20話
今回の裁判におけるゴクチョーからの条件として、桜羽さんが捜査をする際、必ず一人同伴者を付けることを伝えられる。
「あとですねぇ……我々がナノカさんの死体に何もしていないという証言の為に最低二人は裁判所に残っててくださぁい。また私や看守がナノカさんを殺したなどと疑うでしょうから……。」
「……なら、私はここに残らせてもらうわ。」
「うぅ……ナノカさん……」
「……氷上さんが残るのなら、俺が桜羽さんに付いていく……」
「……待って。ココちゃん。エマちゃんと捜査、お願いできるかしら。」
「うっ……あてぃしがここに残るってのは……」
「……ハヤトくんとエマちゃんだけじゃ……不安なの。」
桜羽さんと沢渡さん、そして俺が捜査チームということになった。
(……俺が桜羽さんを庇っていたから……信用されていない……投票の結果次第では全員が処刑される可能性があったんだ。俺を信用できないのも無理はない……)
(……それでも、皆が犯人として吊られるのだけは避けないと……氷上さんが犯人だと明かしても意味が無いのはそうだが、犯人が分かっているのに桜羽さんが死ぬのをみすみす見逃せるわけがない……)
桜羽さんが黒部さんの死体を調べている間にせめてゴクチョーのスタンスを確認する。
(……氷上さんが殺したと気づいてはいるはず……だけど、それを明かすつもりは無い……黒部さんを載せた処刑台を上げたのは偶然なのか……?)
(裁判において噓をついて氷上さんを庇うのかどうか。それが分からないとこの裁判でどう立ち回るべきか判断できない……)
「ゴクチョー。」
「……またですか。はいはい、何でもお聞きください。答えるかは別ですが……」
「この処刑台は、昨日の夜電気椅子と入れ替わりで上にあったものなのか?」
「……それは……いえ、ずっと地下にありましたよ。」
「私も今日の朝、アリサちゃんが電気椅子と共に上がってくる前に裁判所にいたけれど、その時の処刑台はこれじゃなかったわ。」
「……なら、殺されたのは地下で……ずっと冷凍されていた……ということか。」
ゴクチョーと宝生さんが共謀していない以上、本当のことを言っているようだ。
(……なら、いつ殺されたのかは不明……殺害場所が地下である以上、桜羽さんの疑いを晴らすのは厳しい……)
(……黒部さんの自殺だと言うのは……いや、黒部さんは殺された。それは疑いようもない。なら……氷上さんが犯人だと証明するしか沢渡さんと宝生さんが納得してくれないだろう。)
(幸いゴクチョーは噓をつかないつもりらしい……今までも氷上さんが吊られた時そうしていたのだろうか……)
考えを巡らせていると、桜羽さんが黒部さんの捜査を終わらせたらしい。
「……ココちゃん、ハヤトくん。行こう?」
「……ああ。」
「……うぅ。コイツだけでも置いてかない?」
俺を指差す沢渡さん。
(……まあ、もしものことを考えると体格差もあって不安か。)
「……どう思う?宝生さん。」
「……ココちゃんとエマちゃんを二人だけにするのも不安だけれど……あなたは……そうね。目の届く所にいてくれた方が安心できるわ。」
「……わかった。なら、ここで待っておく。」
桜羽さんがこちらを絶望した目で見る。
「……桜羽さんが犯人じゃない証拠。それを探すのを手伝えなくてすまない。」
「……うん、大丈夫。」
(……桜羽さんが犯人じゃないと、俺は思っている。だけど、それを桜羽さんに伝えるだけならともかく、ここには犯人と桜羽さんを疑う人がいる。それだけじゃない、真犯人その人がいる。)
桜羽さんと沢渡さんが裁判所を去っていくのを見送る。
(……宝生さんを魔女にする可能性がある氷上さんと二人きりにするところだったのも良くなかったか……)
その後は氷上さんと宝生さんの様子を見ながら、黒部さんの死因を考える。
(……氷上さんは魔女。なら……魔法で外傷を無くした可能性……黒部さんが氷上さんに遅れを取って薬を飲まされたとしても、すぐに死ぬような薬は棚に無かった……)
(だけど、黒部さんは銃を持っていた。死体の近くには無かったが、彼女が手放す理由が無い……氷上さんはどうやって黒部さんを……)
