PERSONA 3 ALIVE 作:匿名
4月25日 影時間
「……なに……?あのバカでかい塔……」
改めて見ると月もやたらバカでかいし……。いやそれよりもあんなバカでかい塔、昼間には影も形もなかったろ……!
天を衝くようにそびえ立つ巨大な塔に、開いた口が閉まらない。異様な雰囲気に包まれた世界を前に、万里が立ち尽くしていた。その様子に、タカヤが目を細く歪ませる。
「……アレは、『滅びの塔』。この影時間にのみ姿を現すモノです。」
無意識に、槍の柄を握る力が強くなる。
あの日見た
「か、影時間?だっけ……。これってその、話の文脈的に、もしかして毎日……?」
「ええ。……そしてこれからはあなたも毎日体験するのです。」
これを毎日?命からがら逃げまわってただけの、あの日をまた……?
数日前の記憶が脳裏をよぎり、下を向く。それと同時にふと、名乗り口上を述べた、怪人……『ダンテ』の存在を思い出した。
そして、先ほどタカヤが話していた言葉———『影時間』と、もう一つ。『ペルソナ使い』というワードも思い出す。
「……そういえば、さっきペルソナ使いがどーのって……」
「なんや、しょうもないな。案外取り乱さへんのかい。」
「普通のやつやったらビビり散らかしとるとこやで。」とつまらなそうに腕を組む。
そしてタカヤは、戸惑いながらも言葉を咀嚼していた万里に、口元を歪めながら、「ついてきなさい。」と2人の間を通り抜ける。
……なんかタカヤさんって、独特な雰囲気?価値観?を持ってるな……。今の所悪い人、ではないのかもだが……。
誘われるままに、コンクリートの地肌が見える部屋を出ると、長い階段を降りていく。
コツコツと三人分の靴の音のみが反響し、しばしの沈黙の後、ビルの外へと出た。
大きな月が、灯りを失った街を仄かに照らす。影時間であっても月は変わらず———いや、いつにも増して存在感を放つ月に、ほぉ……と、万里がため息を吐く。
その様子を横目に見ながら、タカヤが口を開いた。
「……ジン。彼に『アレ』を。」
「バンリ。これ持っときや。」
……?なんだろ。別の武器?とか?
何も考えずに、ジンから差し出されたモノを受け取る。手の中に収まった、ずっしりとしたモノを一瞬落としそうになりながらも、月明かりがソレを照らした。
「……え、これって。」
万里の手の中に、鈍色に月明かりを反射する拳銃が収まっていた。思わずタカヤとジンの顔を交互に見つめる。
「そう不安げに見んなや。ただの護身用や思っとき」
「あなたの手にある槍とはまた別に、必ず必要になる時がきます。……さあ、街へ出ましょうか。」
万里の横を通り過ぎるタカヤのベルトに、リボルバー型の拳銃が差し込まれていることに気が付いた。
……アレも、護身用なのかな……?
そう考えながら、万里はタカヤを真似するように腰のベルトに拳銃を差し、歩いていく2人の背を追いかける。
……これって、暴発とかして怪我、とかなんないよね。めちゃくちゃに怖いんだけど……。
辰巳ポートアイランド駅 周辺。
足元には赤い液体が光沢を帯び、電灯すらない街を大きな月が照らし、直立する棺が並び立つ。
「……さて、駅まで出たはいいのですが。」
「こういう時に限ってシャドウ、おらへんのかい。」
ふむ……と、腰に手をやるタカヤと、ため息を吐くジンの様子に、「何もない方が嬉しい気もするよ……」と、心の中で独り言を呟く。
……あ、また直立した棺がある。階段の近くとかにある辺り、本当に人間なのかなあ……。
「あー、タカヤさん?そういえばずっと気になってたんだけどさぁ、あの直立した棺みたいなのオブジェクトって一体……?」
「私たちには関係のないモノです。」
うーん、そうですか……。
とりつく島もない、って言葉の使い方は今は違うんだろうけど、こう、話が弾まない……。
今更だけど何でこの人上裸なんだ?
……気になるなぁ。と、思い耽っていると、不意にタカヤが「バンリ。」と短く声をかける。「?」と、振り返るや否や、耳を押さえたくなるほどの破裂音と共に、万里の頬を何かが掠める。
「……え?」
ツゥ……と、頬から血が流れ、さらにその後ろで、何かが溶けるような音が聞こえた。
そっと後ろを確認すると、泥のように溶けつつあるシャドウがいた。
「……あぁ、頬を掠めましたか。すみません。シャドウが後ろにいたものでして……。」
ゆっくりと振り返り、タカヤの手にある銀色のモノを見つめる。とても大きな口径の、リボルバー型の拳銃だった。
つまり俺の頬を掠めたのは、弾丸……?
