ラウンジには誰もいなかった。
(……どうして……?)
スマホを見る。
そこには裁判所へ集まる旨がしっかりと届いていた。
(……全てを諦めて思考を停止しちゃだめだ。しっかりと情報を見て真実の為に動くんだ……)
裁判所に行こうとラウンジを出ると、外から走ってきたであろう氷上さんと鉢合わせる。
「……あ、ハヤトさん……」
「……氷上さん、今回の事件、犯人が魔女だったら儀式の為になれはてにはせずに隔離する……そういった方針にはできないか?」
声を落として話す。
「……」
「政府からの情報を待つよりも、今いる魔女を残す方が良い……そう思うんだ。」
(……頼む。なれはてにして、地下で冷凍するなんて……もうこれ以上見たくは……)
「……大丈夫ですよ、ハヤトさん。」
氷上さんがこちらに微笑みながら裁判所へ向かう。
「……今回の事件は……犯人なんていませんから。」
その言葉を告げた後悲しげな表情を浮かべ裁判所への扉を開く氷上さんに続く。
「……」
氷上さんの確信に満ちた言葉に疑問を抱きながら、裁判所へ入る。
◆
裁判所の中央。電気椅子に腰掛けている少女が目に入る。
その少女の生命活動が既に終わっていることを確認せずともわかるようになってしまったことで牢屋敷の生活で自分達が既に手遅れであることを再確認する。
(……もう死体を見たくなんてないのに……)
ゴクチョーが通気口から現れ、裁判の開廷時刻を伝え去っていく。
「……」
沢渡さんと宝生さんが裁判の証拠集めの為に去っていき、桜羽さんと氷上さんと共に紫藤さんの周囲を捜査する。
「……電気椅子で火傷の跡が着いている状態で死んでいる……」
「……あと、周りにも色々落ちてるね。アリサちゃんがここで殺されたのなら、周りの物にも何か意味があるはず……。」
「……そうですね。ガラスの破片に……ロウソク……」
「……何者かに襲われて……気絶させられている間に……?」
桜羽さんは他の箇所も捜査しに行くらしく、氷上さんと二人裁判所で話す。
「……氷上さん、さっき裁判所の前で言っていたのは……」
「……アリサさんは、限界でした。」
氷上さんの話を聞く。
「なので……これ以上苦しまなくてもいいように、
「……つまり今回の事件は……」
「はい……。アリサさんの自殺……。そのはずです……。」
真実を聞いて、安堵する。
(……紫藤さんの自殺だと証明できれば、吊るすべき魔女がいないため裁判は無効になるかもしれない……)
(……紫藤さんを殺した犯人を、氷上さんと言うこともできるが……それは、橘さんの件を繰り返すも同じだ。)
(直接手を下したか分かっていて自殺の手段を与えたこと……違いはあれど殺された本人が願っていたことを叶えたにすぎない……)
(……それに、氷上さんがもしも吊るされても。死なずにこれまでと同じ様に黒幕を続けるだけ……むしろ、氷上さんが吊られていなくなってしまったと思っている状態で、桜羽さん達が平然とできるわけがない……)
(……これ以上頑張っても意味が無いとしても。彼女たちが魔女になるのを指をくわえてみている訳にはいかない。)
裁判での立ち回りを考えておく。
(……俺の魔法はアリバイや偽装工作に向きすぎている……今回の事件、俺が殺せなかった証明をする構えをしておかないと……。)
(……死亡推定時刻は氷上さんの話を聞く限り、八時前にお茶会に誘って断られたのが紫藤さんの姿を見た最後の時間……。)
(……今回、誰が第一発見者なのかも確認していない……黒部さんからの死体を見つけたメッセージも今回は無かった……)
(……アリバイは今回も諦めた方がいいか……。)
ため息をつく。
「ど、どうかしましたか?」
「……氷上さん。今回の事件、俺が犯人でないと証明するにはどうすればいい?」
「え……えーと……」
「……いや、すまない。これは俺が解決するべきことだな。」
思案を巡らせるも、いい考えは浮かばない。
(死んだ原因が薬によるものだと検死のないこの牢屋敷でどう証明……いや、電気椅子が使用されたのかどうかをゴクチョーに聞けば電気椅子によるものではないと証明できるかもしれない……)
「……氷上さん、少しゴクチョーを探しに行ってくる。」
「……?はい……」
不思議そうな顔の氷上さんを置いて裁判所を出る。
◆
牢屋敷の中を歩いていると、宝生さんを見かける。
「宝生さん。」
「……ハヤトくんも、捜査をしているのかしら?」
「ああ。電気椅子について、ゴクチョーに聞きたいことがあって……」
「それなら……少し前にエマちゃんと一緒に色々聞いたわ。」
「……そうなのか?」
「ええ。でも、情報の共有はしてあげたいけれど……裁判の開廷まで、時間がないでしょう?」
スマホを確認する。
宝生さんの言う通り、あまり時間は残されていない。
「だから、裁判の中で伝えさせてもらうわ。」
「……わかった。じゃあ。」
宝生さんと別れ、医務室に向かう。
◆
医務室の棚の中、紫藤さんに渡したという色の薬を探す。
(ゴクチョーが見つからなくても、宝生さんと桜羽さんが聞いてくれただけで充分だ。あとは、紫藤さんが薬で死んだことの証明に使えそうな物はないか?)
