10月3日。夜遅く、僕は家にようやく辿り着いた。
上司の理不尽な命令のせいで仕事が長引いたのだ。
「また遅くなった。」
ただ、そんな日々の中でも楽しみや、幸せはあった。
「ごめんな、ご飯の時間遅くなったな。」
愛猫と過ごしていることだ。
最近仕事が長引いてしまっているから、かわいそうに思う。
僕は、さっき買って来たおやつを皿に乗せて渡した。
よほどお腹が空いていたのだろう。
お皿を手で寄せてまで食べ始めた。
「、、、。」
僕はその姿を見るほど、遅れてしまったことを申し訳なく思うのと同時に、
愛おしい気持ちでも包まれた。
「美味しいか?」
ついつい聞いてしまう。
返事はなかったが、尻尾を振りながら食べているのを見ると、
美味しく食べているんだろうな、、と思う。
僕もそばにあるテーブルで買って来た夕飯を食べることにした。
そして、夜の空き時間。その時間こそ唯一の安らぎと言っても過言ではない。
僕は猫じゃらしを片手に、ベッドに横になる。
そうすると、ドアの隙間から早歩きでやってくるのが見えた。
ニャー、という声が静かな部屋に響き渡った。
「お前との時間をとってやれなくてごめんな。」
僕は猫じゃらしをゆっくりと振る。
それを片手で押さえて、僕のことを見ていた。
「なんだ?」
ゆっくりと抱き上げ、横におろした。
すると、思いっきり伸びて、そこで丸まった。
自分の手を枕にしているようだ。
ただ、眠る様子はなかった。
「また今日を話を聞いてくれるのか?」
そう聞くと、尻尾を少し振った。
聞いてくれるということなのだろうか。
「そうだな、今日もあの上司がミスを僕に押し付けて大変だったんだ。」
僕は仕事の愚痴を始めた。それを聞いてくれているのかは正しくはわからない。
ただ、横にいてくれるだけで嬉しかった。
そのまま眠りについて、今夜は終わった。
そして、朝になり、僕はアラームを止めようとした。
10月3日。昨日の日付だった。
「まだ寝てるのか、、。」
寝ぼけているのだろう。ただ、今日も平日ということに変わりはない。
僕はそのまま仕事に行った。
〜〜
また遅くなってしまった。あの上司には呆れたものだ。
「ただいま。」
僕は昨日と同じようにご飯をあげ、僕も夕飯を食べることにした。(夜食)
ただ、今日はあまりご飯を食べることなく、僕の膝の上に来た。
「寂しかったのか?ごめんな。」
頭を優しく撫でると、じーっと僕の方を眺めていた。
何かを訴えたいようだ。
ただ、それがなんなのかはわからない。
そのまま時間は過ぎ、僕たちはベッドへ向かった。
ただ、変わらずずっと僕に何かを訴えようとしていたことは変わらなかった。
あたりの音が全くない静かな夜。
僕は、ゆっくりと撫で続けた。
手のひらにぬくもりが広がる。この感覚は何よりも幸せだった。
「、、?」
何故か涙が出た。最近疲れているからだろうか。
今日は早めに寝ることにした。
結局、何を訴えていたのかもわからなかった。
〜〜
再び、同じアラームに起こされる。
10月3日。また同じ日付だ。
「え?」
流石に気のせいだとは思えない。本来今日は5日、
いや、それすらも怪しい。今日はいったい何日なのか。
かといって仕事をサボれば夜の時間がなくなるのは確定だったから、仕事に行った。
「10月3日」
この日付が頭から離れなかった。
そして、今日は早く帰ることができた。あの上司が出張に行っていたのだ。
「ただいま」
ドアを開けると、さささ、、っと暗闇から現れた。
出迎えてくれたのだ。
「今日は早く帰れたから、たっぷり遊ぼうな。」
僕は、リビングへ向かった。
その後、じーっ、と僕を見つめて、小走りでリビングに来た、
「何を訴えたいんだ?」
あの日付と、この状況。無関係だとは思いにくい。
慌てて、僕の膝に乗りに来た。
そしてゴロゴロ、、と喉を鳴らしながら、幸せそうに目を瞑った。
その姿を見るたび、また泣きそうになる。
ただ、同時に寂しくもなった。
撫でようとした時、指先が震えていた。
「おかしい。」
僕は撫でながら、ゆっくりと思い出した。
「10月3日。」
思い出したものは、思いたくもなかった現実だ。
その日は、この子、クロの命日の前日だ。
なんで今生きている?なんでそのことを知っている?
「クロ、、」
僕は疑問でいっぱいになり、頭が痛くなってくる。
クロ、その名前も忘れていた。
クロは、いつもと変わらずゆっくりとしていた。
全てを思い出した。
2015年10月3日クロは子猫なのに息を引き取った。
今は2025年10月4日だったはず。
どうして忘れていた?
クロは目を開け、またこちらを見て何かを訴えようとする。
その言葉は、確かに聞こえた。
「忘れないで。」
そうだ。
僕は、仕事の厳しさにより精神を病み、記憶力に影響が出て、忘れやすくなったんだった。
そのせいでクロまでを忘れてしまった。
「どうして、クロは今いるの?」
もう薄々気がついていた、
これは夢の中だったことに。
クロはずっと伝えようと必死で、夢の中にまで来たのだ。
膝の上にある温かみは少しずつ消えていく。
ニャー。
クロは、こちらを見ながらいなくなった。
〜〜
10月5日の朝。
「クロ、、。」
隣にクロはいない。僕は枕を濡らした。
ただ、色々なことを思い出した。
クロとの夜。一緒に遊んだ時間。僕にとっては大切なものだった。
クロのおかげで記憶力が戻ったのかもしれない。
あの夢は、今日見た夢だった。
その夢は忘れるはなかった。
忘れないで。
ーいつかの夢ー