──2022年
星々が輝く夜。
研究施設らしき建物から、赤いランプの光が瞬き、警報音が辺り一体に響き渡る。
次の瞬間、研究施設一体から爆発が起こった。
周囲に爆風と火の粉が広がり、施設にいた研究員達が悲鳴を上げながら逃げ惑うなか、ザッ、と芝生を踏みしめる音が響いた。炎が燃える音と警報が響き渡るなかで、やけに明瞭に響いた音だ。身体のあちこちに軽い火傷を負いながらも、必死に逃げようとしていた研究員は、その音を耳にして振り替えると、目を見開く。
そこにいたのは、絶対の美女と称しても可笑しくはない女性だった。足元まで届く程の長く艶やかな髪を風に揺らし、完璧な配置で整った顔立ちの前に、研究員は状況も忘れて見惚れてしまう。
しかし、それも一瞬だった。
スラリとした美脚で芝生を踏みしめる美女の足元から、無数の蔦のようなものが出現する。無数の蔦は、美女の周りで幾つもの渦を巻きながら、ある怪物の形を形成する。
美女がその怪物の姿を一瞥すると、細く白い腕を伸ばし、研究員にその掌を向ける。
「ヒィッ!やめ……ぎゃあああああああああああああああっ!!!!!」
その瞬間、研究員は断末魔の悲鳴を上げ、赤黒い液体を撒き散らしながら絶命した。
美女は、その凄惨な光景に顔色ひとつ変えることなく、空を見上げると、口角を不気味に吊り上げた。
──2026年
常盤自然史研究所。
植物学、生態系、考古学、幅広い分野の研究に手を伸ばしているその研究施設の一室。多種多様な植物が育てられた部屋の中で、白衣を着た青年が立っていた。
「……うんうん、茎も葉もよく育ってる。もっと大きくなるんだぞ~」
マッシュルームヘアの茶髪に、黒のタートルネックの上に白衣を着た青年──【鉢植幕斗】は、植木鉢に植えられたタンポポの育ち具合を観察し、満足そうに窓際にタンポポを置くと、スプレーを使ってタンポポに水を与える。
「ま~くと!!」
「っ、おわぁっ!!」
その時、耳元で大きく明るい声が響き、幕斗は思わずスプレーを地面に落としてしまった。
振り替えると、そこにはシニオンヘアーの黒髪をした同い年くらいの女性──【舞上花子】が悪戯っぽい笑みを浮かべながら立っており、幕斗は大きく息を吐いた。
「花子ぉ……ビックリさせないでくれよ。タンポポに水やってたんだからさ」
「フフ、相変わらず幕斗は植物大好きだね」
スプレーを拾い、室内に置かれている他の植物にも水をかけ始める幕斗の姿に笑みを浮かべた花子は、悪戯っぽい笑みを浮かべて満足そうにうなずくと、思い出したというように、背中にかけていたリュックからあるものを取り出した。
手にしている紙束には、地図といくつかの写真が記載されており、何を言いに来たのか察した幕斗は苦笑する。
「それより、幕斗。ちょっとフィールドワーク手伝ってよ。幕斗のバイクならあっという間でしょ」
「あのなぁ……俺は送迎係じゃないぞ。お前は歴史学と考古学、俺は植物学者。フィールドワークといっても分野が違うんだよ」
そう言って椅子に座り直した幕斗が植物にスプレーをかけようとした時、そこへ割り込むようにして花子が前に出てくる。すると、紙束をパラパラと捲っていくと、ある記述と写真を指差した。
その写真には、遺跡らしき場所にある石碑らしき物には、タンポポのようにも見える。
「これ!この山で最近発見された遺跡!ここにはね、大昔の歴史が記された石碑が発見されたの。ほら、ここにある植物、植物学者の幕斗なら、興味あるでしょ!」
その瞬間、幕斗は即座に席を立ち上がる。部屋の端の棚に置いてあったヘルメットを手に取る。スタスタと扉に歩み寄ると、花子に視線を向けた。
「行くよ、花子。道の遺跡の探索に!」
「流石幕斗!!」
先程とは打って変わって歯をキラーンと輝かせる幕斗に、花子は満面の笑みを浮かべながらサムザアップを送った。
とある森の中。
夕焼けに染められていく空模様を眺めながら、薄暗くなっていく森のなかを歩く人影があった。