(……捜査についていけなかった分、情報がここにあるものと黒幕……氷上さんについてしか無い。それだけだと厳しい……か。)
暫く待っていると、ゴクチョーから声を掛けられる。
「……あのー。もう死体、捜査終わりましたかね……掃除しておきたいんですけど……」
「……ああ。」
答えると、看守に指示を出し、黒部さんの死体が運ばれる。
(……看守さんが……)
黒部さんの死体を抱えている看守の顔は見えない。
(……悲しんでいる。)
黒部さんの家族に黒部さんの死体を片付けさせる。
(……俺のせいだ。少なくとも黒部さんに氷上さんの情報を渡さない判断をしたのは俺。直接殺したのが氷上さんでも、黒部さんが情報を知っていれば、こんな結末にはならなかった。)
死体を運び終えた看守が戻ってくる。
「……すまない。」
俺の言葉に看守は反応しない。
まるで、黒部さんの家族ではなく、完全にコントロールされた看守になってしまったような。
そんな変化が起きてしまった気さえする。
(……手遅れだ。脱出できる方法も無ければ儀式も行えず。俺の行動の全てが失敗。)
(……せめて。氷上さんが俺たちを殺さない……黒幕である事を明かした上で、見逃してくれること。そんな可能性に賭けるしかない。)
(……氷上さんは俺たちを苦しめるのに心を痛めていた。だけど、大魔女を呼ぶ儀式について政府が行ってくれると知ってから、俺たちを生かしている方が可哀想だと……殺すことに躊躇いがなくなってしまった……)
(……全部、俺のせいだ。)
心が軋む。
(俺のせいで死んでしまった人が、また増えた……)
頭の中で声がする。
(……死ぬべきだ。それは分かってる。だけど。誇れる俺に戻れなくても。今目の前で殺されそうになっている桜羽さんだけでも。生き残らせる方法を。氷上さんを説得する方法を。考えるんだ。)
◆
桜羽さんと沢渡さんが戻り、裁判の開廷が宣言される。
「まず、殺害現場について話したい。」
初手で議題を地下についてに持っていこうとする。
「ゴクチョーからの情報で、地下にこの処刑台はずっとあったことが分かっている。処刑台へ干渉できたのは、ゴクチョーと黒幕だけ……ならこの事件、黒部さんを殺したのは黒幕だと思ってる。」
「……ナノカちゃんは、黒幕をずっと追っていたから……黒幕について辿り着いた地下で殺された……そう言いたいのかしら?」
「……ああ。黒部さんの姿はここ数日見ていなかった。なら……その間、いつ殺されたのかは分からないが……冷凍されていた以上、死亡からどれだけ経っているのかは分からない……」
「ちょっと待って、ハヤトくん。」
桜羽さんが情報を開示する。
「……実はボク今日の朝、ナノカちゃんと会ってるんだ。」
「……そう、なのか。」
「うん。8時にナノカちゃんに地下への入り口を教えて……アリサちゃんの裁判で呼ばれるまで、水精の間の前にいたんだ。」
「……だけど、その場合……最後に姿を見たのは……」
「……ボクだよ。その後……ナノカちゃんは地下で殺された……そして、処刑台へ移動させられたんだ。」
桜羽さんが地下で見つけた証拠で、黒部さんが殺されたのは冷凍室である可能性を示すが、宝生さんがゴクチョーから聞いた情報で反論する。
(……黒部さんが持っていなかった銃。通気口に入る為に置いていったそれを持ち込んで黒部さんに撃ったのだとしたら……確かに氷上さんでも殺せる。だけど、その場合……)
「……だけど、処刑台と地下の冷凍室。そこを繋ぐ大きな扉は、今日開いていない。開いていたら、いつもの裁判の後の地震と同じものがあるはずよ。」
「……それは……」
「……」
(……この件に関して、俺は何も分からない。氷上さんがどうやったのか……桜羽さんが新たな知見や情報を出してくれないと……)
桜羽さんが可能性を話す。
「ナノカちゃんは……小さくされたんだ。」
(……そういうことか。)
「バラバラにされて……覗き窓を通って。その後、魔法で元の死体の形に戻されたんだ。」
「……そんなことができるのは……」
「……そんなん……噓っしょ……メルっち……?」
氷上さんが反論しているのを見ながら、考える。
(……どうする?このまま氷上さんが黒幕である事を証明して。その後……どうすれば氷上さんと交渉できる?)
