橘さんは困ったように話し始めた。
「いや~、ごめんなさいナノカさん。ナノカさんの銃が危険だ~って皆に賛成してもらいたくて!わざと怪我しちゃいました!」
「……橘シェリー……あなたは……」
「シェリーちゃん、なんで……そこまで……?」
「……うーん、皆さんの為に牢屋敷を壊しても、あんまり効果は無かったみたいなので!次は不安の元を絶ちに動いてみたんです!」
「……黒部さんの銃を警戒している皆の為に……ってことか?」
「はい!でも、無理矢理奪うのには失敗しちゃいました。だから、今度は優しいナノカさんが自分から銃を手放してくれないかなーって!」
「罪悪感に付け込もうとした……そういうことかよ。」
「言い方が優しくないですけど……そういうことですね!」
「やっぱこいつイカれてんじゃねーの?」
橘さんの不審な行動はこれ以上追及しても事件の解決には繋がらないと判断し、遠野さんの密室殺人の謎についてを追う。
(……囚人に犯行が不可能だったなら。牢屋敷による証拠の捏造としてゴクチョーが犯人に指名できるかもしれない……)
「ゲストハウスの内、地精の間で……これを見つけたんだ。」
そうして桜羽さんが人形を取り出す。
「……ハンナちゃんの周りに吊るされてた人形のうち、この子だけが地精の間にあるなんて……何かトリックに関係あるかも。」
「……桜羽さん。」
「?どうかしたの?ハヤトくん。」
「……その……人形は……昨日の夜、宝生さんが儀式に使った人形だ。」
「……ええ。そして、私は看守に見つからないように、火精の間に隠しておいたはず。」
「……塗料の付き方も同じ……なんでそれが地精の間に……」
片付けの最後、宝生さんが持っていた紫藤さんの人形。それが何故か地精の間にあった。
(……?昨日の夜、俺たちは火精の間から出た。それは看守のカメラ関係なくゲストハウスの位置からして間違いないはずだ。宝生さんが捨てていた花も火精の間の前。なのに地精の間?説明がつかない……)
「……鍵のかかった部屋の中にあった人形が移動……?紫藤さん、昨日の夜聞いた音……2時の方は、どんな音だった?何か……テレポートのような……魔法でしか説明のつかなそうな……そういったものじゃなかったのか?」
「……いや、普通の……なんつーか、重い物を置いた……ような……」
(……魔法じゃないなら……何の音だ?そもそも、音は事件に関係あるのか?地精の間にあった人形が魔法で移動したものじゃないなら……どうやって?)
「……!もしかして……」
桜羽さんが何かの紙を広げる。
「皆、ボク、この牢屋敷の設計図を見つけていたんだけど……」
(!?いつの間に……いや、それがあれば牢屋敷については分かるかもしれないが、火精の間と地精の間に何か変なところでも……)
「この設計図、火精の間と地精の間だけ、描かれていないんだ!」
設計図を見る。
(……水精の間だけ書かれている……?裁判所の裏手にあるゲストハウスの内一つだけ……)
(何かに……必要で建てられた……裁判所の近くに……)
「……後から建てられた……?それが人形が移動したのとどう関わっているのかしら?エマちゃん。」
「……この建物、入れ替えられたんじゃないかな!」
「……説明はつくかもしれねーが、建物が入れ替わってたっつー証拠がねえと……」
「……看守のカメラの写真と朝に撮った写真を見比べてみて!」
裁判が進む。入れ替わりが行われていたのなら、できたのは橘シェリー一人ではないか、と。
(……できないでくれ、頼む……そうだ、橘さんは怪我をして……いや、紫藤さんの聞いた音の時間に橘さんの怪我している姿を見た人はいない……偽装工作の可能性……)
(……橘さんが……魔女……)
「……こいつの魔法が瞬間移動じゃないってあてぃしまだ納得してないんだけど~。」
「沢渡さん……」
「そもそも、持ち上げて移動させたって証拠なくない?」
