十歳になりました。大工のバンです。
そうなんです、修業が終わって年期もあけて大工になったんです。
十歳で一人前とか早すぎだろって思ったけど、この世界だと十五、十六で大人扱いされるから早くもないのかな?
それでも自分にも弟弟子が出来て、それがまた年上で、年上の弟子とかどうすればいいんだよーと思ったけど、そっちはなんてことなかった。
というか逆に年上とか目上の人扱いされる。
やっぱり職歴が大事なんだなーとか思っていたけど、それはどうも違うみたい。
どういうことかと言うと俺が『魔力持ち』っていうのがデカイらしい。
平民からすると魔力持ちってだけで単純に尊敬されるらしく、この世界に馴染んだとはいえこの魔力至上主義みたいのはまだ慣れないな。
そうそう、この三年は結構成長したと自分でも思う。
まず一つ、読み書きが出来るようになったんだ。
親父は大工の棟梁ということもあって、それなりに読み書きが出来た。まぁ契約とかあるんだろうし必須スキルだね。
それで、俺もいつかは後を継ぐということで読み書きを習っていたんだ。
まぁ四歳のころから習っていたんだけど、なんやかんやあってやっと努力が実を結んでほっとしている、というのが実際の所。
というかこの世界の文字めっちゃムズイ。
アルファベットを崩したような文字が五十個くらいあって、それだけでもムズイのに文章にすると筆記体?みたいな書き方になるのが大変だった。
まぁそんなのはお貴族様関係の手紙くらいなもんで、ちょっと文字が読めればこの世界では上等な部類に入るらしいので、そこのところは安心かな。
そうそう!魔法は進展があった!これは素直に嬉しい。
その名も『元気魔法』だ!
……。まぁなんだそりゃ?って魔法なんだけどそれでも頑張ったんだよ……。
最初は王道的な感じで回復魔法を目指してたんだけど、やっぱり手がかりも無しに魔法は難しいよ。
それで、その元気魔法の効果なんだけど、文字通り元気になる。前世で言えば栄養ドリンク飲んだくらい元気になる。
まぁぶっちゃけしょぼい。
だが、この魔法は他人に掛けられる!
始めて自分以外に掛けられる魔法が出来たのすごくない?
きっかけは四人目の弟が生まれた時だった。
お袋は産後の肥立ちが悪い?っていうのかな、寝込んでしまったんだ。
正直言えば実の母っていう感情はあまりないんだけど、それでも母親だし育てくれたことに感謝していた。
何とかしてあげたい、そう思って仕事が終わってからお袋の手を握って魔力を込めてみた。
ただ、やっぱり最初はうまくいかなかった。自分の中で魔力が波打っているのが分かるんだけど、どうしてもそれが魔法にはならなかった。
それでも毎日毎日、魔力を動かしていたら、ついにその時がやって来た。
ぶんぶん波打つだけだった魔力が、するするっとお袋の体に吸い込まれていく感覚が来た。
すると、顔色がみるみる良くなって、お袋はベッドからがばっと起き上がったんだ。
それはさっきまでの息も絶え絶えといった感じはまるでなく、ずーっと元気だった人みたいに思えた。
俺はお袋が元気になったのと初めて魔法を使えたのが嬉しくて、年甲斐もなくわんわんと泣いてしまった。
まぁこの辺はまだ子供ってことで大目に見てほしい。
で、オチとしてはこの元気魔法。ほんとに元気になるだけだ。
怪我も病気も直せない。気力は満タンになるみたいなのであとは自分で頑張って、という感じなのだ。
この辺は俺が病気にもならないし怪我もしない上に、いつでも元気満タンで疲れ知らずってのが影響しているんだとは思う。
まぁそれでも医者もろくにいないド田舎ではけっこう重宝され、大工兼、用心棒兼、医者(ニワカ)というポジションに収まった。
試しに爺さんにもかけてみたんだけど、元気になった感じはあるけど、どんな魔法かはよくわからないらしい。
この辺は後遺症のせいで魔力が感じ取りにくいというのもあるのかな?と思っていたら爺さんに謝られてしまった。
いやいや、これが開発できたのは爺さんの協力もあったおかげだし、そんなに謝らないでほしいな。
そして!十歳のメインイベント!ついにフィールドに入る日がやって来た!
いやー、やっぱり楽しみなんだよね。魔力持ちってチートが入っているせいか、なんかチャレンジしたい気分が沸き起こるんだよ。
それで、最初は誰か案内してくれるんだと思ってんだが、そうでもないらしい。
バン、気をつけろよ!と言われて終わってしまった。
え?俺まぁまぁ強いけどまだ十歳だよ?