(氷上さんは看守も監視フクロウも操れる。逃げるのも戦うのも論外だ。……儀式も、政府が魔女を用意してくれる以上、俺たちである必然性はない……何か……何かないか……)
「メルルちゃんが黒幕だっていう証拠は……これだよ!」
桜羽さんが薬を見せ、説明する。
(!トレデキム……だけど、それを使って黒部さんの家族を殺すのは……黒部さんを死なせた俺がそんなこと……)
考えを巡らせていると、桜羽さんが氷上さんとお互いを犯人と言い合っている。
(……俺が知っているのは氷上さんが黒幕であること……だけど、それを他の二人に納得させるには、証拠がいる。氷上さんとの会話を残した物も無い……氷上さんが黒幕である証拠は何も……)
「今朝は夢見も悪いし……」
沢渡さんの言葉で桜羽さんが証言を引き出す。
「その夢、この資料を見ていたナノカちゃんだったんだよ!」
(……結局、全て桜羽さんが終わらせた。俺ができたことは何一つない……)
◆
氷上さんが認め、自白する。
紫藤さんを薬で死なせ、黒部さんを地下で殺した。
桜羽さん達がその理由を詰める。
「ナノカさんは、私を許さないそうでしたので……。痛いのもいやでしたし……。アリサさんは……これ以上苦しんで、誰かを殺す前に……自殺しようとしていました。その意思を尊重しただけです……。」
「じゃあなんでこんなことを!?皆を殺し合わせて、メルルちゃんは何がしたかったの!?」
自分達を殺しあわせた、黒幕としての目的を桜羽さんが聞く。
「大魔女様を探していたんです……。」
大魔女についての情報が桜羽さん達にも共有される。
「それでボク達を魔女にしたの……?」
「はい……。辛くて、悲しい作業でした……。でも、これからはそんなことしなくてもいいって……ハヤトさんが教えてくれました……。」
氷上さんの言葉にこちらへ視線が向けられる。
「……は?ど~いうこと。おめぇもグルだったん……?」
「今のメルルちゃんのセリフ……。どういうことなのか、聞かせて貰える?ハヤトくん。」
「ハヤトくんも……?」
「……数日前、桜羽さんより先に、俺は水精の間から地下に行き……氷上さんが黒幕だと知った。」
「……はい……。そこで教えてくれたんです。大魔女様を呼び出す儀式がある事を……!」
宝生さんがこちらを冷たい目で見る。
「……そう、あの儀式。それについてをメルルちゃんに教えて、自分は助かろうとした……そういうことかしら?」
「……違う、俺は……」
「何が違うってんだよ!あてぃし達に黒幕について言わずに隠して!自分だけ生き残ろうとした!それ以外の何があるっての!」
「皆をこれ以上苦しめなくていいよう……」
「どうして?ハヤトくん、理由を教えて……ボク達を、裏切ったの?」
皆から絶望と怒りを向けられる。
「聞いてくれ……頼む。」
「……ええ。聞かせて頂戴。どうしてそんなことをしたのか。」
「……大魔女は、魔女因子を操れる存在だ。俺たちをこんな目に合っているのは……魔女因子が原因だ。氷上さんをどうにかしても、魔女因子がある限り俺たちはこの場所から出してもらえない……そう考えて……氷上さんに協力して、大魔女に俺たちの魔女因子を取り除いてもらう……そう考えたんだ。」
説明を聞いて、宝生さんが口を開く。
「……そう。それで……でも、あの儀式に必要なのは13人の魔女……それはどうするつもりだったのかしら。」
「……氷上さんが、政府と交渉して……用意してくれることになった。俺たちが魔女化しないといけないわけではない……はずだ。」
