桜羽さんが倒れて数日後。
図書室で解読作業の手伝いをしていると桜羽さんの体調が回復した情報を宝生さんから聞く。
「さっき皆でピクニックに行かないか誘われたの。」
「……行かないつもりか?」
「……ええ。あまり……時間が残されていないから。」
「……それでも、ストレスを緩和するなら桜羽さん達と一緒にいた方が……」
「……私は、あの子達の中で笑えるのか、自信がないの。」
「……」
気まずい空気の中、解読に没頭する。
◆
宝生さんと別れ、牢屋敷の外。
(……ゴクチョーを……見つけないと……)
(魔女……なれはて……牢屋敷の黒幕……)
空を注視しながら歩いていると。
「わっ!?」
「!?」
誰かとぶつかってしまう。
確認すると、転んでいる桜羽さんが目に入った。
「!す、すまない。周りを見ていなかった。ケガはないか?」
差し出した手を受け取って起き上がる桜羽さん。
「う、うん!大丈夫……だけど、ハヤトくんも、大丈夫?」
「いや……俺は転んですらいないから……」
「そ、そうじゃないよ!ハヤトくん、こっちに歩いてくるのに呼んでも気づいてなかったから……」
「そう、だったのか?」
「うん。何回か呼んだけど、気づかずに歩いてきたから……何か、考え事?」
桜羽さんのこちらを心配している顔に申し訳なさを感じる。
「いや、ゴクチョーを探して空を見てただけだ。声に気づかなかったのは……ただの不注意だ。すまない。」
「そっか……ゴクチョー、普段何してるんだろうね?」
「……ああ。……体調が良くなったばかりなのに、すまない。」
「だ、大丈夫!これくらいならよくあることだよ!そ、そうだ!ハヤトくん、ボク達、この後ピクニックに行こうと思ってるんだ!メルルちゃんがお弁当も作ってくれてるんだ!」
「……」
「だから……皆来て欲しいと思ってて……誘ってるんだけど……」
「……宝生さんから、聞いてる。」
「マーゴちゃんが……?な、なら……」
桜羽さんのこちらを伺う言葉に返答する。
「……分かった。一緒させてもらっていいか?少し……限界を感じてたんだ。」
「!う、うん!良かった……あ!ハヤトくん、ナノカちゃんも誘いたいんだけど、どこにいるのか分かる?」
「……黒部さんか……聞いてみる。」
「えっ……連絡できるの?」
「いや……ここ最近はあまり返事が無いから微妙だ。見てくれてはいるはずなんだが……」
メッセージを打ち込む。
(既読かも分からない……牢屋敷限定のせいか機能が少ないな……)
「今、黒部さんにメッセージを送った。時間と場所は伝えたから後は本人が来るかどうかだ。」
「ありがとう、ハヤトくん。」
「……桜羽さんも、皆の為に頑張ってくれているんだ。これくらいの事はさせてくれ。」
「皆……来てくれるかな。」
「……」
皆を気遣う桜羽さんとその後少し会話してから離れる。
◆
聞いていたピクニックの時間。
集合場所に集まったのは、いつもの四人と俺だけだった。
「おや、ハヤトさん!お久しぶりです!元気でしたか?」
「ああ。橘さんは……いつも通りだな。」
「これで全員ですか……?」
「……黒部さんからの返信は無かった。」
「そっか……でも、ハヤトくんだけでも来てくれて嬉しいよ!」
敷布の上で景色を見ながら氷上さんの作ってくれた久しぶりの美味しい食事を楽しむ。
サンドイッチやお菓子。長らく見れなかったまともな形の食べ物を味わう。
「氷上さん、料理上手いんだな。」
「いえ、そんな……」
「この牢屋敷に来てから一番美味しいと思う。」
「ボクも!ありがとう、メルルちゃん!」
「このお菓子、おいしいですね~!」
「牢屋敷にあるもので、よくこんなもの作れましたわね。あの食堂を思い出すだけでも嫌なほどですのに……」
「砂糖は貴重なんですけど、頑張って作りました……!」
食事を楽しんでいると、桜羽さんが友達についての会話をしだす。
(……思ってたより卑屈な所もあるんだな。でも、皆の為に動いていたのが皆に嫌われたくないからだとしたら……それがトラウマの可能性もある。気を付けておこう……)
「それにボクは……ここの皆と友達になりたい。皆と一緒に、ここを出たいんだ!」
「エマさん……」
