自由時間になり、医務室に向かう。
中に入ると、宝生さんと氷上さんから声を掛けられる。
「あら、何か忘れ物?」
「そ、それともどこか怪我を……?」
「いや、どちらでもない。……氷上さんが昨日から宝生さんの看病をしているのに様子を見るだけで済ますのは少し……落ち着かなくてな。何か手伝えることがないか聞きに来たんだ。」
「そうね。メルルちゃんもお疲れでしょうし……。私にかかりっきりだと、大変でしょう?」
「い、いえ。マーゴさんのことは私が好きでやっていることですので……。」
「……それでも、一人で全てやってるわけではないはずだ。何か……必要な物、もしくは……道具の準備。それぐらいは手伝わせてくれ。」
「……はい、それでしたら……。」
医務室のドアが開き、二階堂さんが入ってくる。
「メルル、マーゴの様子は……」
「……」
「……すまない、会話の途中だったのか。そちらの会話が終わってからでいい。」
「は、はい。えっと、ハヤトさん、そちらの薬棚から青い色の薬を取ってください……。後は、ハーブを中庭から摘んできてもらえますか?」
「ああ。」
言われた薬を探すよう振り向くと二階堂さんが待っている。
「あ、二階堂さん。会話はこれだけだ。待たせてすまない。」
「ああ。それでメルル、マーゴの体調について……」
薬棚を探し、薬を見つけ、氷上さんに渡す。
「マ、マーゴさん。痛みが治まってきましたら、こちらを飲んで体を休めてください……。」
「ありがとう、メルルちゃん。ヒロちゃんとハヤトくんも……。」
宝生さんが眠ったのを確認し、氷上さんに声を掛ける。
「……今のは何の薬だったんだ?」
「睡眠薬です……。痛み止めは、あまり頻繫に投与しないほうがいいので……。」
「……そうか。それと……ハーブの形について教えてくれないか?」
「ああ、それなら私が教えよう。」
「……二階堂さんも知っているのか。」
「昨日必要だと言われて探しに行った。メルル、昨日の物と同じでいいのか?」
「は、はい……。ハヤトさんもヒロさんも。お気遣いありがとうございます……。」
「いや、怪我人とその介助者の手伝いをするのは当然のことだ。」
「……氷上さんも体を休める事をオススメする。」
曖昧な笑顔で手を振る氷上さんを医務室に置いて、中庭に向かう。
◆
「……」
「……」
無言で移動し、中庭の一角。そこに生えているハーブを見分ける方法を教えてもらう。
「その葉は似ているが生え方が違う。」
「……生え方。」
「互い違いに生えているだろう。後、香りも違う。」
「なるほど……。」
少し時間をかけ、間違ってハーブ以外を摘まないよう指導される。
「……よし。全部ハーブだ。」
「……それは、良かった。」
「これで次回は私に聞かなくてもメルルの手伝いができるはずだ。」
二階堂さんの言葉で理解する。
(……二階堂さんは、てっきり全て指示を出して行動させる人なのかと思っていたが……案外、魚の釣り方を教えてくれるタイプの人のようだ。)
「……なんだ?何か私の顔に付いているか?」
「いや。二階堂さんの厳しさの理由に納得できただけだ。」
「……人のことを勝手に納得されるのはあまり気分が良くない。何かを思ったのなら、素直に伝えてくれていい。」
「……二階堂さんは、自分がいないとダメな人間を作らないように気を遣っているんだな、と思っただけだ。」
「?当たり前だろう。」
二階堂さんが不思議そうな顔をしながら歩いているのを見ていると、医務室に着く。
◆
氷上さんにハーブを渡し、一人医務室を出る。
(……女性の介護の手伝いは俺にはできないからな……。ハーブと薬を渡す……後は新しいシーツを補充するくらいか。)
暫く歩いていると、蓮見さんから声を掛けられる。
「やあ、ハヤトくん。」
「ああ、蓮見さん。どうかしたか?」
「ああ、皆の様子を見て回っているんだ。看守の手によって我々の一人に負傷者が出てしまった。みなが不安になっているのなら、私が安心させてあげないと!」
大仰な身振りの蓮見さんだが、心配してくれているらしい。
「心配してくれてありがとう。蓮見さんを見ていると不安が和らぐな。」
「っ!それは、私が頼りになる!そういうことかな!」
(……頼りにはなるが……反応がオーバーだな……)
「ああ。……何か困ったら、頼らせてもらう。」
「勿論だとも!困っている皆を助けるのも、私の使命だからね!」
何故か満足気な蓮見さんが去っていく。
(……まあ、ああやって自分に自信を持っておくのはこの環境において心を守るのに必要な事の一つかもしれない。)