「……私の捨てた花。いつの間にか潰されていたけれど……ゲストハウスの下についていたら。それが証拠になるかも……」
橘さんが制止する。
「もういいですよ。」
「シェリーちゃん……本当に……?」
(抗ってくれ、自分は殺してないと……受け入れないでくれ。犯人は自分だと……)
願いも虚しく全てを語る橘さん。
「シェリーちゃんの物語はここまでなのでした~。」
◆
投票により選ばれた橘さんの処刑が行われる。
(……魔女なら、仕方ない……そう思え。思わないと……耐えられない。)
(……そうだ、今回の件で水精の間に何かあるかもしれない。そう分かっただけでも意味がある……)
(魔女を吊るさないと……次に殺される可能性があるのは俺だけじゃない。他の皆の内誰かが殺されない為。黒幕を見つける為にも……皆を生き残らせないと……)
「私、人を殺したことがあるんです。」
橘さん自身によって語られる過去。
(……ここに来るまでに人を殺していた……魔女因子による出来事を誤魔化している可能性は……)
「もう、聞きたくない!」
橘さんに叫ぶ桜羽さんが見ていて痛々しい。
(……でも、橘さんは氷上さんと桜羽さんに疑いを向けさせることは無かった……そこだけは友情があったのだろうか……)
(……?)
橘さんが魔女にならない。
(どうして?……魔女だからじゃないのか?……黒幕に唆されて殺人衝動に吞まれたんじゃ……ない……?)
(まさか本当に魔女因子による殺人衝動ではなく……?)
「ハンナさんとの約束……守れませんでした。」
二人の約束を聞く。
(……人を殺す前に、友達に殺されたい……遠野さんの気高い行いは……俺には真似できない……)
(そしてそれに応えた橘さんを……今。処刑台に送ったのは……俺たちだ。)
橘さんの命が目の前で燃え尽きていく。
桜羽さんの慟哭を聞きながら橘さんの最期を見届ける。
(……)
◆
全てが終わり、監房に戻る。
(……くそ……明日……明日、水精の間の捜査をしよう……そうだ、水精の間に何かあるはずだ。絶対にそうだ。何かあってくれ。だって、何もなかったら……)
橘さんの死の寸前の笑顔がフラッシュバックする。
(……今回の事件が……友達の頼みを聞いた優しい子を処刑台に送っただけ。そうなってしまう)
布団を被る。
(……寝よう。)
◆
どこかのリビング。小さな少女とその相手をする少年がいる。
「お兄ちゃん、あれやらないの?」
「あれ?」
「へんし~んってやつ。」
「……もう中学生だからやらないんだ。」
「……お兄ちゃんはホントにヒーローなのに……」
「……あと、兄ちゃんが凄い力持ってるのも誰にも言ってないよな?」
「?うん!隠さないとダメなんだよね?」
「……分かってるならいい……ホントに言ってないよな?」
「え~と……多分!」
「……もっと大きくなるまで内容は教えられないな……」
◆
◆
どこかの部屋の中。スーツの男性と話している声が聞こえる。
「……君が、不思議な力を持っていても。それはつまり、誰かを助けないといけないわけじゃない。」
「誰かを守らないと存在価値がないなんて。二度と言わないでくれ。」
「自傷行為もするな。君はバケモノじゃない、人間だ。」
◆
寝ているフリをする少年を見守る男性の声が聞こえる。
「……15歳。15歳になるまでに、この子を普通の子どもに戻してあげないと……」
「……罪悪感を無くすんじゃなく……友達と遊び、楽しい思い出を作り……苦しい思い出、忘れたい記憶を薄れさせる。そうすれば……自分を傷つけなくなるだろうか。」
◆
目が覚める。
ベッドを降り、氷上さんがいないことを確認する。
日付を確認し、裁判の翌日まで寝ていたことに驚く。
久しぶりに夢を見た。
(……魘されてはいなかっただろうか……氷上さんが魘されている人を放置したりはしないだろうから大丈夫だと思いたいが……)
