牢屋敷の外、黒部さんを待つ。
(……資料を見つけた場所を聞かれるのは確実……地下へ黒部さんが行けば、魔法の発動次第で黒幕の正体が氷上さんであることはバレるだろう……)
(……黒部さんが氷上さんを攻撃する前に話し合うことが必須……)
(だが……黒部さんの復讐への思いは生半可なものじゃない……黒部さんが最初に言っていた俺と黒部さんの共通点……家族を守れない魔法……ひいては自分自身を責めている……)
(だが、家族を失った原因が俺は災害に対して黒部さんは黒幕……氷上さん個人だ。俺と黒部さんの黒幕への思いは隔絶した差がある……)
(……俺の説得に耳を貸してくれるだろうか……)
考えを巡らせていると、背後から声を掛けられる。
「……関藤ハヤト、何の用かしら。」
「……黒部さん、来てくれたのか」
メッセージへの返信が無かった為、来てくれるか不安だったが杞憂だったようだ。
「……正直に言うと、私の魔女化もそろそろ限界に近い。長くは話せないわ。」
「……これを見つけた。」
黒部さんについて書かれた資料を渡す。
「……!それは……私……じゃない……?」
「……ああ。囚人番号からして、黒部さんの……家族の物だ。」
「……お姉ちゃん。」
暫く資料を眺めていた黒部さんがこちらを見据える。
「……これをどこで?」
(……魔法は発動したのか?黒幕を把握しているのか……?)
「……とある場所で。」
目つきが鋭くなる。
「……何故場所を隠すの?」
「……黒部さん、落ち着いて聞いて欲しい。」
「何を……」
「……黒幕と接触した。」
その言葉を聞いた黒部さんの行動は素早かった。
こちらを抑え込もうと飛び掛かってくる。
(やっぱり……)
予測していたため避ける。
それを見た黒部さんが会話を続ける。
「……何故?この牢屋敷について、黒幕がしてきた行いを許すと言うの?」
そう言いながら銃をこちらに向けて構える。
「……橘シェリーの時のように外すつもりはない。黒幕とあなたが繋がっているのなら、外す理由がない。」
「黒部さん、聞いてくれ。俺は前にも言っていた。黒幕の目的、政府による魔女因子を持つ少女達の誘拐、それらを把握して解決しないとこの牢屋敷は終わらないと。」
「それについて、私も答えたはず。黒幕を許すことはない。私の家族にした行い、その報いを受けさせる、と。」
黒部さんが引き金に手を掛けるのが見える。
「なれはてになってしまった家族を!元に戻せるかもしれない!」
声を張り上げる。
「……」
黒部さんが思案しているのを見て畳み掛ける。
「黒幕の目的は、魔女因子へと姿を変え、人間に紛れてしまった大魔女を探すことが目的だった!」
「……」
「そしてなれはてになってしまった者たちも、魔女因子を操れる大魔女なら、なんとかできるかもしれない!黒幕に協力して大魔女を呼び出せれば、黒部さんの家族も……!」
「……それは、誰が言ったの?」
「……それは……」
黒部さんがこちらを冷たい目で見る。
「……黒幕が言ったこと、なんでしょう。」
「……ああ。」
(……そうだ。氷上さんが言っているだけ。俺はもう、氷上さんの言葉を信じて、大魔女を呼ぶ儀式を行うことでしか解決できないと思っている。だけど……)
家族を奪われた者が、奪った本人の言葉を信じるわけがない。
俺の言葉は、誰かの言った事を他の人に伝えているだけ。
俺を信じるかどうかではなく、その言葉を言った本人が許せないのなら。
この説得は、成功するはずがなかった。
「……黒幕について、話すつもりはないの?」
黒部さんが敵意を持って問いかけてくる。
「……黒部さんは、黒幕を殺す……つもりなんだな?」
「ええ。……姉さんをあんな目に合わせて。私がここに来てから7人も死なせた。それなのに黒幕の目的に協力して欲しい……今さらそんな都合のいい話、首を振れるわけがない。」
黒部さんとの協力関係に致命的な亀裂が生じる。
(……わかってた。黒部さんの家族への思い……そして黒幕と俺への信頼の無さ……黒部さんが儀式を手伝ってくれるよう説得できる……そんな夢物語、俺にできるわけがないって。知ってたさ。)
「……」
「……」
お互いに一歩も動かない。
銃を構えながらも、黒部さんは俺が魔法で回避することを理解している。
俺も黒部さんの説得に失敗した以上、捕まって氷上さんの情報を渡す訳にはいかない。
黒部さんの隙を探す。
「……黒幕を、あなたが知っている。それを意識して、今後注視する。」
「……っ。」
黒部さんの宣言に意識を割かれる。
その瞬間、銃弾が発射される。
(……間に合……)
魔法を使う。
止まった時の中、銃弾を探す。
(……ない?いや、後ろに……俺の斜め上を撃ったのか?)