人影のそばには、理解不能な言語を呟き続ける、全身に蔦が巻き付いたような怪人がいる。そんな怪人をつれながら森の中を歩いていた人影は、ふと足を止めて地面に視線を下ろす。
人影は、地面にあるそれ──花に目を向けると、その花にそっと手を添え、優しい手付きでその花を地面から摘み取る。その花を手にしながら、後ろをついてきた怪人の前まで歩み寄った人影は、顔の前まで持ってきた花に向けて、小さく息を吹き掛けた。
フゥ、という音と共に人影の手から離れていった花は、ユラユラと不規則に揺れながら怪人のもとへと飛んでいくと、その花が光を放ちながら、怪人の身体の中に吸い込まれていった。
『ヴッ!?ヴゥ……ウゥオオオオオオオオオオッ!!!!!』
その瞬間、怪人の身体が紫色に発光し、全身を葉が包み込む。やがて光のシルエットが変化していくと、葉が弾け飛び、怪人の姿が変貌した。
『オォオオオオオオオッ!!!』
光と葉が弾け、姿を変えた怪人は、唸り声を上げながら、人影のもとを離れていく。その姿を見送った人影は、怪しげな笑みを浮かべると、その場を後にした。
青々とした森が広がる森の中。
森の入り口付近にオートバイを停車させ、幕斗と花子は森の奥へと進んでいた。日はすっかりと沈み、月の光は森の木々に遮られて鬱蒼とした不気味な雰囲気が漂っているが、二人は何ら気にすることなく、ライトの光を頼りに森の奥へ奥へと進んでいく。
「あっ!あったよ幕斗!」
「おぉ~、ここかぁ」
花子が指差した先にあったのは、植物に囲まれた五メートルはある大穴だった。二人はその大穴の中へと足を踏み入れ、光を一切通さない暗闇の中へと入り込む。
ライトの光を頼りに、奥へ奥へと進んでいく二人。
すると、二人の前にあるものが目に止まった。
「これは……」
そこにあったのは、抜け道の一つもない大きな壁だった。
しかし明らかに普通の壁ではなく、壁全体に大きな四角い縁取りがあり、その内側には壁を掘られた形であるものが記されていた。
壁の縁の中には、緻密な植物や花を思わせる絵とその周りに何らかの詳細な説明らしき文章が記されており、その圧倒的で雄大な絵に、二人は圧倒されてしまった。
「これ、これだよ幕斗!これが例の、謎の石碑だよ!!」
道の石碑を前に、花子は飛び上がらんばかりに幕斗の肩をバシバシと叩く。しかし、幕斗はそれに反応することなく、そそくさと石碑に近づくと、そこに描かれている植物を見上げていた。
「この石碑の花…現存してる植物のどれとも一致してない……いや、この花の造形……」
ブツブツと難解な言葉を呟き続けていた幕斗は、懐から手帳を取り出してパラパラとページを捲る。そして、あるページで手が止まると、彼の瞳が大きく開かれた。
「やっぱり……これは、ヴォイニッチ手稿だ!」
「ヴォイニッチ手稿?それってたしか……あの古文書だよね?」
歴史学に精通している花子が、幕斗の言葉の意味を即座に言い当てる。幕斗はコクコクと頷くと、手帳に挟まれていた写真を見せる。
「15世紀初頭に作成されたといわれる、未知の古文書。記された文字、記載された植物、記された内容の意味、全てが解明されていない古文書……それがヴォイニッチ手稿」
「流石幕斗、植物が関わってるなら何でも把握してる」
「これは、そのページに記載されてるのと同じだ。つまり、ここにはその大本が……ん?」
石碑に触れて調べようとした時、幕斗は石碑になにかが埋まっていることに気付く。恐る恐るそれに手を伸ばしてみると、意外なほど簡単に外れ、それは土にまみれたコインのような何か。
土を払ってみると、花子も幕斗の手元を覗き込む。
「コイン…?」
「タンポポと……ライオン?」
そこには、タンポポの花とライオンが刻印されたコインだった。二人がまじまじとそのコインを見つめていると、二人の耳に突如として声が聞こえてきた。
──どうして…?