(あの時から数年経ったのに……また、戻ってきているのを感じる。)
(……あの人は知っていたのだろうか……魔女因子の危険性を。ただのサバイバーズギルト持ちの少年をケアするだけにしては、15歳……この牢屋敷に送られる年齢を意識していたのはおかしい……)
(……今更だ。ここから皆を脱出させる。考えるのはその後でいい。)
牢屋敷の外に向かう。
◆
水精の間の周りを見る。
(……外から見ても、他のゲストハウスとの違いは見当たらない……だけど、裁判所の周り。そのどこかになれはてになってしまった少女達を捕らえている場所への入り口があるはずだ。)
中を探す。
(……橘さんが図書室で言っていたような、隠し通路へのスイッチがどこかにあるのかもしれない……)
暫く探し、床の隠し通路を見つける。
(……橘さんの死は、無駄じゃない。その筈……。)
奥へと進み、エレベーターを見つけ、ボタンを押す。
(……地下。地下で……見つける……。)
開いたエレベーターの中、黒部さんへのメッセージを送ろうとして、止める。
(……黒幕が、いた場合。話し合える可能性に賭ける。なら……黒部さんには、交渉が成立しなかった時だけ。その時に……送る。)
(送信ボタンを押すだけの状態にしておいて……)
エレベーターが地下につく。
エレベーターの外に出て、周囲の寒さに体を震わせる。
(……機械が沢山……机の上に何かないか……)
(……この、資料……。)
宝生さんが解読をしていたのを見ていたお陰で少しだけ読める。
(……過去の囚人についてのみ……か。)
(……この囚人……黒部さん……だが、囚人番号が若い……つまりこれは……)
資料を回収し奥の扉に向かう。
(……エレベーターは、上についていなかった。下に誰かが下りた後そのままだった……)
(ここにもいない以上……)
扉は固く閉ざされている。
「……俺は、話し合えると……思ってる。まだ理由や目的を知らない以上、俺は何もこの牢屋敷をどうしたいのか……知らない。そして……黒部さんを信じている。」
扉に向けて声を掛けるも、答えはない。
「黒幕が囚人の中にいるのなら……俺は、今残っている囚人の内に、心からの悪人なんていない、そう信じている。」
扉は固く閉ざされている。
「……っ。目的を!理由を!教えてくれ!それは絶対に俺たちを魔女にしないといけないのか!?他の方法は、本当に無いのか!?」
(頭が痛い。)
「……頼む。桜羽さん、宝生さん、沢渡さん、氷上さん、黒部さん……誰でもいい。彼女たちに殺されるべき理由なんてないし、彼女たちの中に黒幕がいるのなら。必ず心を痛めてるはずだ。」
(寒い。)
「どうして……俺たちを魔女にするのか。何か……魔法を探しているのなら。言ってくれれば……」
(……寒さが限界だ。これ以上居られない……だが。)
扉が開く。
こちらへ向かってくる少女の姿が見える。
(……誰であっても驚く。牢屋敷をこんなことにできる人には誰も見えなかった。)
(……だが……。)
こちらを見る少女と視線を交わす。
口を開く姿がスローに見える。
「……大魔女様を。」
「……」
「……いなくなってしまった大魔女様を。探しています。」
そう告げる少女に言葉を返す。
「……大魔女を呼ぶ儀式。その存在を知っている」
その言葉を聞いた少女が笑顔になるのを見ながら、座り込む。
(……これ以上の死者は出したくない……だけど、これで良かったのか……?)
(殺すべきじゃない……だけど。殺された少女達に顔向けできるとも思えない……)
(……黒部さんの望みを。邪魔してしまった……。)
(だけど。今できることの中で、最善を尽くすことしか、俺にはできない。)
笑顔の少女を見ながら、心を殺していく。
全てを間違えた。そんな後悔を抱えながら。
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