(それに、あの明るさのお陰で本当に不安や心配が吹き飛ぶ。)
(……やっぱり焦らなくても良い。ここはいい人ばかり。殺し合いなんて起きるはずもない。)
少し気が楽になる。
これからを焦る必要はなく、少しずつこの場所について調べる事を考えながら監房に戻る。
◆
翌日も氷上さんの手伝いをする。
「あ、ハヤトさん。マーゴさんの体を拭きますので……。」
「ああ。そうだ、温めておいた布はここに置いておく。また何か必要になったら呼んでくれ。」
医務室を出る。
(……娯楽室でも行くか……。)
階段を上り、二階に上がるとなにやら人が集まっている。
(?こんな所に扉?階段のすぐそばにあったのに気付かなかった?)
疑問に思っていると、二階堂さんがその場の皆に説明してくれる。
(……扉を描いたら本物になった……。魔法でそんなことも可能なのか……)
中はアトリエのようになっていた。
(……隠されていたのなら、何か重要な情報があるかも……。)
そう思って探索するも、見つかるのは絵を描く道具達。
特に怪しい箇所は見つからなかった。
(……ただ憩いの場が増えただけか。それでも今まで娯楽室か外の景色くらいしか無かった生活に変化が訪れた。人が多い時に外まで行かなくても落ち着ける場所が増えたのは良いことだ。)
(……まあ、城ケ崎さんがここを気に入っているようだから一人にはなれそうにないが……。)
◆
氷上さんから連絡があったため、シャワールームから布を少し取り、医務室に入ろうとすると、背後から声を掛けられる。
「あ、ハヤトくん……。」
「?」
振り向くと桜羽さんと遠野さん、橘さんがいた。
「宝生さんの見舞いに来たのか?今なら起きているらしいぞ。」
「そうなんだ。えっと……怪我の具合は……」
「……その布。マーゴさんは大丈夫なんですの?」
「……ああ、この布は体を拭く新しい布だ。傷は塞がってきてる……というか、ここで話す必要もないだろう。」
医務室の扉を開ける。
「あ、ハヤトさん。ありがとうございます……。」
「?あら、後ろにいるのは……エマちゃん達?」
「ああ。医務室の前で会ってな。氷上さん、布はここで良かったか?」
「は、はい。」
「……なら、桜羽さん達の邪魔にならないよう俺はもう行くよ。」
「……ありがとう、ハヤトくん。」
医務室を出る。
(……まあ、本人達の感情に俺から何か言えることはないし、いても気まずくなるだけだろう。)
(さて。ゴクチョー探しに外に行くか。)
◆
(いた。)
のんびり移動しているゴクチョーに声を掛ける。
「ゴクチョー、聞きたいことがある。少し降りてきてくれないか?」
振り向いたゴクチョーの嫌そうな顔を無視して会話を続ける。
「……何でしょうか。一応勤務時間中なので答えますが……。」
「国によって検査され、危険と判断し連れてこられた。そこまでは分かるが、殺処分でも魔女因子の解明の為の実験協力でもない、今の牢屋敷は何を目的として俺たちをここに閉じ込めているんだ?」
「……あ~、それは……言えません。」
「?魔女化が進んで殺し合いが
「ええ。それは勿論。なにせ裁判はめんどくさいですからね……。報告したり申請することが増えますので……。」
何か遠い目をしている。
「……?なのに、ここに閉じ込めるだけだと、いずれストレスで魔女化による殺人事件が起こる。それを放置しているのは何の目的なのか……それを聞くのもダメだと?」
「……はい。私も主に口止めされているので……。」
(……主……。政府に何か目的を持つ人物がいる……その人の命令でゴクチョーは働いているだけ……そういうことなら、これ以上の情報は聞けないな。)
「……わかった。あ、あと聞きたいことが一つだけ。沢渡さんの魔法は知っているのか?」
「それが最後の質問ですか?なら答えは同じです。言えません。」
「……皆の魔法を政府は把握しているのかどうかも?」
「はい。言えません。」
ゴクチョーが羽ばたく。
「質問は以上ですね。では、問題を起こさずここで暮らすようお願いしますね。」
「ああ。ありがとう……。」
去っていくゴクチョーを見送る。
(……隔離には理由がある。それだけでもわかった。ならあまり反抗してストレスを溜めるより、ゴクチョーの言う通り穏やかに暮らす方がいい。)
(時間経過で目的が達成される可能性もある。こちらから起こせるアクションが無い以上、魔女化のことだけを考えておこう。)
◆
夕方、シャワーを終え食堂に行くと、数人から視線を向けられる。
(?なんだ?)
