「お前、面白くないんだよ」
ああ、いつものこの感覚だ。
「もう喋らなくていいよ。黙って聞いてな」
これだ。この、自分が我慢しなきゃいけない感覚。
コイツらに無視された方が、俺は気楽なんだ。それなのに、話しかけてきて、盛り上がってきたところで私がおどけて見せると、いきなり場の空気が止まって、降り注ぐ暴言へと変わる。
もう、沢山だ。やめてくれ、やめてくれ。
教室では毎日同じ事が起きる。放課後、同じ席の周りに集った女子や男子がたわいも無い会話を繰り広げて、偶にどうでもいいような軋轢ができては一週間から一ヶ月で消える。それになんの意味があると言うのか。
居づらくなって無言のままぶっきらぼうにリュックを背負って教室を出た。できるだけ平常を装った。それは例えば階段を降りてゆく足取り。それから下駄箱で靴を投げなかった。
胸は熱くとも抑制した身体の動きで、校門前の下校中の学生に溶け込んだ。
人は考えたくない事がある時、考えまいと念じるよりも、何か努めて別のことを考えた方が上手くいく場合がある。
帰ったら何をしようか。そういえば課題をこなさなければならない。私は家で他に何をするだろうか。それだけを熱心に考え始めた。できるなら楽しいことを期待したかった。
交差点を曲がっていくごとに人は少なくなって、いずれ私一人になった。辺りを見回して、人のいない住宅街へ入ったことを確認した。
心の熱は冷めて、もう彼らと関わることはしないと決めていた。家まではもう五分の距離だった。
夕方、日暮れて紫色へと変わっていく空に、電柱から電柱へと渡ってゆくカラス。
道路沿いの草木やアスファルトを割って出た雑草。
鬱陶しい。
時々道を走り抜ける車。
水を撒く近所の人に「おかえりなさい」と言われた。
もうやめてくれよ。
玄関の前に立って、俯いた姿勢でドアを開いて一歩踏み入れた。その一歩目の足は草原の花を踏みつけた。
ありふれたコンクリート質の玄関は、そこには無かった。
驚いて顔を上げると、そこには二個の太陽に照らされた大草原が広がっていた。
見上げると大きな竜が吠えながら宙を航行していた。
つゆ見たことの無い、電気を放つ虎は、断崖の巣へと帰るところだった。
遠くに、身長と同じくらいの長さの杖をつく人を見た。
私は初め、鬱陶しい現実を離れて、清々しい気分で空気を吸った。我が家へ帰りたいなどという意識は少しも湧かなかった。
だが、気づいてみれば今夜安全に寝られる保証は無かった。私はまずその人影へと歩き出した。