求)時止め魔法持ちがアリバイを証明する方法   作:夕月紫苑

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11話

 

佐伯さんが死んでいる。

その情報が齎した困惑で返信の手が遅れる。

 

……どういうことだ?黒幕が接触してきた?懲罰房の中で……とにかく手当たり次第に聞いていく。

 

『場所、死因を教えてくれ。』

 

『懲罰房、胸部及び腹部への刺し傷。』

 

懲罰房に向かいながら質問を続ける。

 

『確認した時点で懲罰房付近に怪しい箇所や通気口に去るゴクチョーの姿は?』

 

『無かった。懲罰房の鍵は開いていて、中で佐伯ミリアが死亡していた。懲罰房の鍵も近くに落ちていた。』

 

『そして、遠野ハンナと夏目アンアンが懲罰房の廊下から出てきたのを確認している。』

 

 

◆

 

 

 

二階から降りた時、医務室に向かう後ろ姿に気付く。

 

「ううぅ……ごめんなさいですわ、ミリアさん……」

「……」

 

夏目さんの顔色が悪い上に、気になることを言っていた。

 

「遠野さんと夏目さん?どうかしたのか?」

(二人による共犯の可能性……)

 

遠野さんが夏目さんを支えながら答える。

 

「……ええ。少し……ショックを受ける出来事がありまして。アンアンさんを医務室に連れていく所ですわ。」

「……」

「……何が?」

「……ミリアさんが、拷問を受けてるんですの。」

(何?)

 

おかしい。佐伯さんが死んでいるはずの懲罰房から出てきて佐伯さんが拷問を受(・)け(・)て(・)い(・)る(・)?

黒部さんと入れ違いで……断末魔を聞いた?

 

(?……黒部さんを信じるのなら、死んでいるはずの佐伯さんを誤魔化してる……?)

 

前までのように夏目さんを運ぶのを手伝おうとして、少し止まる。

 

(……佐伯さんが死んでいるのか、黒部さんが噓をついたのか……それを確認してからにしよう。)

 

「……少し佐伯さんの様子を見てくる。」

 

懲罰房へ向かおうとした時。

 

「【待て】。」

 

後ろからの声に、体が止まる。

 

(……なんだ?体が……これは、夏目さんの魔法……)

「お前も吾輩を、【運べ】。」

 

体が振り向く。夏目さんの肩を支え、医務室に向かおうとする。

 

「……アンアンさんも心細いのですわ。ミリアさんがひどい目にあっているのをどうしようもできないのですから。」

「……待ってくれ、夏目さん。俺は佐伯さんの様子を……」

「……ハヤトさん?今はアンアンさんを医務室に……」

「だが……」

「……けほっ」

 

俯く夏目さんを見た遠野さんの非難するような視線を受ける。

 

「……わかった。」

 

 

 

◆

 

 

 

医務室の氷上さんに夏目さんを預け、遠野さんに話を聞く。

 

「ラウンジに貼り紙?」

「ええ、拷問だなんて……悪趣味ですわ。佐伯さんのことを心配して、アンアンさんと二人で向かったのです。」

「……」

 

20時……少し後に受け取った黒部さんのメッセージには、佐伯さんの死体を確認して俺へと連絡をとっていた記録がしっかり残っている。

 

(黒部さんのことを信じるのなら……断末魔を聞いた……?)

(……黒部さんが噓をつく理由は無い……本当に既に佐伯さんが死んでいたのなら。)

(黒部さんか遠野さん達……どちらかが噓をついている……)

 

「そこで、拷問を受けているであろう佐伯さんの悲鳴を聞いて、引き返したのですわ。」

「悲鳴を……」

「その時焦っていて間違えて録音してしまっていたのですわ……。」

 

気になったことを黒部さんにメッセージで共有しておく。

 

 

◆

 

 

遠野さんと別れ、再度懲罰房へ向かい、黒部さんと合流する。

 

懲罰房の鍵を開け、中に入る。

 

 

「……佐伯さん」

 

 

蝶の舞う光景。そして胸の中心に突き立てられたナイフ。

 

目の光は既になく。

 

佐伯さんは、亡くなっていた。

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

裁判の前に少しでも情報を集める。

 

 

(夏目さんと遠野さんの言葉が本当なら、殺したのは黒部さん……だが、理由は?黒幕ではないと納得しきれていなかった?いや、それ以前に……鍵をどうやって黒部さんが手に入れた?)

