「バン様にはご不便をおかけいたしますが、しばらくこちらでお過ごしください」
テッシュさんに案内された部屋はめっちゃ豪華だった。
なにこれ?最後の晩餐的なあれ?
「何かございましたらこちらの者をお使いください」
メイドさん二人がペコリとお辞儀をしてくれた。
やっぱり死ぬの?俺。
「他に何かございますでしょうか?」
せっかくなので俺はテッシュさんにありったけ疑問をぶつけてみた。
あまりに色んなことを聞いたのでちょっと面食らったみたいだが、話せる範囲で丁寧に教えてくれた。
それで話を纏めるとこんな感じだった。
俺がさっきかけられた『魔封印』というものは魔法を使えなくする魔法らしい。
試しに元気魔法をかけてみるが、ホントだ。確かに魔力が出ない感じがする。
なんでも魔法をかける側の魔力の方が多くなければいけないらしくて、それでわざわざお貴族様が直々にかけたらしい。
どんな時に使うんだろー思ったけど今みたいな時だ。魔力持ちの不審者が出た、とかね。
あと、それから『祝福の子』について。これは俺のことだからめっちゃ気になってた。
これは簡単に言えば、平民、隷祖と隷祖の間に生まれた主祖のことだった。
俺みたいに主祖と隷祖の間に生まれた祝福の子というのはテッシュさんが知る限りいないらしい。
めっちゃレアってこと?あんまり嬉しくないけど。
それからお貴族様が言ってた不穏なワードについて、やんわりと聞いてみたら、やんわりと答えが返ってきた。
何重にも掛けられたオブラートを溶かすと「主祖なら主祖を殺せる」っていう感じだった。
あっ!爺さんの言ってたのこれか!魔法でぶっ飛ばされるぞってやつ。今頃答え合わせできても遅かったね。
それから、『ガーダクル様』について。
なんでも政敵の謀略にあって暗殺されてしまったらしい。
テッシュさんはウィルク様に仕える前はガーダクル様に仕えていたらしくて、それで親父とかお袋のこととか良く知っていたみたい。
ガーダクル様はすごく良い人だったらしくて、今でも慕っているらしい。
俺に面影があるとかめっちゃ推されてしまってちょっと照れる。
それで、ここからが大事なところ。
「私はこれからどうなるのでしょうか」
「私の口からは何とも。しかし、若様は決して悪いようになさらないでしょう」
テッシュさんはそう言った。
「若様は」というところにちょっと引っかかるが、今は何もできないし考えないことにする。
俺の質問が終わったら、今度はテッシュさんから質問が返ってきた。
質問というより面談?適性検査?みたいな感じだったので、俺のこと探ってるのかな?と思ったけど終始丁寧な感じだったので特に不快感はなかった。
「それでは、バン様今日はこれで失礼いたします」
テッシュさんは丁寧に礼をすると部屋から出ていった。
「ふー、疲れた」
「バン、すまなかったな……こんなことに巻き込んでしまって」
「父さん、気にしなくていいよこんなの誰にもわからないんだから」
親父は俺がテッシュさんと話している間、ずっと部屋の隅で小さくなっていた。
そう言えば広間でもそうだったけど、親父には何も聞かれなかったな。
生れてからの経緯なんて親父の方がずっと詳しいと思うんだけど。
まぁいいか。とりあえずおなかが減った。
「すみません、なにか食べるものをいただけますか?」
メイドのお姉さんに頼んでみた。
俺は手紙を書き終えると、しばし考え事をしていた。
今日現れたあの男をどうするべきか。
すると、ドアが叩かれ開いた。
「若様、失礼いたします」
「テッシュか。あの男はどうだった?」
俺はテッシュにあの男の尋問、もとい面談を頼んでいた。
祝福の子であそこまで無事に育つというのも珍しい。特に隠す様子もないのにだ。
「なかなか聡明な男のようです。質問の答えについても理解できていますし、こちらの意図も大まかに把握しているようです」
「ほう?田舎の生まれだと思ったが」
「えぇ。村の古老から色々と学んだようです。父親は隷祖ですが貴族と取引があるため、それなりに学があるようですね」
確かに俺の言葉についてもビビりながらもそれなりに意味は分かっているようだったな。