「「っ!うわぁっ!!」」
可憐な女性の声が耳に響き、二人は驚いて振り替える。
そこに立っていたのは、この世のものとは思えない存在だった。
女性らしいボディラインは白と緑で彩られ、白い花弁をもしたような意匠がみられ、頭部には白い花がある。そんな化け物としか呼べない存在が、二人の目の前にいた。
「これは……!」
幕斗は怪人を指差しながら小刻みに震えている。怪人は、ジッと幕斗の姿を見つめたままたたずんでいると、幕斗の声が、遺跡内に響き渡った。
「その花は…月下美人だぁっ!!!」
『…え?』
怪人の間抜けな声が響く。幕斗はそんなことなど気にも止めず、バッと立ち上がりながら怪人に近づき、ぐるぐると周囲を回るようにして怪人…具体的には、その身体の各部に備わった花弁を観察する。
「すごい…本物だ!この手触りに艶!まさか、こんな花をみられるなんて……!」
『ちょっ、やめ』
「こんな大きさまで育つなんて、一体どんな育て方をしたらこうなるんだ?いや、もしくは未だに未発見の新種か?」
『顔近い……!』
白衣を着た青年の剣幕に、怪人がたじたじとなっている妙な光景が出来上がる。怪人がしどろもどろしていると、突如として花子が幕斗の襟を掴み、自信のもとへと引き寄せると、幕斗は「ゲェッ!?」と奇怪な声を上げた。
「幕斗、落ち着いてよ!どうみても花じゃないでしょ!?」
「っ!あぁ、すまない!!」
首の苦しさで目が覚めたのか、幕斗は手を横に降りながら怪人に謝る。
『た、助かっ』
「それで!?貴方は何者!?コスプレじゃないよね!ねぇねぇ!!」
『えぇっ!!?』
安堵したのも束の間。今度は花子が詰め寄ってきたことで、再びビックリさせられる怪人だった。
結局、再び幕斗まで暴走しだし、怪人が必死に質問マシンガンに答えた事で、事態は終息を迎えた。
「ドリアード?」
幕斗が怪人の言葉を復唱する。
『はい。我々ドリアードは、太古から植物と共に生きてきた種族。私はそちらの方の言う通り、人々が月下美人と呼んでいる花のドリアードなんです』
「太古から?」
『人間の感覚だと……私が生まれたのは、150年くらい前になります』
「そんなに前から!?もしかして、この遺跡って……!」
『ここは私には縁のない場所です。ですが、はい。ドリアードが大昔に作った場所です』
月下美人のドリアードの言葉に、二人は「おぉ~」と声を上げる。そんな二人の姿をみて、月下美人ドリアードは不思議そうに尋ねた。
『あの…怖くないの?』
「えっ?」
『私達ドリアードは…昔から人間と対立していた。なのに、貴方達は私を全然怖がらない……どうして?』
首をかしげながら問いかける月下美人ドリアードに、幕斗と花子は顔を見合わせる。
「どうしてって言われても……ねぇ」
「なんと言うか、悪い子じゃなさそうに見えたから?」
『……』
二人の言葉に、月下美人ドリアードはジッと二人の姿を見つめていると、突如として爆発が起こった。
「うわぁっ!?」
「ひゃあっ!何っ!?何っ!?」
『これは……貴方達は逃げて!』
慌てる二人の背中を押して、逃げるように促そうとする月下美人ドリアード。しかしそれも束の間、突如として幕斗達が向かおうとした先の壁が破壊され、そこから大量の煙が吹き荒れた。
「な、なんだ!?」
幕斗が腕で顔を覆いながら周囲を確認していると、煙の奥からユラリと人影が現れた。
「あの花……ラベンダー?」
幕斗が呟いた通り、そこには月下美人と同じく植物で構成されたような身体に、各所に紫色の花弁がちりばめられた怪人だった。
「な、なにあれ?あれもドリアード?」