そうして探していると。
フクロウの鳴き声が響く。
(……何も見つからなかった……)
裁判所へ向かいながら考えを巡らせる。
(……紫藤さんの死の原因を分かっているのを隠せるとは思えない。なら、最初から電気椅子についてを聞き続け使用できなかった可能性に賭けるしかない……か。)
(……黒部さん頼りで裁判を乗り切ってきた弊害がモロに出ている……)
(今回も、黒部さんが何か新たな証拠を持ってくるかもしれない……そういった甘い考えじゃ今回の裁判は生き残れない。)
(紫藤さんの自殺……それが真実であることを皆に納得させる。そうしないと吊られるのは俺だ。)
◆
裁判所に集まっていたメンバーに、黒部さんがいない。
ゴクチョーがぼやく中、裁判が開廷する。
宝生さんが電気椅子についてゴクチョーから聞いた情報を伝えてくれ、黒部さんが犯人である可能性を指摘し、それに桜羽さんが反論する。
「黒幕もパスワードを知っていたはずだよ!」
(……パスワード、それを知っているのは黒幕である氷上さんか魔法で見れた黒部さん……このままだとどちらかが吊られてしまう……)
だが、電気椅子について情報を持つ桜羽さんと宝生さんが議論していくうちに、アリバイの話になる。
「……だから、アリバイのないのはエマちゃんとハヤトくん、そして今ここに居ないナノカちゃんだけ。」
「……またコイツアリバイないじゃん。ナノカと一緒にいたとか今言っても遅いかんな。」
「……黒幕だったのなら、ナノカちゃん以外も電気椅子を起動できたことになるけれど……エマちゃん、反論はあるかしら?」
疑いを向けられるも、反論できる材料を持っていない。
(……頼む、桜羽さん……電気椅子について何か他に情報は……)
「電気椅子は故障していたってゴクチョーが……」
「処刑機能自体は問題ありませんよ。」
絶望的な言葉を聞く。
「……ゴクチョー、電気椅子は使用されたらログみたいなものが残ったりしないのか?」
「はい。残りません。ログはこの処刑台の昇降についてだけですね。」
「……そうだ!ゴクチョーは、昨日の夜の21時から朝の9時まで、この電気椅子が地下にあったって……だから、アリサちゃんの体が濡れているのは、地下で冷凍されていたからで……電気椅子が使われた証拠もないんじゃないかな!」
「……エマちゃん、その場合でも、アリサちゃんの火傷はどう説明するの?」
(……ここまでずっと、桜羽さん頼りだ……何か……俺が知っている情報の中で、紫藤さんの火傷を説明できるものは……)
「……
(!氷上さんの言っていた……紫藤さんに渡した薬の瓶の蓋。たしかそこには……現場には落ちていなかった……だけど……言うしかない。)
「……その火傷の形。氷上さんの持っている瓶の蓋の模様と同じじゃないか?」
「……っ。」
宝生さんが息を吞む。
(……?何か……)
「氷上さんは昨日、紫藤さんに睡眠薬を渡した……そう聞いた。」
「……っ。は、はい。そうです……危険なお薬なので、ラベルもつけていました。」
(……氷上さんが紫藤さんが自殺する可能性を知っていなかったことにしないと氷上さんが吊られる……氷上さんのせいじゃないかのように養護しながら、電気椅子によって殺されたんじゃないことを証明しないと……)
氷上さんが不安そうな眼差しでこちらあを見る。
「……考えていたんだ。周りに飛び散っていたガラス片はなんだったのか……紫藤さんに渡したという睡眠薬の瓶が見当たらない理由……。」
(……答えを知っている上での逆算……白々しいにも程がある。だけど……)
「……魔法。アリサちゃんは、瓶を炙って破裂させたんだ。」
(……そう、桜羽さんに気づいてもらう。電気椅子ではなく、薬による自殺だと。)
「なら、ヤンキーの残した……ダイイングメッセージ、ってことじゃ……」
「……待って、ココちゃん。睡眠薬の中身が周りに散らばっていないから、睡眠薬は誰かが飲み干したはずなんだ。だからこれは……」
「……なら……これを提示させてもらうわ。」
宝生さんが何かを取り出す。それは明らかに熱で変形していたが、氷上さんの持つ瓶の蓋と同じ物だった。
