PERSONA 3 ALIVE 作:匿名
4月21日 放課後
「なあ万里、今日このあと暇?」
終業のチャイムが鳴るや否や、万里は「おわったー!!!」と言わんばかりの表情で大きく伸びをする。
そんな万里に声をかけたのは、同級生の男子だった。
「んー……。悪い、昨日巌戸台に来たばっかで色々やんなきゃだから、今日はパス!また誘ってくれな?」
「え!?お前昨日の今日で学校なの!?大変じゃん……」
「だろ〜!?まっじでさぁ、まだなんの荷解きもできてないんだよなあ。」
「おかげさまで、体バキバキ範馬●牙って感じよ……。」と笑い合う。鞄を肩にかけながら立ち上がると、一人静かに座ったままの山岸が目に入った。
山岸の顔を覗くように腰を折り、にぱっと犬歯を見せる。
「山岸ー。バイバイ。また明日な〜」
「えっ、あ、また明日ね、陽野くん。」
そして、おじいちゃんの財布も緩む、とびきりの笑顔を向けた。おじいちゃん、会ったことないけど!
……よく近所のおっさんには「バカっぽい笑顔は出してて損はない」とか言われてたけど本当か?クラスでの俺の第一印象バカになったりしてないか?
……ま、いっか!
「じゃあな〜!」
手をブンブンと振りながら教室を後にする。巌戸台に来て早々色々あったけど、それでも楽しい新生活だもんなあ!
……いや、ほんとに色々あったな。昼休みも倒れかけたし。真田さんには「貧血だろう。水を飲んでろ」って気を使わせちゃったな〜……。
「家帰っても荷解きだし、憂鬱だなぁ〜……ん?」
「……」
「なーに出口で止まってんだよ理!真田さんと待ち合わせだろー?」
「うん、そうだった。」
ぼやきながら廊下を歩いていると、二人の男子生徒、その片割れと一瞬、目が合ったような気がした。
長い前髪が特徴的な不思議な印象の男子生徒。
……あれを世間ではミステリアスっていうんだろうな。この学校は顔面偏差値も重要視されてるんデスカ?
口から生まれたって言われる俺にはできないキャラ付けだなあ。……クールなやつの頭ん中ってどんなこと考えてんだろ。
「When stars're smiling moon〜 Wonder how look in〜……アレ、なんだっけ?」
片耳にイヤホンを差し、胸元に垂れ下がったもう片方からは、微かに音が漏れる。
ピッと軽快な音が鳴り改札を通り、階段を降りながら暖かな陽気の中、鼻歌混じりに帰路を辿る。
横目に駅の脇にある路地を眺め、人の流れに沿って歩いているとふと荒んだ雰囲気に気が付いた。
昨夜は暗くてわかんなかったけど、もしかして身近なところに治安の悪い場所ある…?と考えながら、前を歩く人たちが立ち止まったのに気付き、つられるように足を止める。
信号に捕まらず、タイミングよく渡れた記憶ってなんで薄いんだろうなぁ……。
『ピヨピヨ、ピヨピヨ』
「……あっ。」
交差点に、気の抜ける鳥の鳴き声のような音が鳴り響く。それを合図にしたかのように周りの人たちも歩き始めた。
万里もまた、その流れに合わせて信号を渡ろうとする、が———
「……」
ふと、昨夜の記憶が脳裏をよぎり、足を止める。
背中を嫌な汗が伝う。
軽く深呼吸をし、何かを試すかのようにわざと目を瞑る。
そしてゆっくり再び目を開くと———
変わらず信号を渡る人々と、怪訝そうに万里の様子を一瞥し脇を通り過ぎていく歩行者が目に映った。
「……はぁ、アホらし。何やってんだ俺。」
4月21日 夕方
「すんませーん!伊織と結城、ただいま到着しましたァ!」
「ごめん、遅れた。」
巌戸台分寮。
私立月光館学園に通う、親元を離れた生徒のための寄宿舎———は、表向き。