『はい。ですがあれは……』
花子の言葉に頷く月下美人ドリアード。その時、ラベンダーの花弁をもつドリアード──ラベンダードリアードは、視線を彷徨わせるなかで幕斗の姿が目に映る。
ラベンダードリアードは幕斗の手の中──遺跡に埋まっていたコインを目にすると、声を張り上げた。
『人間、それを渡せ!!』
「これ……?」
幕斗の視線がコインに向けられる。しかし、戸惑う幕斗を他所に、ラベンダードリアードは右手に紫色のエネルギーを溜め始めた。
『渡せと言っている!!』
振り抜かれた手から、紫のエネルギー弾が発射される。
目を見開く幕斗の前に、月下美人ドリアードが割り込んでくる。月下美人は両手を前につきだすと、そこから月下美人の花をもしたようなエネルギーを発生させ、ラベンダードリアードの放った光弾を受け止める。
しばらくの亀甲の末、月下美人の張ったバリアが爆発を起こした。
『うぁっ!!』
「だ、大丈夫!!?」
倒れた月下美人ドリアードの元に駆け寄る花子。すると、ラベンダードリアードは月下美人ドリアードの姿をみて、僅かに動きを止めた。
『貴様…!まさか、
そう言って、ラベンダードリアードはゆっくりと月下美人ドリアードに歩み寄ろうとする。状況はわからないが、幕斗はとっさに身体が動き、ラベンダードリアードに向かって走り出す。
「止めろ!!」
幕斗は全体重をのせ、ラベンダードリアードに向けて体当たりをする。
しかし、ラベンダードリアードは地面に根をはる大木のように微動だにせず、ゆっくりと幕斗に視線を下ろすと、右腕を振り上げた。
『人間……貴様らはこの星の害悪。消えろ!!』
「うごぁっ!!?」
ラベンダードリアードのパンチをくらい、血を吐きながら殴り飛ばされる幕斗。
フラフラと立ち上がる幕斗に、月下美人ドリアードが声を張り上げる。
『逃げて…!彼等は……!』
『無駄だ。そこにいる人間達も、ひいてはこの星に存在する全ての人間達は、種一つ残らず消す』
月下美人の言葉を遮り、ラベンダードリアードが嘲笑のような声を上げる。
「どう言うことだ……」
幕斗の言葉に、ラベンダードリアードは笑う。
『人間は愚かで下劣な種族。この星の命である植物を汚し、美しく命で溢れた世界を破滅へと向かわせる害虫。ゆえに我等ドリアードが、人間と言う害悪を駆除し、世界を美しき姿へと戻すのだ!』
「っ!…確かに、人間は環境を破壊して、植物を摘み取ってるのは事実だ…!でも、植物が人間を苦しめるなんて!」
『その傲慢こそ、人が愚かである証拠!貴様も、そしてソイツも、この場で死ぬのだ!!』
ラベンダードリアードの指が月下美人ドリアードに向けられる。
「お前…!ソイツはドリアードだろ!仲間じゃないのか!!」
幕斗の剣幕に、ラベンダードリアードは鼻をならしながら答える。
『その女は裏切り者。ドリアードでありながら人間という害虫に与したソイツは、この場で処分するのみ!』
「そんなこと、させるかぁ!!」
幕斗は走り出し、ラベンダードリアードに向けて拳をつきだす。しかし、やはりラベンダードリアードには効いておらず、逆に顔にパンチをくらい、地面を転がった。
『何で…私の為に……?』
それを見ていた月下美人ドリアードは、自分を始末するという言葉を聞いて激昂した幕斗に困惑の視線を向けていると、花子が語りかけた。
「幕斗は、植物が大好きなの」
『?』
「昔から、花や木を見ては世話をしたり育てたりしててさ……だから、植物である貴方を見捨てらいの」
