五月のホグワーツは、息を潜めていた。
ハグリッドはアズカバンへ送られ、ダンブルドアは停職になった。校長のいない城は、心臓の止まった体のようだった。
サミュエルは、毎晩トランクの工房にこもっていた。
作業台の上に、羊皮紙を何枚もつなぎ合わせた、大きな図面が広げてある。ホグワーツの見取り図だった。古文書館で書き写してきた、何百年も前の城の設計図をもとに、自分で描き起こしたものだ。
図面の上には、赤いインクで印が四つついていた。
ミセス・ノリス。コリン。ジャスティンとニック。それから、ハーマイオニーとペネロピー。
四つの印の横に、細い青い線が何本も引いてある。城の壁の中を走る、水道管の線だった。
四つとも、すぐそばを、太い水道管が通っていた。
――蜘蛛が逃げ出す。雄鶏が殺される。見た者が石になる。直接見なければ、死なない。
ハロウィンの夜に書き写した一行と、古文書館の古い図鑑。二つを合わせれば、答えは一つしかなかった。
バジリスク。
それが、壁の中の水道管を通って、城じゅうを動き回っている。
サミュエルは、図面の上の青い線を、指でたどった。何十本もの管が、城の中を縦横に走っている。けれど、すべての管が最後に一か所へ集まっていく場所が、図面の上に一つだけあった。
二階の、女子トイレ。
故障中の札がかかった、いつも水浸しのトイレ。冬に、ハリーとロンが出てくるのを見た場所だった。ミセス・ノリスが吊るされていた廊下の、すぐそば。
五十年前に、そこで一人の女子生徒が死んだ。嘆きのマートル。誰にも見つからずに、トイレの個室で。
「……入口は、あそこだ」
声が、低く漏れた。
図面の端を握る指に、力がこもった。羊皮紙が、くしゃりと音を立てた。
医務室のベッドの上で、ハーマイオニーは今も、目を見開いたまま眠っている。
サミュエルは、作業台の引き出しを開けた。
紫の袱紗に包まれた、古い銅の鏡が入っていた。
どんな魔法でも壊れない、卑弥呼の鏡。石にする視線を、真正面から受けない方法は、これしか思いつかなかった。呪いを映して、この鏡が無事でいられるのかどうかは、賭けだった。
古い図鑑には、鏡のほかにも、バジリスクの弱点が記されていた。
雄鶏の鳴き声を聞けば、死ぬこと。自分自身の姿を見れば、動きを止めること。
雄鶏は、もう一羽も残っていない。継承者は、怪物の唯一の天敵を、先に全部潰していたのだ。
なら、作ればいい。
ヴェスゲレートの血は、変身術に長けている。一度見たものなら、何にでも変われる。羽根ペンを雄鶏に変えるくらい、造作もなかった。
問題は、そこではなかった。変身で作った雄鶏の声が、本物と同じ力を持つのかどうか。試そうにも、相手は、あの怪物しかいない。
殺せなくても、いい。怯ませられるなら、それで。
*
数日後の午後、城の中に、マクゴナガル先生の声が、魔法で拡声されて響き渡った。
「生徒は全員、それぞれの寮にすぐに戻りなさい。教師は全員、職員室に集まってください。大至急」
談話室に戻ると、パーシーが真っ青な顔で座りこんでいた。双子が、いつになく黙りこくっていた。
夕方になって、知らせが届いた。
ジニー・ウィーズリーが、連れ去られた。
二階の廊下の壁に、新しい血文字が書かれていたという。
〈彼女の白骨は、永遠に秘密の部屋に横たわるであろう〉
明日の朝一番に、ホグワーツ特急で全校生徒を家に帰す。学校は、閉鎖される。
談話室の誰も、口をきかなかった。
ロンは、窓際の椅子に座ったまま、動かなかった。ハリーが、その隣に黙って座っていた。