「……ハヤトくん。疑われてるのは知ってる……けど、キミとも友達になりたいな。」
「……桜羽さん。」
「こうやって、一緒に遊んで!皆と友達になって。全員で牢屋敷から出ようよ。」
桜羽さんの声と共にこちらに伸ばされる手。
(ああ、眩しいな。皆を信じてる。殺し合いを見たくないのは同じ。なら……)
手をつなぐ。
「ああ。皆を脱出させよう。」
(桜羽さんには、そう信じさせる強さがある。ここから皆を救いたい。もう一度全員で力を合わせればなんとかなるかもしれない。)
「ありがとう、ハヤトくん!」
「感動的ですね~!」
「あなた、こういう時だけ黙るとかできませんの!?」
「ええ~、だっていい場面じゃないですか~。私も仲間にいれてください~!」
「ご、ごめんねシェリーちゃん。置いてきぼりにしちゃって……」
「いえ!こういう時こそ、もう一度やることがあるんじゃないでしょうか!」
「シ、シェリーさん……?」
橘さんが手を伸ばす。
「あの時のように!もう一度、宣言しましょう!」
「……!」
全員が意図に気づき、手を重ねる。
「うーん、音頭が思いつかないので。エマさん、お願いできますか?」
「え、えぇっ!?ボ、ボク急に言われても……!」
「大丈夫ですわ、エマさん。あなたを信じていますから。」
「ハンナちゃん!?プ、プレッシャーが……」
「エ、エマさん……か、代わりましょうか……?」
「桜羽さん、思った事を言うだけでいい。」
少しの間考えていた桜羽さんが顔をあげ、宣言する。
「これ以上誰も死なないで、全員で脱出しよう!約束!」
「ええ。」
「もちろんです~!」
「は、はい~!」
「ああ。」
◆
また食事を再開し、食べ終わった後。
遠野さんと橘さんが魔法で箒に跨り空を飛ぶ一幕もあったものの、落ち着いて会話をしていると。
「みなしごだったんですよ、私。」
家族についてさらりと言ってのける橘さん。
何てことの無い様に言葉を続ける橘さんに、氷上さんが血が繋がっていなくとも家族に想われているはずと泣き、家族への思いを吐露する。
(家族に会いたい……ああ。俺もだ。)
(だけど。家族に会いに逝く前に。少しでも誇れる俺に戻らないと。)
その会話を最後に解散する。
◆
監房に戻り、氷上さんを慰める。
「ご、ごめんなさい……あんなに泣いてしまって……ここにいる皆さん全員が悲しいのに……」
「いや、その全員に氷上さんも入ってる。悲しい思いを抱え込んで一人で思い悩まない方がいい。」
「で、ですが……」
「……家族に会いたいんだろう?」
「それは、もちろんです……!何があっても、絶対……」
「なら、絶対に諦めちゃ駄目だ。家族に会うために、絶対に生き残るんだ。そのためにも、悩みは分かち合った方がいい。」
「……悩みを……」
「一人で全部抱え込まなくていいんだ。」
俺の言葉を受けて考える氷上さん。
思えば同室だというのに、彼女のことを俺は何も知らない。
今日思いを初めて吐露してくれた氷上さん。
(情報を持たないと……トラウマ、不快に思う行動、そして黒幕……魔女化をどうにかするのも、脱出に必要な協力だ)
「……そうですね。家族の為に、もっと頑張ります!」
「……そうか。なら、応援するよ。」
「ありがとうございます!」
(……悩みは聞き出せなかった。佐伯さんの時もそうだったが、信頼を積み重ねていないのに寄り添っても意味がない……か。)
◆
翌日。
大きな音で目が覚める。
(……まさかまた誰か……)
急いで音の中心である二階に行き、図書室の中に入る。
「あれ、ハヤトさん。おはようございます!」
挨拶をしてくる橘さん。
しかしその手は動き続け、轟音も響き続ける。
「……どうしてこんなことを?」
答えを求め、問いかける。
「皆さん、限界みたいなので!何か隠されているものを、無理矢理にでも探し当てるべきかと!」
(……いつも通り、皆を思って物理で解決を図っただけ……か。)
ならば話は聞いてくれるだろうと思い、破壊行為の方向を誘導する。
「なら、この本は回収させてくれ。宝生さんが解読してくれている手掛かりなんだ。」
「ええ!知ってます!だからその本は除けておいたんですよ~。」
