17話
牢屋敷の地下。
寒さに耐えきれずエレベーターに向かいながら黒幕である少女……氷上さんと会話する。
「体は……大丈夫ですか?まだ冷えていますか?」
「……大丈夫だ。それよりも氷上さん、聞かせてくれ。大魔女を探している理由と、探すのにこの方法を取った理由を。」
思考を巡らせる。
(……情報を……どうしてこんな手段を取ったのか。大魔女との関係性。少女の姿を取っている方法。それらを集めて……もしもの場合。黒部さんに伝えれば、俺が失敗したとしても何とかしてくれるはず。)
(俺がここで起こす行動の結果の最悪は……氷上さんを止められず、ここの全員が殺されてしまうこと。それを避けるため、とにかくこちらの不利な情報を渡さず、生き延びさせた方がいいと判断してもらう……)
氷上さんは嬉しそうに語りだす。
かつてこの島で大魔女と暮らしていたこと。
人間によって自分と大魔女以外を殺されてしまったこと。
「その後、大魔女様はその身に宿る魔法を因子にして世界にばら撒き……人間の皆さんへ紛れて姿を消してしまったんです。」
「……俺たちの使う魔法は……大魔女によるもの……」
「なので、どこかにいる大魔女様を見つけるために、魔女候補の皆さんを魔女にして探していたんです。」
「……魔女」
皆さんを苦しめるのは……本当に辛かったです……なので、ハヤトさんが大魔女様を呼ぶことができるなら……これ以上皆さんを苦しめなくてもいいんです……!」
言う言葉を慎重に選ばないといけない。
大魔女を呼ぶ儀式に必要な13人の魔女。
その真実によっては、今いる皆を生かす必要はないと判断されうる。
(……まず聞くべきは……魔女について。)
「……氷上さん。儀式について教える前に……魔女因子となれはてについて教えて欲しい。」
「はい……まず、私達島にいた『真の魔女』と、大魔女様の魔女因子によって人間が変化した『人間魔女』は、根本的に違う存在なんです……」
説明を聞く。
(……過去の魔女が残した本になれはてが書かれていない理由がそれ……そして、一番重要なのは……)
「氷上さん。俺たちは……魔女化……なれはてになる寸前でないと、魔女とは認められない……のか?」
儀式について考えながら必要な情報を選ぶ。
(儀式に必要な魔女。過去の魔女とは違う人間魔女で、代用が可能なのか、可能だとして魔女化が進行し終わっていないと駄目なのか。そこ次第で儀式を教えてもいいのか判断しないと……)
(そもそも13人いないこの状態で13人という具体的な数字も伝えていいものか……)
氷上さんの言葉を待つ。
「はい!皆さんは大魔女様のお陰で魔法を使えるだけで、魔女として判断されるのは魔女化の進行が終わった後、なれはてになってしまうまでの少しの間だけです!」
(……儀式の為に13人の魔女が要る。そしてその為には魔女候補をなれはてにならないよう魔女化のギリギリを攻めないといけない。……大魔女を呼ぶ儀式を行えれば牢屋敷から開放してもらう。その約束もしないと……)
「……氷上さん。」
「はい!」
「……これ以上、皆を唆して殺しあわせる必要はない……そうだよな?」
「もちろんです!大魔女様を探す為にしていたことなので……」
「なら……儀式について教えさせてもらう。だから……儀式の為に必要な要素を揃えて、儀式が成功したら。俺たちを元の場所に帰してくれないか?」
「はい!」
(……黒部さんについても、確認しておかないと……)
「……看守にされている黒部さんの家族は……なれはてから戻せるのか?」
「おそらく大丈夫だと……思います。大魔女様なら皆さんを元の状態に戻せるはずです……」
聞くべき情報は全て聞けた。
氷上さんに儀式について解読して分かっている情報を全て伝える。
(……魔女候補が他にもいるのなら。どこか別の場所から連れて来れるなら。来年まで待たなくても良いはず……)
(だが、なれはてにせずに維持することが条件……)
氷上さんが喜びながら地下の冷凍室に向かう。
「大魔女様が使っていた……儀礼剣……そして皆さんを魔女にすれば、大魔女様に会えるんですね……!」
「……後は魔女化寸前の状態の子を政府に連れてきてもらえれば……」
「政府との連絡はしておきます……。やっと……会える……。」
