微睡の中、聞き覚えのない音を耳にして目が覚める。
近くに置いてあった自分用に配布されたスマホから通知が鳴っていたのだと気づく。
自由時間となったことを通達するメッセージが来ていたのを見て
今日何も食べていないことを思い出す。
(食堂へ向かうか……)
◆
入った時点で他にいる少女達のグループを確認しながら料理を取りにいく。
(ご飯は作ってくれた人に感謝するもの……だけどこれは料理?なのか?)
(……皆食べてるから大丈夫か?)
置かれている食べ物(?)を適当に取り誰もいないテーブルへ座り
食べ始める。
(ムショのクサイ飯ってまだあったのか……)
(栄養とかいいんだろうか……?)
「ここ、いいかしら。」
「あ、ああ。えっと…黒部さん?だったか」
突然話しかけてきたことに驚きながらも返事をする。
他にも空いている席があることは確認しているため
何か用があるのだろうが……
「……あとで話したいことがある。火精の間にまでついて来てもらえる?」
「?ああ。……ここでは話しづらいことなのか?」
「ええ。」
「わかった。」
不審に思いつつも約束をし、食事を済ませる。
食事の途中他の少女達の魔法を使う姿を見る一幕もあったが。
◆
食後すぐ。
三つあるゲストハウスのうち一つ、火精の間に入る。
(言われるがままについてきたが……何の話だろうか)
考えを巡らせていると黒部さんが振り返り……
床に引き倒される。
「ぐっ……何を……」
「動かないで。」
腕を極められうつ伏せの状態。
(魔法を使っても脱出できないなこれは……)
「……あなたは黒幕?」
「……俺を疑っているのか」
「ええ。今までここに連れてこられたのは少女達だけ。唯一の男であるあなたに疑念を抱かないほうがおかしい。」
「?……ここには女の子しか連れてこられなかった?その言い方だと過去にもここに連れてこられた子達がいて、それを知っているように聞こえるが……」
理性的な会話が成り立つことを確認して魔女化による殺人衝動ではなさそうと結論付ける。
自分が疑わしいことも分かるが、新たな情報を確信をもって話すことに疑問を抱く。
(……魔法か?)
「私の魔法は『幻視』触れた物の過去や未来を視れる。」
「そして……ごめんなさい。」
「?」
拘束を解かれる。
起き上がる。
「すまない……状況に追いつけていないのだが……」
「あなたの過去を見たわ。」
「?」
(言葉が足りなすぎる……が)
(魔法で俺の過去を見て……俺が黒幕(?)ではないことを確認した……?)
「この牢屋敷には、少女達を苦しめて…魔女化させ殺し合いをさせて楽しむ黒幕がいる。」
「?国が危険と判断して隔離しているだけではない……と?」
「ええ。そして黒幕は…恐らく私達囚人に紛れている。そいつを倒してこの悪趣味な生活を終わらせる。」
「待ってくれ、そんなに一気に言われても…」
「あなたの魔法は時を止めて移動する魔法。それを使えば看守に捕まらずこの牢屋敷を動き回れるはず。」
まだ明かしていない魔法を言い当てられ固まる。
「家族を守れなかった気持ちが私も分かる。だからこそここで今までのように殺し合いが起こらないように黒幕を倒す手伝いをして欲しい。」
◆
黒部さんと別れ部屋に戻る途中蓮見さんと連れられる夏目さんを見かける。
「やあ、ハヤトくん。すまないがアンアンくんを医務室まで連れて行くのを手伝ってくれないか?」
「ああ、手伝う……だがどうしたんだ?」
「ノアくんが部屋をスプレーで染め上げていて、それにビックリしたのか倒れてしまってね」
「……」『運びながら喋るな』
「あれ?意識はあるのか」
(筆談……喉が悪いのか?)
