まずいことになった。
いや、結婚生活は大丈夫。
毎日カリーナちゃんとラブラブ生活をしています。
朝出かけるときにお弁当を渡してくれて、なんかしみじみーと幸せを感じる毎日です。
仕事から帰るとパタパタパターって駆け寄ってきてくれて、それが何とも可愛らしいんです。
子供も生まれまして、いま三歳になりました。コロナといいます。カリーナちゃんに似たとても可愛い女の子です。
それでコロナなんですが、なんかうっすらと、ほんとうっすらだけど魔力っぽいものがあるんだよね。
なんで?生まれてすぐに病気避けに元気魔法を全力でぶっ放したせい?
爺さんにも見てもらったけど、やっぱり魔力感覚はわからないと言われてしまった。
まぁ病気もしないし、元気な子なので毎日楽しいです。
お父さん頑張ってます。
そうそう、実はコロナちゃんがおなかの中にいるときに変な病気が流行って、めっちゃ大変だったんです。
なんでも魔力持ちだけがかかる病気で、もし病気になったら半分くらい死んじゃうとかで大騒ぎしてたんだ。
俺もビビったけど、俺よりもビビったのは他の村人だった。
もし俺が病気になったら村の経済がヤバイ!ってことでしばらく隔離されてた。
しかもフィールドに。家族ごと。
まさか自分の家をもう一度建てることになるとは思わなかったよ。
でも、住んでみたら意外と快適だった。
気候は前世で言うところの秋くらいで固定だし、自然豊かだし、あと虫がいないのが良かった。
ただ、『蛭』テメーはダメだ。
初めてカリーナちゃんをフィールドに連れて行ったときに、蛭がくっついてマジビビった。
俺の側にいれば大丈夫だけど、十メーター位離れると魔力バリアーが切れるみたい。
まぁそんなわけでこの時期は二人ぺったりして過ごしました。
初めて休みらしい休みをとってスローライフ楽しかったです。
それで。
まずいことになった。
本題はここから。
領主様が戦争に負けて、ここら辺は新しい領主様の土地になったらしい。
えー!いつ戦争してたの!何で負けてるの!と俺は軽くパニックになった。
どうしよう!逃げないとダメ?とか一人で考えていたが、周りの反応をみると俺の考えは間違っているっぽかった。
そもそも戦争は何年も前に終わっていて、新しい領主様の騎士様もこの村の見回りに来ていたらしい。
ほとんどフィールドに籠っていて全然知らなかった。なんで誰も教えてくれないんだーって言ったら、みんなポカンとしてた。
へ?って思ったけど、みんな税金が安いといいなーとか徴兵がないといいなーくらいしか言わない。
え?領主様ってそんなもんなの?聞いてみたら、十人に九人は「税金が安ければ誰でもいい」って言ってる。
久々のカルチャーショックを受けた気分。
それでまずいことと言うのは、領主様に挨拶にいかなければならないことだ。
今まで騎士様に出会わないように気を付けてたのに、いきなりお貴族様に見つかるなんて。ショックでかいわー。
やっぱりなー最近うちの会社ちょっと大きくなりすぎたよなー。
ひたすら材木出荷して、この辺りの材木組合の元締めみたいな感じになってきてるし。
大工もいつのまにやらすごい人数抱えていて、大きな建築は殆どうちでやってるしなー。
まぁ殆ど俺のせいです、はい。
なんでも新しい領主様のご子息様が、従祖が大工をしているうちの会社に興味があるんだそうな。
何処でそんな話を聞いたのやら……うちは大したことない会社だからほっといてくれよ……。
しかし、俺の気持ちとは裏腹に、棟梁……親父とお袋はめっちゃ乗り気だった。
なんでそんなに乗り気なのかと聞いてみたら、俺の出生に関係しているらしかった。
「バン、こっちに来てみろ」
久々に訪れた実家で親父は実に上機嫌だった。
そして、お貴族さまから届いた手紙を開くと、居間に掲げられていた許可証?の前に手紙を重ねた。
よくよく見ると、そこには同じ名前が並んでいる。
『ルゴン・テッシュ』
俺は初めてそれを読んだ。
今までそれは大工業の許可証かなんかだと思っていたのだが、全く違った。
俺こと『バン』の育成許可だったのだ。
