12話
裁判の翌日、桜羽さんに招集を受けるも。
「誰も信じらんないっつーこと。」
「私達は一緒にいない方がいいのよ。」
「もう十分思い知ったろ。」
脱獄について話そうとする桜羽さんに反対し、沢渡さん、宝生さん、紫藤さんが部屋を去る。
残ったのは、桜羽さんと仲のいい3人と自分のみ。
「ハヤトくんも、一人の方が良いって思うの……?」
「……ストレスを溜めないために、お互いを信じれない者達が無理矢理いるより、仲良くお互いを支えあえる者だけで行動する方がいい。桜羽さんたちはお互いを信頼しているかもしれないが、彼女たちは違う。それだけだろう」
「……皆」
「それで、あなたはどうなんですの?わたくし達が信用ならないと?」
「……黒幕を見つける、もしくは魔女化を抑える方法を見つける。それが俺の目的で……君たちも、疑わないといけない。」
「……ハヤトくん……」
不安げにこちらを見る桜羽さんには酷だが、黒幕が何者かを探すことに専念したい上、
脱出に協力しないメンバーのストレスも考慮しないといけない。
この牢屋敷に隠された物、それを見つけない限り魔女化が進み続け、いずれまた殺し合いが起きる。
黒部さんが言ったように、時間に余裕がない。
皆の脱出に協力し、自分一人ここで朽ちる。そんな初めの目的は、もう跡形もなかった。
今はとにかく魔女化の深刻さ、魔女化を進める黒幕が野放しな事。
それらを解決しなければ、全員が死ぬ。
(殺された少女達、魔女化により殺人を犯してしまった少女達。彼女達のような犠牲者がこれ以上出ないよう、牢屋敷の真実を追い求める。)
「……すまない。黒幕を、目的を探し求める為に、これからも黒部さんのように単独行動を繰り返すつもりだ。」
「……牢屋敷の、黒幕……」
これ以上居た所で、空気が悪くなるだけ。
ストレスの為にも、離れる。
牢屋敷は、魔女化を進める為に作られた場所、そう実感する。
◆
「……」
牢屋敷の外、裁判所の壁側面を歩く。
周囲を細かく見る。
(蓮見さんと……夏目さんの処刑の後。牢屋敷の地震は確定で起こり、それを当然のことと受け入れているゴクチョー。それはつまり、地下で牢屋敷の把握している何かが動いている。)
裁判所の周りのどこかのゴクチョーが通る為の通気口。
そのどれか、地下に繋がる通気口の先。
(そこになれはてとなった魔女が捕らえられている……はず。)
だが。
(……人間はどうやって入る?黒幕が囚人の中にいるのなら、ゴクチョーと秘密裏に会うのなら地下しかないはず。魔法で移動しているとして、魔法が噓だったとしても、誤魔化す為に似たような魔法を言っているはず。)
把握している魔法の持ち主で、そういった事が出来そうにない魔法を持つ囚人。
(……駄目だ、橘さんの怪力や宝生さんのモノマネが自前の能力とも判断できてしまう以上、ほぼ全員が魔法を隠しているも同然。魔法で移動されていたら……特定は出来ない。)
魔法を持たないと言う少女に、自分が見ていない箇所の情報を得る魔法を持つと言う少女。
(そもそも、少女の姿をとっている方法が分からない。『入れ替わり』のお陰で魔法は精神に宿ると証明されたばかり。少女の姿に成り済まし、ゴクチョーと密かに連絡をとれる魔法……)
持っているのかも分からない、見たこともない魔法。その可能性を全て考えるのは不可能と判断する。
(……一旦、魔法を抜きに考えて。人間でも通れるルートがあると信じて捜査しよう。)
そうして周囲を探索していると。
「おや、関藤ハヤトさん。ここで何を?」
ここに来てから探し続けていた、裁判の時以外のゴクチョーと話す機会をようやく得る。
「……散歩だよ。裁判所の中は入れないから、周りを歩いていたんだ。」
「裁判所の中に?何か探し物でも?」
「……いや、なれはてになってしまった二人が、どこにいるのか調べたくなった。」
ゴクチョーが唸る。
