夏目さんを監房まで運び終える。
「よし。アンアンちゃん、何かあったらおじさんを呼んでね。」
「……」『わかった。』
「じゃあ、おじさんも監房に戻るね。」
佐伯さんが夏目さんをベッドに寝かせ監房から出てくる。
「ハヤトくんも、手を貸してくれてありがとう。」
「……力になっていたのは殆ど佐伯さんの方だ。それに……沢渡さんも不機嫌にさせてしまった。」
「あれは……ココちゃんも、気が動転してたんだと思う。……看守があんなに怖いなんて……。」
看守の動きを思い出す。
そして、鎌に斬られてしまった宝生さんも。
「……そうだな。だけど、俺は看守に恐怖する二人に寄り添えず、不安を増殖させてしまった。その点佐伯さんは自身も怖い思いをしたばかりなのに二人を気遣い、こうしてフォローまでしている。……いい人なんだな。」
「おじさんは、そんなすごい人じゃないよ。尊敬してる人の真似をしてるだけなんだ。」
「……その人の真似だとしても、他の人を助けたのは佐伯さんの行いだ。そんなに卑下することはないんじゃないか?」
「ありがとう、ハヤトくん。……そうだ、聞きたかったんだけど……。さっきのハヤトくんの魔法について。」
いつか聞かれると分かっていた事なのに身構えてしまう。
(……魔法について……誤魔化すべきなのか……)
「……。」
「ああいや、無理に聞きたいわけじゃなくて……。その魔法で……マーゴちゃんを助けようとしたんだよね?」
「……ああ。間に合わなかったが……」
「……ハヤトくんは、どうしてマーゴちゃんを助けようとしたの?……ああいや、悪い意味じゃないよ?良いことだと思ってるんだ。だけど……」
佐伯さんが少し表情に影を落とす。
「……どうして、自分が怪我するかもしれないのに、助けにいこうと動けたの?」
「……それは簡単だ。俺の怪我なんかより、宝生さんが目の前で殺されるのを見たくなかった。それだけだ。」
(危険に晒されている命を前に動けなかったら。俺は後悔でまた自分の価値を見失うだろう。)
「……そっか。ハヤトくんは、人を助ける為に動ける人なんだね……。」
「……さっきあの場で動けないことは悪いことじゃない。それに……。」
佐伯さんの立っていた場所を思い出す。
「夏目さんと沢渡さんの前に立って、二人を庇っていたんだ。宝生さんの方に行けなかったのも当然だ。」
「……でも、おじさんは……ハヤトくんが羨ましいよ。」
羨ましい。初めて言われた言葉に硬直する。
(……こんな魔法が?それとも、助けられないのに前に出た行動が?……宝生さんを助けられなかった俺が……?)
(……いや、違う。佐伯さんはただあの場で動けなかった事、そして宝生さんの怪我という結果。その二つで自分を責めているだけだ。俺の行動の結果じゃなく、宝生さんの怪我を防げたかもしれないという可能性を考えてしまっているだけだ。)
(……俺が羨ましいというのも、自身が行動できなかったのと対比してしまっているだけ。)
「あ、ご、ごめんね。なんか、変な空気にしちゃって。」
「いや、分かってる。今回の件、悪い人は誰もいない。でも、それでも何かできたんじゃないか。そう思う気持ちは……分かるつもりだ。」
「あ……。」
少し無言の時間が流れる。
「……マーゴちゃん、無事に治って欲しいね。」
「ああ。」
「おい。」
監房から声を掛けられる。
「うぇっ。アンアンちゃん?」
「……」『いつまで吾輩の監房の前にいるつもりだ?』
スケッチブックを読み、監房前でずっと喋っていたことに気付く。
「……すまない。うるさかったな。」
「ご、ごめん!おじさん達、あっち行くね……。」
移動するも、すぐ隣が佐伯さんの監房であることに気付き、そのまま別れる。
◆
監房にいると、スマホからフクロウの鳴き声に続いて、二階堂さんからメッセージが届く。
「?」
『宝生マーゴの命に別状はなかった。だが、暫くは安静にするため面会可能になるかは追って知らせる。』
それが二階堂さんから全員へのメッセージとして送られてきていた。
(……良かった。)
二階堂さんの迅速な対応、そして氷上さんの魔法により、宝生さんの怪我は治療可能な範囲で収まったらしい。
(……面会、か。)
◆
収監時間が過ぎ昼の自由時間となったため、食堂に向かう。
「……ボク達のせいで……。」
「……うぅ。」
「……マーゴさん、大丈夫ですかね。」
途中、医務室の前で不安そうにしている桜羽さん達を見かける。
「……」
少し考えた後そのまま食堂へ向かう。
(……自責の念に駆られている人にかけれる言葉を俺は持ち合わせていない。)
◆
食事を済ませ、牢屋敷を歩く。
(……行動の指針が無くなってしまったな……。)
先ほど、二階堂さんからのお達しとして、脱走の準備による規則違反の取り締まりとして定期的な監房のチェックを行うことを告げられた。
(それに反抗するような人はいなかった……。全員が看守に逆らわず、危険な行動をしないよう相互監視が行われる……。この牢屋敷で魔女化の解決の為に動く、もしくはここに骨を埋める、それしか皆に選択肢は無いようだ……。)
(……魔女化の解決の為に動く……。だけど、それをどうやって?)
