超運ゲーの連続してたよこの主人公!?
なので今回も「-EX」判定です。
あの会合から数日。既に政庁では各国代表を交えた会談が始まっている。理素結晶の扱いについて私が出した提言は事前協議で要点が通っているので、あとは国の御偉方が進める段階。つまりもう、探索者として関わる余地は無いのだ。
任務は区切りがついた。エルドも各所への調整を終えて待機に入っている。私も今日は完全な休暇だ。仲間の探索中に別の依頼を受けるのは御法度だが――全員が休暇ともなれば話は別だ。何の問題もない。
稽古に研究、読書に執筆、なんなら自堕落に一人飲み。
やれることもやりたいことも沢山ある筈なのだが…どうにも今日はそういう気分にならない。なので私は久しぶりに、探索者御用達の〈白壁窓口〉へと足を運んだ。
▽ ▽ ▽
王都ソルディアの中心街にある白壁の建物――通称〈白壁窓口〉。
黒位から紫位まで誰でも利用できる国営の依頼斡旋所だ。とはいえ、王命任務すら請け負う紫位が足を運ぶことは滅多にない。そもそも大概の依頼はリーダーであるエルドが受注するものであり、個人での受注が許されるのはこうした完全にオフの日くらいだ。
(何というか。日常というか…市井の中で一般人として生きていた感覚を、少しだけ思い出したくなる時があるんだよね。う~ん我ながら実に偉そうなもんだ。何様なのかな?)
等と適当に自罰的な感傷に浸りつつも扉を開ける頃には、既に昼下がりの陽が差し込むくらいの時間になっていた。明らかに重役出勤である。ただそんな時間であっても窓口には数組の探索者が並んでいたので、私はその列の最後尾に静かに並んだ。
「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
若い職員が、慣れた笑みで応対する。私の〈探索者証〉を確認した瞬間、ほんの一拍だけ手が止まり――すぐに柔らかく微笑んだ。
「……紫位の方、ですね。いつもありがとうございます!」
「ええ。今日は依頼を一つ受けに来ました」
「承知しました。ここ最近はお顔を見ませんでしたね?」
「仕事が立て込んでいたんですよ。なので今日は少し、気分転換に」
「なるほど。では、軽めの依頼を中心にお探ししますね」
端末を滑らかに操作し、候補となる依頼の一覧を表示する職員。
私は表示された依頼一覧を眺め、その内の一つを指し示した。
「……これをお願いします」
職員が画面を覗き込み、小さく目を瞬く。
「行方不明の……猫、ですね?」
「ええ。市場通りの裏手で見失ったとあります。行方不明になったのは昨日とのことなので、まだそう遠くには行っていないでしょうし…早めに解決してあげたいかなと」
「……依頼者は一般市民の方で報酬も黒位相当となりますが…本当にこれでよろしいでしょうか?」
「それで十分です。ではそちらを受注で」
黒位相当の依頼への報酬としては平均的な額。小洒落たお店で仲間数人と一度晩酌すれば、少々のお釣りが残る程度の額だ。紫位の私にとっては、報酬目的というより気分転換の口実に近い。
「承知しました。依頼書と…依頼者から預かっている愛用の玩具と…好みの餌…そして支給品のケージになります」
「ありがとう」
署名を済ませ、受付をあとにした。
背後で、職員が小さく笑う声が聞こえた。
「……この依頼者さん。随分と運がいいですね」
▽ ▽ ▽
昼の陽射しが傾き、王都の石畳が金色に光る。
市場通りは人で賑わい、香ばしい匂いが風に混じっていた。
私は依頼書を開き、簡単な情報を読み返す。
迷子の猫――名はミル。三毛模様で、人懐こいが音に敏感。
最後に目撃されたのは市場裏の倉庫近くのようだ。
(猫探し…か。こういうペット探しとおつかい系は、潜れるダンジョンが無い人らにはド定番の依頼だよね。あとは護衛依頼とか採取依頼もあるかなー?)