こちらを見たまま止まっている黒部さん。
(……やっぱり、黒部さんは優しい……なのに、俺は撃たれると……黒部さんを信頼しきれなかった……)
(……ごめん。)
止まった時の中黒部さんから離れ、牢屋敷に向かう。
(……停止時間が伸びている……ギリギリなっていないだけ。いずれ魔女になる。だけど、皆を救うため……儀式を行うまでは……吞まれちゃダメだ。)
◇
「……」
関藤ハヤトが魔法で去った事を悟る。
「……黒幕の目的」
(姉さんを元に戻せるかもしれない……だけど、それは黒幕が話した事。都合の良い言葉を並び立てて私達を利用するつもりの可能性がある。関藤ハヤトはそれを信じていたようだけど……私は、彼のように甘くない。)
「……昨日の関藤ハヤトの動向。」
(……確認できていない。姿を殆ど見ていない以上、牢屋敷の内部、恐らく裁判所の地下にいたはず。)
遠目にフクロウの姿を確認し、茂みの中に隠れ移動する。
(黒幕への手掛かり……必ず正体を暴いてみせる。)
◆
牢屋敷の中を歩く。
黒部さんの説得が失敗に終わり、黒幕との接触を持った事を伝えてしまった以上、氷上さんとの接触を以前までと同じに戻さなければならない。
(……氷上さんが疑われ、地下への行き来を見られてしまったら。黒幕の正体に気づいた黒部さんは氷上さんを殺すだろう。)
(……スマホでの連絡を今まで取っていなかったことでスマホを奪われても黒幕には繋がらない……)
(……だけどその場合、氷上さんとの情報交換は監房で会う時だけ……同室で良かったが……)
(……氷上さん以外の皆と、これまで以上に話し合わないと……情報を交換できるのが氷上さんだけだと、消去法でたどり着かれてしまう……)
黒部さんに黒幕の正体を勘づかれないよう行動しながら、皆の魔女化を抑える。
(……キツイ。だけど、成し遂げられなければ、皆がいずれ魔女になるのは避けられない。)
(儀式を……大魔女を……信じるしかない。解決への道は……これしかない、と。)
◆
歩いていると、沢渡さんを見かける。
「……沢渡さん。」
「……あ~、何?あてぃしになんか用?」
沢渡さんがこちらを胡乱な目で見つめる。
「……皆、精神が疲弊している中、見かけた沢渡さんの事が心配で声をかけただけだ。」
「……あ~。あてぃしは大丈夫だし。帰るまで、絶対に魔女になったりなんかしないから。」
「……」
「それに、あてぃしを心配してる場合?……あんたの方がやばそうな顔色してんじゃん。」
「……心配してくれて、ありがとう。」
「そんなんじゃね~よ。あんたが魔女になって、あてぃしを殺すかも~って思って……いや、冗談だかんな?だから……あてぃしを殺さないよな?」
こちらを怯えた目で見る沢渡さん。
(限界なんだ。いつもの口調で話して不興を買って、殺されるかもしれないと……怯えてる。)
「……ああ。沢渡さんを攻撃しないと、約束するよ。」
「……約束?そんなん信じるわけ……いや、なんでもない。あてぃしはもう行くから。」
そう言って去っていく沢渡さんを見ながら、思案する。
(……儀式について話しても。それを希望と信じれる人なんて、もうこの牢屋敷には……)
その後誰とも会うことなく監房に戻る。
◆
監房で眠る前に、氷上さんに黒部さんについて話す。
「……黒部さんの説得に失敗した。」
「……そう……ですか。気を落とさないでください。儀式を行うのに必要な13人。今いる皆さんでないといけないわけではないですから。」
ニッコリ笑う氷上さんに絶望する。
(……今、何て言った?今いるメンバーでなくても良い?それは……事実だ。だけど……それを平然と言うのは……まさか……)
「少し期間は空いてしまいますが、政府の方達が用意してくださるそうです!」
「……まさか……」
「はい!儀式に必要な、13人の魔女を……!」
氷上さんの言葉を聞いて、察する。
(……政府は、俺たちを含めた13人にやらせるのではなく。自分達が管理できる魔女だけで、儀式を行うつもりだ。)
(氷上さんは……気づいている。俺たちを無理に生かす必要がない事に。)
「牢屋敷の皆さんには、もう少しの期間、辛い思いをさせてしまうかもしれませんが……」
「……」
「それでも、大魔女様がいらっしゃるまでの辛抱です!」
「……儀式が行われるのはいつになりそうなんだ?」
「できるだけ早くしていただけるようにお願いしています……。でも、これまで長い間待っていたので、少しの間なら大丈夫です!」
少しの間。彼女が簡単に言うその期間、皆の魔女化を抑える事に失敗しても、誰も助けてはくれない。