花子の言葉に、無言で幕斗を見つめる月下美人ドリアードは、しばしの沈黙の後、意を決したように立ち上がる。花子が呼び止めようとした時、幕斗が花子のもとまで殴り飛ばされた。
「がはっ!!」
「幕斗!!」
花子があわてて幕斗の身体を起こそうとするなか、月下美人ドリアードは、麗の遺跡の石碑に手をかざす。すると、その石碑が白い光を放ち始め、次の瞬間にはガラガラと音を立てて崩れ始めた。
月下美人ドリアードは、壁がなくなった先に視線を向ける。そして、その先にあった台座にて置かれていたそれを手に取ると、ラベンダードリアードと対峙しようとしていた幕斗の元へと走り出した。
『はぁっ!』
『グッ!!?』
月下美人ドリアードは、幕斗に向けて拳を振り下ろそうとしていたラベンダードリアードに向けて白い衝撃波を放つ。
不意打ちを受けたラベンダードリアードは地面を転がる。
時間を稼げたことを確認した月下美人ドリアードは、花子を守るように立っていた幕斗の前に歩み寄った。
『マク…ト……これ』
「…?」
幕斗は月下美人ドリアードが差し出したものに視線を向ける。
そこには、全体的に緑色で金の装飾が施され、中央に何かを嵌め込むような丸い窪みが、右側にはダイヤルのようなものが着いているデバイスが握られていた。
『ッ!貴様、やはりそれを!!!』
ラベンダードリアードがそれを目にして驚愕する。
一方、幕斗は恐る恐る、月下美人ドリアードが差し出したそれを受け取る。
『それを胸に着けて……貴方なら、きっとドリアードと人の未来を……』
「えっ?」
何がなんだかよくわからない幕斗。
しかし、ラベンダードリアードが警戒を込めた視線で自分のもとへと走り出そうとしているのを目にすると、決意を固め、痛む身体をむち打ちながら立ち上がった。
『!』
驚くラベンダードリアードを他所に、幕斗はそのバックルを、自信の胸に押し当てた。
その瞬間、バックル──“プラントドライバー”の両端から帯が伸び、幕斗の胸にたすきがけのようにして装着される。
『コインを…ベルトに……!』
「コイン?……っ、これか!」
幕斗は先ほど拾ったコイン──“ドリアードコイン”を手に取ると、それを裏向きにして、プラントドライバーの中央にセットする。
その瞬間、幕斗の立つ地面を埋め尽くすように、大量のタンポポが現れ、一斉に黄色い花を咲き誇らせる。
ラベンダードリアード、そして月下美人ドリアードと花子が驚くなか、幕斗は、自然と思い付いた言葉を口にする。
「──変身」
その言葉と共に、幕斗はバックルに手を伸ばし、サイドにあるダイヤルを捻る。中央にセットされたバックルのコインが裏返り、タンポポとライオンをもした意匠がある表面が姿を現す。
地面に咲き乱れていたタンポポの花弁が一斉に飛び、幕斗の背後へと集まっていく。
集まった花弁がライオンの姿を象ると、タンポポの花弁で出来たライオンが雄叫びを上げながら四散する。幕斗の周囲を旋回する花弁は、次の瞬間、一斉に幕斗の身体に収束していった。
黒の身体に緑と黄色の装飾を持ち、仮面はライオンの鬣をもしたような造形に、首にはフワフワとした毛皮を持ち、水色の複眼の戦士へと、幕斗は姿を変えた。
「ライオン!?……タンポポ!!?」
花子の驚愕したような声が響く。そして、驚愕しているのは、姿を変えた幕斗──【仮面ライダープラント】も同じだった。
「これが、俺……ん?」
『ウォオオオオオオアッ!!』
顔を上げた先には、ラベンダードリアードが飛び掛かっている光景があった。
「うぉっ!!」
プラントは咄嗟に腕を交差し、振り下ろされたラベンダードリアードの拳を受け止める。上からかかる圧力に、プラントは押し潰されまいと踏ん張ると、その腕を振り上げた。