「うーん、それについては、地下に幽閉している。そうお伝えしましたが……」
「……いや、幽閉されているなれはてを監視する場所があるんじゃないか。そう思ってね。」
「そこを見つけてどうするんです?あまり嗅ぎまわらず、平穏な暮らしを送った方が良いと思いますが……」
ゴクチョーが訝しんでこちらを見ている。
(……まあ素直に言ってくれるとは思ってなかったけど……本当にそんな場所があるのか。そこは反応で分かった。だがその分、怪しまれてしまったな……)
「……そうだ、ゴクチョー」
「はい?まだお話が?」
あの本を見つけ、気になっていたこと。
「……ずっと聞きたかったんだ。この牢屋敷について。」
「はあ、どのような?」
「ここには……大昔、魔女が住んでいたのか?」
「ええ。沢山の魔女の暮らす島でした。それが何か?」
「その魔女達は……俺たちのように、なれはてになってしまったのか?」
「……いえ、ある出来事によってこの島の魔女は殺され、ほぼ全滅しました。」
核心に迫る。
「なら、俺たちは……生き残った魔女の末裔……ってことなのか?」
「……それは、どうなんでしょうねえ。」
「教えてくれ。俺たちがなれはてになるのは魔女因子のせいで……その魔女因子は……どこから現れたのか。」
「それは……我々も研究中でして……」
何かを誤魔化している。それを追求しようとして……
「ハヤトさん?」
後ろから声を掛けられる。
「?ゴクチョーさんと何をお話して……」
「……それは」
バサバサと翼の音が響く。
振り返った時にはゴクチョーは空を飛んでいた。
(くそ……魔法を使ってもジャンプで届かないなら意味が……)
「も、もしかして、お邪魔してしまいました……か?」
「……いや、大丈夫だ。……ゴクチョーを見かけたら、伝えてくれると嬉しい」
「や、やっぱりまだお話したいことがあったんですね……!」
申し訳なさそうに謝る氷上さんを宥め、去る。
◆
翌日。
図書室に向かうと、宝生さんがいた。
「……あら、どうかしたの?」
「……その本」
「ええ。また解読してるの。私達の魔法について載っている、この牢屋敷の希望だもの。」
「……サバトについて、か?」
「いいえ。……魔法を成長させれるかもしれない。」
「何だって?」
「……聞きたい?」
「……ああ。」
「なら、解読に成功して。方法が分かったら……協力してくれる?」
新たな希望。魔法を強くする方法が、魔女化を進める以外にあるかもしれない。
魔法の強化、それを黒部さんに行えれば。
(この牢屋敷全体の過去を見れるようになるかもしれない。)
「ああ、もちろんだ。」
「……なら、この本に書かれている文字……その法則を教えてあげる。」
「……そこまで進んでいるのか。」
「ええ。この本に書いてある事に従えば、私達の魔女化の解決に繋がるかもしれない……」
宝生さんの考えに同意するが、少し宝生さんを危うく感じる。
(……不安と疑心、それは前からあった。だが……やっぱり全員、焦っている。ストレスと次に殺されるのは自分かもしれない。そんな状況で今まで通りに振る舞うなんて無理なんだ。)
(魔法について、牢屋敷について。宝生さんも動いてくれている……これまで以上に早く進めないと。)
宝生さんの説明を聞き、魔法の強化についての儀式を照らし合わせる。
「宝生さん、これを。」
「それは……?」
「……過去にこの本を黒部さんに魔法で見てもらい……その時理解できた単語を記してもらったんだ。」
「……そう、ナノカちゃんが。」
「これがあれば、解読がもっと早くなるはず。」
(俺が持っていても法則には気付けず……単語の組み合わせしか読めなかったからな……)
「……そう、この単語の間がそういう意味なら……」
結局、宝生さんと黒部さん二人に殆ど解読してもらったようなものだが、それでも前に進めていることに喜びを覚える。