消灯の時間が過ぎても、サミュエルは眠らなかった。
真夜中を回った頃、肖像画の穴が、そっと開く音がした。ハリーとロンが、出ていく気配だった。
サミュエルは、天蓋のカーテンを開けた。
ローブを羽織り、腰に扇の箱を吊るす。ポケットに、紫の袱紗の包みを入れる。胸のポケットには、羽根ペンを一本差した。
トランクの上で、ここ数週間、一度も顔を見せなかったはずの白い猫が、片目を開けていた。
「行くのか、坊」
「行く」
「……そうか」
オリエンスは、それ以上何も言わなかった。ただ、尻尾を一度だけ、ゆっくりと振った。
*
二階の女子トイレの扉を開けると、中から、言い争う声が聞こえてきた。
「――さあ、入ってください、先生。先生が先に」
「い、いや、私が入ったところで、何の役にも――」
ハリーとロンが、杖を突きつけて、ロックハートを洗面台の前に追い立てていた。洗面台の一つが、床の中に沈みこみ、そこにぽっかりと太いパイプの口が開いている。
三人が、ぎくりとこちらを振り向いた。
「……サミュエル?」
ハリーが、目を丸くした。
「どうして、ここに」
「同じ答えに辿り着いただけだよ」
サミュエルは、床に開いた暗い穴を見下ろした。
「蜘蛛と、雄鶏と、水道管。それから、マートル」
ロンが、口をぱくぱくさせた。ハリーは一瞬だけサミュエルの顔を見つめ、それから、小さく頷いた。
「ジニーが、下にいるんだ」
「知ってる。だから来た」
ロックハートが、引きつった笑顔で両手を挙げた。
「いやあ、頼もしい! では、私は上で皆さんのお帰りを――」
「先生が、一番先です」
ロンが、杖をロックハートの背中に押しつけた。
*
パイプの中は、どこまでも続く、ぬるぬるした滑り台のようだった。
暗闇の中を、何分も滑り落ちていく。やがて、どさりと湿った石の床に投げ出された。
そこは、小動物の骨が散らばる巨大なトンネルだった。その先に、毒々しい緑色の蛇の抜け殻が、とぐろを巻いて横たわっていた。
ロックハートが、へなへなと座りこんだ。
かと思うと、座りこんだまま、ロンの手から杖を奪い取った。
「冒険はここでおしまいです、坊やたち! 記憶に別れを告げなさい!」
ロックハートが、ロンの杖を振り上げた。テープでぐるぐる巻きにした、折れた杖を。
右目の奥で、景色がずれた。
半透明の杖の先で、光が、内側から破裂していた。
「伏せろ!」
サミュエルはハリーの腕をつかんで、床に引き倒した。
ロンの杖が、小型の爆弾のように爆発した。
天井が、轟音とともに崩れ落ちてきた。巨大な岩の塊が、雨のように降り注ぐ。サミュエルは扇を開き、頭上に向けて振り上げた。見えない盾が、降ってくる岩をはじき返す。
土煙が晴れたとき、トンネルは、岩の壁で二つに分断されていた。
「ロン! ロン、大丈夫か!」
ハリーが、岩の壁に向かって叫んだ。
「大丈夫だ! でも、こいつはだめだ。自分の呪文で吹っ飛んだ」
岩の向こうから、ロンのくぐもった声が返ってきた。
ハリーが、岩に手をついた。
「ロン、岩をどかして、帰り道を作っておいてくれ。僕とサミュエルで先に行く。ジニーを連れて、必ず戻る」
「……分かった。気をつけろよ、二人とも」
岩の向こうで、ロンの声が震えていた。
*
トンネルの突き当たりに、巨大な扉があった。
二匹の蛇が絡み合う浮き彫りが施され、蛇の目には、エメラルドが埋めこまれている。
ハリーが、喉の奥からしゅうしゅうと空気の漏れるような音を出した。決闘クラブで聞いたのと同じ、蛇語だった。
蛇の浮き彫りが動き、扉が左右に開いた。