「はぁっ!」
『ガハッ!?』
プラントの拳がラベンダードリアードの胸に炸裂し、ラベンダードリアードは地面を転がった。
先程まで、幕斗の全力の体当たりを持っても微動だにしなかった相手を拳一つで殴り飛ばすことが出来た己の力に、プラントは拳を見つめながら高揚感が沸き上がってくるのを感じてしまう。
「これなら行ける……はぁっ!!」
プラントは走り出し、拳を構える。ラベンダードリアードは殴り返そうと走り出すが、プラントは直前で身体をそらして拳を避けると、相手の鳩尾に拳を叩き込む。呻き声を上げて後退するラベンダードリアードに、プラントは追撃のパンチを二発連続で放つ。
『調子に乗るなぁ!』
「ッ!」
追撃の攻撃に苛立ったラベンダードリアードは、右手から紫の光弾を放つ。それを察知したプラントは即座に地を蹴り、後方へとジャンプしようとする。
「おっ!?」
しかし、予想に反してプラントの足は地面に着地せずに、空中に滞空していた。驚くラベンダードリアードだが、驚いていたのはプラントも同じ。しかし、いち早く立ち直ったラベンダードリアードは、更にエネルギー弾を連続で放つ。
「おっ!よっと!」
プラントは空中で、無我夢中に身体を動かし、右へ左へとそのエネルギー弾を回避する。すると、狙いが外れたエネルギー弾の一つが、花子と月下美人ドリアードに向けて飛んでいく。
「花子!!!」
それに気付いたプラントは、空を蹴り、即座に二人の前に着地すると、両腕を振り抜いた。
金属音のような音と共に、放たれたエネルギー弾が明後日の方向に飛んでいき、地面に着弾したエネルギー弾が爆発を起こした。
「やってくれたな……ん?」
反撃に移ろうとプラントが拳を構えた時、プラントドライバーから緑の光が溢れだし、プラントの前で一つの武器を形作った。
「これは……」
「鎌?」
緑の刃を持つ鎌──“プラントサイス”を手に取り、まじまじと眺めたプラントは、鎌を手にしてラベンダードリアードへと突撃する。
ラベンダードリアードに向けて手にした鎌を振り抜くと、敵の身体から火花が飛び、地面を転がる。
「おりゃっ!はぁっ!」
『ガッ!?ぐっ!?』
「はぁああああっ!!!!」
『ウァアアアアアアアアアッ!!!』
滅多切りの直後に鎌を振り上げ、ラベンダードリアードを切り飛ばす。
『……ヌァ!!』
立ち上がったラベンダードリアードは、突如として踵を返したかと思うと、身体から蔦を伸ばし、木々や岩に巻き付けてその場から逃亡を図った。
「ッ、待てぇっ!!!」
プラントは追いかけて遺跡を飛び出すが、木から木へと猿のように逃げていくラベンダードリアードの速度には追い付けず、気が付けばプラントは自身のオートバイを停車させていた場所までたどり着いていた。
『幕斗!』
「ん?うぉっ!!」
その時、自分を呼ぶ月下美人ドリアードの声に振り返ったプラントは、飛んできた何かをキャッチする。恐る恐るそれに視線を下ろすと、そこには、車輪と月下美人の装飾がある
『それを……!』
「使えってことか!」
プラントはプラントドライバーのタンポポドリアードコインを取り外すと、白いコインをセットし、ダイヤルを捻る。
その瞬間、セットしたドリアードコインがベルトから飛び出し、幕斗のオートバイの中へと入り込んでいく。光と共に、幕斗のオートバイが変化した。
白、黒、緑の車体に、プラントを連想させるフロント。車体には月下美人のドリアードコインの意匠を持つバイク──“プラントレイダー”となったバイクに、プラントは驚きの声を上げた。