「鍵を自由に持ち歩けるのは牢屋敷側の存在のみ……なら黒幕に……?」

「ええ、私もそう考えた……だけど、前回のように直接的には手を下していないかもしれない……」

「そうか……ん?」

「……?どうかしたのかしら。」

「このスマホ、中は?」

「まだ見ていないわ。」

 

黒部さんが死亡を確認したという時間。その直前に入っている着信履歴。

 

「黒部さん、最後の着信履歴……黒部さんがメッセージを送る前に……でも、遠野さんと一緒にいたはず……?」

「……何か意図があったと考えると……。」

 

スマホに映る着信とほぼ同じ時間に起こった凄惨な出来事を聞いたばかり。

 

「……遠野さんの聞いた死ぬ直前の佐伯さんの悲鳴。」

(あれがもしも本当の事だったのなら。)

「一緒にいたのは……夏目アンアン。」

 

確認の為に設定を見る。

着信音を流し……眉をひそめる。

 

「……犯人はわかった。だが……黒幕本人かその手駒か。」

「……あるいは、魔女化による佐伯ミリア個人への殺意。」

「……本人に確認するしかない。」

「そうね。」

 

議論を切り上げ、黒部さんが看守に捕まらないよう去るのを見届けた後。

 

 

『佐伯さんが懲罰房で殺されてる。』

 

 

連絡を全員に送る。

スマホに帰ってくる返信を見ないようにしながら、この後に起こる出来事を想像する。

 

(……また、裁判が起こる。そして、追及して。……今度は、俺自身の言葉で。人が魔女になる。なれはてになる。)

(蓮見さんは……皆を処刑させたくなくて。自分が目立つ為でもあるかもしれないが……皆を思って自首してくれた。)

(夏目さんは……認めてくれるのだろうか。魔法で抵抗された場合、勝てないかもしれない。)

 

桜羽さんたちにも連絡を入れてしばらく。

 

「ハヤトくん……!ミリアちゃんは……」

 

開いている扉を指す。

中の凄惨な状況をその場に集まった全員が見、理解する。

 

明るく皆を支えていた、気球を破壊した裏切り者。

 

その口から真実を聞きだせる事は二度と無いのだと。

 

また、誰かを追い詰める悪趣味な裁判が起こるのだと。

 

 

 

◆

 

 

 

ゴクチョーからの通知が響く。

 

『はぁ……殺人事件が起きましたので、ラウンジにお集まりください。定時で帰れると思っていたんですがねぇ……はぁ。』

 

 

◆

 

 

 

ゴクチョーは投げやりに

 

「23時に裁判を行います……それまで、証拠を頑張って集めてください。」

 

それだけを伝え去っていく。

 

「……関藤。」

「?紫藤さんか。あの場の状況についてなら後で裁判の時に話す。」

「……そうかよ。」

 

(裁判まで、伝えれることが無い。黒部さんが看守に捕まらずに来れるまで。)

 

「……ハヤトさん。わたくし、考えたのですけれど。あなたは、ミリアさんが亡くなっていること……予想、してたんですの?」

「……いや、それは違う。」

 

黒部さんからの連絡を受けただけ。黒部さんからの情報を他者に伝えているだけ。だがそれも今言っても意味が無い。

 

皆がそれぞれ思い思いの場所に証拠を探しに行くのを見ながら夏目さんを目で追う。

 

「……」

 

こちらを振り向いた夏目さんと目が合う。

 

(……何でって顔だな。)

 

なぜ佐伯さんのスマホを見せ、その場で糾弾しないのか。

 

(魔女になってしまった夏目さんに、看守抜きで勝てるわけがないから。)

(裁判所の地下へのルートを、探したいから。)

(黒幕ならば、黒部さんに殺されないよう、見ておきたいから。)

 

理由は沢山あれど、結局のところ。

 

(他の人の助けがないと『洗脳』に抗えず、勝ち目が無い。)

(1対1という条件においては最強の魔法になり得る相手に、物証と裁判という真実を追う場所でなら、対等になれる。)

 

 

◆

 

 

 

裁判の開始時刻。

 

 

 

「ナ、ナノカちゃん……」

「……桜羽エマ。」

 

黒部さんの声が聞こえてきたことに安堵する。

 

(……後は、夏目さんがどう出るか……こちらで主導権を握れるのがベストだが……)

 

各々の囚人番号の刻まれた席に向かう。

 