何が起きたのか理解はしたが感情が追いつかず、タカヤを見ながら口をパクパクとさせる。
冷や汗をかいている万里を見ながら、タカヤがうっすらと笑い、駅の路地に指を向けた。
指を向けられた方向からズルズルと這い出る音が響き、二匹のシャドウが姿を現す。
「……シャドウってこんなによく出てくるもんなの?」
「さて。『エサ』に集められたのかもしれませんね。」
エサ?シャドウの……?
と、頬を押さえながら首を傾げていると、ジンが黙って前に出る。……右手には、先ほど渡された拳銃が収まっている。
「バンリ。さっき渡した拳銃、持っとるよな?」
「う、うす。あるよ。」
そう言いながら、ベルトに差し込んだ拳銃に触れる。
ひんやりとした感触だ……。銃の取り扱いの練習でもするのかな……?
と、ジンの背中を眺めていると、不意に手に持った拳銃をこめかみに押し当てる。万里の脳裏には先程、自分の頬を掠めた記憶がよぎり、思わず手を伸ばす。
「え、ちょ、ジンさん!?」
「一度だけ見せたるわ。……力の使い方をなァ!モロス!」
バンリが止める暇もなく引き金を引く。破裂音と共に、鮮血が飛び散る———こともなく、代わりにジンのこめかみからは青白いカケラのようなものが飛び散った。
ジンを取り巻く赤い噴流の中から、金属質、無機質。生命を感じない左右非対称な何かが姿を現し———目の前のシャドウの片割れを、容赦なく焼き尽くす。
万里は、ジンの背後に消えゆく異質な存在に、呆然と立ち尽くしていた。
「アレがペルソナですよ。バンリ。」
ジッと万里の顔を見つめるタカヤが、口を開く。
「あなたにもアレはできるはずだ。」と、タカヤの目が語る。
「……」
万里は無言でベルトに挟んだ拳銃を手に取る。ずっしりとした重さが指にかかる。
……俺の銃だけ本当に弾が出るとかないよね。
ズルズルと今なお獲物を狙おうとするシャドウに目を向け、万里は銃口を己が下顎にゴリっと押し付ける。
冷たい金属と、顎から脳へと突き抜けるプレッシャーが指を震わせ、引き金を引く指が躊躇する。
が、そんな様子の万里を見透かしたように、幼子に諭すように、タカヤが語りかける。
「バンリ。」
「あなたならば、出来るはずだ。」
「死を受容なさい。」
「引き金を引くのです。……さあ」
人差し指が引き金に触れる。
……引き金って、意外とそこまで力は必要ないんだ。もっと硬くて、力を入れないと引けないと思ってた。
こんな弱い力で簡単に引き金を引けるほど、あっけなく命も吹き飛ぶのかなあ。と考えながら、影時間の街並みに銃声が鳴り響いた。
4/27 朝
「……ふーむ。」
寝坊だ。それもちょっとやそっと、走れば〜だの朝飯食いながら行けば〜とかじゃない。
午前10時。言い訳しようがないレベルの寝坊。
いっそ清々しいまである。
……そもそも、一度家に戻って風呂入ったり制服着替えたりしないといけないんだけどさ。
とは言うものの、さすがにこれ以上休むわけにもいかず、もそもそとソファから起き上がる。
日曜のうちに、家に一度戻ればよかったんだけどいかんせん、なんでか体が全然動動かなくて、丸一日寝てたからなあ……。
絶対江古田先生から嫌味言われるよね〜コレ。……いや、そもそも無断欠席四日間の時点で言われるか。
「はぁ……」と、ため息をつきながら伸びをする。
そんな万里の髪を、外壁のない一角から吹き込む肌寒い風が靡かせていた。
「なんやバンリ。どっか行くんか?」
「学校っスよ。これでも本分は学生だよ?俺」
いそいそと身支度……と、言えるほどのものでもないが、準備をする様子にジンが「そうか。」と興味なさげに相槌を打つ。
「んじゃあ、行ってきますよ〜」と、部屋の扉を開けると、清廉さを思わせる白いゴスロリに身を包んだ、赤い頭髪が目立つ、無表情の少女が立っていた。
「お……っと?」
「どいて。」
立ち尽くす万里を気にも留めない様子で部屋に入っていく少女に、思わず壁側に避ける。
その拍子に壁に頭をぶつけ、「いてっ」と呟く万里に目もくれずに入っていく少女の背中を眺め、「あの子もココの住人なのかな……」と、頭をさすりながら出て行った。
「……影時間が嘘みたいだなあ。」
時刻はすでに昼前。
一度家に戻り、風呂や着替えを済ませたらすでにこんな時間でまじモッツァレラ。
まあどーせ何時に行っても江古田先生に嫌味言われるのは目に見えてるし、マイペースに行こうね。と、自分を慰めながら電車に揺らされる。
さすがにこの時間の電車ということもあり、車内に学生は見当たらなかった。もし存在したらハグでもしたいところだったよ。
「……んん?」
いや、全然いたわ。
しかもあれ、隣の席の山岸じゃない?
