サ終を知らなかった俺は聖王様に恋をする   作:アイザナ大使

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何も進まない。つまらないかと思いますがしばらく見守ってください。



赤ん坊、初めての空

 

赤ちゃんになってしまってから数日後。

何度寝て起きても戻っていない。

(夢じゃない)

しかも、赤ちゃんなので一日の大部分を眠って過ごす。

目を開ける。

まだ視界はぼやけている。

(まずここはどこなのか。マスク無しで状態異常がないことがまずおかしい。外なのに)

体感、起きてすぐに眠くなる。

だから考え事をしようとしても大体途中で眠ってしまって話にならない。

(考えろ)

(あ、眠い。眠い眠い眠い。寝る。)

「んーぅ…………」

(…………)

 

(あ、やばい。寝てた)

時計もないしそもそも視界悪いし何時間寝たかも分からん。今日が何日目かは何となく分かっているが。

まず状況把握したい。とりあえず俺が赤ちゃんになってしまったのは理解した。いや、本音では訳分からんが。

俺が赤ちゃんなら、周りがまずは危険がないか確認したい。

それと、ここがどんな世界なのか。そもそも、もしかしたら上流階級の実験的なものに巻き込まれているのかもしれない。

(──あ、また)

かくん。

 

また数日後。一週間半くらい経った。

なんだか視界が若干クリアになったようななってないような。

度が合ってない眼鏡をかけているような世界に見えている。

指輪を改めて確認する。

うん、間違いなくユグドラシルのものだ。

リング・オブ・サステナンス。

(嘘だろ)

嘘じゃない。

つまり、NOXの所持品が──ゲームの物が具現化している。

食事をしなくても死なない理由がよく分かった。

ただし赤ちゃんの身体だ。

よく眠るし、なんか泣く。

それに、誰かに抱かれたいような感覚まで出てくる。

俺の身体が母性を求めている。恥ずかしい。

そしてずっと誰もいない生活を送っている。赤ちゃんになる前までもそうだったのだが、今は厄介だ。

寂しい。

泣きたくなんてないのに涙が止まらない。

自分の意思じゃどうにもできなくて、俺は困り果てていた。

 

赤ちゃん生活四ヶ月目。

腕がかなり動く。

そして視界もはっきりしてきた。ほぼ回復したと言っていい。

そして──ここは……

どこだが分からん。だって歩けないんだから。

薄暗くて埃臭くて、赤ちゃんの体に悪影響そうなのは分かった。

簡素なベッドの上に、俺は布を敷かれた籠に入れられて、

捨てられていた。

窓からは月明かりが差し込む。

顔を動かすと月が見えた。

薄黄色で、淡く光っていて、とても綺麗だった。

ふと、考えた。

指輪があるならアイテムボックスもあるのでは? と。

空中へ手を伸ばす。

何も無い。

もう一度。

昔の感覚を思い出す。

するっ。

手が空間へ沈む。

「あっ」

大量の所持品。

戦闘装備。ポーション。スクロール。金貨。消耗品。武器。素材。雑貨。

(全部ある……マジか。どうなってるんだ)

最初に引っ張り出したのは、鏡。

すぐに自分を映した。

やはり、赤ちゃん。

見知らぬ赤ん坊。

ユグドラシルの成人アバターじゃない。

久世蓮の顔でもない。

ただ、何となくNOXの面影がある。

ゲームのアバターを赤ちゃんにしたような顔。

「……あう」

(これって、転生ってやつ?)

 

赤ちゃん生活八ヶ月目。

なんと、

俺は籠を抜け出した。

ベッドから降りる時は宙ぶらりんになってビビって泣いたが、降りてからは快適。今までと比べたら。

這える。動ける。俺は自由だ。

はいはいで机の下。ベッド。隣室。

ちょっとした冒険をした。

それで分かったのは、俺の住居は石造りの礼拝堂だということだ。

たぶん、ここは管理人用の部屋。

大きさに対してこんな部屋まであるのは豪華だな。

屋根は健在。井戸あり。古い家具あり。

森に捨てられるよりはマシだった。

ありがとう、顔も知らぬ母さん。

俺は扉の隙間から外の井戸を確認したが、出てはいない。

外に何があるか分からないしここが安全なのは分かりきっていて、出る必要はないと思ったからだ。

でも。興味があった。

俺は這って外へ出た。

 

赤ちゃんからしたら背の高い草。

どこまでも続きそうな青空。

頬を撫でる風。

回復したての目には眩しすぎる太陽。

草を触る。

柔らかい。青臭い。土の匂いもする。

まん丸な手で土を握る。

(土って……こんないい匂いだったのか)

陽に晒されて、地面が温かい。

俺は大自然のマットレスに寝転がった。

(……気持ちいい)

「……あうー」

 

赤ちゃん生活十ヶ月目。

ベッドの角に掴まって、俺は立っていた。

(歩くくらい余裕だろ)

一歩。

勢いよく転倒。

ゴン。

額が赤くなる。

「……うう、う」

二歩。

そして転倒。

(人間、歩くの難しすぎない?)

 

そうして一歳になり。何とか歩ける?ようになったものの、まだふらつくしたまに歩き始めに転ぶし調子によって歩けない日があるしで俺はついにキレた。

「あ゛ーっ!」

幼児みたいな自分の声──実際そうだけど──に腹が立つ。

立つ。転ぶ。

歩く。転ぶ。

(めんどくせえ)

(こんなのもう──飛んだ方が早いだろ)

(……飛ぶ?)

一度も、少しも、思い浮かばなかった訳ではない。

ただ、ここにはUIがない。魔法を詠唱する舌も発達していなかった。

何より、失敗して赤ん坊の身体が吹っ飛んだりするのが怖かった。

──飛行(フライ)程度なら。

 

「ふ……ぅうっ」

失敗。

「ふら……」

もう一回。

「ふら、い」

足が床を離れる。

ふわふわと浮いていく。

「…………」

(…………使えるんかい!)

喜びのあまり上昇ミス。

ごん。

天井に頭をぶつけた。

「いっ……たぁぁぁ!」

浮かびながら足をばたつかせて頭を抱えた。

「ぐおおおおお」

 

しばらくして、俺はフライを解き、ベッドの上であぐらをかいた。

「まほう……つかえた」

(なら、NOXの能力そのものが俺に……?)

(じゃあ、俺は久世蓮なのか?)

(NOXなのか)

(……両方か)

 

俺は安全な魔法だけ試すことにした。

フライを使ってみていて、暴発するとかはなさそうだ。

清潔(クリーン)を試す。

「くりーん」

部屋一帯が綺麗になる。

壁も。床も色が違う。そして埃まみれだったソファも新品みたいな匂いがして、ベッドもカビ臭くない。

(もっと早くやっておけば良かった)

次は、水創造(クリエイト・ウォーター)。

「くりえいと・うぉーたー」

本物の水が手の中に。ふよふよと丸く浮いている。

「おお」

使い方に問題なし。

攻撃魔法は禁止。召喚も高位魔法も。危険だからだ。

あと普通に滑舌がまだ微妙で噛みそう。

(ここがどこだか正確に分からないうちは危険だ)

身を守る為にも、まずは情報収集したい。

 

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