(……儀式までの期間が、いつまでなのか。それまで、皆が魔女化しないことを……祈るしかない。)
(皆に希望を見せるつもりが……政府の機嫌次第で、俺たちが魔女化するのを待つ可能性すら出てしまった。)
(……儀式の情報を、伝えるべきじゃなかったのか……。)
自身の軽率な行いで、全員を救うつもりが全員を危険に晒している。
(……すまない)
後悔に苛まれながら、意識を落とす。
◆
数日が経ち。
「……宝生さん」
「……あら、ハヤトくん。今日も皆の様子を見て回っているの?」
「……ああ。皆、限界だ。少しでもストレスの緩和にできることがないかと思って……」
「……そう。なら今日も言わせてもらうわね。私達は……できるだけ、バラバラにいた方が良いのよ。」
「……」
「……この本。随分読めるようになったのは、あなたとあなたが持って来てくれたナノちゃんの単語帳のお陰よ。ありがとう。」
「……俺は大したことはしていない。宝生さんの実力だ。」
「だけど。解読をして……読めたもので、何も解決しなかった。なら……徒労に終わってしまったことで絶望してしまったら。これ以上の徒労は……怖いのよ。」
「……なんの話を……」
「今、皆を見て回って。それでも誰かが魔女になってしまったら。あなたはこれ以上耐えられるのかしら?」
宝生さんの言葉に口を噤む。
(……俺が解決の為に動いて。それで事態が好転したことなんて……ないんじゃないか。)
また思考があの時に戻りかける。
(だけど……今は、儀式を。大魔女が全てを解決してくれる可能性を。信じるしかないんだ。)
(たとえ政府が俺たちを生かすつもりが無いとしても。今いる皆を諦めたくはない。)
図書室の扉に向かいながら宝生さんに向けて話す。
「それでも。何かをしてあげたいんだ。」
「……そう。」
◆
夕食の時間になり、シャワーを済まして食堂へ向かう。
(……シャワールームの時間ずらしもあって、食堂に誰もいないのが当然だと思っていたが……)
桜羽さんと氷上さんがなにやら会話をし、氷上さんが去っていくのを目撃する。
「メルルちゃん……」
「……桜羽さん」
「!……な、なにかな?ハヤトくん。」
こちらを見て驚く桜羽さんに少し傷つきながら会話をする。
「……皆の為に動いてる。メルルちゃんはすごくて……なのにボク……」
「……これは、受け売りなんだが。今できる最善を尽くしたなら、自分を責め続けるんじゃなく。次に向かって行動し続ける。それだけで良い……桜羽さんは、今までも頑張ってきた。だから……桜羽さんなら、皆の為に出来る事をまた見つけられる……そう思っている。」
「……ボクに、出来る事……」
「桜羽さんなら、皆の希望になれる。皆を救える……そう思って、あの時手を重ねたんだ。」
「……」
「……俺は今でも、そう思っている。」
(……俺では、やっぱりできなかった。皆に希望を見せれなかった。)
「……ボク、が……」
そう呟きながら桜羽さんが去っていく。
(……希望を、プレッシャーを。桜羽さんにかけるなと言った俺がこんな言葉を吐くなんて、遠野さんと橘さんが見ていたら怒られるだろう……)
(……だけど、もう……皆、限界だ。俺も。)
(……早く、早く、早く。政府が儀式を行ってくれるのを……)
(それだけを希望に耐えるのは、無理だ。解決の為に動いて、解決がいつになるか分からず数日……)
その後は誰とも会うことなく一日を過ごす。
◆
監房に戻る。
氷上さんは、政府からの連絡はない。それだけを伝えてくれる。
(……儀式を。俺たちで行えない以上……動けることが……無い。)
今日も絶望しながら、一日を終える。
(……一体、いつまで……)
◆
翌日。
フクロウの鳴き声が響く。
(……そう、か。)
ラウンジへと向かう。
(……結局何も、できてないじゃないか……)
(……また魔女を、吊るす……いや、前回のように、また魔女以外の殺人の可能性がある……)
(……だけど。吊るさないと……いけない。)
心を殺して歩み続ける。
(……氷上さんを信じたんだ。儀式……大魔女……全てを解決する手段だと。)
(……今回の殺人が魔女のせいなら。なれはてにはせず、儀式に必要な内の一人として……隔離する方法だって、ある。それを氷上さんに伝えないと……)
『全員で脱出しよう!約束!』
「……約束を……守らないと」
(……全員。)
全員が脱出できる未来を夢見る。
残された者で吊し上げが行われる裁判に向かいながら。
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