親父が言うには、お貴族様と平民の間の子の扱いには二パターンあるらしい。
一つは子が生まれたらお貴族様が連れて行ってしまうパターンだ。
従祖の子の力はお貴族様の力があってこそ、平民は何もしてないよね?だから連れて行っても問題なし!という理屈らしい。
なんとも酷いようだが、だいぶこの世界で生きたから俺も慣れた。力こそパワーのこの世界では案外それでオッケーなんだろう。
いくらか金貨ももらえるそうなので、平民としてもデメリットは無いんだろうな。
もう一つは俺みたいなパターン。
育てていいから自分たちでうまくやっといてってパターンだ。
なんとも適当なものだが、村にとっては幸運でしかない。
村専属の従祖が手に入るなんて万に一つもないからだ。
親父とお袋にとっては、上手く取り扱ってくれた、そのテッシュ様に恩があるのだという。
俺はもう一度許可証をみる。
そこにはもう一人の名前があった。
『クオルデンツェ・ガーダクル』
それが血縁上の父親にあたる、お貴族様の名前だった。
「それにしてもナンボナン市か……懐かしいな」
親父が感慨深げにつぶやいた。
ナンボナン市、俺はどうやらそこまでいかないといけないらしい。
「そうねぇ……昔を思い出すわね」
お袋も感慨深げにつぶやいた。
あれ?親父とお袋ってナンボナン市出身なのかな?親父は違うかここに家あるし。
「俺がナンボナン市まで仕事に行っていてな。大きな仕事だったから宿を丸ごと借りたんだ。そこで母さんに出会った。」
「ふふ、懐かしいわね」
夫婦のなれそめストーリーが始まってしまった。
なんとなく子供としては気まずい。
「それで、そのまま結婚したの。広場の通りでお祝いして……懐かしいわね」
「あぁ、そうだな」
なれそめ短かった。
俺とカリーナの何分の一だ、これ。
「それから、ガーダクル様がたまたまナンボナン市を訪れて……。お貴族様なのに平民の私にも優しくしてくださったわ……」
お袋は頬を赤らめた。
おぉう。
四歳の時もきつかったけど、今の方が臨場感があってもっとキツイ。
「ミラは美人だからな」
「もう、あなたったら何を言ってるのよ……」
親父とお袋が惚気てる。
俺は何を見させられているんだろうか。
ひょっとして俺とカリーナちゃんもこんな感じに見られてるのか?
それから、薄々気づいていたけどこの世界の貞操観念どうなってるの?
浮気はダメだよーってのはあるんだけど、貴族様とならオッケー!めっちゃラッキーじゃん!みたいな感覚なんだよね。
カリーナちゃんもそんな感じなのかな?と思ったけど絶対聞けない。俺の脳が爆発してしまう。
「それじゃあ、バン。すまないがよろしく頼む」
「あぁ、わかったよ親方」
親父の声で正気に戻った俺は旅の準備を始めた。
食料、飲み物と酒、それから野営グッズに、俺が作った木彫り細工。
こんなものがお貴族様のへの手土産になるかわかんないけど、何も持って行かないよりはいいだろう。
それらをバカでかいリュックみたいな入れ物に詰め込むと冷蔵庫くらいのサイズになった。
さらに、そこに椅子をひとつ括り付けて準備は完了。
ナンボナン市への移動手段。
それは徒歩。
ちょっとバカみたいな話だがこれが一番早い。
親父と荷物を背負って歩いていくのだ。
うちの材木を出荷するときに、象くらいある馬に荷車を曳いてもらうんだが、それだと大体三週間くらいかかる。
人の足なら二週間ちょっとというところだ。
それで、今までの経験から逆算すると、俺の足なら五日もかからないでつくと思う。
しかもタダだ。
道は親父に教えてもらえばいいし、それに俺はあんまり目立ちたくない。
馬車の通らない細道を行けば、たぶん大丈夫だとおもう。大丈夫であってくれ。
それでサクサクっと用事を済ませてササっと帰るのが俺の作戦だ。
唯一、盗賊が出るのが問題だけど、今まで両手で足りないくらいやっつけてるし問題はないかな。
はぁーやだなぁめんどくさいなぁ。昔は街に出たいと思ったけど今はずっとこの村に居たいよぉ。
「カリーナ、家のことは任せたよ」
「バンさん、大丈夫だと思うけど気を付けてね」
俺はカリーナとコロナを抱きしめてから家を出た。