全員が席に着き。

 

ゴクチョーが裁判の始まりを告げると同時。

 

 

「【聞け】。」

 

魔法の籠った声が響く。

 

(いきなりか……)

 

口を開く。

 

「夏目さ「【黙れ】。」

 

全員が口を開けない。

 

「ミリアを殺したのは、第一発見者である関藤ハヤトに違いない。関藤ハヤトに【投票せよ】。」

 

魔法で投票しそうになる少女達も、突然の出来事に抵抗する。

 

「……ア、アンアンちゃん、なんで……」

「おめえ、なんで急に……」

 

だが、一人が声をあげる。

 

「ま、待ってください!アンアンさん、話し合いを……話し合いをしましょう!」

「メ、メルルちゃん……!そうだよ、皆、ミリアちゃんの事件の真相について、話し合おう!」

 

氷上さんの言葉で、全員投票の手は止まった。

だが。

 

(くそっ……喋(・)れ(・)な(・)い(・)!夏目さんの魔法は、納得しなければ抵抗できるんじゃなかったのか!?)

 

他の少女達も話せるようになる中、俺だけが喋れない状況が続く。

 

「まずは前回のように凶器について、そして死亡推定時刻からのアリバイ確認をしましょうか!」

「それより、なんでこのモヤシが突然暴走したんか知りて~んだけど。イキナリ魔法使ってくるし、怪しすぎじゃね?」

「……議論に関係ない会話は【慎め】。」

「~~っ!」

「えっと……アンアンちゃんも、議論してくれるんだよね?」

「……ああ。関藤ハヤトが犯人であると、証明してやる。」

「……何をそんなに焦っているの?何か……やましい事でもあるのかしら。」

「……早く議論を【続けろ】。」

「さっきから魔法使いすぎですわ~!」

 

最低限議論を進めれる状況にはなった。そして。

 

「凶器は分かりやすかったですし、犯行時刻の方に行きましょうか!ミリアさんの遺体の最初の発見者はハヤトさん、メッセージの時刻から20時半ほどでしょうか!それ以前の時間、最後にミリアさんが生きていたのを確認された方はいらっしゃるでしょうか!」

「わ、わたくしとアンアンさんが、ラウンジの貼り紙を見て、20時にミリアさんの様子を見に行きましたわ。」

「その通りだ。」

 

貼り紙の内容を見て眉をひそめる少女達。

 

そして行った先で聞いた悲鳴についての録音データを聞き、判断する。

 

「これが本当なら、やっぱり怪しいのは関藤なんじゃねーの?」

「それは……」

「20時半に、佐伯のもとに居て。それまで誰も会ってねえんなら……」

 

「ちょっといいかしら。」

「……黒部か。」

「……実は私は、遠野ハンナと夏目アンアンと入れ違いで佐伯ミリアの懲罰房に行ってるの。」

「……は?」

「何を、言ってるの?ナノカちゃん……?」

「そして、鍵の開いていた部屋で私は佐伯ミリアが既に死亡しているのを確認している。」

「……つまり、あの時わたくし達が聞いてしまったのは……」

「断末魔、ということかしら?なら最も怪しいのはナノカちゃんになるけれど……?」

 

(くそ……援護を……)

 

「いいえ。私は、私が来る前から死んでいた証拠を出すわ。」

「……これを見て頂戴。」

 

そう言って取り出した物は。

 

「それは、もしかして……!」

「ミリアさんが持っていたスマホでは……!?」

「おい、なんでおめーが持ってんだよ?」

 

決定的な物証。

 

「そして。遠野ハンナ。さっきの佐伯ミリアの悲鳴が入った録音。もう一度流してもらえるかしら?」

「やめろ……」

「ど、どうして……」

 

喋れない代わりに、スマホから佐伯さんに通話を掛ける。

そして流れる、佐伯さんの悲鳴。

 

「やめろ……」

「このスマホは、佐伯ミリアの悲鳴が着信音に設定されている。」

「ま、まさか……」

「ええ。そして、あなたと夏目アンアンが言っていた悲鳴。それが流れた時間にこのスマホに電話を掛けた者がいる。それは……」

 

「やめろ!!」

 

夏目さんが声を荒げる。

 

「いいえ、やめない。このスマホに悲鳴を設定するのは誰でもできる。けれど、このスマホに遠野ハンナと共に近づいたタイミングで本人のスマホから電話をかけれるのは、夏目アンアン。履歴に残っているあなただけ。」