中は、細長い、薄暗い広間だった。左右に、蛇を巻きつけた石の柱が何本も並んでいる。突き当たりには、天井まで届くほどの巨大な石像。年老いた、猿のような顔の魔法使い。サラザール・スリザリン。
その石像の足元に、黒いローブの小さな体が、うつ伏せに倒れていた。
燃えるような赤い髪。
「ジニー!」
ハリーが駆け寄った。サミュエルも、その後を追った。
ジニーの顔は大理石のように白かった。けれど、かすかに胸が上下していた。
「その子は、目を覚まさないよ」
静かな声がした。
柱の陰から、背の高い少年が一人、歩み出てきた。黒い髪。端正な顔立ち。ホグワーツの制服を着ているのに、その輪郭は、霧のようにぼんやりとかすんでいた。
「トム……リドル?」
ハリーが、呟いた。
少年――リドルは、ジニーの傍らに落ちていた黒い日記帳を、ゆっくりと拾い上げた。
それから、サミュエルに目を留めた。
「……おや。お客は一人のはずだったんだけれど」
リドルの目が、サミュエルの右目に吸い寄せられた。
「深紅の右目。ヴェスゲレート。――なるほど。予見者の血か。面白い」
サミュエルは、何も答えなかった。
リドルは、ハリーのほうへ向き直った。それからの話は、長かった。日記のこと。五十年前のこと。ジニーのこと。自分が、のちにヴォルデモート卿と名乗る者だということ。
「僕の手で、穢れた血の連中を、この学校から一掃するつもりだった。五十年前にできなかったことを、今度こそ」
穢れた血。
その言葉を聞いた瞬間、サミュエルの指先が、扇の骨を強く握りしめた。
医務室のベッド。石になった手。どれだけ温めても、ほどけなかった拳。
「――お前か」
低い声が、出た。
「お前が、あいつを」
リドルは、愉快そうに首をかしげた。
「穢れた血が一人や二人、石になったくらいで、ずいぶんと怒るんだね。バーク家の跡取りが」
リドルは、スリザリンの石像を振り仰いだ。口を開き、しゅうしゅうと、蛇の言葉を発した。
サミュエルには、意味が分からなかった。隣で、ハリーの肩がこわばるのだけが見えた。
「……『スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強の者よ。我に話したまえ』って」
ハリーが、かすれた声で言った。
*
石像の巨大な口が、ゆっくりと開いた。
暗い穴の奥から、重いものが石を擦る音が、這い出してくる。
サミュエルは、ポケットから紫の袱紗の包みを取り出し、ほどいた。卑弥呼の鏡。
「ハリー、目を閉じろ。何があっても、開けるな。僕が声で教える」
「サミュエルは?」
「僕は、これで見る」
石像に背を向け、鏡を顔の前に掲げる。左目を閉じ、右目だけで、鏡の面をのぞきこむ。
直接あの目を見れば、そこで終わる。
鏡の中に、それが映った。
緑の鱗の、巨大な蛇。石像の口から這い出した体が、とぐろを解きながら、広間の中ほどへ、こちらへと伸びてくる。鎌首が、天井近くまで持ち上がった。
黄色く丸い目が、鏡の中のサミュエルを、まっすぐに見た。
鏡の面の文様が、淡く銀色に光った。黄色い目の呪いが、文様の中へ吸いこまれていく。縁が、かすかに熱くなる。けれど、鏡は割れなかった。体も、石にならなかった。
賭けに、勝った。
鏡は、呪いを吸うだけでなく、大蛇自身の姿も映していた。
鏡の中の自分と、目が合ったのだろう。大蛇の動きが、ぴたりと止まった。
その一瞬のあいだに、右目の奥で、景色がずれた。
鏡に映る蛇に、もう一匹、半透明の蛇が重なっている。鏡の中の本物は、まだ中ほどで鎌首をもたげたまま。重なった影のほうは、その半歩先にいた。
