ラウンジに集まっている少女達を見る。
(……いないのは……遠野さんと、黒部さん……)
(……黒部さんからの返信があった。なら、殺されたのは……)
「……関藤か……遠野が……殺されてた。」
紫藤さんに告げられ、疑惑が確信に変わった。
ゴクチョーの3度目の説明を聞く。
「今回は~……正午から開廷とします。」
「火精の間の消火作業は終わっていますので、捜査に支障は……まぁ、ないはずです。」
「では皆さん、せいぜい頑張って犯人を特定してください。」
そのまま飛び去るゴクチョー。
(……捜査は、しないと。真相は、突き止めないと。失われた命を……無駄にしないためにも。)
(……黒幕の手掛かり……そうだ、もしかしたら。最近は殺人事件も起きていなかった。だから、黒幕が直接殺した可能性だって……)
ラウンジを出て火精の間に向かう。
(……この中に魔女なんて、いないはずだ。桜羽さん達はあんなにも仲良しで……宝生さん達も、希望は捨ててなかった……)
(……黒部さんも。看守として家族を操る黒幕以外に殺意を向ける理由なんてないはずだ。)
(……だが、信じていたとしても。殺人は起こっている……他者によって起こされた証拠がなければまだ希望はある。)
◆
火精の間。
消火活動があったと言っていたように、燃えていたのだろう痕跡の中ドアを開ける。
そこには。
周りを囲む皆の人形と一緒に首を吊る遠野さんがいた。
◆
(……自殺。それなら、これ以上の死人はでない……だが、魔女がいるのなら。行動を既に起こしてしまった以上次に狙いを定めていてもおかしくない。)
(……これは、これ以上魔女に殺されるのを止めるため、だから。仕方ないんだ。自殺である証明には、他者によって殺されていない証拠がいる……)
周囲を観察する。
(……昨日の看守が鍵を閉めていた……俺たちが出てから犯行は行われたはず……なら、死亡推定時刻は……10時前から発見時刻の朝の自由時間前……8時間はある。)
(そして……俺たちは殆どが自由時間外にも一人で外に出ている……今回、殆どアリバイは役に立たないな……)
火精の間にはこれ以上の情報は無いとして外に出る。
「……あら、あなたも……」
「……関藤」
「ねむ……」
外には昨日の3人がいた。
「……皆も、捜査するんだな。」
「……ええ。処刑……されないために。」
「……」
「……っ。ねむ~。」
火精の間に入っていく宝生さんと地精の間に入っていく沢渡さん。
残された二人で周りを見る。
「……これは……」
「紫藤さん?何か見つけたのか……」
「ああ。火元を見つけた。……最低なヤツだ、犯人は。」
「……」
(中からじゃない……外からの放火……でも、遠野さんの死亡前から用意されていたのなら、本人によるものの可能性も……)
(仮に魔女がやったとして……死体を燃やして証拠隠滅しようと……?なのに外から……?遠野さんの近くから証拠を消したいなら、中から火をつければいいはず。)
その後も周りを見るが、昨日石畳に宝生さんの捨てた花が潰されているぐらいしか普段との違いは見当たらない。
(犯人が踏み潰したり、血を偽装する為に使ったのなら、もっと痕跡が残っているはず……周りを見てもそんなものはないし、遠野さんの服にも血の跡のようなものは無かった。)
これ以上の捜査で出る情報よりも、優先的にすることがある。
紫藤さんと別れ、医務室に向かう。
(黒部さんからのメッセージにあった、1時の襲撃。暗闇の中右手を負傷し、逃げた相手の顔も確認できなかった。……魔女が黒部さんを狙って失敗した……そう思える)
(だが、黒部さんを襲撃した者が遠野さんを殺したと決まったわけじゃない……)
(情報を集めないと。)
◆
医務室には、橘さんと氷上さんがいた。
「おや、ハヤトさん。何かありましたか?」
「……氷上さんに聞きたいことがあってな。」
「わ、私にですか……?」
「ああ。昨日の夜から、今日の朝まで氷上さんは桜羽さんに付きっきりだった。そうだな?」
「は、はい。」
「そして医務室には……夜の1時以降に誰か来たり、なくなった薬なんかはあるか?」
「えっと……昨日の夜は……22時から、誰も来ていません。私が眠りについた後で今日の朝なくなっていたお薬も……多分ないです。」
「どうしてそんなことを聞くんですか?ハヤトさん。」
「……昨日の夜、黒部さんが何者かに襲撃され……やむを得ず銃を撃った。」
「え、えぇ!?」
「その後、相手は逃走した……らしいんだが、もしも銃弾が当たっていたなら大怪我だ。止血だったり……痛み止めだったり……」
「……あ、それ私です。」
橘さんが手を挙げる。
「……そうなのか?」
「はい!黒部さんの銃が一番危険なので、破壊しようと思いまして!返り討ちにあってしまいましたが……」
そう言って手当てされている足の怪我を見せる。
「……黒部さんには、伝えておく。」
「はい!それで、怪我しちゃってメルルさんに治療してもらった……という感じです!」
「……シェリーさん、あまり動かさない方が……」
「大丈夫ですよう。私、頑丈なんですから……いてて。」
「ああ、やっぱり!今鎮静剤を……」
氷上さんと介抱される橘さんに別れを告げ、牢屋敷の外に出る。
◆
火精の間に向かいながら昨日の夜の襲撃者について黒部さんに情報を送りながら、考えを巡らせる。
(……橘さんが噓をついているかどうかは分からないが……少なくとも怪我は事実。……魔女に近づくほど治癒能力が高くなるから、遠野さんをいつ殺したにしても、昨日の夜の怪我が治ってない橘さんはシロ……か?)
