「まずは、インキュベータ。直訳で、孵卵器だ。卵を孵す機械を表す。そして、インキュバス。古代ローマ神話やキリスト教、中世の西洋民間伝承に登場する男性の悪魔、夢魔だね?眠っている女性の夢の中に現れて関係を持ち、精気を吸い取るとされている。そして、魔法少女の力を得るには契約が必要だと。タダでさえ個性と同等の力が得られると言うのに、どんな願いも叶うときた。つまりは、そういうことだろう……」
「ええ、そしてもう一つ。魔法少女が共通して持つアイテム、ソウルジェム。意味は直訳で分かりますよね?」
「ああ……」
さて、ここまで察しているなら、すべて話せないことも、過干渉も難しいことは理解してくれるはずだ。だから、やるべきことは、僕がするべきことは……
「皆さん、今までの話で、納得できないこと、理解に苦しむことがあるなら、帰ってください。ここから先は、耐えられない。貴方達の命に関わる事柄です」
「私は帰らせてもらう。京がついていけてない。だが、魔法少女を救うという話はありがたいな。私からも忠告だ。優木沙々。魔女を操る魔法少女だ。現在私達のチームのうちの二人、犠牲になっている。君達と会った時の遺体は煤名美緒と言う」
「ありがとうございます。背中には気をつけて」
「分かった」
人見さん、朱音さん、佐木さんの三人がこの話から一時降りた。ありがたい。知らない人間が二人なら対応もできる。まさか、頼まれた魔法少女を同時に対処することになるとは思わなかっただろうな、
「巴さんと佐倉さんは良いですか?」
「私は大丈夫だ」
「……誤解と言うのは?貴方達の考えが誤解ではないの?」
「この期に及んで、嘘をつく理由はありませんよ。というより、嘘をついているのはインキュベータですから。巴さん、酷なことを言うようですけどね、誤解を解く努力をしないと言うのは、嘘をついているのと同じなんだよ。それが意図して行ったならば、尚更です」
「ごめんなさい、やっぱり私も帰るわ」
「そうしてください。暁美さん、巴さんのこと頼みます」
「はぁ……わかったわよ」
巴さんのことを暁美さんに任せて、この家には、僕とオールマイトと佐倉さんの三人だけになった。
「まずは、ソウルジェム。直訳で、魂の宝石。ソウルジェムは魔法少女の魂です」
「やはりか…」
「おいっ、それって!じゃぁ、なんで私は生きてるんだよ!」
「生きてるからですよ。魔法少女の怪我が治るレベルは、治癒に特化していれば欠損した腕や足を治せるレベルです。魂と器が別になっているか、無理な行動も、戦闘も可能というわけです」
「じゃぁ、私達ゾンビにされたようなものじゃないか!」
「いえ、魔法少女です。これは一種の怪異でもあります。付喪神、斧乃木余接も似たようなものです」
「だが、それだけではないだろう、いや、これだけでも十分悪意的だが」
まずは第一段階。佐倉さんが、自業自得を信条とする、諦め早い人でよかったです。過ぎたことに、自分が選んだことに、責任を持てる人で。
「悪意なんてありませんよ、価値観が違いますから。そして、魔法少女、魔法を使う少女。そして少女とは、未成熟を表す言葉です」
「待ってくれ!」
オールマイトが叫んだ。
「どうしました?オールマイト」
「君のいい方的に、魔法少女は…」
「気づいたようですね。少女が成長すれば女きなります。女性と言うべきだとか、差別だとかはこの際なしで」
「魔法少女は…そのうち、」
佐倉さんも、顔を青ざめながら呟いた。
「佐倉さんも気づいたようですね。魔法を使う少女が成長した。つまりは魔女です。とんでもない言葉遊びですが、女性には見えない姿の魔女を魔物ではなく、魔女と執拗に呼ぶ理由がわかりましたか?」
「……」
「ソウルジェムに穢れが溜まり、濁りきってしまうと。魔法少女は魔女になる。オールマイト、もう一度聞きます、下手に大人が手を出して、解決すべき事柄ですか?なんで、中学二年生の、余命二ヶ月の僕が選ばれたかわかりますか?耐えられないんですよ。魔法少女と無関係な貴方ですら、この真実を受け止めきれていない」
「!佐倉少女は?!」
「大丈夫です、現在、僕が穢れを肩代わりしていますので、魔女化することはないです」
グリーフシードを使った体というのは便利ですね。穢れがあることが正常の近い、まぁ、それ相応の代償がありますけどね。
「そんな事を説明もせずに契約していたというのか!」
「説明が濁されていましたからね。だから先ほど言ったんですよ。誤解を解く努力をしないと言うのは、嘘をついているのと同じなんだと」
「それでも、あんまりにも理不尽じゃないか」
「理不尽ですか、いえ、これは臥煙さん達が言いそうな言葉ですね、噂をすれば本人からの直接的な電話です」
スマホが鳴り、臥煙さんからビデオ通話がかけられる。
『改めてこんにちは、オールマイト、佐倉杏子ちゃん。魔法少女について真実は聞いたみたいだね、何か質問はないのかい?』
「君達は、魔女化を防ぐという方針をとっているんでいいのかい?」
『おっと一番最初にそれか、まぁいいけど、その考えで合っているよ。具体的な方法は後でシノンに聞いてくれ』
「なら、なんで犠牲となった魔法少女がいる!」
『すでに、魔法少女になる為の契約とその相手がどういうものかは知ってるよね。犠牲となったって言うけれど、基本的に契約に対して私達専門家は自業自得という答えを出すのが定説なんだよ』
「自業自得だと?!魂を宝石に変えられて、いずれ魔女となるのが自業自得だというのか!」
『どんな願いでも叶うんだ、それ相応の代償がある。
「……」
『普通なら、自業自得として直接頼まれない限りは放置なんだけど、魔女は周囲被害が大きいからね、専門家も放っておくことは基本的にしないんだ。オールマイト、貴方は確かに平和の象徴としての力がある。でもね、都市伝説、街談巷説、道聴塗説、魑魅魍魎などの怪異に対しては、素人だ。プロの意見に、判断に何か文句があるならそれ相応の利点を提示してもらいたいね』
「……私にできることはないのか」
『無いね、あくまで君に頼みたいの、ワルプルギス戦での避難喚起とか、ワルプルギス戦後の災害復旧だよ。下手に希望を与えて、絶望してしまった。鹿目まどかちゃんが魔女になったら世界滅亡級の怪異になってしまう。だから、基本的に、子供である、シノンくんに任せるしかないんだよ』
「わかった。理解はした、納得はしていない」
『それでいいよ、くれぐれも邪魔をしないでくれ、シノンくん、余弦達との連絡が思ったより早く着きそうだ、その前に巴マミちゃんの方をなんとかしておいてくれ、あと、そろそろ美樹さやかちゃんが契約するはずだから、恋心がわかるなら対処してくれ』
「わかりました」