(まだ、完全には手詰まりになってない。新たな物が見つからなくても、協力で前に進める。宝生さんはまだ、諦めたわけじゃない。もっと情報を得ることが出来れば……)
◆
宝生さんから長時間一緒には居たくない旨を伝えられ、図書室から離れる。
そうして牢屋敷を探索していると。騒がしい声が聞こえる。
「エマさんのために、こんなのはどうでしょうか!」
「体調が悪いと言ってる方の前でやる行動じゃありませんわ~!」
「いえ、元気な私の姿をみれば、元気がもらえるって言ってくれた人もいるんですから!」
「そんなおバカなことを吹き込んだのはどこのどいつですの!」
遠野さんと橘さんが楽しそうにしているのを見て安心するも、不穏な情報に声を掛ける。
「こんにちは、遠野さんと橘さん。」
「あ!ハヤトさん、丁度いいです!ハンナさんに言ってください!シェリーちゃんに元気を貰える、と!」
「?」
「ほら!困惑していますわ!」
「……それより」
「ガーン!スルーされちゃいました~!」
「……桜羽さんの体調が悪いって?」
「そうなんですの。熱を出していまして……今、メルルさんが解熱剤を取りに行っているのですわ。」
「それは……大変だな。何か必要だったら言ってくれ。」
「……どうも、ですわ。」
喋れ続ける橘さんと疲れた顔の遠野さんから離れる。
(……桜羽さんまで……牢屋敷の脱出に動き、皆を導いていたのに……牢屋敷の雰囲気が最悪を更新し続けるな……)
魔女化のストレスがほぼ全員限界なことを確信する。
(……黒部さんは、大丈夫か?裁判の後、情報も何も来ていない……)
(沢渡さんや紫藤さんも……全員……大丈夫だろうか……)
不安に駆られる。自身もストレスが溜まっている事を意識し、外に向かう。
◆
(昨日みたいにゴクチョーが見つかれば……)
空を注視しながら湖に向かう。
(……湖を見て、少しでも精神を落ち着かせよう)
到着した湖には先客がいた。
「……関藤か。」
「紫藤さんか。ここで何を?」
「……景色見てるだけだよ、わりぃか。」
「いや、違う。少し気になっただけだ。」
離れた位置に腰を下ろす。
「……」
「……」
しばらく無言の時間が流れる。
「……おめーは……」
「?」
「……平気だと、思ってた。」
「……」
紫藤さんからの言葉を聞く。
「蓮見が処刑された後。黒部と一緒に啖呵切ってたから……強いのかと。思って……」
「……」
「……でも、前回の夏目の裁判。お前はずっと無言で。犯人に仕立て上げられそうになって、反論しなくて……」
「それは……夏目さんの魔法で喋れなかっただけだ。」
「……でも、夏目の処刑の時も。お前は一言も喋らなかった。」
「……」
「お前は……ただ、悪事を働いた奴を許せない奴だったんだ。……でも。」
「紫藤さん……?」
「お前は……悪事をした人間じゃなくて。悪事を唆した奴に、黒幕に。ずっと怒ってた。」
「……魔女化の殺人衝動と、牢屋敷の環境が原因で……本当はあんな事する人達じゃないって……信じてるだけだよ。」
「……お前も、許すのかよ……」
突然声が小さくなり、聞き逃す。
「?今なんて……」
「……全部、魔女因子のせいだって……言うのか?」
紫藤さんの質問には、迷いなく答える。
「ああ。ここに連れてこられた少女達は……この環境で、おかしくなっただけで……人を喜んで殺すような子はいないと……思ってる。」
「……信じて、くれないのかよ……」
紫藤さんの様子がおかしい。何か……間違えてしまった、そんな気がする。
「……ウチに近づくんじゃねぇ。」
「……」
突然刺々しくなる。
(……何か、逆鱗に触れてしまったらしい。)
ストレスを与えてしまった事を後悔しながら、その場を去る。
こちらを睨む紫藤さんは、どこか寂しげに見えた。
◇
「……わたしを叱ってよ。」
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