「おぉ~!変わった!!これなら……!」
プラントはバイクに跨がると、エンジンをかけてアクセルを踏む。次の瞬間、プラントレイダーは爆発的な速度で飛び出した。
「おぉっ!!?」
圧倒的な加速に驚くプラントだが、すぐに意識を取り直し、逃げたラベンダードリアードを追う。
自身を追ってくるバイクに気付いたラベンダードリアードは、撃ち落としてやろうと、蔦で四方八方を飛び回りながら、紫のエネルギーを放つ。
しかし、プラントは巧みな運転技術を駆使し、右へ左へとバイクを動かしていくことでその弾幕を避け続ける。
「このままじゃ埒が明かない。なにか……ん?」
攻撃手段をも模索ようとした時、プラントはプラントレイダーのコックピット部分の中央部分に、丸いの窪みがあることに気付く。まさかと思い、プラントはドライバーからコインを抜き取ると、その窪みにコインをセットした。
プラントレイダーに黄色いエネルギーが迸り、プラントはハンドルを持ち上げ、バイクを空へと飛ばす。空中で黄色いエネルギーがライオンの形を作ると、ラベンダードリアードの真横を通り抜けたプラントは、そのままバイクを動かし、車体を相手に激突させた。
「はぁっ!!」
『グォオオオッ!!?』
車体に連動して爪を振るうライオンの爪に切り裂かれ、ラベンダードリアードは地面へとたたきつけられる。
地面に降りたバイクをドリフトさせて急停車したプラントは地面を転がり倒れるラベンダードリアードを見据えると、プラントレイダーから降りる。
「これで、除草は終わりだ」
そう言うと、プラントはプラントドライバーのダイヤルを再び回すと、中央のドリアードコインが回転すると、ベルトを中心に緑色のエネルギーが迸り、それがプラントの足に集中していく。
「はぁ!」
プラントは地面を叩く。その瞬間、プラントの足元に超巨大なタンポポの花が現れ、その花弁の上に乗ったプラントは飛び上がると、空中で右足を突き出してキックの体制を取った。
タンポポの花が飛び散り、プラントの周囲で無数の花が渦を巻くと、プラントはラベンダードリアードに向かって急降下した。
「はぁああああああっ!!!」
『ぐぁあああああああっ!!!!』
花弁のエネルギーを纏った黄色と緑の蹴りを受け、ラベンダードリアードは爆発を起こした。
プラントが着地すると、爆炎から何かが飛び出してきて、プラントはそれをキャッチする。
手元を覗き込むと、それはラベンダーと犬の絵柄が彫り込まれた紫のドリアードコインだった。まじまじと眺めながら、プラントは胸のドライバーを取り外す。
光と共に生身の姿に戻った幕斗のもとに、花子と月下美人ドリアードが駆け寄ってきた。
「幕斗ーー!!」
「花子!」
「どう言うことなの今のあれ!突然ピカーって変身して、滅茶苦茶強くなったかと思えばどっか行っちゃうし!そのベルトなに!?」
「ちょちょ!待て待て待て!いっぺんに言われても分かんないよ!というか俺にも分かんないし!」
花子のマシンガンのごとき質問攻めにたじたじになる幕斗のもとへ、月下美人ドリアードは地面を踏みしめながら語りかける。
『それはプラント。かつて、私達ドリアード全てを封印した戦士の名前』
「戦士って……幕斗が!?」
花子の言葉に頷くと、月下美人ドリアードは幕斗に視線を向ける。
『かつて…人とドリアードは、世界の覇権を手にするために争い合いました。そして勝ったのは人。そして、人に栄光をもたらした力は、今貴方のものになりました』
「……」