何も情報が無い。
(……ストレス対策の為に動くくらいか。情報を探しながらストレスを溜めていそうな人がいたら報告する……俺が解決できることがあればいいが、むしろ男の俺にストレスを感じる人もいるだろうし……。)
考えながら歩いていると、外に向かう沢渡さんを見かける。
「あ。」
こちらを見て何かに気づいたのか、こちらへ進行方向を変える。
「……沢渡さん、どうか……」
「アンタ、ゲストハウスにも近付くんじゃね~ぞ。」
また行動制限をかけられる。
(……何故……。)
「あ~あと、ナノカ。ナノカに協力したりすんじゃね~ぞ。」
「……黒部さん……?」
(特に関わりも無いが……)
「以上。んじゃ。」
「あ、待ってくれ、理由を……」
それだけ言い、去っていく沢渡さんを見ながら考える。
(……何か、魔法で手に入れた情報を基に動いているのか……?だとして、俺が図書室とゲストハウスに行くことがどう沢渡さんの不利益に繋がる……?)
牢屋敷に連れてこられた少女達。その中で自分について何かを警戒するような沢渡さんの行動理由が分からず、頭を抱えそうになる。
(……そういえば、俺の魔法についてももっと移動できたかのような聞き方だった……。沢渡さんはどんな魔法を持っているんだ……?)
◆
翌日になり、二階堂さんからのメッセージが来る。
『一先ず面会可能と判断できた。』
『面会を希望する者は数人に分かれて来るように。』
◆
医務室の中。
氷上さんに看病されている宝生さんと会話する。
「ふふ。今日は皆来てくれたわ。怪我してみるものね。」
「……怪我については二階堂さんから聞いてる。氷上さんの魔法があるとはいえ、昨日の大怪我でそこまで言えるのはすごいと思う。」
「皆を心配させないように無理してるだけかもしれないわよ?」
「そ、そうなんですか……?」
「冗談よ、メルルちゃん。」
「……しかし、宝生さんが皆を思って行動して怪我したんだ。心配は受け取ってくれ。」
自身の魔法で看守の気を引き、その身で皆を守った。
宝生さんの行動を尊敬する。
「……いいえ。むしろ、下手をうって大怪我して、皆を無駄に心配させてしまって……私も申し訳ない気持ちで一杯なの。」
「……宝生さんは自分に出来る事をしただけだ。成功失敗じゃなく、皆を思って行動してくれた宝生さんに感謝しているんだ。」
「そ、そうです……。マーゴさん、自分を責めないでください……。それに、マーゴさんを心配することは無駄なんかじゃありません……。」
「……ありがとう、ハヤトくん、メルルちゃん。」
◆
外を歩く。
(……宝生さんが元気になりそうで良かった。)
湖の畔に腰を下ろす。
(……一先ず心配していた宝生さんは大丈夫そうだった。次にやるべきこと……ゴクチョー探し。それもここ二日一度も見ていない。)
(……こんなにものんびりしていていいのだろうか。)
(……だけど、殺し合いさえ起きなければただ国によって隔離されているだけ。魔女化の解決に動くのも、研究者でもない俺には何もできない……。)
(……ゴクチョーの言っていた大魔女。それについての手掛かりもないし……。)
欠伸をする。
(……誰かの役に立たないといけないわけじゃない。いきなり国によって隔離されたり、目の前で怪我をした人を見たり。焦っていたのかもしれない。)
(……魔女化の進み具合。それも分からないまま自分を追い詰めても、むしろストレスを貯めるだけ……)
(……ゆっくり、進めて行こう。まだ3日目なんだ。)
瞼を閉じる。
(……収監時間まで、時間はある。少し……寝ようか……。)
意識が落ちる。
◇
「……」
触れる。
「……」
過去を垣間見る。
(……黒幕ではなかった……)
少し考えてその場を去る。
(……やはり黒幕は……)
◇
目が覚め、時間を確認して監房へと戻る。
(……少し休んだお陰か、頭がスッキリしている。)
(……氷上さんはずっと宝生さんを看病しているんだったな。何か差し入れ……この牢屋敷にそんなものないか。)
(……せめて何か手伝えることを聞けば良かった。)
少し後悔しながらも、次の自由時間の目的を決める。
(……氷上さんの手伝いに行こう。今困っていると言えるのは宝生さんと氷上さんくらいしかいない。)
(……それまで、何も出来ることが無い……)
ベッドに転がる。
(眠気すらないスッキリさだ……。)
少し考えて起き上がる。
(……軽い掃除でもするか……。)
そうして洗面台の鏡を拭くことで時間を潰すのだった。
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