忘却の冒険者、少女パーティーを助ける ―未見の暗器使いは名前を覚えられない―第一話 作:星空銀河
全員、暫く黙って、まとまったままギルドの近くまできた。
無言に我慢できなくなったティアが、小声で確認してくる。
「本当に? ほんとにホントですか?」
「しっ! もうギルドだ。続きと証拠はダンジョンで見せてやる」
と、そこまで小声で言うと、いきなり普通の声で話し出した。
「まあ、そんなわけだから! お前らは雲にでも乗ったつもりで気楽にいけ!」
クロスは上手い例えをしたと自画自賛で笑って喜んでいるが、三人の少女達にとっては文字通り、雲をつかむ話にのせられてしまった気分だった。
ギルド内に入ると、真っ直ぐ受付カウンターに進んでいく。
「今度はビスケットをねだりに来たんじゃないよ。ちゃんとした用事だ、ロリィちゃん!」
いきなり間違った名前を呼ばれた受付嬢はクロスの前のカウンター越しにイライラを露にした。
「ミリィだって言ってるでしょクロスさん! で! 今度はなんなんです?」
カウンターに身を乗り出すとクロスは小声で「そう言うなょ。あたしの秘密を知ってるのは、ここじゃギルド長とアンタだけなんだからさ。名前を間違う理由だって、わかってんだろぅ?」と囁いた。
「はい、わかってますよ? 分かってはいますが! なんだか腹立たしいんですよ、ア・ナ・タ・は!」
「つれないねぇ~、モーリィ。あ、そだ。あたし、この娘らとパーティーを組むことにしたんだ。申請するから用紙くれよ」
それを聞いてミリィは驚いた。
名前が違うツッコミもせず、ひそひそ話を始めた。
「ちょっと、どうするんですか! ダンジョンにいく⁉ じゃあ、この子らにバレちゃうじゃないですか! は? ちょっと話した? 秘密保持契約はしたんですか? してないのお⁉ 一飯の恩義? それなら私にもビスケット代出して下さいよ! せこい? 自分を差し置いて何をいってんですか、アンタは⁉」
パーティー名を登録しに来ただけなのに、なにやらカウンターで延々とゴニョゴニョ話をしているクロスと受付嬢だったが、なんとかパーティー登録用紙をもらってきたらしい。
「クロスさん、もしかして私たちが弱すぎるから反対されてたんですか?」
「……」
ショボンとしている三人をクロスは笑い飛ばした。
「いやぁ、単に友達だから世間話に花が咲いちゃってさ! それより、この用紙のパーティー名ってところ。なんて名前にするんだい?」
「そうだったんですね。ほっとしました!」
「パーティー名ね……どうしようか。今が【早春の風】だから……」
ティアが唸っている間にマトイが、サッと用紙を取ると勝手に書き始めてしまった。
そこには【炎夏の嵐】と書かれていた。
「早春の風から灼熱の台風って感じだねっ。いいんじゃない?」
仲間から褒められ照れくさそうにしているマトイを見ながらクロスは何故か
(炎夏の花道の方が良かったんじゃないかなあ?)とくだらないことを思いついていた。
◆ ◆ ◆ ◆
ダンジョン名【背徳の縄張り】の入り口は、雨水が地下迷宮に入っていかぬように何重もの堀に囲まれた丘陵の上にポツンとある大岩の下にある。
本来ならばダンジョン入り口には、料金を徴収する為の国からの人員が数名配置されているのだが、現在はダンジョンの異常が報告されている為、誰もいない。
もっとも、話によるとダンジョン内に収益になる魔物がいなくなってしまったので、料金を払うと赤字になってしまう為に誰も来ないというのもあるのかもしれない。
フロンが照明の魔法ペイルライトで周囲を照らし出す。
地下一層、二層と進むが、確かに何もいない。
帰還しないパーティの痕跡もまだ見当たらない。
さらに奥だ。
冷たい空気が四人の足元を撫でて、ダンジョンが呼吸するように暗闇がうごめく。
三層目にして、やっと何かがいる気配がする。
キキッ
鳴き声からするとロックラットらしい。
「この程度なら! クロスさん、わたし達でやります! フロン、強化魔法と周囲をもっと明るくして! マトイは弓で、チャンスがあれば魔法で支援して! いくねっ‼」
ティアが音の方向へと走っていく。同時にフロンがエンチャントバイタリティを付与した。マトイは弓を引き絞って放つタイミングを見定めている。
「シャイニングライト!」