影の鎌首が、ハリーのほうへ、振り下ろされていく。
「ハリー! こっちへ転がれ!」
ハリーが、目を閉じたまま、声のほうへ転がった。一拍遅れて、ハリーの立っていた床を、巨大な頭が叩き割った。石の破片が飛び散る。
大蛇の頭が、ハリーのいた場所にめりこんだまま、次の獲物を探して揺れた。
このままでは、ハリーが狙われ続ける。
「――こっちだ」
サミュエルは、扇の先で、床を一撫でした。石畳がぼこりと盛り上がり、三体の石の蛇になった。動くものに反応して、大蛇の頭が、そちらを向く。
その隙に、サミュエルは、鏡を肩の高さに掲げたまま、柱の列に沿って走った。ハリーから、大蛇を引き離すために。
鏡の中の大蛇が、追ってくる。右目には、その半歩先の影。二つを同時に見ながら、柱の陰に飛びこむ。一拍遅れて、背後で柱が砕ける。
走りながら、扇を振った。石の床が鎖に変わり、大蛇の尾に絡みつく。一瞬で、引きちぎられる。また変える。またちぎられる。
右目の奥が、焼けるように熱かった。
影が、速くなっていく。半歩あった余裕が、四半歩になり、それもなくなっていった。
砕けた石に足をとられた。
膝をついた拍子に、鏡が手から滑りかけた。慌てて両手で握り直す。顔を上げたとき、鏡の中の大蛇は、すでにこちらへ向き直っていた。
大きく開いた口。毒の牙。
右目の影は、もう、何も映さなかった。
そのとき、広間に、歌声が響いた。
この世のものとは思えない、美しい歌だった。
天井近くに、燃えるような真紅の鳥が舞っていた。ダンブルドアの不死鳥、フォークスだった。
フォークスは、ハリーの足元に、何か古びた布の塊を落とした。つぎはぎだらけの、組分け帽子だった。
次の瞬間、フォークスはバジリスクの頭めがけて急降下した。金色の鉤爪が、黄色い目に突き立てられる。一度。二度。
大蛇が、苦痛にのたうった。両目から、どす黒い血が噴き出していた。
「目が潰れた! ハリー、もう開けていい!」
サミュエルは、鏡を下ろした。両目を開ける。もう、鏡はいらない。
見えない目のまま、バジリスクは、匂いと音だけを頼りに、狂ったように頭を振り回していた。壁に、柱に、床に、頭が打ちつけられる。
ハリーは、目を開けて、帽子を握りしめていた。大蛇の頭は、そのすぐ真上にあった。
サミュエルの右目が、また、ほんの少しだけ映した。
半透明のハリーの手が、帽子の中から、何か光るものを引き抜いていた。
「ハリー、帽子の中だ!」
何が出てくるのかは、分からなかった。それでも、叫ばずにはいられなかった。
ハリーが、帽子に手を突っこんだ。引き抜かれたのは、一振りの銀の剣だった。柄に、卵ほどもある紅玉が埋めこまれている。
バジリスクが、剣の光に気づいたように、ハリーのほうへ鎌首をもたげた。
右目の奥で、最後の影が見えた。
大きく開いた口。毒の牙。真上から、ハリーを丸ごと呑みこむように、振り下ろされる頭。
あのまま落ちれば、ハリーは剣を構える間もない。落ちる前に、向きを変えさせなければならない。
石の蛇では、足りない。この蛇が、いちばん嫌がるものは。
サミュエルは、胸のポケットから羽根ペンを引き抜き、床に投げた。
扇を、振る。
ペンが床に落ちるより早く、羽根が、赤い鶏冠と、長い尾羽を持つ、一羽の雄鶏に変わった。
雄鶏は、胸を張り、嘴を天井に向けた。
朝を告げる声が、秘密の部屋に響き渡った。
高く、澄んだ、夜明けの声だった。
バジリスクの全身が、びくりと跳ねた。