歓喜に震える氷上さんを置いて、地下を出る。
◆
監房に戻り、情報を振り返る。
(魔女因子は大魔女由来……島の魔女が殆ど殺された後に魔女因子となって姿を消した……)
(……大魔女は……人間への復讐を目的としている可能性が高い……だけど、この牢屋敷の現状をどうにかするには氷上さんをどうにかするしかない……。その為に儀式の情報を渡した……)
(だけど、魔女化寸前の状態の子が13人……即座に政府に用意できるものなのか……)
(……だけどなれはてになる前でないといけないことを強調した分、今牢屋敷にいる皆も貴重なはず……儀式に参加させられる可能性を考慮しても、殺す必要もない……。儀式さえ……行えれば……)
(……それまで黒部さんに氷上さんの事を隠し通さないと……いや、黒部さんを信じて明かすのも手か……)
暫く悩んでいると、氷上さんが戻ってくる。
「あ、ハヤトさん……政府に確認しましたが……あちらでも話を通すまで必要なことがあるそうです……。」
「……そうか。どれくらいかかりそうか……教えてもらえたのか?」
「……いえ……。」
「……なら……それまで、誰も魔女にならないようにケアをするべきなんじゃ……」
「……ハヤトさんは、どうして魔女になっていないんですか?」
「……?どうして魔女に……?」
「はい。私はハヤトさんがすぐに魔女になると思ってここに連れて来たんです。なのにハヤトさんは、ここまで魔女になってない……それを他の皆さんにも適用できれば、魔女にならないようギリギリを維持しやすくなると思うんです。」
氷上さんからの言葉を受けてショックを受ける。
(……本当に黒幕なんだな……俺たちを苦しめるのに心を痛めていても、魔女になりそうだから連れてきた……それを当然のことのように話している……)
氷上さんのアンバランスな精神性に慄きながら、話し始める。
「……俺が魔女になってない理由は多分、殺意の向け先が自分だからだ。」
「……?」
「……過去のトラウマ……その中で一番悪いのは俺だったと……思っている。」
「……資料で見ました。地震にあって、家族が自分以外亡くなられたと……ですが、それだけなら、アンアンさんも同じでした……自分のせいで両親を廃人にしてしまい、自分を責めて……ここに居るべきだ、と。」
「……夏目さんの詳しいことは分からないが……俺はその災害の後、約束したんだ。」
「……約束……?」
今でも思い返せる。
『生き残って申し訳ないなんて思うな。君の家族は、君が生きていく事を望んでいたはずだ。彼らに報いたいと思うのなら、家族に誇れる人生を送ってやるんだ。』
「……誇れる俺になるまでは死ぬわけにはいかない。そして、誇れる俺になるために、俺のせいで死んだ人間より多くの人間を救うまで俺は殺人衝動には吞まれない。そう決めた。」
「……その約束だけで……?」
「……誰かを救えないのは俺の能力の低さ。だけど、それを責めるだけじゃなく、次に目の前で救える人を救う為に全力を尽くす。そう思って今まで醜態を晒しながらも前に進み続けてきた。」
「その精神を他の皆さんにも適用できれば……魔女化をギリギリで耐え続けられるのでしょうか?」
魔女になってしまった少女達を思い出す。
「……皆の過去を、俺は知らない。だけど……過去に囚われて、自分の価値を取り戻す為に蓮見さんは行動を起こした。でもそれは、氷上さんに唆されたからで……それがなければ蓮見さんは殺人衝動なんかに吞まれなかった……今でもそう信じてる。」
「……そうですね。レイアさんは……皆さんを心配していて疲弊していました……。」
「夏目さんも……自身がまた過ちを犯さないように動いて、結果幸せを願って失敗した自分を許せなかった。自分を許すことさえできれば……幸せを望んでも魔女にならなかったと……思っている。」
「自分を許す……。」
「……橘さんは魔女になっていなかった。それは、自身の行いが友情のため、約束の為だったからだ。魔女になるのは人を死なせるのが条件じゃない。自分を周りがどう思おうと、自分を許せれば。自身を否定する者を跳ね返せる。それが魔女にならないために必要なことだと思う。」
(……今の行いも。間違っているんじゃないかと頭を過り続けているが……それでも。今取れる行動を取らないのは……後で後悔するから。)