『マクト……貴方は、その力を使って、どうしますか?先代のプラントみたいに…全てのドリアードを、封印するんですか?』
静かな問いかけに、幕斗は月下美人ドリアードの黄色い瞳をジッと見つめたあと、フッと笑みを浮かべながら答えた。
「……いや、俺はドリアードと戦わないよ」
『えっ?』
間の抜けた声を上げる月下美人ドリアードに、幕斗は先程手に入れた紫のドリアードコインを見つめながら答える。
「ドリアード…こんな植物がいたなんて、今も驚いているけどさ、同時に分かったんだ。ドリアードは悪奴じゃないって」
『……』
「人間が世界から植物を摘み取ってるのは…残念だけど、本当のことなんだ。だから、アイツの言っていたこと、間違ってはないんだよ」
「幕斗……」
幕斗は花子から心配そうな視線を向けられるが、大丈夫と言わんばかりに、プラントドライバーを見つめながら答えた。
「だから、俺はドリアードを全て封印する道なんて選ばない。人と植物は共存していくべきなんだ。だから俺は、人とドリアードが共存していける道を探す。これは、その為の力だ」
『共存……?人と、ドリアードが……?』
月下美人ドリアードは本気で驚いた。そんなことを言うなんて、思ってもみなかったもいわんばかりの様子だ。
しかし、更に問いかけられた言葉に、彼女は更に驚くことになる。
「君、名前は?」
『な、まえ……とは?』
「ほら、あるでしょ?月下美人って言っても、それが名前と言う訳じゃ……」
『…?』
首をかしげる月下美人ドリアード。
人間と違い、彼女には名前らしい名前は存在していない。花一輪一輪に固有名詞がないのと同じように、彼女もドリアードの一種でしかないのだ。
すると、花子が月下美人ドリアードに抱きつきながら問いかけた。
「あー……それじゃあ、ルナちゃんって呼んで良い?」
『ル、ナ?』
「あぁ、確かに良いかもね!君、月下美人のドリアードでしょ?ならその名前、ピッタリだ!!」
わいわいと騒ぐ幕斗た花子に、ややおいてけぼり気味になってくる月下美人ドリアード。しかし、幕斗はそんなことは気にしてはいないとでも言うように、彼女に手を差した。
「ルナ。俺達と一緒に、ドリアードが共存できる世界を作らないか?」
太陽のように眩しく、優しい笑顔でそう言われ、彼女はもうなにか言う気はなくなっていた。寧ろ、【ルナ】という呼び名を聞くと、これまでにない、心地の良い不思議な気持ちが沸き上がってくる。
数秒間の思考の後、月下美人──【ルナ】は、差し出された幕斗の手に、自身の手をのせた。
『…分かりました。これから、ルナと名乗ります。そして…貴方達に協力することを約束いたします』
その時、ゆっくりと朝日が登り始める。
森の木々の隙間から日の光が差し込み、幕斗達を照らす。
朝日の眩しさに幕斗と花子は思わず目をつぶるが、僅かの時間で目がなれてきたのか、ゆっくりと目を開けてルナに視線を向けると──大きく目を見開いた。
「よろしくお願いいたします。幕斗、花子」
その可憐な声は、確かにルナの声だった。
しかし、幕斗の手を取っているのは、明らかに別人だ。
染みも黒子もない白く艶やかな肌、腰まで届く真っ白な髪。完璧な配置で整った顔立ちに黄色い瞳を持つ美少女が、
「「……え?」」
幕斗と花子の声が重なる。
二人は、朝の日差しをキラキラと浴びる少女の姿を頭から足までジーッと見つめたあと、揃って声を上げた。
「「えぇぇえええええええええええええええええええええっ!!!!!!!!」」
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