初めての依頼を達成した翌日、俺は市場に行く。
集合の約束をした訳ではないのでただそこら辺をぶらりと歩く。
「遅かったな!」
人混みの中でもはっきりとした声。
振り向くと、男の子が仁王立ちしていた。赤茶のツンツン頭に自分で切りましたみたいな短い前髪、破天荒そうな顔つき。
ニコだ。
「場所も時間も決めてないじゃん」
「俺三時間待ったぜ」
何故か自慢げに笑ってグーサインするニコ。
「そりゃご苦労」
人混みの中で忙しない足音が俺達に近付いてくる。
「わーん!」
エマの声だ。
薄灰茶色のボブを揺らして、彼女は走っている。
黄緑の丸い瞳が俺達を映すと、見開いた。
「あれっ!? 二人とも、もう来てたの!?」
そばに来て息を整えるエマ。
「僕はそこら辺歩いてただけだけど。ニコは何か三時間前から待ってたみたい」
ニコを指すと本人は歯を見せて笑う。
ふう、と最後に息を吐いたエマは一言。
「馬鹿なの?」
俺は吹き出すのを我慢して腹を押さえた。
彼女のことはよく知らないが、昨日の様子でその言葉が出てくるのがどうにもギャップで不意をつかれた。
「まぁ……お前らが先に来て寂しい思いをしないように? 俺が先回りしたってわけ」
ニコは顎に指を当てて遠くを見つめながら言った。
都合の悪いことは聞こえない仕様の耳だったらしい。
「いや、私も楽しみだったけどさ……そこまで体張らなくていいから」
そばかすを散らした頬を染め、エマは呆れながら頭を掻く。
「……で、今日の予定は?」
俺が聞くとニコが首を傾げる。
「予定、か?」
何時まで何をするのか教えて欲しい。
って仕事じゃないんだから、細かい予定とか時刻は流石に決めてないか。
「そうだな、今日は鬼ごっこ!」
「鬼ごっこ……」
(何年、何十年ぶりだろ)
街から外れた近くの草原。
「じゃあ〜、レンが鬼な」
ニヤニヤとニコが俺を指す。
なんの笑みだ。怪しい。
「分かった、じゃあ──」
風のようにニコは走って行ってしまう。
「あっ……えっと、ばいばいレン」
エマも後を追う。
二人とも、幼児にしては足が速い。
「……普通に走ったらどうなんだろ。まあ、体四歳児だし……」
身を低くして、走り出した。
草が揺れて大きく風が巻き起こったところで俺は足を止めた。落ち葉や木の枝が舞って俺の頭に乗る。
「こりゃ駄目だな。調整が必要だ」
最初は歩く、ゆっくりゆっくり速度を上げていく。
「このくらいかな」
二人は別方向で逃げている。
まずはニコから。
背後に回り、背中に触れた。
「はい、捕まえた」
「うわっ、え!?」
エマも追いかける。彼女はニコより少し足が速い。
木を三本蛇行して避ける。まるで忍者だ。
「へぇ……」
エマの軽い身のこなしに思わず感嘆が漏れた。
それを追いかける。
もう少しで届きそうなのに離れる。
指先を伸ばす。そして背中につん。
「エマも捕まえた」
「ええっ! あんなに離れてたのに!?」
エマは目を見開く。
「レン、鈍臭いと思ってたのに!」
悔しそうにするニコ。
(しまった……次はもっと遅くするか)
もう一回俺が鬼をすることになった。
今度は手加減しないと。あくまで子供の遊びなんだから。
さっきより二段階程緩く走る。
「おいおい、俺のじいちゃんより遅いぜ〜?」
と、笑いながら逃げるニコ。
「お前のじいちゃん元気だな!」
俺は手を伸ばす。ひょいと避けられる。
「ふへへ!」
ニコは気分が良さそうだ。
「ニコ、レンをいじめるのやめなよ……」
エマも前を走っている。
そうだそうだ。一応年下なんだからな俺は。
それから数分走って、追いかけっこというより三人でジョギングしてるみたいになってきた。
「なぁー、このままじゃ埒が明かない。他の遊びしよう」
「いいね!」
エマが振り返る。
「ええっ……俺まだまだいけるのに」
「私たちはニコみたいに体力ないんだから」
三人で立ち止まり、木陰で休む。
ニコが大の字になる。
「疲れたー!」
エマと俺はニコを挟むように座った。
大の字になったニコは虫みたいに手足を動かす。
「何してんの気持ち悪い」
エマがニコの額をぺちんと叩いた。
「お前いつも思うけど言葉がチクチクしてるな!」
ニコは起き上がってあぐらをかく。
(俺、何してんだろ……こんな子供に混ざって……)
ふと、ニコを見る。
泥のついた頬。心底楽しそうな笑顔。
「レン、楽しかった?」
「うん」
「次はままごとしよう?」
「じゃあ俺は正義の味方──をうち倒すべくアンデッドを従える悪の騎士!」
ニコが足を開いて手を広げ立ち上がった。
「悪役好きだねー」
エマがいつものことのように目を細める。
「じゃあ、僕は正義の味方──のピンチの時にだけ助けに入る謎の魔法詠唱者で」
腕を組んで片手を額に当て、俺も仁王立ちした。
「誰が正義の味方やるの?」
「それは……」
ニコがピュー、と口笛を吹く。
草むらから白い山羊がトコトコ歩いてくる。
「ミロ連れてきてたの?」
エマが驚く。
「ねえ、なんでエマはミロの名前知ってたの?」
俺が聞くと、エマは苦笑いする。
「飼い主のおじちゃんがお父さんの知り合いの人でね、赤ちゃんの頃から農場に入れてもらってて」
「ほら、赤マフラーしてて、完全に正義の味方だろ!」
ニコは離れた木に括り付けていた紐を、木陰で休んでいた木の幹に縛り直す。
「っと、聖剣も持たせないとな」
ニコはどう見ても適当な木の棒をミロの首元、背中側の赤い布に差している。
木の棒を背負った赤マフラーの山羊爆誕。
「じゃあ私は正義の味方──聖騎士ミロの仲間の信仰系魔法詠唱者で」
葉っぱのついた木の枝を手に持ち、満面の笑みでエマは言った。
「聖騎士か! かっこいいなあ、ミロ!」
わしゃわしゃとミロを撫で回すニコ。
ミロは地面の草を食べている。
こほん、と咳払いするエマ。そして、手を広げて大きく声を出した。
「じゃあ、みんな配置について!」
夕方頃、俺は礼拝堂へと帰宅していた。
泥のついた服を綺麗にする。
「
ままごとは途中から熱が入り過ぎた。
そして、最後は暴れ回る聖騎士を皆で追いかけ回し、さんざんだった。
本当に大変だった。
あんなに馬鹿みたいにはしゃいで遊んだのはいつぶりだろうか。そもそもないような気がする。
後半はなんかもう役とか関係なくしっちゃかめっちゃかで何の遊びだったのかそもそも遊びと意識していたのか分からなかった。
なのに、楽しかったと思うのは、やはり体に精神が引っ張られているのだろうか。
Xの相互のフォロワーさんがカルカ様最推しで、この方になら需要あるかなと書き始め、今ではほぼ自己満の小説なのに、こんなに見てくれる方がいるとは思いませんでした。とても嬉しいです°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
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