それを証拠として、睡眠薬の瓶の蓋による火傷であることを前提として、電気椅子以外の死因。
薬によるオーバードーズへと議論が落ち着く。
「……アリサちゃんは、ボク達に危害を加えないために、自殺したんだ。」
(……紫藤さんは、遠野さんと同じ様に、自分の命よりも皆を選んだ……皆の為に動いて余計な事をしてしまった俺こそ、先にそうするべきだったんじゃないか……)
「ゴクチョー。犯人がいなくて、自殺だった場合。俺たちの中から魔女を選ぶ必要はないんじゃないか?」
「……そ~だそ~だ。あてぃし達誰もやってね~んだし、それなのに吊るって~の?」
「……はぁ~。めんどくさいですねぇ。分かりました。自殺だと判断して、私も含めて全員が納得できましたら今回の処刑はナシにします。」
ゴクチョーの言葉に安堵のため息をつく。
(……よかった。これで今回の裁判で殺される人はいない……)
「ただし。一つ気になっていることがありまして……」
ゴクチョーの言葉に全員が警戒し、聞かれた質問の内容に思案する。
(……昨日の夜処刑台を動かした者?氷上さんのことなら、ゴクチョーが聞くわけがない……)
(つまりこれは……黒部さん……か?黒幕について、もう辿り着いているかも……)
「それは……ボクだよ。」
(は?)
桜羽さんの説明を聞き、宝生さんが紫藤さんの死因を凍死と指摘する。
(……待ってくれ。それは……ダメだ。)
「……エマちゃんに殺意が無くても……死んだ原因は、操作パネルを動かしたこと……なんじゃないかしら。」
「……宝生さん、それでも、紫藤さんは自分から薬を飲んでいた……なら、事故なんじゃ……」
「……でも、原因ではあるじゃん。それに、地下の隠し通路なんて……そんなとこにいるのが怪しいし……」
「……それ、は……」
桜羽さんへの疑念が増幅している。
(黒幕との内通という意味なら俺の方が大罪だ。だけど、それを今明かしてなんになる?紫藤さんの死に関わっていたのは薬を渡した氷上さんと桜羽さんだけ。俺が今自身の方が怪しいと言っても桜羽さんが紫藤さんの座っていた処刑台を動かしたのは変わらない事実。)
(……それに……氷上さんは……なんで、庇わない?桜羽さんを死なせる意味なんてない。事故だったと庇えば、3対2で投票結果は桜羽さんを吊らなくても良くなる。なんで……?)
(……どうしてこんなことに……ついさっきまで、誰も吊らなくてよかったじゃないか……)
◆
投票の結果、魔女に選ばれたのは……桜羽さんだった。
(……俺が紫藤さんに入れた以上、桜羽さん本人と合わせて2票……つまり、二人は勿論、氷上さんも桜羽さんに投票したということ……)
桜羽さんが看守によって処刑台へ運ばれて行く。
(……もうどうしようもないのなら。今ここで氷上さんの正体を伝えて、全員で反抗……だけど、看守……黒部さんの家族相手に勝てるわけがない……俺一人逃げ回れても、他の皆を殺されて終わり……)
ゴクチョーが処刑台を選ぶ。
(……もう氷上さんは、俺たちを生かすつもりがないのかもしれない……俺も儀式の情報を伝えてしまった以上、利用価値も無い……反抗されるのも織り込み済みの可能性……)
機械が作動し、中央に新たな処刑台が現れる。
そして現れた処刑台を見て少女達が悲鳴をあげる。
(……やっぱり、そうなのか。)
そこには、息絶えている黒部さんがいた。
(……地下の処刑台で、黒部さんを殺せる……それは氷上さん以外にできない。地下へ俺はここ数日行ってない上、桜羽さんが地下への隠し通路を見つけたのはつい昨日。)
桜羽さんが裁判を申請する。
(……黒部さんを殺した後、俺に伝えなかった。もう氷上さんは、俺に何も求めていない。)
黒部さんの裁判を行うことをゴクチョーが了承するのを見ながら考えを巡らせ続ける。
(……茶番だ。この事件、真相を突き止めても氷上さんをどうすることもできない。)
(……せめて、儀式の為に生かしてくれることを祈ることしかできない……)
絶望に打ちひしがれながら氷上さんを見る。
氷上さんは……泣いていた。
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