意外だなあ、でも寝坊とかする子には見えないし……野暮用でもあったのかな〜。
……親睦、深めとくか!
「や〜ま〜ぎ〜しっ!」
電車の揺れに倒れないよう、吊り革や手すりを握りながらスルスルと近づいていき、風花の隣に一人分あけて座る。
足を組みながら「よっ!」と軽く手を振り笑顔を向ける万里に、風花はキョトンとした顔を向ける。
「あれ、陽野くん?こんな時間にどうしたの……?」
「今日はね、寝坊。」
あっけからんと笑う万里に、多少の驚きを隠せずにいる風花が、「そういえば、先週たくさん休んでたけど……大丈夫なんですか?」と続ける。
「あーうん、全然平気!引っ越し疲れからか熱出しちゃってさー。」
「江古田先生、『最近の若者はけしからんなぁ』とか言ってなかった?」と江古田の真似をしながら話を続ける万里に、「……言ってないよ?」と、風花がくすくすと笑う。
「そいや山岸はなんでこんな時間に?」
「私は午前中、病院に少し……。なんでもなかったんだけどね」
「ふーん、なんでもないならよかったねぇ。」と、さっきまでの笑顔から一転し、蕩けた犬のような表情をする万里に風花は一瞬、目を丸くする。
「……そういえば、休んでいた間のノートとか必要だよね。後で渡そうか?」
「え、ほんと?助かる〜!」
「大丈夫だよ。転校したばかりで大変だよね。」
「ふふふ、正直授業全然ついていけてない。」
だってそもそも転入自体、三週間もズレ込んでたのだから……!と、悔しそうなジェスチャーをする万里に、風花がくすくすと笑っていると、電車のアナウンスが流れる。
『次は、辰巳ポートアイランド。辰巳ポートアイランド〜。お忘れ物のないよう———』
「お、もうそろ着くね。昼からだけど一緒に頑張ろうね。」
「そうだね。……あ、そういえば私、職員室に寄らないといけないんだ。」
「あ、俺も俺も。一緒じゃん」
「ふふ、場所わかる?」
「バッカにしてくれちゃって〜」
電車がゆっくりとスピードを落とし、揺れが収まる。電車を降り、楽しげに話す2人が改札を通っていった。
4月27日 放課後
「ゆかりー。先に行っとくよー?」
「あ、うんー。あとで道場に行くねー。」
はぁ、とため息を吐きながら、ゆかりは日直の日誌を書く。
夕陽が差し込む教室には生徒の姿は少なく、仲がいい、というわけではないが、たまに話す
めんどくさいなぁ。とボヤきながら日誌を書く手を進める。……結城くん、たしか桐条先輩から生徒会に(半ば無理やり)誘われたとか言ってたっけ。
あの人なんだか勝手だよねー。数日前の陽野くんの件もそうだし。
……結局あの影時間の後、姿見てないけど大丈夫なのかな。
陽野万里が影時間以降、姿を消して数日。美鶴は見失い、あまつさえ守りきれなかったことに悔やんでも悔やみきれないと言った様子を見せていた。
あれ以降も、『影人間』……シャドウに襲われた結果、感情ややる気を失ってしまう、通称『無気力症』になっているかもしれない陽野万里が、発見できないかと捜索が行われているようだが。
美鶴は、「影人間になってしまっていたとしても、彼の発見は必要なことだ……」と、翳りを見せていた。
……やめとこ。今考えても仕方のないことだし。
そういえば弓道部、欠員が出たとかで新しく部員募集するって言ってたなー。……まあ、とりあえず日誌を終わらして道場に行かないとよね……。
「すみません、遅れましたー……って、あれ?」
「お、初めましてー!今日見学に参加させてもらってる、陽野万里って言います!よろしくね!」
「いやー、部活動だいたい満員で、体動かしたい気分だったからちょうどよかったー。運命ですかね?コレ」と、アッシュブラックのウルフヘアと、艶ぼくろが目立つ少年が部長たちに人懐っこい笑顔を見せる。
同性の部員たちが、黄色い歓声を上げる様子———以上に、数日前に姿を消した少年の姿が道場にある光景に言葉を失い、ゆかりは呆然と立ち尽くす。
「……アレ?どうしました?なんか俺の顔についてます?」
立ち尽くしながら自分を呆然と見ている様子に気付き、困り眉の笑顔を見せながら、陽野万里がゆかりに声をかける。
「……いや、ごめんちょっと、連絡入れないといけないの思い出したから……」
……数日前に姿消した子が弓道部に顔を出すなんて、誰が予想できるのよ……。