振り下ろされかけていた頭が、逆に、のけぞる。見えない目で天井を仰ぎ、口が裂けるほど大きく開いた。喉の奥から、錆びた鉄を擦るような悲鳴が漏れる。
雄鶏の声は、まだ天井に響いていた。それだけで、十分だった。
ハリーは、剣を両手で握り、真上に向けて突き上げた。
剣が、のけぞってさらされた上顎の奥深くに、柄まで突き刺さった。
*
地響きのような音とともに、バジリスクが床に崩れ落ちた。
ハリーも、その場に膝をついた。腕に、巨大な牙が一本、深々と刺さっていた。剣が刺さったのと同じ瞬間に、大蛇の牙が、ハリーの腕を貫いていた。
「ハリー!」
サミュエルが駆け寄った。
腕から牙を引き抜くと、傷口から、どす黒い毒がじわじわと広がっていく。ハリーの顔から、血の気が引いていった。
リドルが、笑っていた。
「バジリスクの毒だ。もう、長くはもたないよ、ハリー・ポッター」
そのとき、フォークスが、ハリーの腕の上に舞い降りた。
真珠のような涙が、ぽたり、ぽたりと、傷口に落ちていく。
毒に染まった肉が、みるみるうちに元の色に戻っていく。傷口が、ふさがっていく。
「不死鳥の涙……」
リドルが呟いた。その顔から、笑みが消えた。
ハリーが、床に落ちていた黒い日記帳をつかんだ。それから、傍らに転がっていたバジリスクの牙を握り、迷うことなく、日記帳の真ん中に突き立てた。
耳をつんざくような悲鳴が、広間に響き渡った。
日記帳から、インクが血のように噴き出した。リドルの体が、身をよじり、のたうち――そして、消えた。
静寂が、戻ってきた。
ジニーが、かすかにうめいて、目を開けた。
*
帰り道は、フォークスが運んでくれた。
崩れた岩の山のこちら側で、ロンが顔を泥だらけにして待っていた。ジニーが目を開けているのを見ると、ロンは声も出さずに、その場にしゃがみこんだ。
ロックハートは、その隣で、ぽかんと宙を見つめていた。自分の名前を聞かれても、首をかしげるだけだった。
五人をぶら下げたまま、不死鳥はパイプの中を軽々と舞い上がっていった。
マクゴナガル先生の部屋には、ウィーズリー夫妻と、戻ってきたダンブルドアがいた。
サミュエルは、部屋の隅の壁にもたれて立っていた。
右目の奥が、まだ焼けるように痛んでいた。指で触れると、目尻が濡れていた。指先に、赤いものがついていた。血だった。
ダンブルドアの青い目が、ほんの一瞬だけ、こちらを見た。何も言わなかった。
ハリーが、部屋の真ん中で、すべてを話していた。
「――それで、サミュエルが、雄鶏を作ってくれたんです。羽根ペンから。その声でバジリスクが口を開けなかったら、僕は剣を刺せなかった」
部屋じゅうの目が、サミュエルに集まった。
サミュエルは、何も言わなかった。言うことが、何もなかった。
怒りは、もうどこにもなかった。
あれほど胸の奥で燃えていた、熱くて黒いものは、バジリスクが崩れ落ちた瞬間に、ふっと消えてしまった。
残っているのは、ただ、深い疲れだけだった。
手のひらを見下ろす。扇を握りしめていた指が、まだ震えていた。
「スプラウト先生のマンドレイクが、ちょうど今夜、成熟したそうじゃ」
ダンブルドアの穏やかな声が、部屋に響いた。
「石にされた者たちは、皆、元に戻るじゃろう。夜が明ける前にの」
サミュエルは、目を閉じた。
夜が明ける前に。
あと、数時間。
壁にもたれたまま、彼は長いあいだ、その言葉を胸の中で繰り返していた。
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