(いや、殺したことでストレスが軽減された可能性……橘さんや牢屋敷の皆が人を殺してストレスが軽くなる人だと思いたくはないが……魔女化によっておかしくなっていた蓮見さんがああなっていたんだ、可能性はある。)
橘さんが魔女かどうか。判断材料が経験による推測のみでは判断できなかった。
(……トレデキムがあったとて。それを飲ませることで判断するのは……魔女は死んでもいいと言うも同じだ。)
(それに今更遅い。もう皆殆ど魔女化しているも同然だ。宝生さんも。紫藤さんも。俺も。爪の伸びる早さは殆ど変わらない……)
そして、魔女かどうかは事件の動機づけにはなっても、トリックの解決に繋がるわけではない。
(結局のところいつ殺されていつから火精の間に遠野さんの死体があったのか。それが分からない上に鍵を掛けている所を見た人間が複数いる密室殺人なのは変わらない……遠野さん本人の自殺だとしても、鍵のかかっている部屋にどう入ったのか。結局そこだ。)
思索にふけっていると、返信がくる。
(右手が動かせないからか、朝から返信が遅い……いや、事件が起きてない時は返信がそもそも来ていなかったから、生存確認ができるだけマシか……)
『橘シェリーはそこにいる?』
『いや、俺が他の場所に移動してしまった。橘さんは医務室にいるはずだ、何か確認したいことでも?』
『いえ、ただ……銃弾が、当たってしまっていたなんて。』
『……襲ってきたのは橘さんの方からだ。黒幕を警戒していた以上反撃に出てしまうのは仕方ない』
『……でも、当てるつもりは無かった。なのに当たっていた……後からこんな後悔をするなんて、覚悟が無かったんでしょうね。私は……』
『……慰めにもならないだろうが、黒部さんが家族の為なら人を撃っても平然としている人じゃないことが知れて、俺は安心している。だから……黒幕相手でも。何故こんなことをしたのか、話し合えるんじゃないかって……思ってる。』
返信が止まる。
暫く火精の間の周囲をもう一度捜査しながら返信を待つ。
(火精の間に隠し通路があれば……死体の周囲を動かせないから、外から探すしかないな……)
スマホにメッセージが届く。
少しの期待を胸に開く。
『……黒幕を許すことなんてない。家族を弄んだ相手になら……私は躊躇いなく撃てる。……その筈よ。」
そのメッセージに込められた家族への思いと、それでも生来の人を容易く殺せる人間ではない事が滲み出る黒部さんの人間性に希望を感じる。
(……黒幕さえ。黒幕さえ見つけてしまえば。未来に希望はある。だから、頼む。牢屋敷による犯行か、遠野さんの自殺……どちらかなら……)
(誰も魔女じゃない……そんな結末なら。誰も死なないはず。)
『魔女裁判の時間となりました』
裁判所に向かう。
(まだ何も見つかっていない……だが、だからこそ牢屋敷側、鍵の管理をしている者にしか。遠野さんを殺せないと証明できれば……)
◆
全員が集まり、ゴクチョーによって開廷が宣言される。
「それでは魔女裁判、開始です!」
口火を切ったのは橘さん。
「今回の被害者は遠野ハンナさん。火精の間で死んでるのを、えーと、ナノカさんとハヤトさん、そして私シェリーちゃん以外の全員が見た、で合ってますか?」
「ええ。そして、おそらく死因は首に残っていた跡から窒息死……それは間違いないはずよ。」
「……まず、自殺か、他殺か。そこを明らかにしよう。」
「……うーん、状況的にはハンナさんの自殺に見えますが……」
「……偽装工作の可能性、か。それなら、ウチが見つけた火元。それが外にある以上、犯人が殺した後に火をつけた……そう考えるのが当然なんじゃねーか?」
紫藤さんが見つけた証拠。
「ちょっと待ってくれ、紫藤さん。それだけじゃ他殺の証拠とは言えない……遠野さん本人でも、自殺した後に火を着ける方法はあった。それが……この倉庫にあったロウソクと、火薬だ。」
(現場にあったわけではないが、遠野さんでも使えた時限式の放火手段はこれしか見つからなかった……)
「……ロウソクの火が燃え移る前に、自殺した可能性……ね。でも、問題はもう一つあるわ。ハヤトくんも、わかっているでしょう?」
自殺の可能性を模索して見つけた物を開示するが、宝生さんから指摘が入る。
「エマちゃん達は知らなかったでしょうけど、実は昨日の夜、私達4人火精の間にいたの。」
「え~?そうだったんですか~?」
「……ああ。関藤、沢渡、宝生とウチは、昨日の夜宝生に誘われて火精の間にいた。」
「怪しい儀式に呼ばれてあてぃし寝不足になったし。」
「……ああ。消灯時間までに片付けをして……」
「そして、私達が出るときに、看守に出くわしたの。」