「ああ、すまないね!先程降ろしてくれと言われたので下ろしたんだが足がフラフラしていたものだから心配していたんだ。もう片方の肩を持ってあげてくれるかい?ハヤトくん!」
「ああ……触れるぞ。」
「……はぁ。」
元気がないのかそれ以降は何も言わず連れられる。
◆
医務室についた後。
「アンアンさん!?ど、どうしたんですか……?」
「少し体調を崩してしまったようでね。ベッドに寝かせてあげたい。」
「も、もちろんです!さあアンアンさん、こちらへどうぞ。」
蓮見さんと氷上さんの会話を聞きながらベッドまで運ぶ。
「……」『感謝する。』
「ああ!大丈夫だアンアンくん!私がいる限り誰も見捨てはしないとも!」
「……」『もう寝る。静かにしてくれ。』
「うん?そうだね、そろそろ自分達の部屋に戻ろうか。」
「?夏目さんは……」
「だ、大丈夫です……私が看ておきますので……」
「ああ、一人までなら付き添いで居てもいいんだったか」
「アンアン君はメルル君に任せて、我々は戻ろうじゃないか。」
「?……じゃあ、また。」
医務室を出ると蓮見さんが話しかけてくる。
「手伝いに感謝するよ。」
「ほぼ何もしていなかったが……何か話したいことが?」
「ああ。君の魔法について聞きたくてね。食後に話そうかと思っていたんだけどいなくなっていたから。」
「すまない、黒部さんと話すことがあってな。それで俺の魔法だったか、『瞬間移動』だよ」
魔法を偽る。
「突然近くに現れたからそうだろうとは思っていたが……その魔法は何か物…スマートフォンなどを持ちながら使えるのかい?」
「?ああ、小さいものなら……」
(服と同じ判定の小物くらいなら……)
「そうか!実はね、ここで過ごすにあたって、皆を励ますためにスマホで配信をしようと思っているんだが……」
「お、おう?」
「やはり固定カメラ一つでは無味乾燥な息苦しいものになってしまわないか心配でね!皆を楽しませるため、カメラマンがいてくれると嬉しいんだが……」
「?ああ、そのくらいなら喜んで手伝わせて……」
「君の!魔法を考えて思いついたんだ!」
「?何を……」
「私が歌い!君が魔法を使い様々な角度から撮る!そうすることでテレビのような撮影ができるのではないかと!思ってね!」
「え、えっと?」
「だから!君の力を借りたい!どうだい!?」
(皆を思ってここまで行動できる人だったのか…いい人だな。蓮見さんは黒幕ではなさそうか……)
「ああ、勿論だ。ただ…俺の魔法は連続で使えないから、撮影の内容は相談しながらきめよう。」
「ああ…ありがとう!君と私で!最高の配信を撮ろうじゃないか!」
(言い回しを仰々しくしているのは芸能人だからだろうか……)
◆
その後も配信について話していると監房前の廊下で蓮見さんが止まる。
視線の先を追うとそこにいたのは……
(桜羽さん……と、橘さん……?)
(何か部屋を見ながら感動したように話している……)
(でも二人におかしな所はない……)
疑問に思いつつ向かうと。
(どうしたんだ?この部屋は確か…さっき言っていた夏目さんと城ケ崎さんの……部屋……)
そこにあったのはカラフルな蝶が舞う幻想的な景色。
聞いていた真っ赤な部屋はどこにもない。何があったのか。
だがその中心で笑う城ケ崎さんと話しかける橘さんの会話を纏めると
(『バルーン』……世界的なアーティスト……その正体が城ケ崎さん……)
(俄かには信じられないが……蓮見さんも芸能人……)
(人々を笑顔にさせようとする二人がこんな所で閉じ込められている……)
(この二人が殺人なんて犯すはずがない……ここは国が危惧した魔女を捕まえておく場所ではなく……本当に黒部さんの言う黒幕によって作られた悪趣味な場所なのかもしれない……)
(……俺は殺人役として入れられたのか……?)