わからない言葉をテッシュに尋ねるあたり、単純に頭が良いというよりは教養があるというようなイメージだ。
「主祖と隷祖の祝福の子か。俺はそんなものは聞いたことが無いがテッシュはどうだ?」
「私の知る限り、そのような事例は聞いたことがございません」
まぁそれはそうだろうな。
我が家の倉庫にはかなりの資料があるが、そのような話は聞いたことが無い。
もちろんすべての書物に目を通したわけではないが、こんな珍しい事例が起こったならばそれなりに注目され研究されたはずだ。
「伯父上の子というのは確かなのか?」
これは根本的なところだ。
バンの出生について聞いたところ、新婚ほやほやの宿屋の娘を伯父が寝取ったということになっている。
もし結婚していたならばそのような関係があったはずだ。
主祖と隷祖の間に祝福の子が生まれる可能性よりも、隷祖同士の間に生まれる確率のほうが経験からいってもはるかに高いだろう。
「バン様は確かにガーダクル様の子でございます。私を含め多くのものが確認しております」
まぁそれもそうか。
いくらあっち方面が盛んなことで有名な伯父ではあるが、それでも性のセンシティブ疑惑が消えることはないのだ。
自分のお気に入りの娘が隷祖に孕まされたと知ってインポになってしまう可能性だってないわけではない。
現に俺は寝取るのは大好物だが、愛妾が寝取られたと知ったら頭がおかしくなってしまうかもしれない。
少し空気がピリついてしまったので俺は話題を変えることにした。
「魔法についてはどうだった」
「身体強化についてはかなり手練れているようです。部分強化も習得しています。ただ、他人へかけることは出来ないようです」
「それから……」
「それから?」
「バン様がおっしゃるには『元気魔法』という魔法を開発されたそうです」
「なんだそれは。どういう魔法なんだ?」
「ただ、元気が出る、気力がみなぎる。そういった効果で怪我や病気は治せないそうです」
「大した効果じゃないが、役に立ちそうか?」
「検分のためニューネリーより魔導士を呼ぶことになっております」
正直言って魔法を独自開発したことには驚きだ。
魔法についての知識もなく、従祖の爺さんは魔力不全で魔法を使えない環境なのにだ。
あんがい魔法の才能があるのかもしれないな。
「俺はそれほど危険な印象は抱かなかった。テッシュはどうだ」
正直言って拍子抜けするほど、緊張感のない奴だなと思った。
敵意どころか自分の状況がどれほど危ういものなのか、これっぽっちも頭にない感じだ。
だが、その質問にテッシュの表情は険しくなる。
「私は、正直なところ図りかねております」
テッシュが言うには自身についての理解が良すぎるのだそうだ、
疑問を持ち、それを質問し、答えから学ぶ。俺からすれば当たり前のことだが、ここエルオ大陸の平民はそんな小難しい事を考えたりしない。
それから、自分が主祖とわかってからも、その行動が平民隷祖と変わらないんだそうだ。
だからと言って主従隷の違いを理解していないわけではない。そのあたりがテッシュには理解しにくいようだ。
「田舎で助け合ってきたのだろう?そのような考えになるのではないか」
みんな仲良く助け合いしてたらそんな感じになるのではないかと思う。
イメージとしては、ほのぼの田舎暮らしだ。
「ですが、バン様は従祖として生きてこられました。そこが不思議に思います」
やはり生粋のエルオ大陸人のテッシュには理解できないか。
俺もこの世界に生まれて十二年、貴族の色が馴染んできてはいたが、何処か考え方は前世日本のそれを引きずってるしな。
「若様には大変失礼かもしれませんが……。バン様は若様に似ておられると、私はそう感じました」
テッシュは丁寧な謝罪をする。
まぁそれはそうだろう。ぽっと出の祝福の子が次期当主に似ていると言ってしまったんだからな。
「気にするな。明日からは他の者も話をさせてみろ」
「承知いたしました」
そう言うとテッシュは部屋を出ていった。
「俺に似ているか」
言われて見れば似ている気がする。
まさか転生者ということもないだろうが。
囚われの身となって一週間、おれは何不自由なく暮らしていた。
こんな快適な生活になれたら村に帰れなくなったりしない?