氷上さんが沈黙しているのを見ながら殺された少女達を思い出す。
(彼女たちは、今目の前にいる氷上さんのせいで死んだ。そう思ってもいる。だけど、夢を見て思い出せた。死んだ命を引きずるのではなく、今生きている命を救うために。だから……これ以上殺し合いは起きない。それを彼女たちも望んでいた……その筈だ。)
城ケ崎さんの残した魔法の蝶の意味を夏目さんが言っていたのを思い出す。
(……皆、生きて。)
(死んでしまった命は二度と戻らない。なら……残された人は、最期まで彼女たちを忘れずに生きていくことしかできない。)
(……二階堂さん、城ケ崎さん、蓮見さん、佐伯さん、夏目さん、遠野さん……そして橘さん。彼女たちは無駄死になんかじゃない……そう証明するんだ。)
(……長く続いたこの牢屋敷が、終わる……その希望が見えた。)
儀式までどう過ごすのかを話し合う。
「……氷上さん、儀式まで……正体は隠すつもりなのか?」
「はい……。正体を明かして……皆さんから攻撃されるのは……死ななくても……痛くて……心が辛いです……」
「……ゴクチョーを通して……牢屋敷のこれからを伝えるのはダメか?」
皆のストレスをこれ以上溜めない為に行動できることを探す。
「それは……儀式について、準備ができたら伝えようと思っていたんです……」
「……政府からの返答を待つしかない、と?」
「はい……それに……大魔女様に会えるまで、皆さんと一緒に過ごしたいです……。」
「……皆と……」
「皆さん、とってもいい人で……もう皆さんを苦しめなくていいんだって……思って……。だから、最後に皆さんと楽しい時間を過ごしたいんです……。」
(……そうだ。ここで過ごしていた氷上さんが全部噓じゃなかった。皆を思って……でもそれ以上に大魔女が大切だった……長い間苦しみながら、同じ間、少女達を苦しめてきた……許されない事をしてきた。)
(だけど、その目標が達成されれば。これ以上の苦しみは生まれない……そして黒部さんの家族も取り戻せたら……それが今できる中での最上の未来。)
(なら。黒幕である事を明かせと強要する必要はない……皆の殺意の矛先となって、殺意に吞まれた皆が魔女になる可能性を考慮するなら……少しずつ説得する方がいい。)
「……わかった。だけど、大魔女を呼ぶ儀式によって、皆が救われる可能性を信じてもらうために会話をしておく……それはいいだろう?」
「……それは……大丈夫だと思います。大魔女様なら、皆さんを救ってくれる……ゴクチョーさんも初めに少し話していましたので……」
「……よかった。」
その後、会う場所を水精の間以外にも決め、眠りにつく。
(……皆、これ以上は限界だ。早く政府が決めてくれないと……また誰かが魔女になってしまう。13人……初日なら、足りていたのに……)
(……いや、儀式について解読をしてくれたのは宝生さん。黒幕について教えてくれたのは黒部さん。そして、地下への入り口を見つけられたのは桜羽さんのお陰……俺が何もできていないのに、もっと早く気づけたらなんて傲慢すぎる……。)
(……それに、魔女にする。二人も魔女になって苦しんだ人を見たのにそれを平然と求めていいはずがない……。)
(……政府。俺たちを連れてきたのは全国から……なら、他にもいてくれ……。そして、全員が救われる為に皆を魔女にする方法も……政府が用意してくれたらいいのに……。)
(……結局、皆を救う為に皆を苦しめるのなんて、覚悟できていないじゃないか……。)
自分の力の無さを痛感する。
(……俺の魔法が、皆の魔女化を抑えれる物だったなら。皆の死を否定できる物だったなら……こんな方法じゃなくても、皆を救えたのに……。)
(……今自分の出来る事を、やる。それだけを考えるんだ……。後悔だけしていても何も変わらない……)
(……そうだ、黒部さんの家族の資料……。明日見せに……行かないと……。)
これ以上の死者を止めるために、魔女にする。
それを自分達だけでは足りないから関係ない少女達を巻き込む。
この選択肢しか取れない自分を嫌悪しながら、意識を落とす。
(……だけど。死ぬわけにはいかないんだ。)
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