フロンが唱えた魔法によりティアが走る前の方が一気に明るくなると、眩しさで動きが止まっているロックラットが床に二匹と天井付近の壁に三匹いるのが見えた。
ティアの接近に一匹が飛びかかってきたところを抜刀と同時に下から跳ね上げるようにして胴体を叩き切った。天井付近の二匹にはマトイの矢が次々と命中したが、一匹は奥の闇に逃げていってしまった。
床にいた残る一匹も逃げようとしたがティアが持っていた釘型の投剣が刺さり動きが止まったところをとどめが刺された。
食堂で、クロスは、三人娘に対して、もしかしたら連携がそこそこ上手いのではないかと感じていたが、ロックラット程度ならば、まあまあ様になっていると言える。
ティアは、倒したロックラットから背中の鉱石と牙を取りながら「これじゃ、お菓子代くらいにしかならないけれど、無いよりはマシだと思って持っていくね」とぼやきながらも手早く作業をしている。
その後も、第八層まで進むもほとんど何も出ない。
確かに異常である。
「確か、十三階層までいった奴らが変な声だか音だかが聴こえたって言っていたんだよな?」
「そうです。あと五層ほど下になりますね」
「行方不明の連中が、まだ生き残っている可能性はゼロじゃない。その意味で先を急ぎたいんだが……よし、あたしは食いながら行こう! なんとなく後ろからついていくから十三階層に着いたら歩くペースをスローダウンして。それまでは食べてるから」
「えっ……ああ、はい……」
曲がりなりにもダンジョンなのに、ここまで緊張感のない人も珍しい。それだけ自信があるということなんだろうか。
とぼとぼと歩きメシをしているのに何も出ないので、案外と進んで行けてしまう。
「あたしの未見の暗器は燃費悪いのよ。これだけ食べても全然太らないしぃ。うっ!」
突然のクロスの声に驚いて全員立ち止まる。
「クロスさん! 何か起きましたか!」
「うぐっ! お茶、持ってないか?」
「あります。どうぞ。あの、ついでですから小休止しませんか?」
気がつけば、第十一層まで一気に来てしまっていた。
もしかしたら意識していないだけで疲労の蓄積もあるかもしれない。
小休止は良い提案だ。
それぞれ思い思いの場所に腰を下ろして座る。
ついでにポーションやマナの数を確認したり、水分をとったりしている。
座りながらクロスがぽつぽつと語り始める。
「これは、あたしの独り言だ。聴くも聴かないも好きにしてくれていい。あたしの未見の暗器が何故、未見と呼ばれているのかというと、誰も見た事がない武器や装備で、この世界を生き抜いているからだ。暗器とは言われているものの実際には何がでてくるのかは正確には分からない。大剣等も含まれているから暗器でもない。にも関わらず暗器と呼ばれているのは用事が終わった武具は、消滅か土になってしまうからなんだ。つまり、あたしが生成する武器、武具は、あたしにしか使えない。しかも、一度出した名前の武器は二度と出てこない。名前を変えれば出るには出るが似て非なる物しか出てこないんだよ」
「未見の暗器」──その二つ名は冒険者の間では伝説に近いものだったが、「見たことがない武器を使う」という点でしか語られない、いわば中身のない異名だった。本人すらその呼び方を気に入っていない節がある。
そして、未だ三人は未見の暗器というものが、どういうものなのかも見ていないのだ。
十分程の休憩の後、彼らは一気に十二階層まで進んだ。
これから十三階層に進もうかという時点で、クロスが妙なことを言い始めた。
「ここから先は、お前たちはあたしの後ろにいな。そして出来るだけ離れて歩きな。最低でも十歩。そこよりあたしに近づいたら、下手をしたらバラバラになるかもしれないよっ? お前たちは自分の保身だけを考えて行動するんだ、いいね?」
今までとは違う雰囲気がクロスから湧き出ている。
「バラバラになる?」とティアは繰り返し、フロンは少し震えているようだ。
マトイは、ただ一言「……近づかない」
三者三様の反応だったが、結論は同じだった。
「近づくなと言われたら近づかない」──それが今の自分たちにできる唯一のことだと、三人は理解していた。
「あたしの攻撃は、あたし自身にも分からない。だが、巻き込まれた人間は即死以外がないんだよ」
巻き込まれる程の攻撃。
「……見たい」と言うと「じきに見れるさ」と返ってきた。