その寮の裏の顔は、『影時間』と呼ばれる1日と1日の隙間に存在する時間の解明と、その時間に住む怪物———シャドウと戦闘を行える者を集った、『Special Extracurricular Execute Sector』通称S.E.E.Sの活動拠点だった。
その寮の4F、作戦室の両開き扉が開き、2人の男子生徒———伊織順平と結城理が入ってきたのを、美鶴が確認する。
「来たか。急な召集をかけてすまない。……明彦は一緒ではないのか?」
「知らない。」
「あ、あー、そうっすね。なんか待ち合わせの後普通に帰っちゃったんで…」
「……それ、呼び止めればよかったんじゃないの?」
作戦室の中央にある椅子に腰掛け、ずっと口を閉ざしていた女子生徒———岳羽ゆかりが呆れながら口を開いた。
「いやいや、呼び止める暇もなく帰っちまったんだって!」
「……まったく。まあいい。召集をかけたワケを話そう。———新たな適性者候補を見つけた。」
「え!?まじっすか!?女の子だったらいいな〜!マンツーマンで戦いを教えてさぁ!そんで危ない時に俺が助けてっつーの!?」
「バカじゃないの?」
夢を見るように手を合わせ、体をくねくねと動かす順平に、ゆかりがため息をつきながら冷たい視線を送る。
美鶴が、「残念だろうが男子生徒だよ。伊織」と苦笑交じりに告げた。
「陽野万里……先日2年E組に転入してきたそうだ。」
「あー、あの身長高いヤンキーみてーなやつっすか……」
「順平、知ってるの?その……陽野くん?のこと」
可憐な女子生徒を期待していた順平は、適性者候補が男だと聞き、がっくりと肩を落とす。その様子に呆れながら、ゆかりが『陽野万里』について質問をした。
「ん?あぁ、E組の女子からよー、初っ端から『好きなタイプはメーガン・フォックスとミラ・ジョヴォヴィッチですー』つって自己紹介してたって聞いたんだよなー」
「えー……じゃあ順平と同類ってことじゃん。」
「ちょ、ひどくない!?」
順平の抗議をよそに、理は先ほど告げられた名前について考えていた。
身長の高い、ヤンキーみたいな男子生徒……今日、目があった彼なのだろうか。顎に手を当てながら腕を組む美鶴にその男子生徒についてどうするつもりなのかと問いかける。
「あぁ。明日中にでも寮にて保護を図る。あまり褒められたものではないが———ペルソナ使いとしての適性も測りたいからな。」
美鶴が神妙な顔で言い、なぜかゆかりが気まずそうに目を逸らす。順平が「え?なにその変な反応?」と様子のおかしい2人に首を傾げる。
「わかった。話はそれでおしまい?」
「いや、ここからが本題だ。寮で保護するのは、まあこちらでなんとかする。だがそれまでの時間……まさに今日の『影時間』、彼を監視———もとい、シャドウから守ってもらいたいんだ。」
「今この人さらっと監視っていったぜ、理」
4月21日 深夜
「……アレ、俺寝てたのか……」
暗闇の中、手探りで電気のスイッチを探す。ぱちっという音と共に部屋が光で照らされ、眩しさに目を細めながら立ち上がる。
「やべ、全然荷解き進んでないじゃん」
うーむ。昨日の今日だし疲れが溜まってたのか?うわ、段ボールにカッター刺した状態で寝てるじゃん俺……危なー。
はぁ、とため息をつきながらカッターを抜き、部屋に備え付けられていた冷蔵庫から冷やされた水を取り出す。
水の冷たさが口から喉、胃に広がっていくような感触にようやく頭が冴え始める。
「今何時……げ、23時50分!?寝すぎだろさずに……」
バックパッカー並みに寝ちまった……。いやこれ使い方あってんのか?わかんねーや。
腕を組み全然荷解きの終わっていない、ある意味惨状とも言える光景を見下ろしながら、もう今日は寝ようかな、と考える。すると、ぐぅ〜……。と、間抜けな音が部屋に鳴り響いた。
「……腹減ったなぁ」
コンビニでいっか。飯食お。