 

「かはっ……」

 

声が出せるようになる。

 

それと同時。

 

「お前の推理は穴だらけだ!吾輩でなくとも、お前が吾輩のスマホをすり替え、部屋に潜んで近づくのを確認し、かけた!その場合でも履歴に残るのは、吾輩の名前だ!そうだ!黒部ナノカの方が怪しい、【そう思え!】」

(そうだ、その可能性があった……黒部さんが最初に見つけた瞬間、そしてそれまでの動向を何も把握していない……なら、夏目さんの推理通りの可能性も……)

 

思考が固定される。黒部さんの可能性も考慮しないといけない。黒部さんなんじゃないか。黒部さんの方が怪しい……

 

「黒部ナノカに【投票しろ!】」 「ちょっと待って!」

 

桜羽さんが、何か言って……

 

「鍵を入手した方法を、まだ議論してないよ!この鍵は、どこで手に入れたのか!」

「それもナノカの魔法だ、隠されていた鍵を背中の銃のように回収した!そうに違いない!」

「いいえ、私が懲罰房に入った時、既に鍵は開いていた。」

 

「……ゴ、ゴクチョー!この鍵、どこに普段置いてるのか、聞いてもいい!?」

 

(……?囚人が、鍵の隠し場所を聞く?????)

 

意識がクリアになる。

 

「答えるわけねーだろ……疲れてんのか?桜羽。」

「私も知りたいです!教えてください!ゴクチョーさん!」

「あらあら、皆で頼めばゴクチョーも答えてくれるのかしら?」

「エマさん、少し休憩しませんか?」

「ヒッキーはうるせーしエマっちは変な事言い出すし……明日にしない?ナノカとヒッキー、どっちでもいいじゃん。」

「え、ええ!?皆さっきまで苦しそうだったのは!?」

 

裁判中とは思えないほど気が緩みかける。

 

(……夏目さんが呆れて、魔法が解除されたようだ……)

 

「ええ……私、関係ないんですが……」

 

(ゴクチョーも呆れ……呆れてるかこれ?面倒くさがってるだけなような……)

 

「ま、このまま同じ事を話し続けられて時間がかかるよりはいいですかね……」

「じゃ、じゃあ、この鍵について教えて!」

「ふむ。その鍵は、看守が持っている懲罰房の鍵です。昨日ミリアさんを収監する時も看守が持っているのを確認しています。」

「看守……なら!」

「看守さんは……囚人の言葉の意味を理解しているか?」

「ふむ。まあ一応、脱獄や攻撃の類の言葉を見つけて聞いて処罰するようにはできていますが。」

「なら……魔法も効くのか?」

 

この質問次第でなら、夏目さんの魔法に逆らって投票できるかもしれない。

期待した答えは……

 

「まあ、ある程度までは。」

 

皆の視線が交錯する。

 

夏目さんは、絶望している。

 

「あれ、質問、終わりました?なら、さっさと魔女を見つけてください。」

 

ゴクチョーが急かす。

 

 

「鍵を看守から受け取って……懲罰房の中に入った。」

「アンアンちゃん、君が……ミリアちゃんを殺したんだ。」

 

 

 

 

◆

 

 

 

投票が終わる。

 

夏目さんは諦めたように項垂れている。

 

前回の蓮見さんのように処刑台に繋がれる。

 

そして明かされる、佐伯さんの殺された理由。

 

(夏目さんも外に出たくなかった……それは分かる。)

 

(桜羽さんへの殺意も……脱出に動く皆の中なら標的に選ばれるのは分かる。)

 

だが。

 

(佐伯さん……桜羽さんの為に、命まで……?どうしてそんな人が、死ななくちゃいけない?)

 

(皆を励まし、気遣い、そして自己犠牲まで……)

 

(俺なんかが、生き残って。優しい皆の方が死んでいく。)

 

(報いなくては。佐伯さん達の為にも、この牢屋敷を、終わらせないと。)

 

(黒幕の目的がなんであれ、彼女達の命を犠牲にし、心の傷を抉る。そんな過程は、許容できない。)

 

夏目さんが地下に送られる。

 

(地下への道……覗き込んでも底が見えない。)

 

夏目さんの処刑台が、完全に入れ替わる。

 

ゴクチョーの飛び去る音が響く。

 

そうして裁判の全てが終わっても。

 

まだ終わっていない。その感覚が拭えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




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