まぁこれには仕方がないところもある。
まず、フィールドには魔獣がでる。平民一人二人じゃとても手に負えないので俺が守ってやる必要がある。
それなら最初から俺だけ行った方が効率的だし、結果的に楽ってわけだ。
それからフィールドには『蛭』っていう魔獣のような虫のような生き物がいて、油断すると体中に吸い付いて生命力的なものを吸い取られてしまうんだとか。
見た感じは人から隙間なく毛糸が生えたようになるそうなので、これはちょっとコワイというかキモイ。
魔力があれば寄ってこないそうなのでちょっと安心。
あと爺さんから地図をもらった。
それはまだフィールドに入っていたころに使っていたもので、なんと爺さんのお手製なんだそうだ。
地図をまじまじ見ていると、石だらけの砂漠の先が森林になっていたりと、いろんな地形をただただ紙の上に置いたような、なんとも不思議なものだった。
これが空間が歪んでいるってことなのか?
とにかく感覚が当てにならないから目印を見て進め、と口が酸っぱくなるほど言われたので、これは気をつけよう。
さて、そろそろ出発だ。
「それじゃあ、行ってきます」
「バン、気をつけろよ」
「危ないと思ったらすぐに引き返すのよ?」
出発の挨拶をすると親父と下の弟を抱いたお袋が見送ってくれた。
前世は子供いなかったけど、やっぱり子供を見送るって一大イベントだなーなんて考えつつ家を出た。
家を出て村はずれまでやってくると爺さんが待っていた。
「バン、これを持っていけ」
そう言うと爺さんは一本の槍をくれた。
「え、いいの?」
「儂にはもう不要だ。遠慮せず持っていけ。」
爺さんはそう言って家に引っ込んでしまった。ツンデレか。
そう言われてしまったので俺はありがたく槍を受け取った。
家から持ってきた武器はいつも使ってる木こり用の斧だけだったからちょっと心配だったんだよね。
俺は自分の背位もあるバカでかいリュックに槍を括り付けると、フィールドに向かって走り出した。
走り出したら結構あっさりとフィールドについた。
感覚的なものになってしまうけど、だいたい十キロくらいかな?俺の足だと三十分くらいの距離だ。
さて、そのフィールドだが、目に見える入り口は無いみたいだ。
俺はとりあえず一歩一歩中へ足を踏み入れていった。
「ここがフィールドか……」
俺は思わず息をのんだ。
だんだんと霧が濃くなってゆき、そして突然その霧が晴れた。
すると目の前には石だらけの砂漠が現れたのだ。
そして感覚が狂うという意味も分かった。
何となく息苦しい感じというか、自分が薄い膜に覆われているような、とにかく不思議な圧迫感がある。
この世界に転生してからと言うもの、一番ファンタジーな空間だわ。
俺はとりあえず手に馴染んだ斧を手に持ち、とぼとぼとフィールドを歩き始めた。
すると目の前にデカイ亀のような石が現れる。
「これが亀の石か?」
亀の石を調べてると、人の手で刻まれた模様なものが見つかった。
爺さんの地図を見ると、同じ模様が描かれていた。
どうやら俺は爺さんが入り口に使っていた場所から入ったようだ。
この亀を左手に歩くとすぐに森林が現れると書いてあった。
とりあえずその地図の通りに歩いてゆくと、砂漠と森林のちょうど境目にある場所についた。
それはホントに絵に描いたように分かれていて、砂と瑞々しい草が綺麗に並んでいるのは何とも不思議な光景だった。
森林、それも大森林と言える規模の森林が広がっている。
今回の俺の目的地はここだ。
なんのことは無くて、いつもの仕事の延長だ。
木を切って、加工して、家を建てる。
森林しかないフィールドだけど、うちにとってはそれが商売なんだから好都合だ。
せっかくのファンタジー空間なのに商売のことを考えたりと生活感ありありだな。
まぁとにかく一本伐ってみることにしよう。
俺は手ごろな樹を探すと、丁度よさそうなものが見つかった。
幹回りで大人五人分くらい?高さは三十~四十メートルくらいありそうだ。
普段切ってるうちの木の三倍くらいあるな。
普通の人間なら切り倒すのに丸々一日はかかるだろうなぁ。
でも俺だと、
「コーン!コーン!コーン!バキバキバキー!」
はい、伐倒完了。三十分もかからなかった。
枝を落として、丁度よい長さに揃えて製材する。それにしてもデカイ木だなー小さい家なら余裕で建てられるぞ。
あらかた製材すると余った木で簡単なそりを作る。
それに材木になった木を積み込むとサクサクっと準備完了ー、いやー修行の成果出てますね。ここまで約半日もかかってないとか、改めて魔力に感謝。
後はこれを村までもってくだけだなーとそりを引き始めたらアイツがでた。
魔獣だ。
それも今まで見たことのない牛のような形をした魔獣だった。
おまけにけっこーデカイ。象くらいありそう。ちょっとビビる。
俺は爺さんにもらった槍を構えた。
お互いがジリジリと間合いを詰める。魔獣が踏み込んだ瞬間に俺は渾身の力をこめて槍を突いた。
突いたら魔獣が爆発した。
それは文字通りの爆発で、何ともあっけなく圧勝してしまった。
あと槍が跡形もなく消し飛んだ。ごめんよ爺さん。
「魔獣ってあんがい弱いのか?それとも俺が強い?」
とりあえず粘土を拾ってリュックに詰め込むと、俺は村へ向けて出発した。