいに魔獣が外へ出てきてしまうんだと。
魔獣を倒してお小遣いも稼げるし、ちょっとファンタジー世界な感じがして、実はけっこー楽しみにしてる。
早く十歳にならないかなー。
と、気軽に考えていたら爺さんに釘を刺されてしまった。
俺が倒しているのは『未熟魔獣』と言うんだそうだ。
未熟があるなら成熟もあるわけで、そっちはめっちゃやばいらしい。
爺さんも戦ったことがあるそうだが、話を聞くと体長が三十メートルはありそうな口ぶりだった。
やべー。そんなの完全に特撮の怪獣じゃん。
そのクラスになると従祖の魔法なんて蚊ほども効かないらしく、チクチク気を逸らしている間に、お貴族様の魔法をぶっ放して倒すんだそうだ。
もうそこまで行くと全然想像できない、魔獣もお貴族様もどっちも怪獣じゃん。
というかそんなの出てくるなら早く間引かねーとヤバいじゃん、と思ったけど近所のフィールドじゃ狭くて成熟魔獣になることはないだろう、って話だった。
ちょっと安心。
でも中熟魔獣くらいなら出てくるんじゃない?と考えてしまって、早くフィールドに入りたいなと思いました。はい。