話し合う様子を見せる少女達。
「本当なのかしら……。」
「でもでも、ヒロさんが送ってきたメッセージを信じるなら、そのはずですよ。」
「でもヒロちゃんはココちゃんから聞いたって……。」
「やはりこういうのは本人に聞くのが一番なんじゃないでしょうか!」
「あ、待ってシェリーちゃん……。」
会話の途中橘さんがこちらに来る。
「すみません、ハヤトさん!聞きたいことがあるんです!」
「……あ、ああ。何の……」
「あなたの魔法が『時止め』だというのは本当ですか!?」
「……は?」
「あれ?違いましたか?」
何故?何故魔法がバレている?
魔法を使ったのはここに連れてこられてから一度だけ。それだけで橘さんは看破したのか?
答えない俺を不審に思ったのか、橘さんがもう一度確認してくる。
「何故そう思ったのか、聞いてもいいか?」
「あ、私はこのメッセージを見て気になって聞きに来ただけです。」
そう言って見せる橘さんのスマホを確認する。
自身のスマホにも同じ様に届いているメッセージに気付く。
(二階堂さんから殆ど全員の魔法について送られてきている……。シャワーを浴びている時に通知が着ていたのか……。)
そして、メッセージの中。黒部さんから聞いたという佐伯さんの『入れ替わり』と同じ様に沢渡さんから聞いたという注釈付きで俺の魔法について載っている。
(……沢渡さんの魔法は『千里眼』……。それで俺の魔法を知った……。だが、沢渡さんの写真を見ながら魔法を口走った事なんて無いが……?)
「それで、魔法について、教えてもらえますか?」
考えていると、橘さんから再度聞かれる。
(……今から噓をついても疑われながら魔法を使うことになる……。しっかりとデメリットを伝えておいた方がいいか。)
「……ああ。俺の魔法は時を止めて、その中を移動できる魔法だ。」
「おお~。本当だったんですね。」
「だけど、俺の魔法は万能じゃない。止めている間他の物体を動かしたりはできない。」
「へ~。」
「服のように止める前から身につけている物……少しの小物くらいしか持ち運びもできない。」
「おお……色々教えてくれますね!」
「……あと、停止時間もそんなに長くない。」
「なるほど……。」
食堂全体の視線を感じながら言い切る。
「だから、俺の魔法でスカート覗きはできない事を理解して欲しい。」
「あ、そういうことですか。その疑いを晴らしたかったんですね。」
「……この魔法が女子にバレたら俺は殺される可能性すら考えていたからな。」
「そこまで……?」
(ここまで話しても疑いの目線が橘さんの背後からきてるぐらいだしな……。)
「うーん、なら聞いた情報を皆さんに共有しておきますね。それで皆さんからの疑いも少しは減ると思います。」
「……ありがとう。橘さんに恩ができたな……。」
「いえいえ。では、聞きたいことが聞けましたので、それでは~。」
橘さんが去っていく。
(……)
食事を再開する。
(……この空気の中食事しなきゃダメなんて、やっぱりこの魔法ゴミだ……)
周囲からの視線に気まずさを感じながら、美味しくない料理を腹に入れるのだった。
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