(被害者役と殺人役……いや、他の少女達も全員……俺に殺される役……)
(そうはならない。俺が殺人衝動を抑えてその間に彼女達を脱出させれば……)
「ハヤト君、部屋に戻ろう、規則の時間が近い。」
「!?あ、ああ。そうだな、そうしよう。」
思考がおかしな方向に向かっていたのを自覚する。
『バルーン』の作品を見ながら考え込んでいた所を声掛けしてくれた蓮見さんに心の中で感謝しておく。
◆
部屋に戻り心を落ち着かせる。
(まだ一日目……このおかしな状況をなんとかしようと皆考えてくれているのに……)
(……やっぱり魔女化の進行が一番早いのは俺……なのか)
(一人で結論を出して……勝手に突っ走るのはよくない……)
(蓮見さんも……黒部さんもいる。心のケアをしようとしてくれる人、ここの情報を集めてくれている人)
(二人から力を求められたんだ、この魔法を正しく使って皆を手助けすることを考えよう)
気持ちを落ち着かせ考え事に一区切りつけたころ。
「あのう……ハヤトさん……?」
「?どうかしたのか?氷上さん」
(氷上さんから話しかけられるとは思ってなかったな……)
引っ込み思案なのか男性と二人きりで緊張しているのかずっと存在感を抑えていたように見えていた氷上さんからの会話に戸惑う。
しかし話を聞いた瞬間、これは切実で可及的速やかに解決するべき事だと理解する。
「17時になったら……また自由時間……ですよね……?」
「ああ。」
「シャワーの時間……どうするんです……?」
「……あ。」
もう一度規則に目を通す。
時間は5時間あるとはいえ、絶対に他の少女達と被らないようにシャワーに入る方法を考える。
「氷上さん、皆に夕食を食べてからシャワーに入るように言ってくれないか?」
「えっとぉ……?」
「皆が夕食を食べている間にシャワーを浴びる。」
「あっなるほど……分かりました、皆さんに伝えておきますね……」
「頼んだ……あっ。」
連絡手段としてスマホを使っている氷上さんを見て思い出す。
(黒部さんとは連絡先を交換したけど、蓮見さんとしていなかった……)
(……黒部さんからメッセージが来ている)
(内容は……)
◆
食堂にいた全員(いなかった城ケ崎さんには桜羽さんが伝えてくれるらしい)にシャワーについて話した後
シャワーを手早く済ませ、食堂に向かいながら黒部さんからのメッセージを思い出す。
『外にある情報は私が探す。あなたは、『幻視』が発動しそうな物を牢屋敷の中から集めて私に渡して欲しい。』
「……とはいうものの、牢屋敷で持ち運べて、情報がありそうな物……」
「あそこか?」
軽く食事を済ませ、思いついた場所に向かう。
◆
図書室へ着く。
中には沢山の本とそれに向かう一人の少女が居た。
「あら、ここで唯一の男子さんが何の用かしら?ここには本しかないわよ。」
「その本を読みに来た。宝生さん、ここにある本で、外の世界には無いものはあるか?」
「せっかちね。私も同じ事を考えて探している途中なの、貴方も手伝ってくれる?」
「わかった。どこから始めた?」
「そっちの棚からよ。」
「じゃあ奥の方からやっていくか……」
棚を見ながら考える。
(……視線を感じる)
「うふふ……」
(見ているのを隠してもいない……朝から警戒され続ける日だな……)
「……宝生さん?」
「何かしら?」
「……話したいことがあるのか?」
「そう見えていたかしら?」
「……ああ。」
(警戒している……んだよな?つかみどころがない人だな……)
「貴方の魔法が気になっていたのよ。朝にあんなに情熱的な助け方をした魔法について……ね」
(……魔法か。黒幕がいるかどうかはともかく、時止めということは言わない方がいい)
「……『瞬間移動』だ。」
「ふうん?それは……範囲はどれくらいなのかしら。」
「……そこの棚くらいまでだ。」
「……随分素直に教えてくれるのね?噓はついていないの?」
「……言っていないことはある。」
「……」
「……」
「ふうん?」
その会話を最後に作業に戻る。
そうして時間が来て自分達の監房に戻るまで会話が発生することはなかった。
(……今日だけでどっと疲れた。皆の警戒を解くことに明日は力を入れよう。)
「お、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
一日の疲れが出たのか、昼にも仮眠したはずがすぐに眠気がくる。
そのまま意識を手放す。