特に平日が厳しい…週5くらいなら楽かなあ。
…多分終盤はEXまみれになりそうなので、いずれせよ毎日は無理ぽ。
夕日は既に沈みきり、リューグーの海上都市には夜の灯が静かに広がっていた。港の外縁部では未だ片付けが続いているけれど、街そのものは無事である。倒壊した家屋も、死の気配も、殆ど感じられない。……あれだけの数の魔物が押し寄せたのにも関わらず…だ。
(本当に、よく守り切れたものだよ。仲間の皆も、そして軍部の方々も…
全員が身命を賭して、己が使命を果たしたお陰だね)
一部壊れた設備を付与で補強して回ったり、ついでに残党狩りのパトロール等をしている間に結構時間を食ってしまったようで…私が宿舎に戻る頃には、既にエルドたちが食卓を囲んでいた。強壮剤の苦い香り、湯気の立つスープ、焼き魚の匂い。どれも疲れた体にじんわり染み込む。
「戻ったよ」
私の声に反応し、食事をしていたメンバーがこちらを振り向いた。
「おかえり! ああもう、クー子は働きすぎ! ほら座って座って!」
ラナが背を叩いてくる。その様子を見て氷雨が柔らかく微笑み、オーリスはほっと息をつく。そしてリディアは…いつもの古風で落ち着いた所作で腰を下ろしながらも優雅に茶を啜っていた。
「遅かったではないか。まあ、無事で戻れたのならそれで良いがの」
私は椅子に腰を下ろすと、スープを一口含んだ。
胃が、ようやく「大丈夫だ」と言ってくれた気がした。
「……港や街は、被害なし。死者もゼロ。負傷者は多いが…幸い重篤な者はいないとのことだ。襲撃の規模を考えれば、奇跡と言っても過言ではないだろう。皆、良くやってくれた。」
エルドが最終的な被害状況と所感を共有する。私は映像で見たうえでの途中参加だが…確かにあれほどの規模の魔物による襲撃を受けての死者ゼロというのは、関わった全員が勲章を賜っても可笑しくない程の偉業である。
実際は――奇跡じゃなくて、ここの皆と、
そして一緒に守ってくれたリューグーの兵士達のおかげだろう。
矢は無限。盾は不壊…その圧倒的な継戦力を土台に、前線を維持し続けたエルドとトゥリオ。舞い踊る閃光かと見紛う程に。圧倒的な機動力で敵を減らし、仲間の窮地を救い続けたラナ。後衛では氷雨の幻影と、オーリスの結界が、隊全体の生存能力を大幅に引き上げていた。奮戦を見届けた時間は長くは無いが…それでも全員が全員、極限の中でも最適な動きだった。
(本当に……凄かったなぁ)
私がスプーンを置き、深く息を吐いたあたりで、エルドが姿勢を正してから言葉を続けようとしている……もしかして、何か重要な話?
「……それと、この件で一つ報告がある。今回の防衛戦の功績について、政庁から正式な打診があった。サンライズ王国として、リューグーを救った英雄の中から――誰か一名を“紫位”へ昇格させたい、と」
食堂の空気が、すう、と凪いだ。
皆の視線が一斉にエルドに向く。
紫位。
国家の象徴であり、すべての探索者の到達点。
それを、誰か一人に。
「……誰を推薦するつもりなの?」
私が問うと、エルドは迷いなく答えた。
「リディアだ」
その瞬間、誰もが目を瞬いた。
ラナは口を開け、氷雨は少し俯き、オーリスは「ほう……」と息を漏らした。
リディア本人だけが、表情を変えずにエルドを見返した。
「儂……かえ?」
「ああ。港の防衛では、リディアが駆けつけた瞬間に隊全体が救われた。選ぶ戦術を決定づけさせる影響力…功績だけで言えば、最も
リディアはゆっくりと顔を上げ、視線をエルドに合わせた。
群青の中に金の光を宿す異色の虹彩に、ほんの刹那、揺らぎが走る。
「ありがたいが……辞退させてもらおう」
それは――重く、揺らぎのない声だった。
本当に、どこまでも己に誠実な在り方だ。
「理由を伺っても?」
エルドの問いにリディアは短く息を整え、言葉を続けた。
「儂は……己がいまだ
そう零す表情こそ冷めているが、言葉には静かな熱がある。
「儂はまだ……成すべき研鑽の途中じゃ。今、紫位となるは……早い」
ラナが小さく呟く。
「……そんなに、強かったの?」