「……そう。でも、メルルちゃんはそう思っていないようだけど……」
「……は?」
振り向く。そこには、看守を傍に置く氷上さんがいた。
「……氷上さん?」
「話し合いで……解決できれば、良かったんですけど……。」
「彼女たちを殺す必要はない。そうだろう?」
「ですが……皆さん、納得してくれないようですし……。」
「……あ、当たり前じゃん。こんだけ酷い目にあって、大魔女?とかいう儀式に協力するわけ……。」
看守が動き出す。
(……っ。)
魔法を使い、沢渡さんの前に立つ。
「宝生さん!」
「……っ。ええ。」
後ろで走り去る音が聞こえる。
「あ、看守さん。待ってください。」
氷上さんが声を掛け、看守が止まる。
「……氷上さん。」
「ハヤトさん、ありがとうございます。あなたのお陰で大魔女様に会えそうです。」
「……なら、俺たちを殺す理由を教えてくれないか?」
「はい……。えっと、私は大魔女様に会えれば何でもいいんですけど……。政府の方が、準備に時間がかかるそうなので……。今いる皆さんにも魔女化していただければ、用意する魔女の人数が少なくなるので、早く儀式を行える、と……。」
「……なら、俺たちを殺すんじゃなく……。」
「はい。魔女になってもらうだけなので……。勿論、なれはてになってしまったら意味が無いので……しっかり調整はします……。」
「……。」
全てが裏目にでた。殺処分されないだけマシだが、全員を魔女にする。そのつもりらしい。
(……儀式を行えば、大丈夫。それまで耐えれたら。なれはてにならなかったら。全てが解決……)
「ハヤトさんも、手伝ってもらえませんか?」
「……?何を……」
「皆さんを魔女にすること、です。」
手を差し伸べられる。
(……儀式。その為に皆を……)
◆
外に出て、なれはてになってしまった沢渡さんを見つける。
「……ココさん……。残念です……。」
近くで死んでいる宝生さんを見つける。
「……マーゴさんまで……。」
隠れていた桜羽さんを見つける。
「エマさん、今からでも遅くありません……。私と一緒に、大魔女様を呼ぶ儀式を行いましょう?」
「……桜羽さん……こんなことになって、すまない。許してくれとは言わない。だけど、生き残るにはこれしか……。」
「来ないで!」
氷上さんと桜羽さんが話す。
(……生き残りは桜羽さんしか、もう……。)
氷上さんの取り出した写真を見て、桜羽さんの様子が変わり、眩い光に包まれ、桜羽さんの姿が変わる。
桜羽さんが話し、看守が倒れる。
(……黒部さんへの、贖罪。家族を元に戻してあげることすら、できない。)
氷上さんが、大釜に落とされる。
(……。誰も救えなかった。)
桜羽さんがこちらに向けて何かを言っている。
「……桜羽さん。俺は……大罪人だ。」
一人、自身への失望を言葉にする。
「誰かを救う為に動いて、それでこのざま。」
既に自分の姿が変貌していることなどわかりきっている。
「だけど、最期に一つだけ。散々迷惑をかけたけど。桜羽さんの手を煩わせはしない。」
桜羽さんの証言台に向かう。
「……。あった。」
瓶の蓋を開ける。
「ごめん。何の役にも立てなくて。」
中身を飲み干す。
(ごめん。自分勝手で。)
意識が無くなる。
◇
桜羽エマは、一部始終を見ていた。
だけど。
「うん。そうだね。」
頭の中で囁く声に答え、その場を飛び去る。
そして裁判所に残ったのは、死体が一つ。
大釜がグツグツと音を立てていた。
感想、評価をしていただけると嬉しいです。
「……【戻った】、ということか……。」