(そうだ。そして重要なのは。)
「私達が出た後、看守が鍵を閉めたの。だから、私達がいた時間。そして看守によって鍵の掛かっていた時間。ハンナちゃんはどうやって入って、中で死んでいたのかしら。」
(ここだ。)
唯一の希望に賭ける。
「……そこなんだが。今回こそ、鍵を看守から奪える魔法を持っている者がいない以上、牢屋敷側による犯行だと疑っているんだが……」
「いや、前回は追及しなかったが、てめーの魔法でも奪えるんじゃねーの?」
紫藤さんの指摘で気づく。
(……そうだった。夏目さんの時は決定的な物証、蓮見さんの時は蓮見さんによる自白で決まったようなもので、俺の魔法について説明をしていなかった……)
疑惑を解く為に口を開こうとしたその時。
「「ちょっといいかしら。」」
宝生さんと黒部さんが同時に口を開く。
「……」
「ナノカちゃんから話していいわよ。」
「……ええ。聞いてちょうだい。」
黒部さんが話す。
「関藤ハヤトの魔法について……証拠は私の魔法を信じてもらうしかないのだけれど……私から明かさせてもらうわ。関藤ハヤトもいいかしら?」
確認の為にこちらを向く黒部さんに頷く。
「関藤ハヤトの魔法は……『時間停止』。止まった時間の中を自由に動ける……そういった魔法よ。」
沢渡さんの悲鳴が響くがそれを無視して続ける。
「ただし、止まった世界の物を関藤ハヤトが動かすことはできない。だからドアを開けるなどは不可能……そして。看守から鍵を奪う為には、時間の停止を解除してからでないとできない……」
「……そうなんだ」
桜羽さんが何やらメモに書き込んでいる。
「……ああ、おめーの言い分は分かった。だが、おめーらが口裏合わせてないかの為にも、宝生の話も聞かせろ。」
「ええ。」
「……私は、ハヤトくんの魔法を証明する方法を知っているの。」
「……それは?」
「ハヤトくんがいつもやってるって教えてくれた方法。時間を止めてその間に考えてる……って。」
「……?」
「ハヤトくんを疑う人だけで、3桁の数字を隠して書いて……同時に、少しだけ浮かせる。そしてそれを全部足した数字を一瞬で言えたら……瞬間移動だけじゃ、説明がつかないでしょ?」
(……え?裁判中だぞ?俺の魔法検証会してる場合……いや、疑いを晴らす為に宝生さんが言ってくれたんだ。文句は……ないけど……)
疑いながらも、時間を気にして書き始める。
そして同時に浮かせた瞬間に魔法を使い、答える。
「……疑って悪かった。密室に入れるのはお前だけなんじゃねえかって……」
「……いや、それより。これで全員がアリバイがなくて、でも密室で行われた事件になった。だからやっと……牢屋敷が一番怪しい状況になった。」
全員がゴクチョーへと視線を向ける。
「……またですか。そうくると思って、今回は対策として……看守に監視カメラを着けています。」
「……だから?」
「疑われても……今回は映像として、看守の鍵は取られておらず、火精の間に鍵を閉めた証拠があります。」
ゴクチョーから写真を受け取る。
(……改竄されていたらどうしようも……いや、それを言い出すと証拠なんていくらでも捏造できる……やっぱり自殺の可能性を追うしか……)
「死んだのは夜間。それでいいかしら。」
「夜なら……外で大きな音を聞いたな。」
「それはいつ?」
「1時に一つと2時に何回か……」
考えを巡らせていると議論が進んでいた。
「……1時の一回の破裂音……それなら、私の銃……だと思うわ。」
「は?」
(やばい、黒部さんの言い方が悪すぎる……)
「はい!私とナノカさんのバトル!があったんですね~。」
「ナ、ナノカちゃん!?シェリーちゃんも、何で!?」
「……桜羽さん、襲ったのは橘さんだ。右手を動かなくされた黒部さんは反撃して……左足に弾を当ててしまった。そういう事があったらしい。」
「ナノカさんの銃を破壊しようとしただけです~。」
「……左足……」
「え……?それは、どこで……?」
「倉庫よ。」「倉庫です!」
「何か……気になることでも?」
桜羽さんが疑問符を浮かべながら写真を提示する。
「……倉庫でボク、弾痕を見つけたんだ。」
「……その、画像……」
「……ナノカちゃん。倉庫で他にも銃を撃ったことはある?」
「……
「……」
橘さんはニッコリ笑っている。
「……この弾痕には、周りに血の跡は無かった。……じゃあ、シェリーちゃんの左足は……どこで怪我したの?」
橘さんはニッコリ笑いながら。
こちらを見ていた。
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