そう考え、体をポキポキと鳴らしながら玄関へと向かった。玄関を開けると、4月の涼しげな夜風に目を細める。ずっと涼しくいいのになあ、あちーの苦手だし。
「からあげチャーハンおにぎりチキン〜 ……ん?」
一瞬、みられてる気がしたけど……気のせいか?……気のせいか。てかこの辺りってコンビニあんのかな〜。
深夜のため、あまり音を出さないように階段を下りていく。商店街の方にはコンビニ見当たらなかったしな〜……。いっぱい寝て眠気ねーし少し散歩するかあ。
ちらほらとある街灯を頼りに歩きながら、携帯でMAPを確認する。……この先の信号を、越えたところにコンビニがあるらしい。
道中、仕事帰りのサラリーマンや少し柄の悪そうな青年、大声で話しながら帰る不良少女などとすれ違う。
サラリーマン……いつもお疲れ様です……。と、心の中で合掌をしながら、コンビニの明かりに「お、ついた」とつぶやいた。
「……ん?今の陽野じゃね?」
「えー?うける、やっぱ不良なんだあいつ」
「あ、そういや風花のことなんだけど———」
「げー、嘘でしょ?陽野くんこんな時間から出歩いてるんですけど……」
『そうなのか?まずいな。影時間まで5分を切っているぞ』
『念のため、カバンから武器を取り出す準備をしておけ。』と、通信越しに美鶴が指示を飛ばす。
「了解」「わかりました。」「うっす!」
「…にしても、影時間ってなると、やっぱシャドウって街にも結構いるもんなんすか?」
『いや、基本的にはタルタロスを出ることはない。ただ、イレギュラーなものとしては市街地にも姿を現すことがあるな。』
『そもそも、
『……気をつけろ。影時間にもうそろそろ入るぞ。岳羽。陽野の様子はどうだ?』
「あ、はい。今の所は特に変わらず歩いてるだけですね。……あ、猫にじゃれつこうとしてる。」
「……ゆかりっち、その情報いる?」
「う、うるさいわね。」
2人のやり取りをよそに、理がふと空を見上げた。
「……影時間だ。」
「あーらら、猫ちゃんに逃げられちゃった。」
あんま好かれないんだよね〜。と、呟きながら立ち上がる。それと同時に、足元に照らしていた街灯の明かりがふっと消えた。
「……また停電か?巌戸台は定期的に停電でもするのか?……ん?」
カチ。カチカチ。と、携帯で時間を確認しようとする。が、いくらボタンを押しても画面に時間が表示されることはなかった。
ふと、あたりが静まり返っていることに気が付いた。気にも留めていなかった微かなテレビの音や、遠くから微かに響く話し声。
それら全てがなくなり、頭上にはやけに大きく感じる月だけが浮かんでいる。
……ただならぬ雰囲気を感じる。
コンビニに向かっていた足を止め、そのまま家に引き返す。
無意識に、ごくりと唾を飲み込む。
……やばい、なにかわからんが明らかやばいぞ。
足早に歩いていると、どこかで見覚えのある、直立した黒い棺が目に入った。
向かう最中にはなかった、まばらに置かれたソレの間をすり抜けていくが、何個かの棺を通り過ぎたところで、ふと何かが頭にひっかかった。
足をゆっくり止め、追い越していった棺を振り返る。
「……やっぱこの立ち位置、いや、この間隔……?」
さっきすれ違ったサラリーマンや不良達か……?
パシャッと、いつのまにかそこかしこにできていた謎の赤い液体が、靴に跳ねる。
だが、そんなことにはお構いなしにゆっくり棺に手を伸ばしていく。
そして、棺に指先が触れようとして———
「っ!?」
家の壁の、その隙間から黒い泥のようなものが、滲み出てきた。
ゆっくりと動くソレが、徐々にこちらににじり寄り———
青い仮面の、その目と思しき虚ろな黒い穴と、目が合った気がした。
「———っ!!!!」
直感が強く叫ぶ。
ここから逃げろた、と。