なんだか主人公が可愛く見えてきました。愛おしいです
俺は二歳になった。
フライが使えるので移動は楽ちんだし、クリーンで掃除もできるし、アイテムボックスも使える。リング・オブ・サステナンスのおかげでまだ食に困らない。
二歳児とは思えない快適な一人暮らしをしていた。
だが、リングを外して食事をしてみることにした。
アイテムボックスに残っていた食品アイテムを取り出す。
鶏の照り焼き。
「うお。湯気でてる……」
表面はつやんと。焦げ目もついていて美味そうだ。
口に入れる。
骨を避け、かぶりつく。
「……うま」
肉そのものの味と照り焼きのタレが上手い具合に拮抗している。
(ゲームの食べ物でも味あるんだ……そして美味い)
その夜──礼拝堂の屋根に登る。仁王立ちした。
「
大きな月が上がり、それを背に飛んだ。
上がるほど遠くの街が見えてくる。
点々と黄色く光る街。
「あと……二年」
四歳になったら街へ行く。そう決めた。
歩けるし喋れる。多少、一人で歩いてる子供として誤魔化せる。
「それまで、まあ」
夜空を見上げる。
「適当に生きるか」
小さな身体がさらにふわりと浮く。
三日後。
街へ行くのは四歳から。
(とはいえ、二年間ずっと礼拝堂に引きこもってるのもどうなんだ)
(せめて周辺くらい把握しておきたい)
一歳までは外が怖かった。
今は魔法も使えると分かった。アイテムもある。飛べる。
なら、今回は礼拝堂を中心に少しづつ散策してみよう。
ただし今回は歩く。
(飛んでばっかいたら歩くの下手なままになる)
礼拝堂のそばにある井戸の近く。森へ入っていく。
足先にこん、こん、と当たる木の根。
「根っこが多すぎる……」
(森ってこんなに歩きづらかったっけ?)
ゴン。
「いったぁ!」
(枝!!!)
少し歩くと道のようなものがあった。
何度も踏み歩いたような。だが人間ではなさそう。
ガサッ。茂みが揺れた。
(何だ?)
俺は動きを止めた。
少し大きめのイノシシが出てくる。
向こうも見てくる。
「…………」
(でか)
ふん、と鼻息。イノシシは少しこちらを警戒したあと、そのまま森の奥へ消えていった。
(まぁ……襲ってこないならいいか)
森をさらに進んだ。
妙に静か。鳥の声が減る。
(なんか嫌だな……)
倒木がある。
その近く。ふと横を見る。
黒色の、岩?
それが揺れ動いた。
「?」
脚。
「……」
(蜘蛛!?)
(でっっっっっっか)
現実の蜘蛛なんか比較にならないくらいの大きさ。
それがなんと、俺を見ている。
(待て待て待て)
「こ、来ないでね?」
大蜘蛛は前進する。
「来るなって」
目を見開く。
さらに近付く。ぞわりと背中が粟立った。
「な、なぁ、やめろよ」
突進してくる。
「うわあああああ!!」
蜘蛛が飛び掛ってくる。
「ぐっ!」
反射的に腕で顔を覆った。
牙が腕に当たる。
でも、
刺さらない。
歯が皮膚を滑る。
「…………?」
蜘蛛が動きを止めた。
俺も不思議で少し腕を緩めた。
(痛くない……)
(レベル差……? パッシブスキルかな)
だが蜘蛛は再び襲いかかってくる。
「いや、痛くないけど怖いんだよお前! だってでかすぎるだろ!」
一度フライで浮く。
蜘蛛から距離を取る。
「ふう……遠くから見ればまぁ」
攻撃魔法をどれにするか。
(高位魔法は論外)
(間違って森燃やしたら洒落にならんから炎系はNG)
(試すなら一番弱いやつ)
第一位界魔法。
「
掲げた手を蜘蛛へ。
八本の光の矢が作り出され、蜘蛛へ命中する。
「……」
目を瞑った。
俺はとりあえず構えた。
「……死んだ?」
即死。
「よ、よかった……幼児が蜘蛛に食われるという痛ましい事件が起きなくてよかった……」
そっと胸を撫で下ろす。
近付く。
クソでかい蜘蛛は動かない。
ゲームなら倒した瞬間にHPバーがゼロになる。モーションと共にドロップして、はい、終了だ。
今は……
巨大な蜘蛛の死骸。
傷。
脚が微妙に痙攣している。
(…………殺したんだな、俺)
現実の生き物を初めて殺した。少し、軽率な行動だったかもしれない。
けれど生きるためだ。
でもやっぱり少し気持ち悪い。
(まぁ……
「襲って来なきゃ、殺さないからな」
俺は死骸の蜘蛛に話しかけた。
翌々日。
森の探索に少し慣れてきた。
木の根元付近を歩いていた時。
上から何かが落ちた。
ドスン。
巨大な蛇。黒い鱗に赤い目。
胴体が二歳児の俺なんて簡単に飲み込めそうな太さ。
「……へ?」
蛇が口を開けて、次の瞬間俺の脚に噛み付く。
「ど、っぁああ!?」
ガキン!
金属みたいな音。
何度も何度も噛み付く蛇。
牙が通らない。
(またか)
蛇はドン引きするように下がる。
けれどスルスルと俺に巻きついていく。
「待て待て待て! 気持ち悪い!」
慌ててフライで飛んだ。
でも蛇がぶら下がってくる。
「離れろぉぉぉぉ!!」
俺は空中で巨大蛇をぶら下げて暴れた。
離れない。それどころか飲み込もうと口を開けて俺の頭を狙っている。
やばい。
流石に飲み込まれたらやばい。
「ううっ、マジックアロー……!!」
やけくそで叫んだ。
命中すると、蛇の拘束が緩んだ。
落下して土埃を立てた。
(しかし、この周辺は案外危ない場所なのか)
二歳児が普通に歩いていい場所ではない。
(四歳になって街行った時、普通の子供のフリできるかな)
翌日。
森へ行くと、何かを話す人の声。
(人!?)
木陰へ隠れる。
そこからフライで木の枝の高さまで移動して隠れる。
二人の成人男性。
猟師っぽい服装。
弓、ナイフ。
そして会話は。
「この辺だったはずだ」
「大蜘蛛の痕跡があったって話だろ」
(分かる)
(言葉が分かる)
自動翻訳か何かされている。
猟師が少し歩くと、大蜘蛛の死骸を発見した。
「……おい、死んでるぞ」
二人は警戒する。
「誰がやった?」
「冒険者でも来てるのか?」
魔法による傷跡。
「
「相当な手練だな」
(俺です)
「街まで持って帰って報告するか」
「ローブル聖王国の街道近くでこんなのが出るんじゃな……」
(…………聖王国?)
(ローブル聖王国……聞いたことない。少なくとも地球じゃないな)
猟師達が去った後、木から飛び降りた。
「…………異世界、かぁ」
しみじみと言ってみた。
「
礼拝堂を少し離れ、街の近くまで。
遠くの街を眺める。
「……ローブル聖王国」
覚えたばかりの国名をもう一度口にした。
「待っててくれよ。すぐに成長して、すぐに行ってやるからな」
ふん、と意気込んだ。
そんなことしたところで成長速度は変わらないが。
「大きくなれよ、俺!」
勝手に生やす、パッシブスキル。オリジナルです
低威力物理ダメージ軽減
低威力魔法ダメージ軽減
危険感知
奇襲察知
落下ダメージ軽減