三食ちゃんと食べられて、なんとお風呂にも入れる。
しかも銭湯みたいな共同浴場じゃなくて貸切露天風呂みたいなやつにだ。
特にお風呂にはめっちゃ助かってる。
転生してからずいぶん経つけど、こんな立派なお風呂に入ったことなんてなかったし。やっぱり日本人にはお風呂が必要だわ。
あと家族に手紙を書きたいっていったら、高級なお手紙セットまで用意してくれた。
しかもお貴族様の使用人さんが直接届けてくれるらしい。なんて至れり尽くせり。
とりあえず、カリーナとコロナに手紙を書いた。
お土産は流石に買いに行けなかったので、部屋に飾られた綺麗なお花を押し花にしてつけた。
これで牢屋にぶち込まれてないと思ってもらえるかな?
あとはお貴族様の関係者の人と面談するのが日課だ。
騎士の人はやっぱり怖いイメージがあるのでちょっと苦手だな。
質問もけっこーぐいぐいくるし。
逆に魔導士の人はめっちゃフレンドリーでびっくりした。
なんなら前世の日本人と話している感じでフツーに話せるのが楽だった。
俺が開発した元気魔法についても興味津々といった感じで、魔法開発の経緯とかペラペラしゃべってしまった。
魔封印が解けて若様からの許可が出たら魔法を教えてもらえるらしい!
やった!ついに魔法の先生が見つかった!
俺は年甲斐もなくはしゃぎながら囚われ生活をエンジョイしてます。
「ウィルク様、バン様は恙無く過ごしておいでです」
あの突然現れた主祖の大工に関する魔道士からの報告だ。
あれから色々なタイプの人間をけしかけてみたが、その報告をまとめると「いたって普通の平民隷祖」という結論に至った。
「お前たちには随分と好意的なようじゃないか」
「はい。騎士家の方々への反応を見て対応いたしました」
それはつまり堅っ苦しいタイプが苦手と言うことだ。
魔道士は魔法の習得と継承に関するプロだ。
習得とはすなわち他人から魔法を習うということなので、必然的に高いコミュニケーション能力が求められる。
そのため臨機応変に相手に対して対応を変えるということも慣れたものだった。
「何か得るものはあったか?」
「はい。バン様は出自からみて、意外なほど魔法に関する知識がございます。雑談程度ではありますが、私の話を理解されているようでした」
それはあの男に相対した者に共通の感想だった。
曰く、覚えが速い、と。
「件の元気魔法とやらは?」
「そちらについてもバン様から会得の経緯について伺いました。私見ではありますが、身体強化魔法の一種なのではないかと推測しております」
オリジナルの魔法というのは貴重だ。
例えそれが大したことがない魔法であっても、別の魔法を改良する手がかりとなったりするためだ。
「そうか、ほかに何があるか」
「何度か接してみた限りですが、裏表のない方だと思いました」
それから、というと魔道士は使用人を呼んだ。
手には絵画の額縁のようなものが握られている。
「こちらはウィルク様への贈り物だそうです」
手渡されたのは見事な木彫り細工だった。
前世の遠足でみた神社仏閣に飾られているようなアレである。
「あいつは自分の立場を理解しているのか?」
俺は思わず笑ってしまった。
人質みたいな立場で随分と軟禁生活をエンジョイしているものだ。
「理解はされているようですが実感がない、といったところでしょうか」
魔道士も同じく苦笑いを浮かべていた。