探索者といっても全員漏れなくダンジョンに…という訳でもない。特に黒位のような見習いはダンジョン外での仕事が半分を占める。流石に青位以上ともなればダンジョン探索が前提となるのだが…低位である程に挑めるダンジョンの数も少なく、単独で稼げる機会も無い。そういった背景からもこういったお手伝いレベルの案件もまた、探索者に回って来ることもある訳だ。
まあ…私の場合はスカウトされてからは緑位の時点でダンジョンダンジョンダンジョンで、ダンジョン外での仕事は主に付与師ギルド側の仕事(基本的に臨時講師の依頼)と、他の探索者とは少々毛並みが違う遍歴な気がする。
自嘲気味に笑いながら、路地へと歩を進める。市場通りの裏手は、倉庫や荷置き場が入り組んでいて、昼でも薄暗い。人の往来は多く、音と匂いが錯綜している。
(さーてどうしたもんかな? 勢いで選んだけど。付与師って別に失せもの探しに向いた魔法が使える訳でも何でもないんだよね…こういうのは普通人海戦術なり、探知系の魔法を使って探すものだったりするんだけど……あっその手があったか!)
「こういう全然得意じゃない分野でも、やりようがあるのが熟練探索者ってね♪」
そう小声で零したあたりで、相棒の【供応の背嚢】からは『追跡の羅針盤』*1が飛び出て手元に収まる。
私は付与師であると同時に探索者なのだ。無理に魔法だけで解決するのは二流のすること!
あらゆるマジックアイテムを駆使してでも、目的を達すれば良かろうということよ!
(いやまあこれ半分反則行為だけどね? 黒位相当の依頼に金位でも買うのが大変なマジックアイテム使ってるし…でも聞き込みで探るのは完全に運ゲーだから…仕方ないね!)
羅針盤に預かっていた玩具を近づけると、針がクルクルと回って一定の方向を指し示す。あとは随時発動して微修正しながら、針の方角に地道に進んで行けば良いだけだ。
「さて…これで発見は時間の問題かな?」
▽ ▽ ▽
暫くの時間歩き続け、私は針に従い足を北へ向ける。
陽が傾き始め、石畳の影が長く伸びていた。
風に混じる土と草の匂いが、通りの境界を知らせてくれる。
(魔力で探るほどでもないけれど……もう確実に近くまで来てるし使い時かな?)
掌に軽く魔力を流し『風』を付与し、集中して周囲の空間を探る。
そこから感じるは、独特な匂いと…小さな獣の気配。
そこは王都の喧騒から離れた位置にある小さな廃屋であり、鍵も機能していない半分壊れた扉の先だ。
そんな老朽化した扉を潜って中を覗くと、古い木箱の陰で何かが動いた。
しゃがみ込んでゆっくりと近づいて覗き込んだところ――
――ビンゴ!
一匹の三毛猫がぴくりと顔を上げる。少々怯えてはいるが、逃げる気配は薄い。依頼主からおびき寄せ用に提供されていた好みの餌を取り出し、そっと手を差し出すと…猫は一度鼻をひくつかせ、やがて小さく鳴いてこちらに歩み寄ってきてくれた。
あとは一通り食べさせた辺りで、さっさとケージの中に入れて捕獲する。
「準備が良い飼い主さんで助かるわー。
餌と玩具が無かったら、もっと大変だったかな?」
夕暮れの光が廃屋の木壁を橙に染める頃になって、漸くお仕事完了である。
(報酬で軽く一杯しよっかな?
いやいや流石に一人だと軽くどころの金額じゃないか)
ケージの中で可愛く「ニャー」と鳴く三毛猫の重みをしかと感じながらも、私は軽い足取りで〈白壁窓口〉まで報告に戻るのであった。
「-EX」判定 ≒ 手直し山盛り
修正前は羅針盤どころか玩具も餌もケージもなし。地道な聞き込みと気配察知(付与で補助)だけで迷子の猫を見つけて保護…という流れ。
いや流石に無理があるって!