「さすがだな、橘さん。それなら、ここの本棚は確認が終わっているから、そっち側から押して壁際を見よう。」
「おお!こういうところこそ、隠し場所に多いですもんね!」
「それと、できれば普段施錠されている裁判所や厨房なんかを優先的に探索したい。出入り不可エリア扱いで規則違反になりそうだから看守に見つからないように……」
話していると。
「あなたたち、何をしているんですの!」
「あ、エマさん、ハンナさん。おはようございます!」
その後橘さんが行動した理由を自身の言葉で伝えているのを見守る。
(うん、やっぱり橘さんは皆を助けようと行動を起こした。その内容はともかく、力を正しく使ってもらえるよう誘導しよう。)
「じゃあ橘さん、その棚を動かしたら今度は裁判所に……」
「ちょっと!?何を一緒になって破壊行為をしようとしていますの!?」
「ハヤトくんも、ストレスが……?」
「ああいや、隠し場所を探すのに橘さんの選択は間違ってないと思う。ただ、闇雲に手当たり次第に破壊するんじゃなく、目的を持って破壊してもらおうと……」
そうして会話をしていると、宝生さんが焦った様子で駆け込んでくる。
「あなたたち、何を……いえ、まずはあの本……」
破壊された数個の本棚付近を探す宝生さんに声を掛ける。
「宝生さん、探している本はこれじゃないか?」
そうして本を手渡す。
「……無事だったのね……良かった……」
「宝生さん、橘さんをあまり責めないで欲しい。焦ってこういった行動を起こしはしたが、その本を除けてくれていたのは橘さんだ。考えなしじゃなく、何か行動を起こさないとと思っての行為だったんだ。」
「……それでも、破壊で物事を解決しようとするのは好ましいとは言えないわ。」
宝生さんの目が鋭くなる。
「……わかりました!今度からは、相談しますね!」
「結構よ。そもそもこういった事を、二度と起こさないで頂戴。」
そう言って去っていく宝生さん。
「あちゃ~。」
「あちゃ~。じゃありませんわよ!どうするんですの、この惨状!」
「み、皆で片付けよう!」
「み、皆さん、どうかしたんですか……そこら中荒らされてて……」
「あ、メルルさんも、おはようございます!」
「……本棚を起こすのを分担してやろうか、橘さん。」
そうして片付けを手分けして、なんとか壊れた窓や壁に空いた穴以外は元に戻すことに成功した。
そして、壁の穴から自由時間外に外を出歩ける事に橘さんが気づいたことによって、皆に少し元気が戻る。
(結果的にいい方向に行ったのなら、いいか。)
◆
数日後。
「黒部さん、どうなった?」
「……駄目、ここもハズレ。」
久しぶりに会えた黒部さんと裁判所の付近の通気口を捜査する。
「やっぱり、人間用の出入口が他にあると見た方がいいみたい。」
「そうか。ゴクチョーの通り道で記憶を探る……良いアイデアかと思ったんだが……」
「……やっぱり、裁判所の地下へ通じる道は、簡単には見つからないみたい。」
一旦捜査を中断し、共有した情報の中で不審に思ったことを議論しあう。
「儀式による魔法の強化……」
「だが……正直に言って、できそうにない。解読は進んでいるが、儀式の内容の再現の方が厳しそうだ。」
「……トレデキムについて、13の数字、魔女を殺せる……それ以外の情報は?」
「……昔の魔女達が作ったことがある程度で、どこに保管しているのか、薬の有効期限なんかは何も。」
「そう……」
「……『変身』の魔法の持ち主が黒部さんの姉だってのは……」
「本当よ。」
「……同じ魔法が使えるのなら、黒幕は魔法を隠して偽装している人物……の可能性がある」
「……大昔、ここに居た魔女達はゴクチョーの言う凄惨な出来事によってほぼ全滅した……生き残った魔女と黒幕には何か関係があるのか……」
情報を共有し、どれが黒幕に関係し、どれが魔女化に関わる情報なのか精査していき、時間をみて解散する。
「……じゃあ。気になったことがあれば連絡する。お互い気を付けましょう。」
「ああ、気を付けて。」
◆
翌日。
桜羽さんが熱を出して倒れた。
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