「強い弱いでは語れん相手よ。否、そもそも儂が、測れる土俵にすら届いておらんのだろう。…見ておるのに見えぬ場所におる。儂の炎をぶつけても、どこまで届いたかすら分からぬままよ。何ぞの目論見でもあるのか、幼子の努力を応援するかの如く妨害の一つも無いというのは、些か堪えた…。
大魔導士を名乗っておいて、我ながら情けない」
そう言って肩を落とすリディア。彼女が肩を落とす姿なんて初めて見るが……それで終わる彼女ではない。
「じゃが――届かせてみたいと思った。それが今の儂の
リディアのその言葉には、静寂が落ちるが…その空気を割るように、エルドがもう一人の名を出した。
「……では、ヴァルク。あなたはどうですか?」
対するヴァルクは、強くも弱くもない声で答えた。
「……辞退する。紫位は国家の象徴、探索者すべての到達点だ。レイグレンを
ラナが「えっ……」と息を飲み、氷雨が目を丸くし、オーリスが眉を上げる。
「それほどの相手だったのですか……?」とオーリス。
私は深く頷いた。
「――うん。あれは、明らかに格上だった。戦ったっていうより……ただ観察されたって感じ。私の付与も、リディアの炎も、ヴァルクの解析も……本体じゃないからっていうのは勿論あるだろうけど、ついでの研究テーマ程度の扱いで…戦闘にすらなって無かった。リディアの言う通り、対等な土俵に立てていたかも怪しいかも?」
沈黙。
重くはないけれど、軽く扱ってはいけない、そういう
ラナがそっと声を落とす。
「……そんなの、勝てないじゃん」
「うん。今はね」
私はそれに、正直に答えた。
(例えばあの分身が複数体いて…分断の上で1:1に持ち込まれたら? あの遺跡中に散らばっていた、あらゆる呪具を総動員して攻撃されていたら? ……まあ、ぶっちゃけ、勝ててないだろね。それに何より…向こうから敵意が感じられなかった…つまり『敵』とすら見做されていなかったというのが、
「でも――勝つよ。必ず、あの人の観測とやらの先に行く」
それが、レイグレンと直接相対した三人の、共通する気持ちだと分かった。
エルドが静かに頷き、場の空気をまとめた。
「……では、今回の紫位昇格は保留としよう。
国へは俺のほうからそう伝えておく。」
皆の視線が交差し、食堂の空気がふっと柔らかくなった。
「まあ、儂ららしい選択じゃな」
「そうだね」
リディアがカッカと笑い、私もつられて笑った。
(まだ先へ行ける。まだ、強くなれる。…実験台だなんて、二度と思わせないためにも)
強くなる理由は、胸の奥にきちんとある。
「……よし、食べよう。冷めると美味しくないよ!」
私が言うと、ラナがすぐにニコッと笑った。
「うん! 食べよ食べよ!」
氷雨も元気に頷き、オーリスは静かに手を合わせた。
エルドは小さく息を吐き、控えめに微笑んだ。
――こうして、リューグーの夜は静かに更けていった。
嵐の前でもなく、戦いの後でもなく。
ただ、皆が同じ席にいて、温かい食事を囲んでいる。
それだけで十分だった。
分身レイグレンは単体で紫位二人分くらいを想定してます。
「いや、それくらいなら三人で勝てるんじゃね?」て話ですが、潮底拠点は拠点の一つなだけあって呪具が大量に配置されてるので…それも加味すると紫位五人分はありますね。
何なら侵入者を殺すのが目的なら、実験成功(意図的に排出させた瘴気による魔物の群れの誘導)を確認した時点で拠点ごと爆破してれば100%全滅してましたし…本体が気まぐれ起こして出張って来てたらやっぱり全滅します。
補足:リディアは実力的には十分紫位級
※便宜上、練度という形で数値設定しておりますが、特に目に見えるステータスという訳ではないです。
◇紫位昇格基準
・練度が200以上であること
・上記に加え、象徴足り得る実績があること
⇒リディアはこの時点で練度300くらいあるので十分満たしてます。
因みに練度500超えてると勝手に象徴レベルの実績扱いになるので自動的に紫位になります。クー子はこのルートなので練度十分で実績が足りないだけの金位組からしても文句の付けようがありません。